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第6話 嫉妬と事件

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「おい……なんだよ、今の……」

 グレイや他やつらもあっけに取られたように見ている。
 俺にもなにが起こったのかわからなかった。
 ただ無性に力が湧いてきて、それを使った瞬間に水がどばっと出て来た。

「壁が……」

 部屋のドアが壊れるほどの威力で、飛び出していたらしい。
 壊れた木片が近くに転がっていた。

 これが……俺のスキルの力、なのか……
 水が出て来た手を見る。
 特におかしなところはなく、いつも通りだった。

 だが、確かに、魔法を使う前に聞こえたのだ。
 あいつ――ミストの声が。
 つまり、魔法が使えたのはこのユニークスキルのおかげという事なのだろう。
 わかってはいるものの簡単には信じられない。
 ありえない……

「すげぇ……」
 
 グレイが言う。
 その言葉を同時に他の人たちも声を荒げた。

「すげーよ! なんだよ、この威力!!」

「お見事です。レン君」

 一瞬にして、大盛り上がりになった。
 褒められているため、悪い気はしない。 
 どっちかといえば嬉しい。

「……ってこら! なにか騒がしいと思ったら扉が壊れるじゃないか!! 一体どうなってるんだよ」

「あ、やべ宿屋だ」

 案内してくれた宿屋の人がそこに立っていた。
 怒っている。これはなんだかマズイ雰囲気だ……

「これは弁償ものだね。壊したの誰だい?」

「グレイさんです」

「ちょ、レイン!?」

 レインがグレイのことを指さす。
 俺のことを助けてくれたのか……
 グレイさんには少し同情するよ。

「そうか、ならお前に弁償してもらおうかね」

「ちょっと待て、俺じゃない。この子が……」

「はぁ……これだから冒険者は嫌いなんだ。こんな真面目そうで清純な子供が扉なんか壊すようなことするわけないだろ。嘘はいけないよ嘘は!!」

「嘘じゃないって!?」

「そんな御託はいいよ。とりあえずは弁償だ」

「べ、弁償!? ……いくらだ?」

 宿屋になにを言っても意味ないと悟ったのか、弁償の話に入った。

「うーん、この扉は確か……5万コロンだったかな」

 コロンとはこの国の通貨のことだ。
 ちなみに100コロンでパンが一つ買えるくらいだ。
 つまり5万コロンがあれば小さな家を一か月ほど借りれる。

「5、5万!? たけーよ! 俺にそんな金ねーよ。もう少し減らしてくれ!!」

「ダメだね。私を怒らせたんだ。きちんと払ってもらうよ」

「そ、そんな……」

 グレイはそのまま宿屋に連れていかれた。
 お金を払いに行ったんだろう。
 お気の毒に。……というかすいません。俺のせいで。

------------------------------

「ただいま……ってドアはどうしたんだ、ドアは」

「本当だわ。扉がないじゃない。なにがあったのよ……」

 そこから少し時間が経ち、色々しているうちに驚いた様子でおじさんとおばさんが帰ってきた。
 その間、俺はこの人たちと一緒に話をしたりして意外と順応していた。
 おばさんたちの手には大きめのカゴを持っていて、買い物に行っていたことがすぐに分かった。

 俺は少し緊張しながらそっちを見ている。
 ……率直に言えば、怒られるのが怖いからだ。
 近くにはサクヤもいて、何だが浮かない顔をして椅子に座っている。
 それにいつもより大人しい気がした。魔法を見てから様子がおかしいぞ……大丈夫なのか。

「聞いてくれよ。ジン! お前の息子がさ……」

「……レンのことか?」

「そうだよ。あいつが魔法でドアをばーん! って吹き飛ばして、そしたら俺がぁあああああ……」

「落ち着けよ。どうしたんだよ一体……」

「はぁ……私から説明するわ」

「ん、アオサか。それでどうしたんだよ」

 すると、さっきまでなにもせず、座っていたアオサがおじさんに声をかける。
 アオサは、美人というよりカッコいいイメージが強く、なんだか頼りがいのありそうな感じだった。

「この坊やが魔法でこのドアを破壊したのよ。それにグレイが巻き込まれて、お金をむしりとられたってわけね」

「魔法!? この子がか?」

 グレイのことは気にせず、魔法の方に注目が行く。

「そう、それも子供とは思えないくらいの強さのね……」

「なんだって……」

 ちょっと険しいムードになってきた。
 やっぱり怒られるのかな。
 
「どう教えたらあんなに魔法を上達できるのよ。ただでさえ、あんたたち2人は魔法が下手なはずなのに……」

「……私たち、あの子に魔法なんか教えてないわよ」

「「え?」」

 おばさんの発言にアオサだけでなく他の冒険者たちも驚く。

「というよりも、僕たちが冒険者であることも最近うち明かしたばかりなんだ。魔法の練習どころか適当に過ごしていただけなんだよ……」

「そんなバカな……」

「それに、この子は本来僕たちの子じゃない。僕たちが結婚して、村に来てばかりの時にこの子が捨てられていたんだ。それを拾って、育てて来た。レンって名前もなずけてね。だから、魔法が使えるなんて初耳だよ」

