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第10話 最悪の事態

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「まあ…………そりゃそうだよな」

 朝。ドアを開けてみて言う。
 その場にリンはいなかった。
 それが普通で当たり前なのだ。

 俺が自ら突き放したのだ。
 普通に考えれば、来る方がおかしい。

「これでいい……これでいいんだ」

 家のドアを閉め、そのままベッドに寝っ転がる。
 今日はギルドに行くのはやめておこうと思った。
 もしいけばなにされるかわからない。明日か明後日まで待ってから行く方がいい。
 それくらいの貯金と食料はある。
 久しぶりに二度寝したい気分だった。

「俺はもう……嫌なんだ。俺のせいで誰かが傷つくのを見るのは……」

 ため息を深く着く。
 このままいけば、昼が過ぎて、町に俺を貶した紙がばらまかれる。

 俺はどうなるんだろうか。
 もしかしたら、普通に暮らすことも買い物もできないかもしれない。
 そしたら……ここから引っ越さなくちゃいけなくなる。

「せっかくもらった家だったのにな。……そしたらギルド長に謝るか……」

 この家はギルド長から貰った家だ。
 家賃もなくて不自由なく暮らせる便利な家だったのに。
 他の人に家が使われたりするのはちょっとだけ違和感がある。
 出来れば、そのままにしてもらいたい。
 
「でも……俺がここにいるよりは……マシだよな」

 リンのことを思う。
 この町にやってきたと言っていた。それも一人で。

 来て早々こんな厄介ごとに巻き込まれているのに、なに食わぬ顔をして俺を守ろうとしてくれた。
 優しくて、俺にはもったいないくらい優しい。

 俺がいなければいいパーティーに入って冒険者として成長していくはずだ。
 そっちのほうが100倍いい。

「…………もう、寝るか」

 結局二度寝することにした。
 目を閉じると一瞬にして眠りにつく。

------------------------

「ふわ……ねむ……」

 起き上がると、疲れが一気に体に来る。
 眠すぎて涙が出てきた。
 ゆっくりとベッドから起き上がって、ご飯を食べることにする。

 この前買いだめしたパン。
 あんまり美味しくはないけれど、食べないよりは全然ましだ。
 俺はパンを食べて元気を出す。
 
「もう……昼か……」

 約束の時間は確実に過ぎている。
 今頃アイツは俺がこないことにキレながら、他の人と喧嘩しているかもしれない。
 まあ、そうなれば俺とは違って止めてくれる人がいるだろうから大丈夫だと思うが。

 さて。
 これからの人生どうしたものかな。
 もういっそのこと旅に出るっていうのもいい選択肢なのかもしれない。

 冒険者を引退して、田舎町で適当に農業でもして暮らせばいい。
 それくらいは俺にもできる。
 俺はただのびのびと暮らしたいだけだしな。

「まあ、とりあえず旅に出るんだったら準備が必要だな。荷物の整理もそうだが、食糧に水、念の為に回復薬とかも用意しないとな」

 ギルドに寄らなれば、多分大丈夫だろう。 
 できるだけ早く行かないと大変なことになるかもしれない。

 そう思って準備をして外に出る。
 俺がいるとバレたらあいつが飛んでくることも考えて、一応マフラーをつけることにした。
 少し暑いけど我慢しなくちゃいけない。

 マフラーを口元につけながら歩いていく。
 道具屋、商店街に行って、必要なものを片っ端から買っていく。
 回復薬。時間が経っても腐らなそうな食料を3日分くらい。
 それとなにかあった時用に短剣を買った。

 溜めておいた貯金はほぼなくなる。
 まあ、受けるクエストがクエストだけに貯金なんてものはなかったも同然なのだが、こうも簡単にお金がなくなるのはちょっと苦しかった。
 手に荷物を持ちながら歩いていく。

 すべて買い物が終わり、ちょうど店を出ようとしていた時だった。
 店員が俺に話しかけて来る。

「ん~、なあ兄ちゃん」

「……あ、はい。なんですか」

「さっきからこの辺でなにかあったらしいんだけど、知ってるか?」

「いや……わからないです」

 そんなこと急に言われてもまったくわからない。

「そうか…………なんかな、前にこの辺に来た奴が女の子と誰かが戦っているって聞いたんだけど、本当なのかなどうか気になってな。知らないならまあいいか。どうせ、俺たちには関係のないことだしな」

「………………」

 少しだけ嫌な想像をする。
 いや、想像なのかどうかわからない。
 俺は恐る恐る聞いてみる。

「それ……どこでか知ってますか?」

「たしか…………あ、ギルド近くにある広場って言ってた気がするな。あんなところで喧嘩なんかしたら迷惑だっていうのに。誰なんだろうな」

「………………」

「どうした、兄ちゃん。青ざめた顔して……」

 俺は固唾を飲む。
 手の震えが止まらず、怖くなってくる。
 今すぐに確認しなければいけない気がした。
 俺は持っていたすべての荷物をその場におろして駆け出していく。

「おい、兄ちゃん! 荷物!」

「……また後で取りに来ます!」

 俺は必死に走る。
 広場に向かって必死に。
 嘘であってほしい。そんなことを願いながら。

 数分走ったところに目的地である広場があった。
 そこには予想通り大勢の人たちで見舞われていた。
 そのせいでなかになにが起こっているのか見えない。

 俺はマフラーを外して、人を押しのけていく。
 そのなかで見たのは……

「嘘だろ…………リン…………」

 俺の知っている少女。
 初めて組んだパーティーのたった一人の仲間。

 あの……リンが奴らに見下されながら、眠っていた。
 体には傷があって、血が出ていた。
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