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第3話 能力の芽生え

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 朝早く起き、サクヤたちと王都に向かう。
 向かうといっても勿論歩きなんかではない。
 馬車だ。村から馬を出し、出発する。

「うわ~。凄いね! こんな風に馬に乗ったのは初めてだよ」

「俺も初めてだ……」

 前に二匹の馬が歩き、後ろに引いてある荷台にある椅子に俺たちが座る。
 馬はおじさんが動かしていて、基本的になにもすることはなく、ただ景色を眺めるだけだった。
 まあ、景色はのんびりとしていていつまでも見ていられるからいいんだけどね。

「あ、見てよレン! あんなところにおっきな牛がいるよ!!」

 外に向かってサクヤが指を差す。

「牛? こんなところにか? どれどれ……」

 指した方を見ると……

「……え、なにあれ……」

 とてつもなくデカい化け物が見える。
 体は黒く、目が赤い。あんなものと喧嘩なんかした暁には間違いなく死ぬに違いない。想像するだけで恐ろしい……

「牛でしょ牛」

「どう見ても違うでしょ。というか気持ち悪……」

 するとおばさんが。

「何言ってるのよ。昨日は美味しそうに食べてたじゃない」

 そんなことを言ってくる。

「え……まさか……」

 頭の中で想像する。
 この想像だけは外れてくれ、頼む……

「そうよ。昨日の肉料理はあの牛よ。ゴング―ドルっていうのよ。美味しかったわね。また食べたいわ」

「おゔぇえええええええええええええええ……」

 俺を聞いた瞬間、吐いてしまう。金色の物が俺の口から飛び出した。
 おいおい、ふざけるなよ。 
 あの肉がこの化け物だと……
 本当に本当に……

「おゔぇえええええええええええええええ……」

 想像するとまた吐いてしまう。
 仕方ないこれは仕方ないんだ……

「ちょっとどこで吐いてるのよ! 酔ったの? 酔ったなら外で吐いてよ!!」

「すまん。だけど……おゔぇえええええええええええええええ……」

「ちょっと……」

 サクヤが嫌そうにこっちをみている。
 ……すいません。ごめんなさい。

「大丈夫よ。これくらいなら私が何とかできるわ」

「お母さん、できるって何を……」

「この物を片付けよ。【クリーン】」

 おばさんがそう唱えると、さっき吐いた異物が跡形もなく粉のように消えていった。
 
「特殊魔法、【クリーン】よ。これくらいなら今の私でもできるわ。安心して酔いなさい」

「いや、別に酔ったわけじゃないんだけど……」

「す、凄ーーーーい!! 私もやってみたい!!」

「ふふ、まだ魔力が少ないからできないと思うけどね。色々と冒険とかすればいつの間にか魔力はついているはずよ」

「なるほど……勉強になるな……」

 そんなこと勉強する意味あるのかよ……

「それにしても、まさかお母さんが冒険者だったなんて……」

「また、その話? 昨日も言ってたじゃない」

「だって驚きだよ! 私のなりたい職業ランキング第一位の冒険者がこんな間近にいるなんて!!」

 席から立ち上がりそう訴える。

「おいちょっと落ち着けよ。危ないから座れ。ていうかこんなところで興奮するな。荷台が壊れる」

 そう言って何とか座らせる。
 ふう、危ない危ない。こんなところで馬車が壊れてみろ。
 速度もまあまあ早いし最悪死ぬぞ。

「……それはいいとして、サクヤこそ冒険者になりたいなんて一言も言わなかったじゃない。それはどうしてなのかしら?」

「それは……」

 口ごもる。

「……恥ずかしいからだよ」

 頬をかすかに染めながらしながら呟いた。

「あはは……なにを恥ずかしいっていうのよ。ああ面白い。あははははは」

「それだよそれ! 冒険者になりたいって言うとみんなから笑われるかなって思って誰にも言ってなかったんだよ。そしたらお母さんもお父さんも冒険者だっていうから……」

