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第1章『始まりの村と魔法の薬』編
第8話 母/Mother
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謎の精神世界で不条理な拷問に苦しみ続け、エレリアはとうに生きる活力を削がれていた。
さよなら、みんな…。
何もかもに絶望したエレリアは瞳を閉じ、少しずつ世界と自身を切り離していった。
すると次の瞬間、白い光の一線が暗闇の世界を切り裂いた。
「…?」
突然の出来事に、エレリアはかろうじて残っていた自身の意識をすんでのところでこの世界に繋ぎ、閉じかけていた目をゆっくり見開いた。
「…ぇ、な、何…?」
苦しみの地獄に注がれた、淡い白い光。
そして、その白い光は消えかけていたエレリアの意識の灯火に種火を灯し、再び彼女を死の世界から引き戻した。
「…な、何が起こったの…?」
突然の出来事に、エレリアの思考が滞る。
よく見ると、白い光線によって裂かれた隙間から、温かい光が流れ込んできているのがエレリアには分かった。光が闇を喰らい、邪悪な暗闇が聖なる純白の世界へ塗り替えていく。
そして、その溢れ出る光が彼女に絡みついていた無数の手に触れる。すると、光に触れた闇の手がまるで蒸発する水のように溶け始めていた。
「す、すごい…」
徐々にエレリアにまとわりついていた手の拘束が解かれていく。
そして気づけば、闇に塗られていたあの苦しみの世界は完全に突如差し込んだ白い温かい光に包まれており、エレリアの体からも苦痛が消えていた。
「はぁ…。た、助かったの?」
苦しみから解放され、エレリアはふいに安堵の息を漏らした。
あの死を覚悟させるほどの鬼畜の苦しみはどこかへ消え去っていったようだ。それも、余韻も残さずきれいさっぱりに。
すると、前方のまばゆい光の中から、突如謎の声が響き渡った。
「エレリア…」
思わず聞き惚れてしまいそうな美しい声は白い空間をこだまし、幾重にも重なって響き渡った後、エレリアの鼓膜を揺らす。
自分の名前を呼ぶ、謎の声。それは、はっきりと大人の女性の声をしていた。
エレリアはその声を耳にした時、なぜか懐かしさを感じとった。
「エレリア、聞こえますか…」
謎の声は何度も、彼女の心に直に訴えかけてくる。
それは、そっと頭を撫でるように、優しくて、愛しくて、聞くだけで心の底から安心することができる声。
「だ、誰…?」
どこからともなく一方的に流れてくる正体不明の声に、エレリアは辺りを見回して声の主を探る。
しかしエレリアが感じることがてきるのは、ただ無限に広がる白い虚空の空間だけ。そこに人の気配はおろか、自分以外に何も感じとることができなかった。
「ねぇ、誰!?」
エレリアは大声で聞き返すが、返事は返ってこず、自身の声が虚空に消えていくだけだった。
だが、さきほど聞こえてきた女性の声にはどこか懐かしいものを感じた。
なぜそう感じたのか、理由は分からない。
ただ直感的に、あの声はエレリアの心に違和感を残したのだ。
そこで、エレリアはどこからともなく聞こえてくるあの声の正体を暴くため、自らの過去に再び意識を張り巡らすことにしてみた。今なら何か手かがりが掴めるかもしれない。
波のように指の間からすり抜けてしまう実体のない記憶の数々。
やはり、簡単には真実を教えてはくれそうにない。
それでもエレリアは必死に真実を得ようと記憶を巡った。
もしかしたら、またあの痛みに襲われるかもしれない。
ただ、今のエレリアにはそんな恐怖などに臆することのない勇気と気迫に満ち溢れていた。
掴めなくても確かに真実は目の前には存在するのだから、もがき続ければいつか分かるはずだ。
そうして、エレリアはただひたすらに頭をひねり続けた。今のところ、あの痛みは襲ってくる気配はない。
すると突然、エレリアは閉ざされていた記憶のヴェールが鋭い音を立てて破れる衝動に貫かれた。それは謎に包まれていたすべての記憶が明らかになった瞬間だった。
「は!?」
次々に激流の如く頭に流れ込んでくる情景。
そして、思わずエレリアは息を呑んだ。
「なんだ、これ…」
エレリアの頭の中が隠されていた無数の記憶で満たされる。
そして、その記憶の数々にすべて心当たりがあった。
青い森、街のにぎわい、妹のミア、白猫のぬいぐるみ、住んでいた宮殿。
燃える森、逃げる自分、黒い煙、謎の襲来、死の恐怖、虹色の泉。
そして、自分の正体。
「そうだ!!私は…!」
エレリアは答え合わせをするように、明かされた過去を思い返していく。
自分が誰で、どこに住んでいて、何をしていたのか。
今のエレリアにはすべてが分かっていた。
これも突然差し込んできた光のせいなのだろうか。
「エレリア…」
再三と続き、謎の声がエレリアの心に問いかけてくる。
別れた時から、何度も会いたいと願い続けた。
そして、幼い時からひとえに愛情を注いでくれた。
この声を聞くと、恐怖で凍りついた心に温もりが満たされていくのを感じる。
「!?」
そしてその時、エレリアはふと眼前の声の正体を悟った。
「もしかして、は、母様?」
間違いなかった。
幼い頃、いつも一人で泣いていた自分をあやしてくれていた母の声。
確か母はあの時も、棚の陰に身を潜めていた自分をこうして呼んでくれていた。
そして、恐れてはダメだと自分に揺るぎない希望を教えてくれた。
「ねぇ、本当に母様なの!?」
エレリアは迷子になった子供のように必死に声を絞り出す。
「…」
しかし、すぐには返事は返ってこなかった。
ただ、まばゆい光だけが煌々と注がれている光景しか見えない。
声が届いていないのか。
それでも、エレリアは出せる限りの声を張り上げた。
「母様!!」
ここで引き留めないと、また母は自分を置いてどこかへ行ってしまうような気がしていた。
それだけは、絶対に嫌だった。
なんとしても、ここで母に気づいてもらわなければならない。
すると、ふいに光のかなたから謎の声…、否、母親の声が響き渡った。
「… えぇ」
聞こえた言葉はそれだけだった。
ただ、エレリアはやっと真実を耳にすることができた。嬉しさと興奮の表情を浮かべて目を輝かせる。
「やっぱり!!」
そして、エレリアは少し瞳を涙で潤した。
やっと…、やっと出会えることができた。愛しの人。
