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【第一部】
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しおりを挟む「今更言わなくても華くんは廉の番なんだろう?心も身体も君のモノだ」
「…廉さん、が、おれの、…」
当たり前だろ、とでも言うように会長さんは言う。
誰もそれを言ってくれなかった。
俺はΩだから噛まれた瞬間から黒川さんのものだけど、黒川さんは俺のだって胸を張って言える自信がなかった。
だから黒川さんのお父さんに公認して貰えたのがとても嬉しい。
ここがヤクザの本拠地なのを忘れてニヤニヤしてしまう。
「そんな可愛らしい顔をするんじゃない、思わず喰いたくなる」
「え」
ニヤリと笑った顔が余りにも黒川さんそのもので足が地面に縫い付けられたように動かない。
その隙に会長さんはローテーブルを跨いで俺の前までくる。
いや脚長いてかめちゃくちゃ良い匂いするちょっとちょっと!と見ていることしかできずに細長い指で顎をクイッと上げられ…会長さんの真っ黒な瞳にアホ面の俺が写る。
それで思ったより至近距離だと意識してしまい冷や汗が出た。
「っあ、あの、なんでしょう、か」
「いや言い訳じゃないけどさ~、言い訳になるのかこの場合?華くん匂うんだよね、フェロモンがダダ漏れなんだよ。気付いてる?何で?番ってるんだろう?」
「わっ、わかんな、い、です!分からないので離してください!」
「離せって言ってもなぁ~、僕は顎クイしてるだけなんだよね。好きに逃げなよ」
不思議な事に凛堂さんに感じたような不快感は全くなく、吐きそう、と言うより緊張してぶっ倒れそう。
まさか会長さんがΩやβなわけ無いだろう。
そして会長さんから香るフェロモンが黒川さんの匂いとそっくりで頭が勘違いしそうになる。
「かっ、会長さ、」
「あ、正臣だよ。まさおみ、呼んでみて」
「まっ、ままままさおみさん!!!」
ニコニコ黒い笑みを浮かべる会長さんから早く離れたくて叫ぶ。
その瞬間スパァン──!!!!!!と襖が開いた。
それはもう文字通りスパァン!!!と音を立てて開いた襖の向こう側で目を見開いて立っているのは黒川さんだった。
「あ、廉~。久しぶり、早かったね」
「………華…………何してんだよお前……」
「…ぁ、っ」
びっくり~!って感じの顔をした会長さんに見向きもせず黒川さんは俺の方に向かって歩いてくるが、あと数歩という所で黒川さんは止まる。
そのすぐ後ろにはやっぱり理央がくっついていて、また俺の嫌なところが顔を出す。
嫌だよ離れてって気持ちだけがムクムク膨れて爆発しそう。
静まり返った室内に理央の呆れたような声が響く。
「やっぱただのΩじゃん本当にお前嫌い」
「理央、止めなさい」
会長さんがすぐ理央にそう言うけど、ずっと我慢していたのがもう限界だった。
今まで感じた事ないくらい頭がカッとして、こんなの言ったらいけないのに血が上った頭では冷静になれない。
「……キャンキャンキャンキャンうるっせぇんだよブス」
「はぁ?!」
「目障りなんだよ」
理央は黒川さんの後ろで涙目になってる。けど少しも罪悪感なんて湧かない。
寧ろ泣けよとしか思えない。
そしたらお前の大好きな黒川さんに慰めて貰えるじゃん。
「華!!!親父から離れろ!!!!」
「まずアンタが理央から離れろよ!!!」
黒川さんは俺と会長さんを睨みながら怒鳴る。
なんで俺だけが怒鳴られないといけないか分からなくて勢いに任せ怒鳴り返してしまう。黒川さんはわるくないのに。
でもさ、離れて欲しいなら俺のこと抱き寄せてよ。あと数歩じゃん。なんで来てくれないんだよ。
てかまず黒川さんはなんで理央から離れてくれないの?
俺は黒川さん以外に触られるの嫌だよ。
黒川さんは嫌じゃないの?
どれだけ心の中で思っても声にしないと何も伝わるはずがない。
この状況を楽しんでるとしか思えない正臣さんと、怒ってる黒川さん。その後ろには堪えきれずに涙をボロボロ流す理央。
全部全部、俺のせい。
全員の目が俺を責めてるように感じる。
「…なんで俺ばっかり、」
こんな嫌な思いをしなきゃいけないんだ。
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