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第2章『悪夢の王国と孤独な魔法使い』編
第52話『大浴場/Public Bath』part2
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そこは、まるでどこまでも広がる風呂の楽園のようだった。
「わぁ、すごい……」
初めて見る王国の大浴場を前に、エレリアは驚きのあまりずっと目を丸くしっぱなしだった。
なんという広さなのだ。コックル村にある自宅の風呂とは、何もかもスケールが違い過ぎる。
まるで濃霧の如く立ち込める蒸気、どこから供給してるのか不思議に思ってしまうほど大量に湧き続ける湯水、もはや湖なのではと錯覚してしまうほどの巨大な浴槽。
そして、艶やかな体型を誇った女性たちに、エレリアは印象深く目に止まった。
まさに美人とは彼女たちのようなことを言うのだろう。思わずエレリアも見惚れてしまったほどだ。少なくともコックル村ではお目にかかったことはない。
ただ一方で、隣りにいるミサが、お世辞にも豊かとは言えない自身の胸元と彼女たちを見比べて、どこか不満げに嫉妬している姿は少し微笑ましかった。
有り余るほど広大な浴槽。その縁に沿って、エレリアとミサは比較的人が空いてる箇所を求めしばし探し歩いた。
「……」
今までこうして人前で裸のまま歩き回ったことなど当然ないので、慣れない解放感にずっと戸惑いっぱなしだった。何より、本来下着で隠すべき部位を晒している状態で人前に出るということが、エレリアにとってはとても耐え難かった。
だが、脱衣所でミサが言っていたように、誰一人としてジロジロこちらを見ている者などいないし、この場所ではむしろ裸になることが常識なのだと思い込むと、幾分かは少し落ち着くことができた。
「あ、この辺に入ろっか」
すると、ちょうど浴場の端に、誰もいない浴槽を見つけることができた。
ぬくぬくと湯気が立ち昇り、白濁した湯に満たされた湯船。
こんな大きな風呂に入れば、身も心も気持ちよくなるに決まっている。せっかく、覚悟を決めてここまでやってきたのだ。最後まで思う存分、堪能させてもらおう。
そして、いつも何の気なしに風呂に入る気分で、先にエレリアが自身の足首を湯に浸けた、その時だった。
「熱ッ!!」
想像を絶する高熱を足が受け、頭で考えるより先に本能が反射的に拒絶すると同時に、その勢いのままエレリアは無様にも尻もちをついてしまった。
「リ、リアちゃん!? 大丈夫っ!?」
慌ててエレリアのもとへ駆け寄るミサ。
「ちょっと、熱すぎ……」
一瞬、足が焼かれたのかと思ってしまった。
それぐらい、煮えたぎった熱湯のようだったのだ。
まさか、これほど湯が高温だったなんて少しも予想してなかった。
「リアちゃん。こういう時は、ゆっくり入らないと!」
「そ、それを早く言ってよ……」
まさか、裸になる以外に、このような不格好な醜態を晒してしまうとは。
しかし、なにはともあれ、思わぬ絶叫を発してしまった自分に、エレリアは少しだけ可笑しな気分になっていた。自分の口から発せられたのかと不思議に思ってしまうほど聞いたことのない叫び声だった。
ただ、周囲に誰も人がいなかったので、そこだけは不幸中の幸いだっただろう。
さて、気を取り直して、今度はゆっくり入浴しようとエレリアが立ち上がった時だった。
「……」
見上げる視線の先に、何やらまじまじとこちらの身体を見つめているミサの姿があった。ゆっくりと生唾を呑み込み、なぜか少し鼻息を荒くしている。
「おーい、ミサ?」
「はっ! ごめん、ぼっーとしちゃってた!」
まさに心ここにあらずと言った状態だったが、声をかけると、ミサはすぐに我に返った。
だが、心中を悟られまいと頬を熱くしながらすぐに視線をそらし、何事もなかったかのような振る舞いを決め込むのだった。
「どうしちゃってたの、ミサ? なんか考え事してた?」
「え? あっ、う、うん、ちょっとね……! 気にしないで!」
「……気にしないで、って、そんなこと言われたら、余計に気になっちゃうよ」