この時、エレリアは昨日の夕方の夢に出てきたあの白い女性の正体を悟った。
不可解な重圧から自分を救ってくれた謎の女性。
あれも、きっと母親だったのだろう。
記憶を取り戻したエレリアには、すべて分かっていた。
先ほどの苦しみから自分を救ってくれたように、あの時も自分を救ってくれたに違いない。
「エレリア、よく聞いてください」
エレリアが感慨に浸っていると、喜びの色を示す様子もないまま母親の声が忠告の意味を込めエレリアの鼓膜を揺らした。
なぜかこの時、母の声は聞こえても肝心の姿が見えないのがエレリアにとって少し気がかりだった。しかし、やっと会えた母の前でそんな気がかりは無用だった。
「あなたは、もう二度と隠された過去を思い出そうとしてはなりません」
母の声は子供をしかるような口調でエレリアを言いなだめる。
「えっ、何? 急に…」
突然に母親から回想の禁止を言い渡され、エレリアは困惑した。そして、せっかく会えたのに、なぜ叱られなければならないのかとエレリアは口をとがらす。
しかし、すぐに母の声が流れてきた。
「いいですか?とにかく、もう二度と隠された過去を思い出してはいけません。あなたが真実を知ろうとすること、それは罪に値するものなのです」
なぜか、母の声は厳しい態度でエレリアを叱っているようだった。
「罪、って…。私、何も悪いことなんかしてないよ。なんで、思い出してはいけないの?」
母の言っている真意が理解できず、エレリアは失笑を漏らしながら、親に反抗する子供のように、確固とした自分の意思を母に伝えた。
しかし、娘の必死の意向にものともせず、母は話を続ける。
「まさしく、さきほどあなたが受けた苦しみがその罪の代償です。前回と同様に今回も私がなんとか止めに入らさせていただきました。しかし、他人の贖罪を半ばで干渉する行為はそもそも道理とは呼べません」
冷酷に告げられる母の言葉に、エレリアは真意が理解できず、こみ上げてくる反抗の感情を喉奥の手前で飲み込んだ。
「由々しき事態が私たちの予想より早く進行し、ついに期が熟してしまいました。ゆえに、もう二度と私があなたの前に現れることは難しいでしょう」
その言葉を耳にしたとたん、再びエレリアは救いようのない絶望に襲われた。
それは自身の手足が切り落とされるような堪えきれない激しい痛みと同等の感情だった。
「ちょっと待ってよ母様。何を言ってるのか全然分からないよ…」
母から無情に告げられる言葉に、エレリアは思考が追い付かない。
由々しき事態が想像より早く進行?
ついに期が熟した?
とりとめのない話ばかりで、エレリアにはこれっぽっちも理解することができない。
「母様は、また私をひとりぼっちにする気なの!?」
すべての記憶が戻った今、エレリアは一刻も早く母の体温に触れたかった。
そして、力強く抱き締めてもらいたかった。
孤独と恐怖で傷ついた心を癒してほしかった。
謎の泉から地上に落とされ、見知らぬ世界で戸惑いながらも「ミサ」と「ソウヤ」という親愛なる友に出会えることができたエレリア。
目覚めた家で最初に出会った二人は、自分を邪険に扱うことなくむしろ温かい気持ちで出迎えてくれた。あの時、彼らに出会ったことにエレリアは心の底から感謝している。
しかし、それでもエレリアは母のもとに帰りたかった。
帰って、またいつもの日常を過ごしたかった。そして、ずっと幸せに暮らしたかった。
すると、再び母の声が響き渡った。
「エレリア、恐れず前を向くのです。後ろばかり振り返ってはなりません。前を向いて、歩き出しなさい」
まるで、こちらの心中を見透かしていたかのような母の的確な言葉に、エレリアは言葉を詰まらせる。
「母様…」
すると、自分を包んでいた白い世界がいきなり薄く滲み始めてきた。
「あぁ、とうとう時間のようですね」
母が少し悲しげな感情を宿し、ぼそりと声を漏らした。
そして、先ほどまで鮮明に見えていたエレリアの視界も次第にぼやけ始め、意識が夢から醒めていくように遠のいていくのが分かった。
「いやだ、行かないで…!!私をそっちに連れてって!!」
何度も叫んだこの言葉。
今まで伸ばした手はすべて空虚を掴み、何も引き留めることはできなかった。そして、それは今回も同じように思われた。
しかし、エレリアの必死の懇願に母が最後の言葉をかける。
「エレリア。あなたは一人じゃない」
崩壊していく夢の世界で、その言葉だけがいつまでもエレリアの心に響く。
そして、エレリアはついに涙を流してしまった。堪えきれない感情が次々に涙と共に流れ込んでくる。
それは、悲しいからか、悔しいからか、さみしいからか、涙の源泉は分からない。
ただ得体の知れない感情が涙腺を熱くし、絶え間なく涙を湧きあがらせる。
「母様…!!」
儚く消え去っていく夢の世界。
そこで、とうとう最後まで母の姿を見ることはなかった。
それでもエレリアは母に少しでもいいから触れようと、狭まる視界で必死に手を伸ばした。
かするだけでもいい。
少し触れるだけでいい。
遠のく意識に抗い、エレリアは指先の先まで伸ばし、全力で手を母に差しのべた。
「最後に、あなたにこの言葉を送りましょう」
無惨に母との距離が遠のいていくなかで、母が娘に最後の別れの言葉を託した。
「強く、生きて」
これが、最後の母の言葉だった。
とても短い言葉だった。
もしかしたら母はとても後悔したかもしれない。娘の最後の別れにたった5文字の言葉しか遅れなくて、悔やんだかもしれない。
しかし、エレリアはしっかり母の言葉を受け止めていた。
その証拠として、エレリアの伸ばした手に母の温もりが伝わる。
やっと、握ることができた。
できれば思いっきり抱き締めてもらいたかったが、もうわがままは言えない。ここで駄々をこねたところで、すべて台無しになるだけだ。
強く、生きる。
エレリアは母からの愛の言葉を胸に刻み、そして、そっと瞳を閉じた。
「ありがとう。そして、さようなら。私の、お母さん…」
次第にノイズが空調を乱し、エレリアの持つ感覚が次元の彼方に遠のいていく。
何も見えない、聞こえない、感じない。
身体の輪郭がぼやけ始め、自分という概念が曖昧になる。
そして、万物を虚無に返す渦の中で、エレリアの持つ記憶に再び不透明のヴェールが被される。だが、意識が白濁とするエレリアには、記憶を失っていく感覚はない。それどころか、自分が存在しているという自覚さえあやふやだ。
