65 / 226
【第一部】
俺の『おにいちゃん』side 黒川 理央
しおりを挟むイルカショーが終わって金条華が行ったというクリオネのコーナーに廉と向かう。
すれ違う人はみんな廉を見てから俺を見る。
『あの子、彼女かな?』『いやでも男の子の制服だよ!』とか『背高い人めちゃくちゃ綺麗だね』とかコソコソ言ってるのが聞こえる。
俺は見られても気にしない、むしろ見てって思う。
俺の廉はこんなにかっこいいんだよって世界中に自慢したいくらい、廉が大好き。
「廉、イルカショーすごかったねえ!」
「お前が前に座るせいで濡れた」
「えへへ、ごめんね」
みんなに見せ付けるように廉にくっついて見上げる。
廉の口調は冷たいけど態度はいつも優しい。くっついても『離れろよ』って言いながら俺を振り払ったりしない。
『本当のお兄ちゃん』とは比べ物にならないくらい優しいんだ。
だから俺は廉と出会わせてくれた黒川のお父さんが大好きだし、廉が大好き。
この女みたいな顔のせいで施設で誰とも仲良くなれず、部屋の隅っこで小さくなるしかできなかった俺を見つけてくれたのは廉だった。
あの日の事は今でも忘れない。
*
桜が咲き始めた頃、少し空いた窓からは暖かい風が吹いてきていた。
施設の子はお絵描きとか積み木とか思い思いに遊んでいたけど、俺はその日も部屋の隅っこで小さくなっていた。
その時、黒川のお父さんが廉を連れて施設に来たんだ。
初めて見た黒川のお父さんは明らかに金持ちって感じの見た目で、『あーいう人に選ばれた子はシアワセになるんだろうな』って小学生ながらに思った。
少しすると黒川のお父さんと廉はみんなが遊んでいる部屋に入ってきて施設の先生と一緒に近くの子に話しかけたりしていた。
あーいいな、俺もあの人と話して気に入られたら…って思ってたその時、廉が俺を指さして黒川のお父さんに何か言ったんだ。
廉の真っ黒な瞳とぱちっと目が合ってドキンと心臓が跳ねた。
うそ!俺が選ばれるの?そう思ったけど勘違いだったらどうしようと思って、やっぱり俺は小さく体育座りをしていた。
すぐに俺の前に来た黒川のお父さんは屈みながら俺に『キミ、僕達の家族になるかい?』って言った。
俺は迷わず頷いた。
首がちぎれるほど何度も何度も頷いた。
その後に『キミが前に居た家よりも痛くて辛い事もあるけど大丈夫?』って言われたけど何でもよかった。
俺は嬉しくて泣きながら『連れてって』って言った。
そしたら廉がちょっと笑いながら俺に手を差し出した。俺はその手をぎゅっと握った。
その日、俺は黒川のうちの養子になった。
普通養子になるなら数日間は手続きとか色々ありそうだけど黒川のお父さんは裏技を使ったって廉から聞いた。
それからの日々は本当に楽しかった。
大きい家に優しい黒川のお父さんとかっこいい廉。
痛くて辛い事なんて何も無かった。
これは黒川のお父さんに後から聞いたんだけど、廉は双子で俺にはもう一人のお兄ちゃんがいるらしい。
黒川のうちで暮らし始めて10年近く経つけどその人は一度も見た事ない。
でもそんなのどうでもいい。
俺には廉がいるから。
*
「──あぁ???!!探せ!!!」
クリオネコーナーに向かう途中、廉のスマホが鳴る。
仕事かもって出た廉は、水族館の中なのに電話に向かって大声を出す。
その顔は怒っているのか焦っているのか心配しているのか分からない、俺が初めて見る表情だった。
「ど、どうしたの」
「華がいなくなった」
どきん!と心臓が大きく鳴る。
廉は俺が立ち尽くしてるのなんかに気付かず水族館の出口へ向かう。
俺もハッとしてその背中を追いかけた。
ねぇ金条、お前どんな手使って廉に取り入ったの?
お前が知り合うよりずっとずっとずーっと前から廉と一緒にいるのに。
悔しいよ。
それから廉は何人かに電話をして車を走らせる。
いつもは安全運転なのにアクセル全開で次々と車を追い越していく。
ハンドルを忙しなく左右に動かしながら『凛堂じゃなくて早野か白林に頼めばよかった』とか『護衛全員騙して連れていきやがって』とか色々独り言を言ってるし、何回も苛ついた様に舌打ちを繰り返す。
こんな廉、見たことない。
俺のお兄ちゃんなのに、あの金条華とかいうやつに取られた。
俺の世界は廉だけなのに。
ちょっと顔が綺麗でΩだからって。
俺はβだから廉とは番になれない。
まぁΩでも廉と戸籍上は兄弟だから結局番にはなれないんだけど。
あぁ、悔しい、悔しい。俺の廉なのに。
夏休み明けから金条と同じ高校に転校するらしいけど精一杯文句言ってやる。
これから廉はお前のなんだから少しくらい我慢してよね。
俺だって応援してないわけじゃないんだよ。
0
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
君知るや 〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜
有島
BL
・この世の人間に、性別とは別の種別が加わってからおよそ100年。
ポンコツなβ(ベータ)の北野直次郎とエリートなΩ(オメガ)の滝川辰樹。
見た目も性格も環境もまるで違う2人が出会って友情を育み、次第に友情とは異なる感情を抱くようになる。
そんな中、双方の因縁と辰樹の思惑が絡み、組織を巻き込む異常事態となる事件が発生する。
※当該小説は【現代ファンタジー/オメガバース/ヤクザ/極道/バイオレンス/バディBL/異能/襲い受】な、現代日本を舞台にした完全なる空想捏造物語=フィクションです。(オメガバースはかなり独自設定あり)
※暴力、残酷描写が激しいです(流血・グロ・獣注意!) →少年漫画を目指しました
※タグは今後、追加・変更する可能性があります。→展開がどう転がっても許せる方向け →不穏と物騒を掛け算した作品です……
※この作品はフィクションです。 実在する組織、人物、事件とは無関係であり、全て作者の空想の産物です。
◆2023/07/11:連載休止中です。再開までしばらくお待ちください。
※現在、別サイトにて投稿再開の準備中です。お知らせは作者のブログと近況ボードにて行います。よろしくお願いします。
偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜
白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。
しかし、1つだけ欠点がある。
彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。
俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。
彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。
どうしたら誤解は解けるんだ…?
シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。
書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる