a pair of fate

みか

文字の大きさ
上 下
58 / 226
【第一部】

4

しおりを挟む




「…わぁ、ちっさ…かわいい…」


周りの水槽に比べると小さくて数も少ないクリオネコーナー。
その中で存在を一生懸命に主張するようにふよふよ泳ぐ無数のクリオネを至近距離でじっと観察する。

今はぴよぴよ泳いでいて可愛いのに捕食する時はすっごいグロいらしい。

俺はクリオネの可愛い所しか知らないから好きだ。癒される。
いくら見てても飽きないクラゲと同じような感じ。

『あと5分でイルカショーが始まります。イルカ達が西の大プールで待ってます!』

数分ぼーっとクリオネを見ていると、イルカショーが始まるのを知らせる館内放送が鳴り、あっという間に周りの人が少なくなっていく。

今から黒川さんと理央は二人で夜のドラマチック演出のイルカショーをみるんだ。
二人きりになるのを助けたのは自分なのに、想像すると嫌だ。
また胸がチクチク痛み始める。
もう考えないように目の前のクリオネを見つめる。



「クリオネがお好きなんですか?」

「?!」



不意に聞こえてきた声。
驚き隣を見ると若い男の人が俺を見下ろしながら微笑んでいた。

深海魚コーナー程ではないけれど薄暗くて気づかなかった。
クリオネコーナーには俺しかいなかったはずなのに足音もなく隣に立っている男。
思わず怪しい者ではないかと確認してしまう。

その人は紺の七分袖テーラードジャケットに黒のスキニーを着ていて見た目は大学生みたいな人だった。
でも声は低めで落ち着いていて、黒縁メガネが良く似合うクールな顔立ち。
微笑んでいるから凄く優しそうに見える。
女の子に人気がありそうな典型的な塩顔男子だ。

驚きすぎてぱくぱくと口を開閉するだけで何も言えない俺を眼鏡さんはニコッと笑う。

目尻がきゅっと上がって猫みたい。



「おひとり様ですか?」

「ぁ、いや、一緒に来てる人がイルカショー行っちゃって」

「ならショーが終わるまで僕がお供しましょう」



当たり前だが大丈夫です、と断っても眼鏡さんは笑顔をキープしたまま隣を動こうとしない。

そのまま数分無言の時間が続く。

何を話そう、何か話さないと、と思うほど焦って話題が出てこない。
人見知りはそこまでしない方だけどここまで話題が思い付かないのも焦る。



「あ、あの、そこのベンチ座りますか?」

「そうですね。あ、少し待ってて下さい」


苦し紛れに目に入ったベンチを勧める。

眼鏡さんはチラッとベンチを見たあと俺を座らせ自分はどこかに歩いていった。

すぐに戻ってきた眼鏡さんは緑茶と麦茶のペットボトルを持っていた。



「お好きな方をどうぞ」

「え、すみません、ありがとうございます!」


迷わず緑茶をもらう。
よく冷えた緑茶を一口飲むと気持ちが少しスッキリした気がする。

眼鏡さんは俺の隣に座って、今日は休日なのに呼び出されたとか普段は社長秘書をやってるんだけどその社長が最近腑抜けてる、とか色々愚痴を語り出した。

その姿はさっきの微笑み眼鏡さんとは余りにも程遠く親の愚痴を言う子供の様で少し可愛い。

喋ってる途中にどこから出したのか名刺を貰った。
そこでやっと安全な人だとわかって結構安心。


「…りんどう…凛堂 旬、さん…カッコイイ苗字ですね」

「お褒めに預かり光栄です。金条さん、本日はこの様な格好で申し訳ありません。以後お見知りおきを。」

「え?」


ベンチから腰を上げ、俺の前できっちり九十度の礼をした凛堂さん。

俺、名前教えたっけ?

てかここ数十分で知り合った高校生に腰が低過ぎない?喋り方とか無駄に丁寧だし何この人…。やっぱり怪しい人?


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

孤独を癒して

星屑
BL
運命の番として出会った2人。 「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、 デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。 *不定期更新。 *感想などいただけると励みになります。 *完結は絶対させます!

甘えたい人はあなただけ

聖夜
BL
 白石雪は高校2年生で、真面目な性格と責任感の強さからクラスの委員長。誰からも信頼され、勉強もそつなくこなす模範的な生徒。しかし、それは彼の一部でしかなかった……  実は雪には、周囲に内緒にしている秘密がある…それは、ヤクザの黒川六花と付き合っていること!!さらに二人はなんと同棲中?!  学校ではクールでしっかり者の雪だが、家に帰るとその姿は一変。六花の前では甘えん坊で、ちょっと寂しがり屋。そんな彼を、六花は優しく受け入れる。 この物語は、雪と六花のちょっぴり危険なほのぼのストーリー。  作者はお豆腐メンタルなので感想は閉じてます🙇更新不定期です。  

処理中です...