そして、エレリアの意識は夢の世界から剥がされるように、流されるままに現実世界に戻されていった。
「……ァ!…ァ!!」
遠くで誰かが叫んでいる。
一体、誰なのだろうか。
ただ声だけが一方的に耳に流れ込んでくる。
視界は漆黒に塗られていて、自分が今どこにいるのかさえも曖昧だ。
「…ァ!……ぉい!!」
声は相変わらず、誰かを呼び覚ますような口調で聞こえてくる。
そして混濁する意識の中で、自分の体が激しく揺さぶられるのを感じた。なんて、乱暴なことをするのだろうか。
「…ェレリア!!」
声がだんだん明瞭になって聞こえてくる。
その時、彼女はやっと自分自身の意識を現実に戻すことができた。そして、自分が現在どこにいるのかを悟った。
今、自分は浜辺にいて、確か気を失ったのだった。
「おい、頼むから目を開けてくれ!!エレリア!!」
声はとても切迫した口調で彼女の耳に届く。
そうだ、この声はソウヤだ。間違いない。
そして意識が完全に彼女の体に戻り、エレリアはそっとまぶたを開いた。
しかし、容赦なく入り込んできた陽の光に視界が圧迫されて、エレリアは反射的に瞳を閉じてしまった。
「うっ…」
それでもエレリアは顔を少し歪めて、ゆっくりまぶたを開いていった。
初めは薄くぼんやりしていた視界も、時と共に彩りを取り戻していく。
そして、徐々にエレリアの目に、現実世界の風景が映し出されていこうとする。
エレリアは何度も瞬きして、目のピントを合わせる。
すると取り戻した視界の目の前に、緊迫した表情を顔に張り付けているソウヤの姿が現れた。
「おい、エレリア!!大丈夫かっ!?」
ソウヤは仰向けになって寝転んでいるエレリアの顔を覗き込み、必死の形相で彼女の状態を問う。
「う、うん…」
エレリアはぎこちない口調で、ソウヤに自分の身体に異変がないことを伝えた。
「はぁ…。んだよ、まったく。心配させやがって…」
ソウヤはエレリアの漏らした言葉を耳にし、肩の力をおろす。そして、額の汗を拭い地面に腰をおろした。
「何回呼んでも起きないからよ、このまま死んじまうのかと思ったぜ」
ソウヤは失笑と共に、呆れの意を帯びたため息を口から吐いた。
そして、安堵する様子を見せているソウヤを尻目に、エレリアは頭を抱えながらゆっくり上半身を起こした。
どこからともなくやってきた凪が優しく撫でるようにエレリアの髪と木々の葉を揺らす。
そこでふとエレリアは上を見上げてみた。
すると、そこには緑色の生い茂った葉が頭上を覆っていた。葉の隙間から木漏れ日も差し込んでいる。
そして、遠くにはさきほどの海岸が広がっており、エレリアの座っている地面は芝生で覆われていた。
どうやら気を失っている間、ソウヤが自分を日光の当たらない場所に連れてきてくれたようだった。
すると、エレリアの思惑を見透かしたようにソウヤが口を開いた。
「熱中症になった時はまず日陰に連れて行けって学校の先生が言ってたのを思い出してな、とりまここまでおまえを運び込んだんだ。見かけによらず意外におまえが重たいもんだから、運ぶのには苦労したぜ」
そう言ってわざとらしく額を拭うソウヤ。そんなソウヤの姿に、エレリアは不服そうに目を細め彼をにらんだ。
「わりぃわりぃ、冗談だって。ジョークだよ、ジョーク」
エレリアに睨み付けられ、ソウヤは数秒前の発言を撤回するように渇いた笑いを漏らす。
そんな彼の態度にエレリアは言うべき言葉が見つからず、気を紛らわすために視線を海岸の方へ写した。
波は相変わらず同じ動きを繰り返している。
自分は気を失っている間、何をしていたのか。そして、何を見ていたのか。
「…」
何か長い夢を見ていたような気がする。
それも、何か嫌な夢。
止まらぬ動悸と頬を伝う冷や汗がその証だ。
しかし当然の如く、いくら思い出そうとしても何も思い出せない。思い出させてくれない。
意識が遠のき始めている時、ソウヤが必死に自分を呼び覚まそうとしていた所までは覚えている。
ただ、そこから先の出来事がエレリアの脳内に保存されていなかった。
思い返してもその記憶だけが白い塗料で塗られたように修正されており、更なる追憶は不可能だった。
「うっ、また…!」
すると、例の頭痛が再びエレリアの脳内で頭を覗かせた。鋭い耳鳴りが一瞬だけ頭蓋を刺し、エレリアは反射的に頭を押さえる。
ただいつもと違うのは、その頭痛が暗示を訴えかけているように感じられたことだった。それは、「これ以上過去を思い出そうとするならば、おまえは死ぬぞ」と強い警告にも似た胸騒ぎだった。それも、誰かからの伝言のように。
そしてエレリアは頭を締めつける謎の脅迫に為されるまま、仕方なく回想を諦めることにした。根拠は分からないが、これ以上過去をあさろうとすると本当に痛い目に会うような気がするのだ。
「おい、おまえさマジで大丈夫か?」
エレリアが頭痛で苦しそうに顔をしかめていると、ソウヤが怪訝そうに眉を寄せて彼女を見つめてきた。
「やっと目ぇ覚ましたと思ったら、なんだ?まだ頭が痛いのか?」
「もう、平気だから…」
「『もう、平気だから…』って、ウソつくなよ。見りゃ誰でも分かるぞ…」
無理して強がろうとするエレリアに、ソウヤは二度目の呆れたため息を漏らした。
対してエレリアもエレリアで、自分の身体に起きる訳の分からない現象に振り回され続け、とっくに疲れ果ててしまっていた。
自分の身体なのに自分の意思で制御することができない。例の頭の痛みはエレリアが回想を中断すると次第に消えていったが、また必ず姿を現すだろう。
この突然訪れる頭痛が自分の回想行為を起因としていることは直感的にエレリアも感づいていた。
だが、その目的についてはてんで予想もつかなかった。
なぜ自分を痛めつけてまでして、過去を隠す必要があるのか。なぜ過去を知ろうとしてはならないのか。すべてはまだ未知のままだ。
そうしてエレリアが一人でずっと考えごとをしていると、ソウヤがいきなり立ち上がり、彼女を見下ろした。
立ちはだかる彼を見上げ、エレリアは真意を掴めず首を傾げる。
「ほら帰るから、乗れよ、俺の背中。」
エレリアに背を向け、ソウヤは少しも気恥ずかしそうな様子を見せることなくぶっきらぼうに言い放つ。
「えっ…?」
突然告げられた彼の宣言に、エレリアは戸惑いを隠せない。
