67 / 73
第2章『悪夢の王国と孤独な魔法使い』編
第53話『夢うつつ/Stray Cat』part2
しおりを挟む
人々が完全に寝静まった深夜の宿屋。
「……!!」
心地よい眠りの世界にいたエレリアを、突然何者かの叫び声が呼び起こした。
「……きて!」
少女の声だ。寝ぼけ眼で開かないまぶたの向こうから、聞き慣れない少女の声がおぼろけに聞こえてくる。
「……おきて!」
その迷惑極まりない声は一向に止むことはなく、しきりにエレリアを揺さぶりながら、何かを訴えている。
「ッ! うるさいなぁ……!」
眠りを邪魔されたエレリアは苛立ちながら、仕方なく上半身を起こした。
一体何の騒ぎなのだ。火事でも起こったのか。
しかし、強制的に起こされてしまったせいで、エレリアはうまく思考が定めることができなかった。
自分は何をして、なぜここにいたのであったか。そもそも、ここは現実の世界なのか、夢の世界なのか。
「……ほら、起きてよぉ!」
鉛のように重い寝起きの頭を抱えるエレリア。
初めは、ミサが起こしてきたのかと思っていた。しかし、隣を見るとなんと彼女はすやすや寝息を立てながら幸せそうに寝ていた。
つまり、エレリアを呼び起こしたのはミサではなかったのだ。
知らない誰かが近くにいる。
そのまま、声のするほうへゆっくりと目を向けようとした、その時だった。
「もう! お姉ちゃんッ!!」
すると、いきなり不意を突く平手打ちを頬に受け、ようやくエレリアの意識は完全に調子を取り戻した。
そして、少し遅れて、先程の聞き慣れない言葉に違和感を覚え、思わず声を漏らした。
「……え? お、お姉ちゃん……?」
「あぁっ! やっと起きた!!」
夜の静寂に満ちた小さな部屋。
青白い月の光を受け、ぽつんと闇の中に立っていたのは見知らぬ少女だった。
エレリアと似たようなローブを被った少女は呆れたように吐息を漏らし、凍てつくような蒼い瞳でこちらを静かに見つめていた。
「えっ……。誰?」
エレリアは恐怖のあまり震えるばかりで、身動きがとれずにいた。
目が覚めたら目の前に人がいたのだ。扉の鍵は閉めたはずなのに、どこから侵入してきたと言うのか。
何より、この何の見覚えのない少女はエレリアに向かって『お姉ちゃん』と呼んできたのだ。
状況がまったく理解できない。
「……やっぱり、何も覚えてないんだ。母様の言うとおりね」
すると、その蒼い目の少女はベッドの上で呆然としているエレリアのそばへ歩み寄ると、覗きこむようにいきなり顔を近づけてきた。
「ほら、私よ。妹のミアよ。お姉ちゃん、ほんとに思い出せないの?」
「い、妹? ミア? えっと、ほんとに誰?」
「ありゃりゃ、こりゃダメね」
エレリアがとぼけた反応を見せると、少女は呆れて渇いた笑みを漏らした。
自らをエレリアの妹と称している謎の少女。しかし彼女は、身なりだけでなく、その艷やかな銀髪、顔つき、背丈、その何もかもが不思議なことにエレリアと似ていたのだ。そう、まるで二人は同じ姉妹かのように。
ただ、一つだけ違ったのは、燃える灯火のような赤い瞳が特徴的なエレリアに対して、その少女は冷たい青い瞳をしていた。
「はぁ、恥ずかしいからあまり言いたくなかったんだけど……。これは、もうしょうがないわ」
「……?」
「……モフミ、って言っても私のこと思い出せない?」
「えぇっ!? モ、モフミ!?」
その言葉を聞いた瞬間、エレリアは驚きを隠しきれなかった。
「モフミって、あの私たちの白猫の……」
「そうよ! 私がその憐れでかわいそうな白猫よ!」
自らをモフミと名乗る少女は、エレリアの発言を皮肉るような物言いで叫んだ。
しかし、なぜ猫のモフミが人の姿になって、ここにいるのだ。そんなことがありえるのか。
「はるばる遠い地上の世界に来てあげたってのに、なんでこんなヒドイ目に合わなきゃならないわけ!? ほんと勘弁してほしいわ!」
