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第16話 王国最強の冒険者

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 今のは純粋な能力だった。
 スキルかと思ったが、あの声が聞こえないということはスキルではないという事。
 つまりこの人は本当に刀で魔法を切ったらしい……

「嘘だろ……なんで……なんでギルド内最強の――レオン・クラウディウスがここに居るんだ……」

 ジョンがありえなさそうな顔をして言う。

「……!?」

 一目見ただけでわかる。この人は間違いなく――強い。
 俺とは全くといっていい程違う。覇気が凄すぎる。目を直視できない。
 手がカタカタと震え、体が恐れている。

「俺が久しぶりに帰ってきたと思ったら……なんやこの騒ぎ。お前なにしてるかわかってんのか?」

 レオンが喋る。
 だが、普通の喋り方ではない。怒りの感情があった。目がギンギンに冴えていて、ジョンを睨む。

「今使った【ドラゴンバースト】は中級魔法やろがい。使っちゃいけんの知っとるやろ?」

「中級魔法……?」

 なんのことだろうか。
 話はよくわからないが、緊張が伝わってくる。

「……ち、違うんですよ。レオンさん! 今のはこの子供が……」

「子供が……ってなに言い訳してるん。俺の見た感じじゃこの子供を殺す気だったろが。違うか?」

「……ち、違います! 本当に偶然そうなってしまって……」

「……偶然だと? いいかさっきから言っているけども、魔法には初級魔法、中級魔法、上級魔法があってその位によって威力が違う。そして使われる魔力も上になるほど多くなる。お前が使ったんは中級魔法。モンスターの群れを一瞬で殺せるくらいの威力や。それに加えてお前自身が使うんじゃなく魔晶石の魔力を利用した。これのどこに子供を殺す気がなかったっていうねん」

「……そ、それは……」

 ジョンが口ごもる。図星なのだろう。
 レオンがいうには俺を殺す気だったらしい。
 魔法に位があるなんて初めて知った。凄いな……
 そんなことを考えていると。

「レオンあんま、攻めたらあかんでホンマ。この筋肉ダルマが可哀そうやし」

「そうですよ。もう少し優しくしないと。せっかくクエストから帰ってきたのにこの雰囲気……最悪なんですけど」

「……一旦、みんなは黙ってくれへん?」

 一人の男と一人の女がレオンに向かって話しかける。
 男の方はゴツい見た目とは裏腹に薄くのんびりそうな声をしていて、女の方はいわゆるロリというやつだった。小さな体に頭より少し大きな帽子を被っている。
 二人ともこの刀の人と同じく凄まじい覇気を感じる。相当な手練れだろう。

「ちょっとあの女の子見過ぎ」

「……別に見てないから。ていうか色々と面倒なことになりそうだからちょっと黙っててくれ」

 観察しているとサクヤに言われる。
 ……本当に見てないから。
 
「あの見た目は確か……防御魔法を得意とする王都の守り手の異名があるゴウン・セルバラスと回復魔法を使い、小さな魔女と呼ばれるサミス・ルドラーじゃないか。この3人がそろうという事は……」

 誰かが言う。
 そこに合わせるようにレオンが。

「せやで。ウィアード王国一番の冒険者の俺たち、パーティ名――鬼の化身が帰ってきたってことや!」

「「!?」」

 それを聞き、みんなが驚愕していた。

「じゃあ近くにいた大型モンスターは倒したんですか!?」

「ああ、もちろん。結構疲れたけどな」

「す、すげぇ……」

「なんだよ、それ……」

「やっぱりこの人たちはバケモノだ……」

 賞賛の声がちらほら聞こえて来る。
 しかし、その声の大きさはさっきのようなバカ騒ぎではない。
 空気を読んでいるんだろう。レオンが腹立てていることに。

「まあ、その話はちょっと置いておくとして。まずはお前の処分からや。この子たちや他の冒険者の迷惑になった。これ、どないすんねん。俺はこのギルドから追放してもいい気がするんやけども」