「聞こえなかったか?俺がおまえをおんぶしてやるって言ってんだ。おまえ、そんな状態じゃロクに歩けねぇだろ」
「でも、私って重いんじゃなかったの?」
「だから、んなのジョークだってさっき言っただろ?おまえなんか、俺にとっちゃ重くないっての。それに、おまえを一人だけここに置いて俺が先に帰るわけにもいかないだろ?」
そう語るソウヤの目に照れや躊躇の色などは伺えず、本心で語っているのだとエレリアは悟った。
嘘偽りのない発言から図らずも他人を不機嫌にさせてしまうこともあるが、逆にそんな純粋な性格ゆえに真っ直ぐに人を思いやることができる。それがソウヤという人物だ。
そして彼はそのまま膝を折ってエレリアを迎え入れる体勢をとる。
「ほら、遠慮せずに来い。ここなら誰かに見られる心配もないぞ」
「う、うん…、ありがと…」
ソウヤから一方的に促され、エレリアは顔に少々の恥じらいを浮かべる。
そして、いざ彼の背に乗るために、エレリアは足に力を入れ立ち上がろうとする。しかし、立ち上がった途端にめまいで視界がくらみ、バランスを失ったエレリアはそのまま地に膝をついてしまった。
「はぁ、はぁ…」
やはり、まだ身体は激しく消耗した体力を取り戻しきれていないようだった。視界はぼんやりと明滅し、心臓が激しく鼓動する。少し立ち上がっただけでこの有り様だ。
「もう、何モタモタしてんだよ」
エレリアのぎこちない行動に見かねたソウヤは、強引に彼女の太ももの裏を持ち上げ、そのまま自身の背中に背負い込んだ。
そしてエレリアはソウヤの為されるままに、彼の背中に吸い寄せられる。
「ちょっと…!!」
ソウヤの乱暴なふるまいに、エレリアは思わず不満気な声を漏らしてしまう。自分を背負ってくれるのはいいが、こちらのペースというものも考えてほしい。
「よし、乗ったな?」
ソウヤはエレリアを安定して運ぶために、数回上下に揺れ、背中にいる彼女をしっかりホールドする。
「んじゃ、出発するぞー」
背中の同乗者に一方的に確認を促し、彼の足が動き出す。
こうして、ソウヤはエレリアを背負って海岸を後にしたのだった。
二人は行きと同じ林の狭い小道を進む。
気づけば時間帯は「早朝」から「朝」に移り変わったようで、辺りを包んでいた白い霧もすっかり消え去っていた。
そのおかげで視界は行きの時より良好になっており、小鳥たちの軽快な鳴き声が頭上から辺り一面に響き渡っていた。
そんな中、ソウヤはエレリアを背負って黙々と一心に歩を進めている。
エレリアは両手をソウヤの首の前に回し、身を彼の全身に預ける。
彼の背中は見た目に反して意外と筋肉質で、エレリアは図らずも彼に対して少し頼もしさを感じてしまった。
彼の歩を進める動きと呼応して、エレリアの身体も縦に揺れる。
かれこれ歩き続けて数分経つが、ソウヤは疲れていないのかエレリアは少し心配になってしまった。彼はエレリアのことを重くなんかないと豪語していたが、それでも同じ程度の背丈の人物を休憩なしに運び続けるのは大変だろう。たとえ彼が無理をしていないとしても、こちらは気を使ってしまう。
そこで、エレリアは顔を上げ、黙々と自分を運んでくれている彼にいたわりの言葉を呟いた。
「ねぇソウヤさ、ずっと歩き続けて疲れないの?」
エレリアの呟きと共に漏れた吐息が、図らずもソウヤの耳に触れる。
すると、ソウヤが一瞬だけ小刻みに震え、ふいにバランスを崩しかけた。
「わっ!」
一瞬エレリアが投げ出されそうになったが、すんでのところでソウヤが地面に力強く足をつき、体勢を立て直した。
急に彼の様子が豹変してしまったので、何か心外なことでも口にしてしまっただろうかとエレリアは顔色を変える。
そして、ソウヤは顔だけを背中のエレリアに向けて言い放った。
「お、おい、エレリア…」
やや詰まったように言い放った彼の頬が、心なしか赤くなっているように見える。
真意の程はよく分からないが、もしかしたら怒っているのかもしれない。
エレリアが無意識的に謝ろうとした瞬間、それより早く先に彼の口から言葉が漏れた。
「おまえなぁ、そんな耳元で甘い声でささやくんじゃねぇよ。力が抜けちまうじゃねぇか…」
気づけば彼は表情をとろけさせて、何やら恥ずかしそうに視線をそらした。
この時点で、自身のこぼした吐息が妖艶に彼を興奮させてしまったという事実については、すでにエレリアはなんとなく悟っていた。
しかし、別に彼女は誘惑しようと思って言葉を呟いたわけではなかった。ただ、彼の状態を尋ねるために口を開いただけだ。
それが、身体が疲労していたが故に、図らずも甘い声が彼の耳に触れたというだけのことだ。
それでも、彼の心を惑わせてしまったということは事実だったので、とりあえずエレリアは謝罪の言葉を口にした。
「ご、ごめん…」
そしてそのまま頬を赤らめ、気まずそうに顔をおろす。
「まぁ、でもおかげでなんか元気が出てきた!よし!このまま行くぞ!」
そう言うと、ソウヤは再び力強く大地を蹴り、歩を進めて行った。
気づけば二人はあの雑木林を抜け、整備された村の道を歩いていた。
少し寂しかった村の風景も、今は朝の日光と共に活気づいている。田んぼで作業に励む人、家畜を連れて歩いている人、仲睦まじく談笑する人、ただ散歩している人、皆様々だ。
おんぶされている自分は他人からどう見られているだろうか。
幾多の人とすれ違う中で、エレリアはその度に恥じらいの感情が沸き立った。
ミサと手を繋いで寄合に向かった時も同じだが、恋人同士を連想させる振る舞いにエレリアは抵抗を感じていた。これは当然の感情かもしれないが、なぜかミサとソウヤは平然とした態度でやってのける。
それに、エレリアは村長に認められたばかりのウブな新参者だったので、余計に他人の目を気にしていた。
まだ全員に認められたわけではない。
これらの事実がエレリアの心に、「懸念」という名の影を落としていた。そしてその影は、エレリアの心を揺れ動かす。
これから、みんなとうまくやっていけるだろうか。
エレリアには寄合の時のあの怒号が忘れられなかった。
口々に飛び出す暴言の嵐。あの時、初めて見た村人の素性に、エレリアは二の句が告げなかった。本当に自分が歓迎されていないのだと、思い知らされた。
だからこそ、ここに暮らすことを認められても、エレリアは心のどこかで村人を疑いの目で見てしまう。
村人とエレリア、お互いが信頼し合える日はいつ来るのだろうか。
