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地獄への招待状

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 “こういう時には、お花?それともお菓子かしら?でも、それだとシャーロット様たちに届く頃には傷んでしまうかも”

 「ハンカチーフなどはどうですか?刺繍入りのハンカチーフはご婦人方に好まれると聞きます」

 リリアーナは、母のことを思い出しながらそう言った。母の刺繍の腕前は中々のものだったが、それ以上にハンカチーフはよく売れると言っていたっけ。実際、年々ひどくなる原因不明の不作に耐えられたのは、間違いなく母のおかげだ。

 “そうね、それなら傷む心配はいらないわね。”

 レティシアは美しい人形の顔でコクリと頷いた。相変わらず表情からはなにを考えているのか分からないが、いつも以上に饒舌な文字が彼女の真剣さを物語っている。

 “本当はわたくしが選べたらいいのだけれど、流行りには疎くて。お願いできるかしら”

 「もちろんです!」

 リリアーナは気持ちも姿勢も前のめりになりながら大きく返事をした。

 「最近、四季の花の刺繍が人気の呉服店がございます。オーダーメイドで皆様それぞれにお似合いに季節の花を刺繍していただくのはいかがでしょう」

 “素敵ね。きっと皆様、春のお花がお似合いになるわ”

 レティシアは心なしか楽しそうにペンを走らせた。そこまで書いて少し思案するような間ののち、彼女はもう一文付け足した。

 “だけど、シャーロット様だけは、夏のお花にしてちょうだい。お願いね、リリアーナ”

 「そうですね、すぐに手配いたします!」

 リリアーナはニヤける顔を引き締めながら張り切って応えた。

 お茶会の日からレティシアはたまにリリアーナの名前を呼ぶようになった。大抵はこうやって文字で、ごく稀に口頭でも。リリアーナはそれが嬉しくて、名前を呼ばれるたび、だらしない顔でニヤニヤしそうになる。レティシアに気づかれたら恥ずかしがりそうだから言わないけれど。

 プレゼントの手配を任せると、レティシアは勉強机に向かった。時折手を筆を止めて考えながら、丁寧に書き進めているそれは、手紙だった。それも、謝罪の手紙だ。

 “お茶会を台無しにしてしまったから、お詫びの品を贈りたい”と言い出したのはレティシアだった。

 「それなら手紙を添えてはどうか」と提案したのはリリアーナ。対面で話すのが極端に苦手なレティシアも、文字でならコミュニケーションが取れると気づいたのはほんの最近の話。誰かに手紙を書くなんて考えつきもしなかったレティシアは、リリアーナの提案に少し戸惑ったようだが“書いてみるわ”と頷いた。

 レティシアは極度に人付き合いが下手だが、繊細で優しい人だ。手紙ならきっとその人柄が伝わるはず。そうしたら少しは誤解がとけるだろう。信頼関係は積み重ねが大切。こうやって少しずつ積み上げていけばいい。

 「それでは、流行りの店に声をかけて参ります」

 リリアーナはそう言って一礼する。しかしレティシアは集中していて彼女の声が聞こえていないようだった。机へ向かうレティシアの背中からは真剣さが滲み出ていた。

 これだけ真摯に向き合おうとしていらっしゃるのだもの。きっと上手くいく。

 リリアーナは一生懸命な背中にひっそりとエールを送ると、静かに部屋を後にした。
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