「……どうって言われても……」

 ばつが悪そうな顔をしている。

「……何言ってるん?」

「なにって……」

「勘違いすんなよ。この処分を決めるのは俺やお前じゃない……この子らや」

「え? お、俺!?」

 俺の方を指さす。

「ああそうや。どう考えてもそうやろ。決めるのは処分を受けた被害者側。俺はそれを審査する側。処分を決める立場やない」

「……」

「だから君が決めろ。こいつをどうしたいのか。言いたいことがあるならはっきりと言いな」

 真剣な顔で話される。さっきまでの震えは止まり、俺も真剣に考える。

 どうしたいのか、ね。
 俺は隣のサクヤをみる。少し不安そうだ。 
 まだ、怖がっているのだろう。死にそうだったのだ。

 俺もその気持ちはわかる。
 あんな魔法。俺には防げる力はなかった。
 【エアー】と使おうと【ウォーター】を使おうと防げず、死んでいた。
 
「……そうですね。俺は」

 だから。

「俺はなにかをしたいとかは思いませんね」

 そう言った。

「……ほう、それは意外な答えやな。なんでそう思ったん?」

「――不意打ちだったとは言え、勝負には負けたので」

 負けたのだ。
 そもそも俺が王都に来たのはこんな風に喧嘩するためなんかじゃない。
 勝負に勝つためだ。強くなるためだ。
 それなのに俺は負けた。敗北した。完敗だった。
 だから俺に文句を言う権利などそもそもない。勝ったものが言う権利がある。

「じゃあなんとも思ってないんか?」

「いえ、思ってるところはありますけど……」

 サクヤのことに関して言えば、物凄く腹立たしい。もう一度、見直すと怒りが湧いてきて、殴り掛かりそうになるくらいだ。
 もし、レオンがこの場にいなければサクヤも俺も死に、なにも出来ずに終わっていた。やっぱりそこは納得できない。

「だからこそ俺は感謝している点もあるんです。この反省を生かせば俺は多分強くなれる気がするんです……」

 しかし、今俺は生きている。
 結果論だが生きている。ならばこの事実を学んでさらに強くなって行ける。
 失敗は成功の元。とかよく言うしな。
 それに、今もし詠唱を唱えれば、あの魔法は簡単に使えるのではという好奇心もある。知りたい。確かめたい。そういうものも含めての反省だ。

「ほう、そうなんか。なら……」

 すると、レオンは俺たちを横切り、案内のところまで歩きだす。
 
「このクエストの報酬っていくらだっけ?」

 俺が聞いた人と同じ人に聞く。

「……クエストは炎のドラゴン1体の討伐でよろしかったですね?」

「ああ、そうやで」

「……えっとそれでしたら……100万コロンですね」

 100万!?
 しかもドラゴンとか言わなかったか?
 ……色々とヤバすぎる。

「100か……少ないけどまあええか。じゃあ、その100万コロンはこの子にあげてくれん」

「「……え?」」

 受付の人と俺の声だけでなく他の冒険者たちの声も重なる。

「聞こえなかったんかい? 100万コロンをこの子にあげて欲しいんやけど」

「な……」

 嘘だろ。流石に嘘だな……うん。
 そうに違いない。だって100万だぞ。そんな大金人にあげるなんて……

「……君、信じてなさそうな顔やな。本当やで。俺は君に可能性を感じたんや」

「可能性?」

「そや。こいつが魔法を使う前にお前さん自身で魔法使ってたやろ。確か……【ウィンド】とかいう初級魔法やったっけ」

 逃げようとして準備は出来ていたけど結局使わなかったんだけどな。
 
「まあそこまでならいいんやけど、君は――詠唱無しでそれを使っていた。詠唱っちゅうのはそんな生半可なもんじゃない。魔法においてなくてはならない必須のものやねん。いままで見て来て詠唱無しの人はたったの3人しかおらん。君も含めたら4や。だが、君は子供。子供じゃ初めてや。最初からなにかあると思ってたけど、当たりみたいやしな。ちょっとの金くらいならあげよう思ってな」

 そう言ってくる。

「……ってことで後は受付の人頼むわ。俺は一旦家に帰りたい。ほらゴウンとサミス行くぞ」

「……はいよ」

「わかってるよ!」

 レオンたちがそのままギルドから出て行った。

「……本当になんなんだ」

 わけがわからない。
 行動が読み取れない。他の人もあっけに取られたように見ているし俺と同じ気持ちなのだろう。
 まあ……ただとりあえず。

「俺、いきなり金持ちになったのか!?」

 小金持ちになりました。
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