エレリアはそんなことを思いながら、揺れるソウヤの背の上で静かに瞳を閉じ、家に到着するその時をじっと待つことにした。
さよなら、みんな…。
何もかもに絶望したエレリアは瞳を閉じ、少しずつ世界と自身を切り離していった。
すると次の瞬間、白い光の一線が暗闇の世界を切り裂いた。
「…?」
突然の出来事に、エレリアはかろうじて残っていた自身の意識をすんでのところでこの世界に繋ぎ、閉じかけていた目をゆっくり見開いた。
「…ぇ、な、何…?」
苦しみの地獄に注がれた、淡い白い光。
そして、その白い光は消えかけていたエレリアの意識の灯火に種火を灯し、再び彼女を死の世界から引き戻した。
「…な、何が起こったの…?」
突然の出来事に、エレリアの思考が滞る。
よく見ると、白い光線によって裂かれた隙間から、温かい光が流れ込んできているのがエレリアには分かった。光が闇を喰らい、邪悪な暗闇が聖なる純白の世界へ塗り替えていく。
そして、その溢れ出る光が彼女に絡みついていた無数の手に触れる。すると、光に触れた闇の手がまるで蒸発する水のように溶け始めていた。
「す、すごい…」
徐々にエレリアにまとわりついていた手の拘束が解かれていく。
そして気づけば、闇に塗られていたあの苦しみの世界は完全に突如差し込んだ白い温かい光に包まれており、エレリアの体からも苦痛が消えていた。
「はぁ…。た、助かったの?」
苦しみから解放され、エレリアはふいに安堵の息を漏らした。
あの死を覚悟させるほどの鬼畜の苦しみはどこかへ消え去っていったようだ。それも、余韻も残さずきれいさっぱりに。
すると、前方のまばゆい光の中から、突如謎の声が響き渡った。
「エレリア…」
思わず聞き惚れてしまいそうな美しい声は白い空間をこだまし、幾重にも重なって響き渡った後、エレリアの鼓膜を揺らす。
自分の名前を呼ぶ、謎の声。それは、はっきりと大人の女性の声をしていた。
エレリアはその声を耳にした時、なぜか懐かしさを感じとった。
「エレリア、聞こえますか…」
謎の声は何度も、彼女の心に直に訴えかけてくる。
それは、そっと頭を撫でるように、優しくて、愛しくて、聞くだけで心の底から安心することができる声。
「だ、誰…?」
どこからともなく一方的に流れてくる正体不明の声に、エレリアは辺りを見回して声の主を探る。
しかしエレリアが感じることがてきるのは、ただ無限に広がる白い虚空の空間だけ。そこに人の気配はおろか、自分以外に何も感じとることができなかった。
「ねぇ、誰!?」
エレリアは大声で聞き返すが、返事は返ってこず、自身の声が虚空に消えていくだけだった。
だが、さきほど聞こえてきた女性の声にはどこか懐かしいものを感じた。
なぜそう感じたのか、理由は分からない。
ただ直感的に、あの声はエレリアの心に違和感を残したのだ。
そこで、エレリアはどこからともなく聞こえてくるあの声の正体を暴くため、自らの過去に再び意識を張り巡らすことにしてみた。今なら何か手かがりが掴めるかもしれない。
波のように指の間からすり抜けてしまう実体のない記憶の数々。
やはり、簡単には真実を教えてはくれそうにない。
それでもエレリアは必死に真実を得ようと記憶を巡った。
もしかしたら、またあの痛みに襲われるかもしれない。
ただ、今のエレリアにはそんな恐怖などに臆することのない勇気と気迫に満ち溢れていた。
掴めなくても確かに真実は目の前には存在するのだから、もがき続ければいつか分かるはずだ。
そうして、エレリアはただひたすらに頭をひねり続けた。今のところ、あの痛みは襲ってくる気配はない。
すると突然、エレリアは閉ざされていた記憶のヴェールが鋭い音を立てて破れる衝動に貫かれた。それは謎に包まれていたすべての記憶が明らかになった瞬間だった。
「は!?」
次々に激流の如く頭に流れ込んでくる情景。
そして、思わずエレリアは息を呑んだ。
「なんだ、これ…」
エレリアの頭の中が隠されていた無数の記憶で満たされる。
そして、その記憶の数々にすべて心当たりがあった。
青い森、街のにぎわい、妹のミア、白猫のぬいぐるみ、住んでいた宮殿。
燃える森、逃げる自分、黒い煙、謎の襲来、死の恐怖、虹色の泉。
そして、自分の正体。
「そうだ!!私は…!」
エレリアは答え合わせをするように、明かされた過去を思い返していく。
自分が誰で、どこに住んでいて、何をしていたのか。
今のエレリアにはすべてが分かっていた。
これも突然差し込んできた光のせいなのだろうか。
「エレリア…」
再三と続き、謎の声がエレリアの心に問いかけてくる。
別れた時から、何度も会いたいと願い続けた。
そして、幼い時からひとえに愛情を注いでくれた。
この声を聞くと、恐怖で凍りついた心に温もりが満たされていくのを感じる。
「!?」
そしてその時、エレリアはふと眼前の声の正体を悟った。
「もしかして、は、母様?」
間違いなかった。
幼い頃、いつも一人で泣いていた自分をあやしてくれていた母の声。
確か母はあの時も、棚の陰に身を潜めていた自分をこうして呼んでくれていた。
そして、恐れてはダメだと自分に揺るぎない希望を教えてくれた。
「ねぇ、本当に母様なの!?」
エレリアは迷子になった子供のように必死に声を絞り出す。
「…」
しかし、すぐには返事は返ってこなかった。
ただ、まばゆい光だけが煌々と注がれている光景しか見えない。
声が届いていないのか。
それでも、エレリアは出せる限りの声を張り上げた。
「母様!!」
ここで引き留めないと、また母は自分を置いてどこかへ行ってしまうような気がしていた。
それだけは、絶対に嫌だった。
なんとしても、ここで母に気づいてもらわなければならない。
すると、ふいに光のかなたから謎の声…、否、母親の声が響き渡った。
「… えぇ」
聞こえた言葉はそれだけだった。
ただ、エレリアはやっと真実を耳にすることができた。嬉しさと興奮の表情を浮かべて目を輝かせる。
「やっぱり!!」
そして、エレリアは少し瞳を涙で潤した。
やっと…、やっと出会えることができた。愛しの人。
この時、エレリアは昨日の夕方の夢に出てきたあの白い女性の正体を悟った。
不可解な重圧から自分を救ってくれた謎の女性。
あれも、きっと母親だったのだろう。
記憶を取り戻したエレリアには、すべて分かっていた。