「いやいや! 何でもないから!」
「ねぇ、私の体見ながら、何考えてたの?」
何やら顔を真っ赤にして全力で顔を横に振るミサ。そんな彼女を面白がって、エレリアは意地悪な微笑を浮かべながら詰め寄った。
「ほんとに何でもないから……! 信じて! ね?」
「隠しても無駄だよ。ほら、教えて!」
「うぅ……」
次第に弱気になっていくミサの反応がどこか可愛かったので、ついエレリアは調子にのってしまった。
そして、じりじり問い詰められた挙げ句、ついにミサは観念したのか、顔を真っ赤にしながら吐息のようなささやき声で白状した。
「……えっと、なんというか。ただ、その、……リアちゃんのは大っきくて、羨ましいなぁっていうか……」
「えっ……。私のが大きいって……」
「う、ううん! ごめん! ほんとに、今の忘れて! さ、さ、入ろ!」
すると、ミサは無理矢理に持ち前の笑顔で話題を濁すと、さっさと逃げるようにして湯船に向かって行ってしまった。
まさか、こちらの胸を見て、そんなことを考えていたとは。
ただ、実はエレリアはすべて分かっていたのだ。そう、わざと素知らぬフリを装っていたのだ。
しかし、これ以上深く言及することはもはや無意味だったので、エレリアも大人しく風呂に浸かることにした。
今度は、落ち着いてゆっくり足から水面に浸けていった。
「うぅ、やっぱり熱い……」
下手したら火傷してしまうのではないかと思ってしまうほどの熱さ。エレリアにとって、ここの風呂はグツグツと煮えたぎる溶岩と同然のものだった。
対して、ミサはこの熱い湯の中で平然とした様子で肩まで浸かっているが、なぜそこまで平気な顔でいられるのかエレリアは不思議でしょうがなかった。こんなの人間が触れれるわけがないだろうに。
それでも、風呂の高温に耐えながら徐々に身体を湯に慣らしていき、なんとか時間をかけてエレリアは湯船を堪能することができるほどにまでなっていた。
ミサの隣で肩を並べて2人、王国の湯船を堪能する。
「はぁ、気持ちいいね……」
静かに目を閉じて、恍惚とした吐息を漏らすミサ。
不思議なことに、あれほど苦痛にしか感じなかった熱湯も、今では体の疲労に心地よく染みてゆく甘美な癒やしのように感じられた。
身体の輪郭が曖昧にボヤけていくような神秘的な感覚。あまりの気持ちよさに、そのまま淡く溶けていってしまいそうだ。
悔しいが、自宅の風呂とは比にならないほど気持ちがよい。広大な浴槽に身を委ねる贅沢な解放感。いっそのこと、この夢見心地な快感にずっと浸っていたい。
しばらく、目を閉じて湯の快楽に酔いしれていたエレリアだったが、突然脳裏にあの少女が浮かび上がってきた。
そう、路地裏で自分たちを助けてくれた、あの魔法使いの少女のことだ。
噴水広場で別れを告げた彼女だったが、あの後どこに行ったのだろうか。今頃、何をやっているのだろうか。
そうしている間に、エレリアは彼女のことばかり考えてしまっていることに気づいた。
そして、そのまま何気なくエレリアの口はミサに向かって言葉を放っていた。
「ねぇ、ミサ」
「ん? どうしたの?」
「ミサはさ、自分の母親に会ってみたいなんて思ったりすることはある?」
「えぇ? ほんとに急にどうしたの?」
突然のエレリアの問いかけに対し、ミサは思わず苦笑いをこぼしていた。
やはり、あまりに唐突すぎたか。だが、それでもミサは真摯にエレリアの質問に向き合ってくれた。
「……そりゃあ、会えるんだったら会ってみたいなぁ、なんて思う時はあるよ。って、言ってもあんまり顔も覚えてないけどね」
「あっ、そっか。確かミサは小さい時にコックル村にやってきたんだっけ」
「そう。だから、もう一回会ってみたい反面、いざ会えるってなっても、何を話したらいいか分かんないかも」
渇いた笑みを見せながら、ミサは最後まで丁寧に胸の内を語ってくれた。
「けど、それがどうかしたの?」
「いや、別に深い意味とかはないんだけど。……さっきのあの魔法使いの子のこと覚えてるよね?」
「うん」
「あの子、本当は自分の母親のこと好きなんじゃないのかなぁ、なんて思っちゃって」
