a pair of fate

みか

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【第一部】

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しっかり温かいシャワーを浴びてリビングに戻ると、琉唯くんは良い香りがする紅茶を淹れてくれていた。

琉唯くんの事だからコップに水道水注いで渡してきそうだったからとても意外。

受け取った紅茶はほんのり花の香り?がして温かかった。


「淹れてみた。置いてあったから。無理なら俺が飲む」

「…大丈夫、ありがとう。琉唯くん、俺…俺…どうしよう…黒川さんと理央ってやっぱり、あの、番なのかな…」


それを言ってしまったら現実になるみたいな気がして言いたくなかった。
案の定 言ってみると思ったよりダメージが大きくて心がどんどん萎んでいく。

せっかく琉唯くんが淹れてくれた紅茶も早く飲まないといけないのに、中々口をつける気にならない。
琉唯くんは本当に興味なさそうに外をぼーっと見ている。


「いや知らないし…俺だってこの間まで下っ端の下っ端だったのにお前に背格好と顔が似てるってだけで若の番で恋人の護衛 兼 身代わりとかいう大役任されてパニックだし、お願い聞いて一緒に寝ただけって言い訳する間もなく蹴り入れられるし俺自分の黒髪ウェーブ気に入ってたのに急に茶髪のストレートにしろとか命令されて髪は傷むし時間はかかるしその上さぁ理央?の事まで把握しろとか言われても無理があんだろてかさっさと謝って仲直りエッ」

「もっ、もういい、ごめん琉唯くん…俺のせいで大変だよね本当ごめん」


ペラペラペラペラと、どこで息継ぎをしているか分からない程長々嫌味を言われて少し反省する。

しかもこいつ最後変なこと言おうとしなかったか。

スマホ弄ってるし絶対真剣に聞いてない。琉唯くんはいつの間に持ってきていたのか、紅茶に良く合いそうなクッキーを頬張りながら喋る。


「さっさと『黒川さん…大好きだからえっちやり直そ?』って言わないと仲直りできないぞ?…お前頭良いんだろ?少しは自分の頭で考えろよ」

「無理だろそんなの…もう嫌だ俺…全部いやだ…」


琉唯くんは簡単に言うけどもう全部全部嫌だ。
何にでも嫉妬する自分も話を聞いてくれない黒川さんも、黒川さんにくっつく理央も全部嫌だ。

何も考えたくない。考えれば考える程、俺にはマイナスポイントしかない。


「…今から、…クーラー入れる…お前寒いから…タオルケットやる…」


膝を抱えて俯くと琉唯くんがタオルケットをバサっと頭から掛けてくれる。

クーラーを言い訳にしてくれてるけどまるで『俺は見えてないから泣いてもいいよ』って言ってるみたいに。

そして乱暴だけど、昨日の夜してくれたみたいにわしわしと頭を撫でてくれる。


「…ぅ」


それに甘えてまた少し泣いてしまった。琉唯くんってちょっと兄ちゃん感ある。俺には妹しかいないから、本当の兄ちゃんはどんなのか分かんないけど。


「…てか何が嫌なんだよ…俺は愛されてると思うけど」

「全部…黒川さんが理央が本当の弟じゃないって言ってくれなかった事…水族館でずっと理央と一緒だった事…自分は理央とくっ付く癖に俺にだけ怒る事…俺が東の間…?出ていっても追いかけてきてくれなかったし…今日の朝もさ、俺、琉唯くんと何もなかったのに、てかある訳ないのに怒るし…自分だって理央といたじゃん?…さっきは理央の服脱がす様な事してた匂わせしてくるし、…黒川さん理央の方が大好きだし…俺二番目なのかな…理央が黒川さんの最初の番だったら俺勝てる気しないよ…俺もう無理…死ぬ…番契約解消されたら心身共に生きていけねぇ…」

「…長、ヘラじゃん…だる…そのうち手首切ってそう…」

「琉唯くんもさっき長かったからな…メンヘラじゃないし…でも理央と番だったら切るかも…」

「うわ地雷」


琉唯くんはやっぱり面倒くさそうだけどちゃんと聞いてくれる。
さり気なくティッシュを渡してくれるし、ぬるくなった紅茶は琉唯くんが飲んでまた新しいのを注いでくれる。
面倒見がいい。
友達ってこんな感じなのか?爽とはまた違う感じだけど落ち着く。


「俺どうすればいいのかな…」

「あーはいはい。今の送っといたから早く帰れよ」

「…は?送った?」

「うん。もうすぐ若が来るよ」

「…うん?」


何のことか分からない俺に、ニっ、と今までの面倒くさそうな顔とはうって変わり、最高に爽やかな笑みを浮かべた琉唯くんはスマホの画面をタップする。


『全部…黒川さんが理央が本当の弟じゃないって言ってくれなかった事…水族館でずっと理央と一緒だった事…自分は理央とくっ付く癖に──』

「はっ?うそうそ止めろって」


そのスマホから流れてくるのはさっきの俺のセリフで頭が真っ白になる。

止めろっていうか、もう送ったって言ったよな?
しかも黒川さんがすぐ来るって、…


──ドンドンドンドンドン!!!!!!


その時ちょうど玄関からすごい音が聞こえて琉唯くんとそっちを見る。

マジでワンチャン玄関のドア壊れるくらいの強さで叩かれるドアがいつまで持つか心配なレベルだ。

琉唯くんは立ち上がり苦笑いしながら『魔王サマのお迎えじゃん』と言い玄関へ歩いていく。


「てか流石に早くね?引いたわ。開けるぞ~準備しとけ」

「えっ、俺無理、行きたくない!!!」


そんな俺の叫びは琉唯くんに届かずバァン!!!と音を立てて開く玄関のドア。

次にカツカツカツと廊下に響く靴音。

もしかしなくても靴脱がずに入ってきたのか?いやそれは常識的に、…そうこうしているうちにリビングまで来た黒川さんは、俺の首根っこを掴み俺を立たせる。


「華!!!」

「ぅぇっ」


そのままずるずる引き摺られて玄関へ。


「荷物はまた取りに来いよ~オシアワセニ~」


リビングから聞こえてくる琉唯くんの声を背に、俺は黒川さんに連行されたのだった。

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