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【第一部】
理性と本能
しおりを挟む「げほっ……」
自分の咳き込む声で目を覚ます。
いつの間にか寝てたみたいだ。
まだまだ怠い身体をぐっと起こした。
「……痛てぇ…」
なぜか身体の痛みに加え頭痛もしている。
それに寒いのに暑い…視界はグラグラ揺れるしゾワゾワと悪寒がする。
これは風邪引いたかも。喉が痛くないのだけが救いだ。
ちゃんとパンツ以外も着てから寝ればよかった。
てか早く帰らないと、帰ってきた黒川さんに移しちゃう。
今は10時過ぎ。
とりあえず服を着て琉唯くんに連絡して家に帰る、そう頭の中で順序だてて、まずは服だ、とベッドから下りた。
「…ぃだっ!」
だが、受け身もまともに取れずに顔から床に倒れた。
目眩がするのと身体が怠いのを忘れてベッドから下りたせいで、床にビタンとうつ伏せになった状態。
頬に触れた床の温度が異常な程に冷たい気がして、ハッと動きを止める。
…これ…この感覚、身に覚えがある。
あれは黒川さんと遊園地に行った日の夜…ホテルで…。
「…ヒート?…まじか…」
意識した途端、身体が先程より一気に熱くなった気がした。
「…ちょちょちょっと待ってまだ始まるなよ…帰るまで耐えろ俺…」
なんとか膝立ちになってベッドのスマホに手を伸ばす。
電話をかけたのは琉唯くん。
1コール、2コール、その内にも息がだんだん上がってきて背中に汗が滲む。
早く出て~~~~お願いだよ~!
『なに?』
3コール目で電話に出た琉唯くんの声はちょっと眠そうだった。
寝起きで申し訳ないけど、そんなの気にしてる余裕は今の俺にはないんだ。
「るいくん俺やばい発情期始まりそう早く家まで送って!!」
『いや…抑制剤?ってやつ持ってないの?』
「…!!」
抑制剤!!
存在を忘れてた。いつも急に始まってもいいように制服のポケットに、・・・。
「…やばい…家…。」
絶望的だ…。忘れてた。
俺の発情期いつくるか分かんないんだった。
信玄袋にはキーケースと財布とハンカチ、それとポケットティッシュしか入れてない。
言葉を失う俺。琉唯くんの深ーい溜息が電話越しに聞こえる。
『お前さぁ~~…間に合わないだろ。若呼べば?帰ってくるだろ、秒で』
「やだ…絶対迷惑だし見られたくない…」
『…わかった。待っててすぐ行く』
「ありが、と」
琉唯くんの力強い言葉に安心する。
ブチッと電話が切れたのと同時に俺の気力も尽きた。
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