白い湯の中でだらしなく伸ばしていた足をたたむと、エレリアはついに少女に対して抱いて思いを語り始めた。
「う~ん……。でもあの2人、見たところすっごい仲悪そうな感じだったし、特に娘の方なんて一方的にお母さんのこと嫌ってるように私は見えたけどな」
「だからこそだよ」
しかし、エレリアの主張に、まだミサはピンときてない様子だった。
「じゃあ、あの時、2人が話してたことは覚えてる?」
「えっと、確かなんか『約束は果たした』とか『認められない』とか色々意味分かんないこと言ってた」
「他にも『王国からの外出許可は出さない』なんてことも話してたと思うけど……」
「あっ、そっか、そっか! そういうことか!」
すると、いきなりミサは何かを閃いた様子で、水面から手を出して手を叩いた。
「あの子は王国の外に出る許しをお母さんから得るために、私たちを連れて行ったってこと!?」
「きっと、母親から『仲間を見つけたら出してあげる』みたいなことを言われてたんだろうね」
「なんだ、そういうことだったのかぁ。やっと理解できたよ」
エレリア自身はあの時すでにこれらの事実に気づいていたのだが、今になってミサも理解できたようだった。
と、エレリアは改めてミサに問いかけた。
「けど、ミサ。なんだか変だと思わない?」
「変、って何が?」
「だってさ、本当に娘が母親のことが嫌いだったら、親の言いつけなんて無視しちゃって、後は自分で好き勝手しちゃえばいいと思わない?」
「あっ、言われてみれば、確かに……」
ここで、ミサもエレリアの言い分にようやく納得してくれたようだった。
そして、最後にエレリアが言いたかった結論を代わりに言葉にしてくれた。
「ひょっとして、それは親を心配させたくないから?」
ミサの発言に、エレリアは黙ってうなずいた。
「なるほど、リアちゃんの言ってることが分かったよ。でも、もしそれが本当だとしたら、なんだか2人がかわいそう……」
そう言って、ミサは改めて深く湯に浸かり、一人で感傷に浸っているようだった。
ただ、どちらにせよ、もう二度とあの少女と話すことはないだろう。この広大な街で、よほど運が良ければ何かの縁で会えるかもしれないが。
そして、エレリアたちはのぼせてしまう前に風呂から上がった。
「わぁ、すごい……」
初めて見る王国の大浴場を前に、エレリアは驚きのあまりずっと目を丸くしっぱなしだった。
なんという広さなのだ。コックル村にある自宅の風呂とは、何もかもスケールが違い過ぎる。
まるで濃霧の如く立ち込める蒸気、どこから供給してるのか不思議に思ってしまうほど大量に湧き続ける湯水、もはや湖なのではと錯覚してしまうほどの巨大な浴槽。
そして、艶やかな体型を誇った女性たちに、エレリアは印象深く目に止まった。
まさに美人とは彼女たちのようなことを言うのだろう。思わずエレリアも見惚れてしまったほどだ。少なくともコックル村ではお目にかかったことはない。
ただ一方で、隣りにいるミサが、お世辞にも豊かとは言えない自身の胸元と彼女たちを見比べて、どこか不満げに嫉妬している姿は少し微笑ましかった。
有り余るほど広大な浴槽。その縁に沿って、エレリアとミサは比較的人が空いてる箇所を求めしばし探し歩いた。
「……」
今までこうして人前で裸のまま歩き回ったことなど当然ないので、慣れない解放感にずっと戸惑いっぱなしだった。何より、本来下着で隠すべき部位を晒している状態で人前に出るということが、エレリアにとってはとても耐え難かった。
だが、脱衣所でミサが言っていたように、誰一人としてジロジロこちらを見ている者などいないし、この場所ではむしろ裸になることが常識なのだと思い込むと、幾分かは少し落ち着くことができた。
「あ、この辺に入ろっか」
すると、ちょうど浴場の端に、誰もいない浴槽を見つけることができた。
ぬくぬくと湯気が立ち昇り、白濁した湯に満たされた湯船。
こんな大きな風呂に入れば、身も心も気持ちよくなるに決まっている。せっかく、覚悟を決めてここまでやってきたのだ。最後まで思う存分、堪能させてもらおう。
そして、いつも何の気なしに風呂に入る気分で、先にエレリアが自身の足首を湯に浸けた、その時だった。