先ほどの苦しみから自分を救ってくれたように、あの時も自分を救ってくれたに違いない。
「エレリア、よく聞いてください」
エレリアが感慨に浸っていると、喜びの色を示す様子もないまま母親の声が忠告の意味を込めエレリアの鼓膜を揺らした。
なぜかこの時、母の声は聞こえても肝心の姿が見えないのがエレリアにとって少し気がかりだった。しかし、やっと会えた母の前でそんな気がかりは無用だった。
「あなたは、もう二度と隠された過去を思い出そうとしてはなりません」
母の声は子供をしかるような口調でエレリアを言いなだめる。
「えっ、何? 急に…」
突然に母親から回想の禁止を言い渡され、エレリアは困惑した。そして、せっかく会えたのに、なぜ叱られなければならないのかとエレリアは口をとがらす。
しかし、すぐに母の声が流れてきた。
「いいですか?とにかく、もう二度と隠された過去を思い出してはいけません。あなたが真実を知ろうとすること、それは罪に値するものなのです」
なぜか、母の声は厳しい態度でエレリアを叱っているようだった。
「罪、って…。私、何も悪いことなんかしてないよ。なんで、思い出してはいけないの?」
母の言っている真意が理解できず、エレリアは失笑を漏らしながら、親に反抗する子供のように、確固とした自分の意思を母に伝えた。
しかし、娘の必死の意向にものともせず、母は話を続ける。
「まさしく、さきほどあなたが受けた苦しみがその罪の代償です。前回と同様に今回も私がなんとか止めに入らさせていただきました。しかし、他人の贖罪を半ばで干渉する行為はそもそも道理とは呼べません」
冷酷に告げられる母の言葉に、エレリアは真意が理解できず、こみ上げてくる反抗の感情を喉奥の手前で飲み込んだ。
「由々しき事態が私たちの予想より早く進行し、ついに期が熟してしまいました。ゆえに、もう二度と私があなたの前に現れることは難しいでしょう」
その言葉を耳にしたとたん、再びエレリアは救いようのない絶望に襲われた。
それは自身の手足が切り落とされるような堪えきれない激しい痛みと同等の感情だった。
「ちょっと待ってよ母様。何を言ってるのか全然分からないよ…」
母から無情に告げられる言葉に、エレリアは思考が追い付かない。
由々しき事態が想像より早く進行?
ついに期が熟した?
とりとめのない話ばかりで、エレリアにはこれっぽっちも理解することができない。
「母様は、また私をひとりぼっちにする気なの!?」
すべての記憶が戻った今、エレリアは一刻も早く母の体温に触れたかった。
そして、力強く抱き締めてもらいたかった。
孤独と恐怖で傷ついた心を癒してほしかった。
謎の泉から地上に落とされ、見知らぬ世界で戸惑いながらも「ミサ」と「ソウヤ」という親愛なる友に出会えることができたエレリア。
目覚めた家で最初に出会った二人は、自分を邪険に扱うことなくむしろ温かい気持ちで出迎えてくれた。あの時、彼らに出会ったことにエレリアは心の底から感謝している。
しかし、それでもエレリアは母のもとに帰りたかった。
帰って、またいつもの日常を過ごしたかった。そして、ずっと幸せに暮らしたかった。
すると、再び母の声が響き渡った。
「エレリア、恐れず前を向くのです。後ろばかり振り返ってはなりません。前を向いて、歩き出しなさい」
まるで、こちらの心中を見透かしていたかのような母の的確な言葉に、エレリアは言葉を詰まらせる。
「母様…」
すると、自分を包んでいた白い世界がいきなり薄く滲み始めてきた。
「あぁ、とうとう時間のようですね」
母が少し悲しげな感情を宿し、ぼそりと声を漏らした。
そして、先ほどまで鮮明に見えていたエレリアの視界も次第にぼやけ始め、意識が夢から醒めていくように遠のいていくのが分かった。
「いやだ、行かないで…!!私をそっちに連れてって!!」
何度も叫んだこの言葉。
今まで伸ばした手はすべて空虚を掴み、何も引き留めることはできなかった。そして、それは今回も同じように思われた。
しかし、エレリアの必死の懇願に母が最後の言葉をかける。
「エレリア。あなたは一人じゃない」
崩壊していく夢の世界で、その言葉だけがいつまでもエレリアの心に響く。
そして、エレリアはついに涙を流してしまった。堪えきれない感情が次々に涙と共に流れ込んでくる。
それは、悲しいからか、悔しいからか、さみしいからか、涙の源泉は分からない。
ただ得体の知れない感情が涙腺を熱くし、絶え間なく涙を湧きあがらせる。
「母様…!!」
儚く消え去っていく夢の世界。
そこで、とうとう最後まで母の姿を見ることはなかった。
それでもエレリアは母に少しでもいいから触れようと、狭まる視界で必死に手を伸ばした。
かするだけでもいい。
少し触れるだけでいい。
遠のく意識に抗い、エレリアは指先の先まで伸ばし、全力で手を母に差しのべた。
「最後に、あなたにこの言葉を送りましょう」
無惨に母との距離が遠のいていくなかで、母が娘に最後の別れの言葉を託した。
「強く、生きて」
これが、最後の母の言葉だった。
とても短い言葉だった。
もしかしたら母はとても後悔したかもしれない。娘の最後の別れにたった5文字の言葉しか遅れなくて、悔やんだかもしれない。
しかし、エレリアはしっかり母の言葉を受け止めていた。
その証拠として、エレリアの伸ばした手に母の温もりが伝わる。
やっと、握ることができた。
できれば思いっきり抱き締めてもらいたかったが、もうわがままは言えない。ここで駄々をこねたところで、すべて台無しになるだけだ。
強く、生きる。
エレリアは母からの愛の言葉を胸に刻み、そして、そっと瞳を閉じた。
「ありがとう。そして、さようなら。私の、お母さん…」
次第にノイズが空調を乱し、エレリアの持つ感覚が次元の彼方に遠のいていく。
何も見えない、聞こえない、感じない。
身体の輪郭がぼやけ始め、自分という概念が曖昧になる。
そして、万物を虚無に返す渦の中で、エレリアの持つ記憶に再び不透明のヴェールが被される。だが、意識が白濁とするエレリアには、記憶を失っていく感覚はない。それどころか、自分が存在しているという自覚さえあやふやだ。
そして、エレリアの意識は夢の世界から剥がされるように、流されるままに現実世界に戻されていった。
「……ァ!…ァ!!」
遠くで誰かが叫んでいる。
一体、誰なのだろうか。
