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【第一部】
いつも通りの日常
しおりを挟む「…あっつ…」
胸元のシャツを掴みパタパタと服の中に空気を送るが、あまり蒸し暑さは変わらないような気がして止める。
そろそろ中間服もしんどい気温になってきた。
夏服移行まだかな?
まだ6月上旬だと言うのにジリジリ照りつける太陽から逃げるように日陰を歩いていると、後ろから勢いよく誰かに肩を組まれる。
「は~な!おはよ」
「っわ、…爽かよ…おはよ…離れろ…」
「お前低体温で気持ちい~」
「俺は不快指数マックス」
カラカラと笑いながら俺の肩に体重を掛けてくるこの男は清水 爽。
『君〇届け』の風〇くんみたいな典型的な陽キャイケメンだ。
名前に合った爽やかなルックスを台無しにするような、気持ち悪いダル絡みをしてくる俺の数少ない友達。
「お前黙ってたら良いのに」
「それは華も。てか進路どうした?プリント提出今日だよな」
「…プリント…?…あっ!!忘れてた…」
「お~華が忘れ物とか珍しい」
俺たちは3年生。
もうそろそろ進路決定してそれに合った対策をしなければならない。
なのに週末、番が出来たりプロポーズされたり、その相手がまさかのヤクザ(仮)(笑)と色々ありすぎて進路希望表の存在を忘れていた。
「今から書いても余裕で間に合うっしょ。進学?就職?」
「や、俺やりたい事なくてさ…」
実際忘れてなくても空白のまま提出したかもしれない。
将来の夢なんてなくて、普通に暮らして普通に幸せになりたい、それが夢って感じだったから改めて将来何になりたいか?なんて考えた事がなかった。
因みに隣のイケメンさんは芸能界に入って『世界に俺の名を轟かせたい』らしい。こいつなら勢いでやりかねん。
不意に爽があっ!!と何かを思い付いたように声を上げた。
「華も俺と芸能界目指そうぜ」
「何言ってんだよ冗談キツい」
何を言い出すかと思えば…。
クラスで極力目立たない様に過ごしているのに、それより広い世間に自分から登場するなんて考えられない。
爽は芸能界に通用する見た目かもしれないが俺は平々凡々の男子高校生。
想像するだけで胃が痛い。
「俺はイケると思うけどな~!爽やかイケメンと無気力イケメンで事務所に売り出してもらおうぜ!」
「はいはい。もう着いたから」
意気揚々と将来を語る爽を適当にあしらう、いつも通りの一日が始まった。
*
「じゃあな~」
「また明日~」
分かれ道で爽に手を振り、家へと向かう。
あぁ、この間こんな風にいつも通りの帰り道に母さんからおつかい頼まれて黒川さんと出会ったよな。
ついこの間なのにその数日間が濃密過ぎて、何も無い今日が非日常のような感じがした。
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