「熱ッ!!」
想像を絶する高熱を足が受け、頭で考えるより先に本能が反射的に拒絶すると同時に、その勢いのままエレリアは無様にも尻もちをついてしまった。
「リ、リアちゃん!? 大丈夫っ!?」
慌ててエレリアのもとへ駆け寄るミサ。
「ちょっと、熱すぎ……」
一瞬、足が焼かれたのかと思ってしまった。
それぐらい、煮えたぎった熱湯のようだったのだ。
まさか、これほど湯が高温だったなんて少しも予想してなかった。
「リアちゃん。こういう時は、ゆっくり入らないと!」
「そ、それを早く言ってよ……」
まさか、裸になる以外に、このような不格好な醜態を晒してしまうとは。
しかし、なにはともあれ、思わぬ絶叫を発してしまった自分に、エレリアは少しだけ可笑しな気分になっていた。自分の口から発せられたのかと不思議に思ってしまうほど聞いたことのない叫び声だった。
ただ、周囲に誰も人がいなかったので、そこだけは不幸中の幸いだっただろう。
さて、気を取り直して、今度はゆっくり入浴しようとエレリアが立ち上がった時だった。
「……」
見上げる視線の先に、何やらまじまじとこちらの身体を見つめているミサの姿があった。ゆっくりと生唾を呑み込み、なぜか少し鼻息を荒くしている。
「おーい、ミサ?」
「はっ! ごめん、ぼっーとしちゃってた!」
まさに心ここにあらずと言った状態だったが、声をかけると、ミサはすぐに我に返った。
だが、心中を悟られまいと頬を熱くしながらすぐに視線をそらし、何事もなかったかのような振る舞いを決め込むのだった。
「どうしちゃってたの、ミサ? なんか考え事してた?」
「え? あっ、う、うん、ちょっとね……! 気にしないで!」
「……気にしないで、って、そんなこと言われたら、余計に気になっちゃうよ」
「いやいや! 何でもないから!」
「ねぇ、私の体見ながら、何考えてたの?」
何やら顔を真っ赤にして全力で顔を横に振るミサ。そんな彼女を面白がって、エレリアは意地悪な微笑を浮かべながら詰め寄った。
「ほんとに何でもないから……! 信じて! ね?」
「隠しても無駄だよ。ほら、教えて!」
「うぅ……」
次第に弱気になっていくミサの反応がどこか可愛かったので、ついエレリアは調子にのってしまった。
そして、じりじり問い詰められた挙げ句、ついにミサは観念したのか、顔を真っ赤にしながら吐息のようなささやき声で白状した。
「……えっと、なんというか。ただ、その、……リアちゃんのは大っきくて、羨ましいなぁっていうか……」
「えっ……。私のが大きいって……」
「う、ううん! ごめん! ほんとに、今の忘れて! さ、さ、入ろ!」
すると、ミサは無理矢理に持ち前の笑顔で話題を濁すと、さっさと逃げるようにして湯船に向かって行ってしまった。
まさか、こちらの胸を見て、そんなことを考えていたとは。
ただ、実はエレリアはすべて分かっていたのだ。そう、わざと素知らぬフリを装っていたのだ。
しかし、これ以上深く言及することはもはや無意味だったので、エレリアも大人しく風呂に浸かることにした。
今度は、落ち着いてゆっくり足から水面に浸けていった。
「うぅ、やっぱり熱い……」
下手したら火傷してしまうのではないかと思ってしまうほどの熱さ。エレリアにとって、ここの風呂はグツグツと煮えたぎる溶岩と同然のものだった。
対して、ミサはこの熱い湯の中で平然とした様子で肩まで浸かっているが、なぜそこまで平気な顔でいられるのかエレリアは不思議でしょうがなかった。こんなの人間が触れれるわけがないだろうに。
それでも、風呂の高温に耐えながら徐々に身体を湯に慣らしていき、なんとか時間をかけてエレリアは湯船を堪能することができるほどにまでなっていた。
ミサの隣で肩を並べて2人、王国の湯船を堪能する。
「はぁ、気持ちいいね……」
静かに目を閉じて、恍惚とした吐息を漏らすミサ。
不思議なことに、あれほど苦痛にしか感じなかった熱湯も、今では体の疲労に心地よく染みてゆく甘美な癒やしのように感じられた。
身体の輪郭が曖昧にボヤけていくような神秘的な感覚。あまりの気持ちよさに、そのまま淡く溶けていってしまいそうだ。