「マジかよ……」

 少々、居心地が悪くなる。
 やはり世間の目は捨て子には厳しいらしい。

「……レン君。この扉は本当に壊したの?」

 そんな時、おばさんにそう聞かれる。
 
「……うん。魔法を使ったら壊れちゃって。ごめんなさい……」

「謝ることないのよ。それにしても魔法を。どうやって?」
 
「こいつ、俺が教えた魔法【ウォーター】を詠唱したんだ。そしたらこのざまだよ。こいつはヤバいね。成長したらバケモノになるに違いない。俺が言うんだから間違いない」

「あんたが言う事は大体外れるから余計なことは言わないで欲しいものだねぇ」

「なんでだよ、助けてやったっていうのに! 不憫だ!!」

「「あははは……」」

 笑い声が響き、場の空気をかき消した。
 しかし、その中でただ一人だけ笑っていない者がいた。

「なんでよ!!」

 サクヤだ。
 今にも泣きそうな顔で話し始める。

「なんで私がダメで、レンだけがこんなにできるのよ……おかしいじゃない……」

「サクヤ……」

 確かにそうだ。
 年齢も同じで、育った環境も一緒。
 俺だけが出来て、サクヤに出来ないのはきっと――このユニークスキルのおかげだ。
 それをサクヤは知らない。勿論、他の人もだ。
 だからこの反応の格差を見て、サクヤはちょっと嫌だったのだろう。

「もう、嫌……なんで冒険者になりたいのに……私が!」

「ちょっとサクヤ。落ち着きな……」

「これが落ち着いていられるか!!!」

 そう言って部屋から走り去っていった。

「ちょ、ちょっと待てよ!!」

 俺はその後を追いかける。
 その場には冒険者たちだけが残った。

「はぁ……全くあの子たちったら」

「仕方ないよ。子供の時の感情コントロールほど難しいものはないからね。僕も昔から酷かったし」

「それはそうだけど……私たちも追いかけに行った方が……」

「セリカの言う通りよ。あんたたちは知らないだろうけど最近、王都じゃ人さらいが流行っているのよ。気を付けたほうが……」

「人さらい?」
 
 セリカが聞く。

「そう、人さらい。文字通り、人を連れ去るのよ。王直属の部隊が血眼になって探しているけれど、まだ捕まっていないわ。相当な手練れだそうよ」

「まあ、俺たちがこっちの方に来たのもそれが理由だったするんだけどね」

 すると、さっきまで踊っていたウィーンが言う。

「ウィーン、それは一体どういうことだい?」

「俺たちがこの王都に来たってのは、他でもないその人さらいの依頼が回ってきたからだ。つまりこの集まりってのはついでってことだよ」

「……はあ、なるほどね。その人さらいの特徴はもうつかんでいるのかい?」

「ええ、もちろん。人さらいって言っても大体さらっているのは――子供ばかりね」

 アオサが答える。

「子供ですって!? お父さん。これは流石に行った方が……」

「……まあ、大丈夫さ。心配し過ぎだよ。僕たちが言ったところでなんともならないしね。その王直属の部隊に任せよう。それに子供の喧嘩に親が出るのは卑怯だよ。きっとあの子たちだけで、仲良く帰ってくるさ」

「そう、ならいいけど……」

------------------------------

「はぁはぁ……サクヤ待てよ!!」

「待たないわよ……」

 追いかけっこ状態が続いていた。
 辺りは一面暗く、ちょっと目を離すと逃げられそうだ。

「あんたばっかりずるいじゃない。なんで私は……」

「大丈夫だよ。サクヤ。きっとお前にだって……」

「なにが大丈夫なのよ! あんたに言われても全然説得力がないわよ!!」

 くそ、どうしたら納得してくれるんだ……
 外も暗いし、早く帰らないとなにかが起こる気がする。なんでだろう。

 そんな矢先。
 事件が起こった。

「おい、こいつでいいか?」

「ああ、いいぜ」

「うんうん」

 黒装束をまとった3人組が目の前に現れる。
 顔にマスクをかぶっていて、よく見えない。
 気味が悪い。

「ちょ、なにすんの……!」

「うるせぇ!」

「ッ!」

 すると仲間の1人に殴られ、サクヤが気絶する。

「……おい、お前ら、なにやってるんだ! サクヤから離れろ!!」

「やべ、誰かに見つかった。早く逃げるぞ!」

「ああ、わかってる。我の体に導かれし、風よ。聖なる力によって汝から逃げる速さを! 【ウィンド】」

 その瞬間、3人組がサクヤの体を持ち上げ、連れ去って行った。
 走る速さは尋常じゃなく、一瞬にして消え去った。

「……は?」

 つまり、サクヤがさらわれた。
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