ただ声だけが一方的に耳に流れ込んでくる。
視界は漆黒に塗られていて、自分が今どこにいるのかさえも曖昧だ。
「…ァ!……ぉい!!」
声は相変わらず、誰かを呼び覚ますような口調で聞こえてくる。
そして混濁する意識の中で、自分の体が激しく揺さぶられるのを感じた。なんて、乱暴なことをするのだろうか。
「…ェレリア!!」
声がだんだん明瞭になって聞こえてくる。
その時、彼女はやっと自分自身の意識を現実に戻すことができた。そして、自分が現在どこにいるのかを悟った。
今、自分は浜辺にいて、確か気を失ったのだった。
「おい、頼むから目を開けてくれ!!エレリア!!」
声はとても切迫した口調で彼女の耳に届く。
そうだ、この声はソウヤだ。間違いない。
そして意識が完全に彼女の体に戻り、エレリアはそっとまぶたを開いた。
しかし、容赦なく入り込んできた陽の光に視界が圧迫されて、エレリアは反射的に瞳を閉じてしまった。
「うっ…」
それでもエレリアは顔を少し歪めて、ゆっくりまぶたを開いていった。
初めは薄くぼんやりしていた視界も、時と共に彩りを取り戻していく。
そして、徐々にエレリアの目に、現実世界の風景が映し出されていこうとする。
エレリアは何度も瞬きして、目のピントを合わせる。
すると取り戻した視界の目の前に、緊迫した表情を顔に張り付けているソウヤの姿が現れた。
「おい、エレリア!!大丈夫かっ!?」
ソウヤは仰向けになって寝転んでいるエレリアの顔を覗き込み、必死の形相で彼女の状態を問う。
「う、うん…」
エレリアはぎこちない口調で、ソウヤに自分の身体に異変がないことを伝えた。
「はぁ…。んだよ、まったく。心配させやがって…」
ソウヤはエレリアの漏らした言葉を耳にし、肩の力をおろす。そして、額の汗を拭い地面に腰をおろした。
「何回呼んでも起きないからよ、このまま死んじまうのかと思ったぜ」
ソウヤは失笑と共に、呆れの意を帯びたため息を口から吐いた。
そして、安堵する様子を見せているソウヤを尻目に、エレリアは頭を抱えながらゆっくり上半身を起こした。
どこからともなくやってきた凪が優しく撫でるようにエレリアの髪と木々の葉を揺らす。
そこでふとエレリアは上を見上げてみた。
すると、そこには緑色の生い茂った葉が頭上を覆っていた。葉の隙間から木漏れ日も差し込んでいる。
そして、遠くにはさきほどの海岸が広がっており、エレリアの座っている地面は芝生で覆われていた。
どうやら気を失っている間、ソウヤが自分を日光の当たらない場所に連れてきてくれたようだった。
すると、エレリアの思惑を見透かしたようにソウヤが口を開いた。
「熱中症になった時はまず日陰に連れて行けって学校の先生が言ってたのを思い出してな、とりまここまでおまえを運び込んだんだ。見かけによらず意外におまえが重たいもんだから、運ぶのには苦労したぜ」
そう言ってわざとらしく額を拭うソウヤ。そんなソウヤの姿に、エレリアは不服そうに目を細め彼をにらんだ。
「わりぃわりぃ、冗談だって。ジョークだよ、ジョーク」
エレリアに睨み付けられ、ソウヤは数秒前の発言を撤回するように渇いた笑いを漏らす。
そんな彼の態度にエレリアは言うべき言葉が見つからず、気を紛らわすために視線を海岸の方へ写した。
波は相変わらず同じ動きを繰り返している。
自分は気を失っている間、何をしていたのか。そして、何を見ていたのか。
「…」
何か長い夢を見ていたような気がする。
それも、何か嫌な夢。
止まらぬ動悸と頬を伝う冷や汗がその証だ。
しかし当然の如く、いくら思い出そうとしても何も思い出せない。思い出させてくれない。
意識が遠のき始めている時、ソウヤが必死に自分を呼び覚まそうとしていた所までは覚えている。
ただ、そこから先の出来事がエレリアの脳内に保存されていなかった。
思い返してもその記憶だけが白い塗料で塗られたように修正されており、更なる追憶は不可能だった。
「うっ、また…!」
すると、例の頭痛が再びエレリアの脳内で頭を覗かせた。鋭い耳鳴りが一瞬だけ頭蓋を刺し、エレリアは反射的に頭を押さえる。
ただいつもと違うのは、その頭痛が暗示を訴えかけているように感じられたことだった。それは、「これ以上過去を思い出そうとするならば、おまえは死ぬぞ」と強い警告にも似た胸騒ぎだった。それも、誰かからの伝言のように。
そしてエレリアは頭を締めつける謎の脅迫に為されるまま、仕方なく回想を諦めることにした。根拠は分からないが、これ以上過去をあさろうとすると本当に痛い目に会うような気がするのだ。
「おい、おまえさマジで大丈夫か?」
エレリアが頭痛で苦しそうに顔をしかめていると、ソウヤが怪訝そうに眉を寄せて彼女を見つめてきた。
「やっと目ぇ覚ましたと思ったら、なんだ?まだ頭が痛いのか?」
「もう、平気だから…」
「『もう、平気だから…』って、ウソつくなよ。見りゃ誰でも分かるぞ…」
無理して強がろうとするエレリアに、ソウヤは二度目の呆れたため息を漏らした。
対してエレリアもエレリアで、自分の身体に起きる訳の分からない現象に振り回され続け、とっくに疲れ果ててしまっていた。
自分の身体なのに自分の意思で制御することができない。例の頭の痛みはエレリアが回想を中断すると次第に消えていったが、また必ず姿を現すだろう。
この突然訪れる頭痛が自分の回想行為を起因としていることは直感的にエレリアも感づいていた。
だが、その目的についてはてんで予想もつかなかった。
なぜ自分を痛めつけてまでして、過去を隠す必要があるのか。なぜ過去を知ろうとしてはならないのか。すべてはまだ未知のままだ。
そうしてエレリアが一人でずっと考えごとをしていると、ソウヤがいきなり立ち上がり、彼女を見下ろした。
立ちはだかる彼を見上げ、エレリアは真意を掴めず首を傾げる。
「ほら帰るから、乗れよ、俺の背中。」
エレリアに背を向け、ソウヤは少しも気恥ずかしそうな様子を見せることなくぶっきらぼうに言い放つ。
「えっ…?」
突然告げられた彼の宣言に、エレリアは戸惑いを隠せない。
「聞こえなかったか?俺がおまえをおんぶしてやるって言ってんだ。おまえ、そんな状態じゃロクに歩けねぇだろ」
「でも、私って重いんじゃなかったの?」
「だから、んなのジョークだってさっき言っただろ?おまえなんか、俺にとっちゃ重くないっての。それに、おまえを一人だけここに置いて俺が先に帰るわけにもいかないだろ?」