  顔を手で隠しながら恥ずかしがる。

「そんなこと気にしてんのかよ、お前。いつもはあんなに能天気なのにさ……」

「能天気ってなによ! 馬鹿みたいに言っちゃって!」

「馬鹿とは思ってないけど、いっつも能天気でなんにも考えてなさそうで頭の中お花畑みたいだからさ」

「それを馬鹿にしてるっていうんだよ!?」

「おーい、着いたぞ王都」

「え?」

 そんなことを言い合っていると王都に着いていたらしい。
 とりあえず、馬車から降り、周りを見渡した。

「……おお」
 
 なにこれ凄い!
 周りの景色が村とは全然違う。
 とにかくデカい! デカすぎる!!

 一つ一つの家もそうだし、お店もデカい。
 向こうの方には城があり、カッコイイ。
 さらに、人の通行量も村とは比べ物にならないほど多く、感激する。
 来てよかったぜ!

 隣にいたサクヤも驚いた様子で町をみていた。
 きっと俺と同じようなことを考えているのだろう。

「私たちはそこにある宿にチェックインしてくるから行きたいところ行ってきなさい」

 近くにある宿を指さす。
 宿はこちら! と書かれた大きな看板がついている宿で見やすくてわかりやすい。

「ご飯には帰ってくるのよ。後、迷子にならないでね」

「はーい」

 サクヤが言う。

「じゃあ、行くわよお父さん。久々にあいつらに会えるの楽しみね」

「ああ、そうだな」

 そのまま二人は行ってしまう。

「……ねね、あのお城に行ってみない? 私行きたい!!」

「いいよ……って、ダメだ! 書庫に行くんだよ!!」

 さっきまで色々ありすぎて、元々の目的を忘れていた。
 俺は書庫に行かなければならない。
 そして、この俺に課せられたユニークスキルとやらを突き止めなきゃいけない。
 
「え~、書庫? そんなつまらなそうなとこ行かないであそこのお城に行こうよ。絶対楽しいよ!」

「ダメだ。それは書庫に行ってからな」

「え~」

「はいはい、駄々をこねない。さっさと行くぞ」

 サクヤの手を引っ張って連れて行く。

 道が分からず、少し迷うが近くにいた人に教えてもらいなんとか書庫についた。

「ふう、ついたついた」

 書庫は以外にも大きく、本がびっしり入っていた。
 これには期待できそうだ。
 
「ねぇ、なんか変なものばっか置いてあって嫌なんだけど。私どうしたらいい?」

「それなら、そこにある『児童向け特集! 対象年齢3歳児』ってところに行って遊んでればいいよ。多分、いい感じのやつが見つかるだろ」

「私のこと馬鹿にしてる? 絶対してるよね!?」

「じゃあ、俺はあっちに行くから。また後でな」

「……全くもう。ほんとにもう!」

 そのまま怒りながらどこかに行ってしまう。
 よし、いなくなった。
 
「さてと、探しますか」

 中を色々と周り、いい本を見つけては開き、見つけては開きを何回も何回もくり返した。
 
 その中でわかったのはこのユニークスキルは本の内容、1ページ1ページ全て覚えているということだけだった。
 本にめぼしい情報はなかった。
 ほとんど知っていることばかりで嫌になる。
 
「はぁ、なんか気持ち悪くなりそうだ。なんで全部覚えてるんだよ。気色悪いな……」

 初めての感覚に体が対応できてない。
 また、吐きそうな感じがする。

「まあ、でも探さないと意味ないしな。やれるとこまでやるとするか」

 俺は本を取り、近くにあった席に着く。
 そして、本を開いて読み始めた。
 
 すると。

『記憶容量がオーバーヒートしました。よって自動化モードから検出モードに切り替え、休憩時間とします。なお、これを無効化することは不可能です』
 
 あの声が聞こえてくる。
 頭が痛くなって、意識がもうろうとしてくる。

「おいおい、嘘だろ……なんなんだよこれ……本当に。一体な、にが……」

 俺はその場で倒れた。
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