a pair of fate

みか

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【第一部】

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「…わぁ、ちっさ…かわいい…」


周りの水槽に比べると小さくて数も少ないクリオネコーナー。
その中で存在を一生懸命に主張するようにふよふよ泳ぐ無数のクリオネを至近距離でじっと観察する。

今はぴよぴよ泳いでいて可愛いのに捕食する時はすっごいグロいらしい。

俺はクリオネの可愛い所しか知らないから好きだ。癒される。
いくら見てても飽きないクラゲと同じような感じ。

『あと5分でイルカショーが始まります。イルカ達が西の大プールで待ってます!』

数分ぼーっとクリオネを見ていると、イルカショーが始まるのを知らせる館内放送が鳴り、あっという間に周りの人が少なくなっていく。

今から黒川さんと理央は二人で夜のドラマチック演出のイルカショーをみるんだ。
二人きりになるのを助けたのは自分なのに、想像すると嫌だ。
また胸がチクチク痛み始める。
もう考えないように目の前のクリオネを見つめる。



「クリオネがお好きなんですか?」

「?!」



不意に聞こえてきた声。
驚き隣を見ると若い男の人が俺を見下ろしながら微笑んでいた。

深海魚コーナー程ではないけれど薄暗くて気づかなかった。
クリオネコーナーには俺しかいなかったはずなのに足音もなく隣に立っている男。
思わず怪しい者ではないかと確認してしまう。

その人は紺の七分袖テーラードジャケットに黒のスキニーを着ていて見た目は大学生みたいな人だった。
でも声は低めで落ち着いていて、黒縁メガネが良く似合うクールな顔立ち。
微笑んでいるから凄く優しそうに見える。
女の子に人気がありそうな典型的な塩顔男子だ。

驚きすぎてぱくぱくと口を開閉するだけで何も言えない俺を眼鏡さんはニコッと笑う。

目尻がきゅっと上がって猫みたい。



「おひとり様ですか?」

「ぁ、いや、一緒に来てる人がイルカショー行っちゃって」

「ならショーが終わるまで僕がお供しましょう」



当たり前だが大丈夫です、と断っても眼鏡さんは笑顔をキープしたまま隣を動こうとしない。

そのまま数分無言の時間が続く。

何を話そう、何か話さないと、と思うほど焦って話題が出てこない。
人見知りはそこまでしない方だけどここまで話題が思い付かないのも焦る。



「あ、あの、そこのベンチ座りますか?」

「そうですね。あ、少し待ってて下さい」


苦し紛れに目に入ったベンチを勧める。

眼鏡さんはチラッとベンチを見たあと俺を座らせ自分はどこかに歩いていった。

すぐに戻ってきた眼鏡さんは緑茶と麦茶のペットボトルを持っていた。



「お好きな方をどうぞ」

「え、すみません、ありがとうございます!」


迷わず緑茶をもらう。
よく冷えた緑茶を一口飲むと気持ちが少しスッキリした気がする。

眼鏡さんは俺の隣に座って、今日は休日なのに呼び出されたとか普段は社長秘書をやってるんだけどその社長が最近腑抜けてる、とか色々愚痴を語り出した。

その姿はさっきの微笑み眼鏡さんとは余りにも程遠く親の愚痴を言う子供の様で少し可愛い。

喋ってる途中にどこから出したのか名刺を貰った。
そこでやっと安全な人だとわかって結構安心。


「…りんどう…凛堂 旬、さん…カッコイイ苗字ですね」

「お褒めに預かり光栄です。金条さん、本日はこの様な格好で申し訳ありません。以後お見知りおきを。」

「え?」


ベンチから腰を上げ、俺の前できっちり九十度の礼をした凛堂さん。

俺、名前教えたっけ?

てかここ数十分で知り合った高校生に腰が低過ぎない?喋り方とか無駄に丁寧だし何この人…。やっぱり怪しい人?


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