悔しいが、自宅の風呂とは比にならないほど気持ちがよい。広大な浴槽に身を委ねる贅沢な解放感。いっそのこと、この夢見心地な快感にずっと浸っていたい。
しばらく、目を閉じて湯の快楽に酔いしれていたエレリアだったが、突然脳裏にあの少女が浮かび上がってきた。
そう、路地裏で自分たちを助けてくれた、あの魔法使いの少女のことだ。
噴水広場で別れを告げた彼女だったが、あの後どこに行ったのだろうか。今頃、何をやっているのだろうか。
そうしている間に、エレリアは彼女のことばかり考えてしまっていることに気づいた。
そして、そのまま何気なくエレリアの口はミサに向かって言葉を放っていた。
「ねぇ、ミサ」
「ん? どうしたの?」
「ミサはさ、自分の母親に会ってみたいなんて思ったりすることはある?」
「えぇ? ほんとに急にどうしたの?」
突然のエレリアの問いかけに対し、ミサは思わず苦笑いをこぼしていた。
やはり、あまりに唐突すぎたか。だが、それでもミサは真摯にエレリアの質問に向き合ってくれた。
「……そりゃあ、会えるんだったら会ってみたいなぁ、なんて思う時はあるよ。って、言ってもあんまり顔も覚えてないけどね」
「あっ、そっか。確かミサは小さい時にコックル村にやってきたんだっけ」
「そう。だから、もう一回会ってみたい反面、いざ会えるってなっても、何を話したらいいか分かんないかも」
渇いた笑みを見せながら、ミサは最後まで丁寧に胸の内を語ってくれた。
「けど、それがどうかしたの?」
「いや、別に深い意味とかはないんだけど。……さっきのあの魔法使いの子のこと覚えてるよね?」
「うん」
「あの子、本当は自分の母親のこと好きなんじゃないのかなぁ、なんて思っちゃって」
白い湯の中でだらしなく伸ばしていた足をたたむと、エレリアはついに少女に対して抱いて思いを語り始めた。
「う~ん……。でもあの2人、見たところすっごい仲悪そうな感じだったし、特に娘の方なんて一方的にお母さんのこと嫌ってるように私は見えたけどな」
「だからこそだよ」
しかし、エレリアの主張に、まだミサはピンときてない様子だった。
「じゃあ、あの時、2人が話してたことは覚えてる?」
「えっと、確かなんか『約束は果たした』とか『認められない』とか色々意味分かんないこと言ってた」
「他にも『王国からの外出許可は出さない』なんてことも話してたと思うけど……」
「あっ、そっか、そっか! そういうことか!」
すると、いきなりミサは何かを閃いた様子で、水面から手を出して手を叩いた。
「あの子は王国の外に出る許しをお母さんから得るために、私たちを連れて行ったってこと!?」
「きっと、母親から『仲間を見つけたら出してあげる』みたいなことを言われてたんだろうね」
「なんだ、そういうことだったのかぁ。やっと理解できたよ」
エレリア自身はあの時すでにこれらの事実に気づいていたのだが、今になってミサも理解できたようだった。
と、エレリアは改めてミサに問いかけた。
「けど、ミサ。なんだか変だと思わない?」
「変、って何が?」
「だってさ、本当に娘が母親のことが嫌いだったら、親の言いつけなんて無視しちゃって、後は自分で好き勝手しちゃえばいいと思わない?」
「あっ、言われてみれば、確かに……」
ここで、ミサもエレリアの言い分にようやく納得してくれたようだった。
そして、最後にエレリアが言いたかった結論を代わりに言葉にしてくれた。
「ひょっとして、それは親を心配させたくないから?」
ミサの発言に、エレリアは黙ってうなずいた。
「なるほど、リアちゃんの言ってることが分かったよ。でも、もしそれが本当だとしたら、なんだか2人がかわいそう……」
そう言って、ミサは改めて深く湯に浸かり、一人で感傷に浸っているようだった。
ただ、どちらにせよ、もう二度とあの少女と話すことはないだろう。この広大な街で、よほど運が良ければ何かの縁で会えるかもしれないが。
そして、エレリアたちはのぼせてしまう前に風呂から上がった。
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