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【第一部】
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しおりを挟む痛いくらいの力で二の腕を掴まれ部屋に着く。
やっぱり怒ってるのかこの人?
黒川さんは玄関の鍵を開けるのも煩わしそうに、ガチャガチャと乱暴にドアを開ける。
玄関に入ってすぐ黒川さんは振り返り、俺の腕をぐっと引いた。俺は踏ん張る事もできずに黒川さんの胸にダイブする。
「わっ」
「華…」
「…はい?」
今までにないくらい強い力で抱きしめられて骨が折れそうだ。
俺の名前をぽつりと呟いてそれ以降黒川さんは喋らなくなり、かわりに俺の首筋に顔をうずめスンスン匂いを嗅ぎ出した。
挙句の果てにそこをペロッと舌が這う。俺は身の危険を感じて身動ぎをした。
「…ン、え?待って待って待って下さい俺臭いから、あっ」
「良い匂いするから大丈夫…」
「は、ぁっ、ちょっと!嫌だって!」
なかなか止めてくれないから渾身の力を出して黒川さんを突き飛ばす。
こんなに性急に求められる事は無かったからちょっと嬉しいけど、昨日は散々走ったり泣いたりしたのにお風呂に入ってないから絶対臭い。
いつの間にか服の裾から侵入してこようとしていた手も押し出して、効果はあるか分からないけど黒川さんを睨みあげる。
「あ?何だその目は」
「お風呂入ってないんです!!」
「あぁ、そういう事」
その瞬間ふわっと床から足が離れて一瞬パニックになる。
「っわあ!落ちる落ちる落ちる!!」
「暴れるな落とすぞ」
黒川さんは俺を軽々俵担ぎして靴を脱ぐ。もちろん俺の靴は黒川さんが脱がせてポイっと放った。
俺と黒川さん10cm弱くらいしか身長変わらないのにこんなに軽々抱かれて何か色々差を感じるというか…。
そして黒川さんが向かった先は浴室。
浴槽の蓋の上に下ろされる。
あれ、服って普通は脱衣所で脱ぐよな…?と思っていると突然俺に降りかかる冷水。
「っぶ!」
「早く脱げよその服」
サァァァと降りかかるシャワーの冷水と黒川さんの冷たい視線。
止めてくれる気配は無いし、黒川さんは俺をじっと見つめてる。
やっぱり怒ってる…?いや怒ってる。
「いつまで他の男の服着てんだって言ってんだよ」
「あっ、…ごめんなさい」
地を這うような声音で言われ急いで濡れて肌に張り付くTシャツを脱ごうとするが手が止まる。
え、ここで?黒川さんはバッチリ黒いスーツ着てるのに?と固まっていると、黒川さんは大袈裟にため息をついてこう言った。
「何だ脱がせろって?理央じゃねぇんだから、」
「は?」
俺はそれを聞いて動きどころか思考も止まる。頭が真っ白になった。
なんで今この状況で理央が出てくる?え?もしかして理央の服脱がす様な事してんの?
一周まわって笑いすら出てきそう。
今からエッチするのかなとか初めてだから上手くできるかなとか色々恥ずかしくて心配で、でも嬉しかったのに一人で舞い上がって馬鹿みたいだ。
「あ、~違う、」
「また理央かよ…」
小さく呟くとあからさまに『しまった』って顔をする黒川さんにまた涙が出てくる。
昨日からもう涙なんて出ないくらい泣いてるのに、人間って凄いから次から次へと涙は止まらない。
明日の俺は目が腫れすぎて開かないかも。
「理央理央理央って!!!そんなに好きなら理央と付き合えよ!!!!!!もういい!!!!!!」
「違っ、」
俺史上最大の声量で怒鳴る。
風呂場だから響いて外に聞こえるかもとか気にしている余裕はない。
口だけ動かして体は動かさない黒川さんに最後の挨拶で、俺がかけられていた冷たいシャワーを向けてやる。
「ばか!」
黒川さんは避けれたはずなのに避けなかったから頭から水をかかる。
サラサラの髪の毛は濡れて綺麗な顔に張り付いてるし、高そうなスーツもびしょ濡れにしてしまった。
少し罪悪感はあるけどその罪悪感を上回るくらい悲しくて辛くて、俺は全身びしょ濡れのまま黒川さんの家を飛び出した。
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