一人で、自身の境遇を嘆く少女。
その口調から、彼女は本当にあの猫のモフミのようだった。
「でも、どうやってここに……?」
「そこから入ってきたのよ」
エレリアの問いかけに、ふてくされ気味な少女が指差す先には、換気用に開けておいた窓があった。
まさか、この開かれた小さな隙間から入って来たと言うのか。しかし、もし彼女が本当に猫のモフミだとしたら、不可能なことではないかもしれない。
「逆に、満月の光を浴びながら猫の姿を維持するの大変だったんだからね!」
「そ、そうなんだ」
「アソコ丸出しで歩かなきゃいけないのよ! 恥ずかしいったら、ありゃしない!」
しかし、この少女があの猫のモフミだなんて、にわかに信じられない。だが、反対に彼女が嘘をついているようにも見えない。
第一、嘘をつく理由なんて彼女にとって何もないだろう。
「ね、ねえ、もう一回聞くけど、あなたは本当の本当にモフミなの!?」
「そうだって何回も言ってるじゃない」
「けど、いまいち信じられないなぁ……」
「はぁ、お姉ちゃんは鈍いんだから。……ほら、これを見てよ」
すると、少女はため息を吐くと、銀色の髪を手で振り払いながらアゴを上げて、自身の首元をエレリアに見せつけた。そして、その首元を見て、エレリアは驚愕した。
そう、なんと彼女の首には、モフミがずっと身につけていた首輪が巻かれてあったのだ。
「こ、これって……!?」
「ほんと屈辱。なんで、この私が猫の首輪なんかはめられなくちゃならないのよ!」
「取れないの?」
「一人で取れたら苦労しないわよ! むーっ!!」
そう言うと、少女は怒りに任せて首輪を外そうとした。だが、いくら手で引きちぎろうとしても、首輪が彼女の首から外れそうな気配はなかった。
それでも、少女はやけになってしまったのか、首に巻き付く首輪と必死に格闘を続けていた。
「モフミ、も、もう分かったから、あんまり無理しないで」
「あぁっ、そうだ、そうだ、思い出したっ! お姉ちゃん、いい加減にそのモフミって名前で呼ぶの止めてよね! ダサすぎてたまったもんじゃない! まだ、あの男がつけたミカエルってやつの方が良かったわ!」
「えぇ……」
「私にはミアって名前があるんだから、今日からちゃんとした名前で呼んで!」
不服そうに不機嫌な態度を取り続ける少女。
だが、このときエレリアはついに確信した。
彼女は本物の猫のモフミだ。現に、彼女はモフミの名付け会議の際のソウヤたちとのやり取りを口にしてたのだ。
首輪や瞳の色からも、少女は猫のモフミが人間に化けた姿に間違いない。
ただ、自らをミアと呼ぶ彼女は、エレリアのことを自身の姉だと口にしていた。となれば、一体彼女は何者なのか。
「あのさ、なんでモフミは……」
「ッ!!」
「……じゃなくて、ミアはなんで私のことをお姉ちゃんって呼ぶの?」
「今はそんなこと、どーでもいいの。とにかく、私は早くお姉ちゃんの持ってるアレが欲しいわけ」
「私のアレ……?」
すると、自らをミアと呼称する少女は、再びエレリアのもとへ近寄ってきた。
「だから、アレよ。今、お姉ちゃんが着けてるやつあるでしょ? 星の首飾りよ。私はそれを手に入れるために、ここに来たのよ」
「星の、首飾り……?」
「そう。それがあれば、私はこの忌々しい猫の呪縛から解放される。諸々の詳しい話はその後ね」
どうやらミアは、エレリアが身につけている星の首飾りというアイテムによって、猫の姿から永続的に人間の姿でいられるらしい。
しかし、エレリアは途方に暮れていた。
「えぇっと、その……」
「何、勿体ぶってるの? 早く渡してよ、首飾り!」
強く手を差し出し、星の首飾りを私によこせと急かすミア。
だが、エレリアは彼女に首飾りを渡すことができなかった。渡すことができない訳があったのだ。
「あの……、なんだか、ミアにはすっごく申し訳ないんだけど」
「ん?」
「私、首飾りなんか一つも身に着けてないんだよね……」
