a pair of fate

【第一部】

5

黒川さん宅に着いてから俺は放置プレイを食らっていた。
着いてすぐここで待ってろと玄関に置かれ、黒川さんは寝室に篭っている。
手持ち無沙汰にスマホをいじるが、特にすることも無く電源を切った。


「華」

「…！！」


名前を呼ばれ振り返ると、そこに登場したのは…なんと浴衣姿の黒川さんだった。

無地の黒い浴衣で俺と同じ薄いベージュの帯。
似合い過ぎてて鼻血が出そう。いつもスーツか普段着で和服は見たこと無かったから新鮮で好きが止まらない。

やばい、やばい、浴衣黒川さん好きすぎる！！！！
超写真撮りたい！！！


「…なん、で…浴衣」

「市の花火大会ならまだ花火まで一時間ちょいあるから」

「かっこいい…」

「お前も可愛いよ」


黒川さんは驚き過ぎて挙動不審な俺の手を引きながら車に移動する。
もしかして今から市の花火大会の方に連れて行ってくれるって事？
やばい超嬉しい。


「いいんですか？」

「いいっていうか、俺がお前と行きたい」


トキメキと嬉しさがカンストしてニヤけが止まらない。もう本当に前世で何を成し遂げたらこんなにカッコイイ人になるわけ？手汗バレないか心配なんだけど。
黒川さんが浴衣で運転とかもう俺明日死ぬのかな？

そして着いた市の花火大会。
まだ打ち上げ花火までもう少し時間がある。大通りには出店が沢山並んでて人も多い。


「何か食べる？」

「…えっと…」


はぐれないように握られた手が熱い。
握られた手と、俺を見下ろす黒川さんの視線を意識し過ぎて、まともに考えられない俺の視界に飛び込んできたのは、りんご飴の屋台。

黒川さんがりんご飴を持ってる姿を想像してみる。
意外な組み合わせで絶対面白いな。


「りんご飴か？」

「えっ、あ、いや」


あまりにもりんご飴の屋台を見つめすぎてて気付かれた。

いや俺が食べたいんじゃなくてりんご飴を持ってる黒川さんが見たいんだ。

そうこうしている内にも黒川さんは屋台へ向かい、すぐにりんご飴二つを持って戻ってくる。