そう語るソウヤの目に照れや躊躇の色などは伺えず、本心で語っているのだとエレリアは悟った。
嘘偽りのない発言から図らずも他人を不機嫌にさせてしまうこともあるが、逆にそんな純粋な性格ゆえに真っ直ぐに人を思いやることができる。それがソウヤという人物だ。
そして彼はそのまま膝を折ってエレリアを迎え入れる体勢をとる。
「ほら、遠慮せずに来い。ここなら誰かに見られる心配もないぞ」
「う、うん…、ありがと…」
ソウヤから一方的に促され、エレリアは顔に少々の恥じらいを浮かべる。
そして、いざ彼の背に乗るために、エレリアは足に力を入れ立ち上がろうとする。しかし、立ち上がった途端にめまいで視界がくらみ、バランスを失ったエレリアはそのまま地に膝をついてしまった。
「はぁ、はぁ…」
やはり、まだ身体は激しく消耗した体力を取り戻しきれていないようだった。視界はぼんやりと明滅し、心臓が激しく鼓動する。少し立ち上がっただけでこの有り様だ。
「もう、何モタモタしてんだよ」
エレリアのぎこちない行動に見かねたソウヤは、強引に彼女の太ももの裏を持ち上げ、そのまま自身の背中に背負い込んだ。
そしてエレリアはソウヤの為されるままに、彼の背中に吸い寄せられる。
「ちょっと…!!」
ソウヤの乱暴なふるまいに、エレリアは思わず不満気な声を漏らしてしまう。自分を背負ってくれるのはいいが、こちらのペースというものも考えてほしい。
「よし、乗ったな?」
ソウヤはエレリアを安定して運ぶために、数回上下に揺れ、背中にいる彼女をしっかりホールドする。
「んじゃ、出発するぞー」
背中の同乗者に一方的に確認を促し、彼の足が動き出す。
こうして、ソウヤはエレリアを背負って海岸を後にしたのだった。
二人は行きと同じ林の狭い小道を進む。
気づけば時間帯は「早朝」から「朝」に移り変わったようで、辺りを包んでいた白い霧もすっかり消え去っていた。
そのおかげで視界は行きの時より良好になっており、小鳥たちの軽快な鳴き声が頭上から辺り一面に響き渡っていた。
そんな中、ソウヤはエレリアを背負って黙々と一心に歩を進めている。
エレリアは両手をソウヤの首の前に回し、身を彼の全身に預ける。
彼の背中は見た目に反して意外と筋肉質で、エレリアは図らずも彼に対して少し頼もしさを感じてしまった。
彼の歩を進める動きと呼応して、エレリアの身体も縦に揺れる。
かれこれ歩き続けて数分経つが、ソウヤは疲れていないのかエレリアは少し心配になってしまった。彼はエレリアのことを重くなんかないと豪語していたが、それでも同じ程度の背丈の人物を休憩なしに運び続けるのは大変だろう。たとえ彼が無理をしていないとしても、こちらは気を使ってしまう。
そこで、エレリアは顔を上げ、黙々と自分を運んでくれている彼にいたわりの言葉を呟いた。
「ねぇソウヤさ、ずっと歩き続けて疲れないの?」
エレリアの呟きと共に漏れた吐息が、図らずもソウヤの耳に触れる。
すると、ソウヤが一瞬だけ小刻みに震え、ふいにバランスを崩しかけた。
「わっ!」
一瞬エレリアが投げ出されそうになったが、すんでのところでソウヤが地面に力強く足をつき、体勢を立て直した。
急に彼の様子が豹変してしまったので、何か心外なことでも口にしてしまっただろうかとエレリアは顔色を変える。
そして、ソウヤは顔だけを背中のエレリアに向けて言い放った。
「お、おい、エレリア…」
やや詰まったように言い放った彼の頬が、心なしか赤くなっているように見える。
真意の程はよく分からないが、もしかしたら怒っているのかもしれない。
エレリアが無意識的に謝ろうとした瞬間、それより早く先に彼の口から言葉が漏れた。
「おまえなぁ、そんな耳元で甘い声でささやくんじゃねぇよ。力が抜けちまうじゃねぇか…」
気づけば彼は表情をとろけさせて、何やら恥ずかしそうに視線をそらした。
この時点で、自身のこぼした吐息が妖艶に彼を興奮させてしまったという事実については、すでにエレリアはなんとなく悟っていた。
しかし、別に彼女は誘惑しようと思って言葉を呟いたわけではなかった。ただ、彼の状態を尋ねるために口を開いただけだ。
それが、身体が疲労していたが故に、図らずも甘い声が彼の耳に触れたというだけのことだ。
それでも、彼の心を惑わせてしまったということは事実だったので、とりあえずエレリアは謝罪の言葉を口にした。
「ご、ごめん…」
そしてそのまま頬を赤らめ、気まずそうに顔をおろす。
「まぁ、でもおかげでなんか元気が出てきた!よし!このまま行くぞ!」
そう言うと、ソウヤは再び力強く大地を蹴り、歩を進めて行った。
気づけば二人はあの雑木林を抜け、整備された村の道を歩いていた。
少し寂しかった村の風景も、今は朝の日光と共に活気づいている。田んぼで作業に励む人、家畜を連れて歩いている人、仲睦まじく談笑する人、ただ散歩している人、皆様々だ。
おんぶされている自分は他人からどう見られているだろうか。
幾多の人とすれ違う中で、エレリアはその度に恥じらいの感情が沸き立った。
ミサと手を繋いで寄合に向かった時も同じだが、恋人同士を連想させる振る舞いにエレリアは抵抗を感じていた。これは当然の感情かもしれないが、なぜかミサとソウヤは平然とした態度でやってのける。
それに、エレリアは村長に認められたばかりのウブな新参者だったので、余計に他人の目を気にしていた。
まだ全員に認められたわけではない。
これらの事実がエレリアの心に、「懸念」という名の影を落としていた。そしてその影は、エレリアの心を揺れ動かす。
これから、みんなとうまくやっていけるだろうか。
エレリアには寄合の時のあの怒号が忘れられなかった。
口々に飛び出す暴言の嵐。あの時、初めて見た村人の素性に、エレリアは二の句が告げなかった。本当に自分が歓迎されていないのだと、思い知らされた。
だからこそ、ここに暮らすことを認められても、エレリアは心のどこかで村人を疑いの目で見てしまう。
村人とエレリア、お互いが信頼し合える日はいつ来るのだろうか。
エレリアはそんなことを思いながら、揺れるソウヤの背の上で静かに瞳を閉じ、家に到着するその時をじっと待つことにした。
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