「は……、はぁ!?!? 着けてないって……? ……ははは、お姉ちゃん、さ、さすがに冗談よねぇ!?」
「いや、ほんと……」
「ちょっと、見せてごらんなさいよっ!」
すると、ミアはエレリアに飛びつくように、エレリアの首元を必死に探った。
普段なら抵抗するところであるが、どこか後ろめたさのようなものを感じたエレリアは大人しくされるがままにしていた。
そして、首飾りがないという事実を受け入れていくにつれ、次第にミアの動きは弱々しく衰えていった。
「う、嘘でしょ……。ほんとに無いじゃん……」
目当ての物が見つからず、一気に失意に暮れるミア。
それもそのはず、エレリアはコックル村で目覚めた時からこのかた、一度も首飾りなど身につけたことがないのだ。
初めから、何かの間違いではないのか。
「ねぇ、お姉ちゃん! なんで無いの!? 家に置き忘れてきた!?」
「いや、だから私、首飾りなんか知らないんだって」
いくら問い詰められたところで、無いものは無いのだ。
しかし、いくらエレリアが説得したところで、ミアは諦めきれていない様子だった。
「そ、そんな、ちょっと待ってよ……。あれがないと、私まさか、ず、ずっと……、猫の姿のまま?! 嫌よ、そんなのッ!!」
顔色を真っ青にして、深く頭を抱えるミア。再び猫の姿に戻らなければならないことを悟って、絶望しているらしい。
できることなら、当然エレリアだって彼女のために何か協力してやりたかった。
しかし、その時だった。
「ふわぁ、なんか急に眠くなってきちゃった……」
神がこれ以上二人のやり取りを許さないかのように、いきなり強烈な睡魔がエレリアを襲ったのだ。
まぶたが重くなっていくにつれ、意識は次第に遠のき、強制的にエレリアはまどろみの世界へ引きずりこまれていった。
「ちょっと!? お姉ちゃん!! 何、寝ようとしてるのよ! まだ、話は終わってな……」
「すぅ……」
そして、気づいた時にはエレリアは再び深い眠りに落ちていた。
「……!!」
心地よい眠りの世界にいたエレリアを、突然何者かの叫び声が呼び起こした。
「……きて!」
少女の声だ。寝ぼけ眼で開かないまぶたの向こうから、聞き慣れない少女の声がおぼろけに聞こえてくる。
「……おきて!」
その迷惑極まりない声は一向に止むことはなく、しきりにエレリアを揺さぶりながら、何かを訴えている。
「ッ! うるさいなぁ……!」
眠りを邪魔されたエレリアは苛立ちながら、仕方なく上半身を起こした。
一体何の騒ぎなのだ。火事でも起こったのか。
しかし、強制的に起こされてしまったせいで、エレリアはうまく思考が定めることができなかった。
自分は何をして、なぜここにいたのであったか。そもそも、ここは現実の世界なのか、夢の世界なのか。
「……ほら、起きてよぉ!」
鉛のように重い寝起きの頭を抱えるエレリア。
初めは、ミサが起こしてきたのかと思っていた。しかし、隣を見るとなんと彼女はすやすや寝息を立てながら幸せそうに寝ていた。
つまり、エレリアを呼び起こしたのはミサではなかったのだ。
知らない誰かが近くにいる。
そのまま、声のするほうへゆっくりと目を向けようとした、その時だった。
「もう! お姉ちゃんッ!!」
すると、いきなり不意を突く平手打ちを頬に受け、ようやくエレリアの意識は完全に調子を取り戻した。
そして、少し遅れて、先程の聞き慣れない言葉に違和感を覚え、思わず声を漏らした。
「……え? お、お姉ちゃん……?」
「あぁっ! やっと起きた!!」
夜の静寂に満ちた小さな部屋。
青白い月の光を受け、ぽつんと闇の中に立っていたのは見知らぬ少女だった。
エレリアと似たようなローブを被った少女は呆れたように吐息を漏らし、凍てつくような蒼い瞳でこちらを静かに見つめていた。
「えっ……。誰?」
エレリアは恐怖のあまり震えるばかりで、身動きがとれずにいた。
目が覚めたら目の前に人がいたのだ。扉の鍵は閉めたはずなのに、どこから侵入してきたと言うのか。
何より、この何の見覚えのない少女はエレリアに向かって『お姉ちゃん』と呼んできたのだ。
状況がまったく理解できない。
「……やっぱり、何も覚えてないんだ。母様の言うとおりね」
すると、その蒼い目の少女はベッドの上で呆然としているエレリアのそばへ歩み寄ると、覗きこむようにいきなり顔を近づけてきた。
「ほら、私よ。妹のミアよ。お姉ちゃん、ほんとに思い出せないの?」
「い、妹? ミア? えっと、ほんとに誰?」
「ありゃりゃ、こりゃダメね」
エレリアがとぼけた反応を見せると、少女は呆れて渇いた笑みを漏らした。
自らをエレリアの妹と称している謎の少女。しかし彼女は、身なりだけでなく、その艷やかな銀髪、顔つき、背丈、その何もかもが不思議なことにエレリアと似ていたのだ。そう、まるで二人は同じ姉妹かのように。
ただ、一つだけ違ったのは、燃える灯火のような赤い瞳が特徴的なエレリアに対して、その少女は冷たい青い瞳をしていた。
「はぁ、恥ずかしいからあまり言いたくなかったんだけど……。これは、もうしょうがないわ」
「……?」
「……モフミ、って言っても私のこと思い出せない?」
「えぇっ!? モ、モフミ!?」
その言葉を聞いた瞬間、エレリアは驚きを隠しきれなかった。
「モフミって、あの私たちの白猫の……」
「そうよ! 私がその憐れでかわいそうな白猫よ!」
自らをモフミと名乗る少女は、エレリアの発言を皮肉るような物言いで叫んだ。
しかし、なぜ猫のモフミが人の姿になって、ここにいるのだ。そんなことがありえるのか。
「はるばる遠い地上の世界に来てあげたってのに、なんでこんなヒドイ目に合わなきゃならないわけ!? ほんと勘弁してほしいわ!」
一人で、自身の境遇を嘆く少女。
その口調から、彼女は本当にあの猫のモフミのようだった。
「でも、どうやってここに……?」
「そこから入ってきたのよ」
エレリアの問いかけに、ふてくされ気味な少女が指差す先には、換気用に開けておいた窓があった。
まさか、この開かれた小さな隙間から入って来たと言うのか。しかし、もし彼女が本当に猫のモフミだとしたら、不可能なことではないかもしれない。
「逆に、満月の光を浴びながら猫の姿を維持するの大変だったんだからね!」
「そ、そうなんだ」
「アソコ丸出しで歩かなきゃいけないのよ! 恥ずかしいったら、ありゃしない!」
しかし、この少女があの猫のモフミだなんて、にわかに信じられない。だが、反対に彼女が嘘をついているようにも見えない。
第一、嘘をつく理由なんて彼女にとって何もないだろう。
「ね、ねえ、もう一回聞くけど、あなたは本当の本当にモフミなの!?」
「そうだって何回も言ってるじゃない」
「けど、いまいち信じられないなぁ……」
「はぁ、お姉ちゃんは鈍いんだから。……ほら、これを見てよ」
すると、少女はため息を吐くと、銀色の髪を手で振り払いながらアゴを上げて、自身の首元をエレリアに見せつけた。そして、その首元を見て、エレリアは驚愕した。
そう、なんと彼女の首には、モフミがずっと身につけていた首輪が巻かれてあったのだ。
「こ、これって……!?」
「ほんと屈辱。なんで、この私が猫の首輪なんかはめられなくちゃならないのよ!」
「取れないの?」
「一人で取れたら苦労しないわよ! むーっ!!」
そう言うと、少女は怒りに任せて首輪を外そうとした。だが、いくら手で引きちぎろうとしても、首輪が彼女の首から外れそうな気配はなかった。
それでも、少女はやけになってしまったのか、首に巻き付く首輪と必死に格闘を続けていた。
「モフミ、も、もう分かったから、あんまり無理しないで」
「あぁっ、そうだ、そうだ、思い出したっ! お姉ちゃん、いい加減にそのモフミって名前で呼ぶの止めてよね! ダサすぎてたまったもんじゃない! まだ、あの男がつけたミカエルってやつの方が良かったわ!」
「えぇ……」
「私にはミアって名前があるんだから、今日からちゃんとした名前で呼んで!」
不服そうに不機嫌な態度を取り続ける少女。
だが、このときエレリアはついに確信した。
彼女は本物の猫のモフミだ。現に、彼女はモフミの名付け会議の際のソウヤたちとのやり取りを口にしてたのだ。
首輪や瞳の色からも、少女は猫のモフミが人間に化けた姿に間違いない。
ただ、自らをミアと呼ぶ彼女は、エレリアのことを自身の姉だと口にしていた。となれば、一体彼女は何者なのか。
「あのさ、なんでモフミは……」
「ッ!!」
「……じゃなくて、ミアはなんで私のことをお姉ちゃんって呼ぶの?」
「今はそんなこと、どーでもいいの。とにかく、私は早くお姉ちゃんの持ってるアレが欲しいわけ」
「私のアレ……?」
すると、自らをミアと呼称する少女は、再びエレリアのもとへ近寄ってきた。
「だから、アレよ。今、お姉ちゃんが着けてるやつあるでしょ? 星の首飾りよ。私はそれを手に入れるために、ここに来たのよ」
「星の、首飾り……?」
「そう。それがあれば、私はこの忌々しい猫の呪縛から解放される。諸々の詳しい話はその後ね」
どうやらミアは、エレリアが身につけている星の首飾りというアイテムによって、猫の姿から永続的に人間の姿でいられるらしい。
しかし、エレリアは途方に暮れていた。
「えぇっと、その……」
「何、勿体ぶってるの? 早く渡してよ、首飾り!」
強く手を差し出し、星の首飾りを私によこせと急かすミア。
だが、エレリアは彼女に首飾りを渡すことができなかった。渡すことができない訳があったのだ。
「あの……、なんだか、ミアにはすっごく申し訳ないんだけど」
「ん?」
「私、首飾りなんか一つも身に着けてないんだよね……」
「は……、はぁ!?!? 着けてないって……? ……ははは、お姉ちゃん、さ、さすがに冗談よねぇ!?」
「いや、ほんと……」
「ちょっと、見せてごらんなさいよっ!」
すると、ミアはエレリアに飛びつくように、エレリアの首元を必死に探った。
普段なら抵抗するところであるが、どこか後ろめたさのようなものを感じたエレリアは大人しくされるがままにしていた。
そして、首飾りがないという事実を受け入れていくにつれ、次第にミアの動きは弱々しく衰えていった。
「う、嘘でしょ……。ほんとに無いじゃん……」
目当ての物が見つからず、一気に失意に暮れるミア。
それもそのはず、エレリアはコックル村で目覚めた時からこのかた、一度も首飾りなど身につけたことがないのだ。
初めから、何かの間違いではないのか。
「ねぇ、お姉ちゃん! なんで無いの!? 家に置き忘れてきた!?」
「いや、だから私、首飾りなんか知らないんだって」
いくら問い詰められたところで、無いものは無いのだ。
しかし、いくらエレリアが説得したところで、ミアは諦めきれていない様子だった。
「そ、そんな、ちょっと待ってよ……。あれがないと、私まさか、ず、ずっと……、猫の姿のまま?! 嫌よ、そんなのッ!!」
顔色を真っ青にして、深く頭を抱えるミア。再び猫の姿に戻らなければならないことを悟って、絶望しているらしい。
できることなら、当然エレリアだって彼女のために何か協力してやりたかった。
しかし、その時だった。
「ふわぁ、なんか急に眠くなってきちゃった……」
神がこれ以上二人のやり取りを許さないかのように、いきなり強烈な睡魔がエレリアを襲ったのだ。
まぶたが重くなっていくにつれ、意識は次第に遠のき、強制的にエレリアはまどろみの世界へ引きずりこまれていった。
「ちょっと!? お姉ちゃん!! 何、寝ようとしてるのよ! まだ、話は終わってな……」
「すぅ……」
そして、気づいた時にはエレリアは再び深い眠りに落ちていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる