魔王倒したのに追放されたので、魔族の王と仲良くなって謎の少女と一緒に暮らします

桐山じゃろ

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21 手にしたものは

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 完全回復したと主張するルビーは、宣言の翌日から張り切っていた。

「ルビー、あの、朝食に鴨の丸焼きはかなり重い。まるごとカボチャのグラタンも美味しそうだけど……」
 一体どれだけ早起きして準備を始めていたのか、朝食のテーブルにはインフィニオルの王城のディナーでも食べたことのないような量と質の料理が乗っていた。
「残していい」
「悪いけどそうさせてもらうよ。ここからここまでは夕食しよう」
 僕が手元に残したのは、パンとスープとサラダに、焼き魚。いつもの朝食より少し多いが、このくらいなら今すぐ食べられる。
「どうしてこんなに頑張ったの?」
 食べながら聞いてみると、ルビーは顔を赤くして下を向いた。
「ずっと作ってなかったから、リョーバにたくさん食べてほしくて、つい」
 なんとも可愛らしい理由だった。
「ありがとう。今朝のも美味しいよ」
 僕が労うと、ルビーは赤いままの顔を上げて照れくさそうに笑った。


 ルビーが寝込んでいる間は仕事を休んでいた。
 朝食の後、受付中の札を入り口の扉に付けた瞬間、どこで見ていたのか、お客さんがどっと押し寄せてきた。
 ひとまず順番に用件だけ聞き、近い場所から一つ一つ仕事をこなしていく。
 魔力無尽蔵化のお陰で、十件近くあった依頼は、どうにか今日のうちに終わらることができた。

「お疲れ様」
 家に戻ると、ルビーが出迎えてくれる。
 夕食は、残した朝食に更に追加されていた。
「料理するの好きだったりする?」
 ルビーに尋ねると、ルビーは首を傾げてから、頷いた。
「好き、かも。つくるの、楽しい。リョーバが美味しいって言ってくれるのも、嬉しい」
 例えば僕が料理を作るとして、それをルビーが毎日食べて、美味しいって言ってくれて……駄目だ。料理の準備や手順、後片付けのことを考えると憂鬱な気分になってしまう。
「凄いな、助かるよ」
 心から褒めると、ルビーは物欲しそうに僕に身体を寄せてきた。
 ルビーの頭を撫でると、うっとりと顔が緩む。そのまま、ルビーの気が済むまで頭を撫で続けた。



 暫くの間、朝イチで十件前後の依頼が舞い込み、それをすべて終える頃には日が暮れている、という状況が続いた。
 仕事が溜まっていたのはテビスも同じで、僕の仕事が落ち着いた頃にテビスの方も一山超えたらしく、久しぶりに家までやってきた。

 そして開口一番、変なことを言い出した。

「リョーバ、お主、国王をやらないか」
「やだ」

 速攻で断ったが。

「俺はリョーバなら断るだろうと言うたのだがな、一度伺いを立てろと。でもまあ、経緯だけ説明させてくれぬか」
「わかった」

 王が処刑され、インフィニオルが治めている元セリステリア国は、勤勉な国民と広大な領土、そして経緯はともかく魔物に侵略されなかった地域として、やはり独立したほうが良いという結論になった。
 インフィニオル国が治めているのだからそのままセリステリアの王もテビスがやればいいのだが、元セリステリアの領土が広すぎるし、人口も倍以上になる。
 また、セリステリアは人間の国だから人間が王になったほうが良い。

 で、白羽の矢が立ったのが、勇者で魔王討伐者の僕だということだ。

「ふーん」
 話を全部聞いても、やっぱり僕は王様なんてやりたくない。
 政治の話は難しくてよくわからないし、勉強する気もない。
 その他あれやこれや、考えるのすら面倒くさいことが身に降りかかるのが王様という立場だろう。
「そもそも僕はもう勇者じゃない」
「認定したのも剥奪したのもセリステリアだろう。魔王討伐者を追放するなどインフィニオルでは有り得ぬし、そなたを勇者と認めぬものは、もうあの国におらぬ」
「もう要らないよ」
 僕が手をしっしと振ると、テビスは軽く笑った。
「解っておるよ。皆には断固拒否されたと伝える」
「王様は誰がやるの?」
「あの国にもまともな人間が何人かおっただろう。あれのどれかだろうな」
 テビスも、僕に王様にならないかと言った口で他人事のように語る。
「話はこれだけだ」
「もう帰るの?」
 テビスが話をひとつしただけで帰ろうと立ち上がるなんて、珍しい。
「俺は野暮ではないからな。城の飯はかなり美味くなった。次から、なんとなく俺に会いたい時はお前からこちらへ来い」
 テビスは壁の向こうを意識しながら、そんなことを言い出す。隣室はルビーの私室だ。
「テビスって気を遣えたんだね」
「聞き捨てならんぞ」
 眼は険しく僕を睨んでいるが、口元は笑っている。
「今までが異常だったんだもんね。わかった」
 一国の王様が、いち一般人の家へしょっちゅう遊びに来る方がおかしいのだ。
 僕がふらふらと遊びに行くことだって、普通は考えられない。

 結局、その後も時折テビスの方からふらりと駄弁りに来るわけだが。







 ルビーの「お嫁さんになる」宣言から、一年が経った。

「気持ち変わってない」
 朝、久しぶりに料理熱暴走したルビーの「おはよう」の次の台詞が、これだ。
「一年、ちゃんと待っててくれてありがとう」
 記念日や誕生日を覚えるのは苦手だけど、この日だけは覚えていたよ。
 僕はひと月前から密かに用意していた指輪を懐から取り出し、ルビーの前に跪いて差し出した。

「ルビー、僕と結婚してください」

 いざこの場面になると、気の利いたことは思いつかなかった。
 それでも、絶対に、僕からのプロポーズだけはやりたかったんだ。

 ルビーはぽかんとした表情でしばらく僕を見つめたかと思うと、指輪そっちのけで僕の首に飛びついた。
「結婚する! ルビー、リョーバのお嫁さん!」
「そうだよ」
「どうして指輪?」
「そこは知らないの!?」
 隣人のイザベルさんからあれこれ吹き込まれた様子だったから、てっきり結婚と指輪の関係性も知っているものとばかり。
「これは婚約指輪。結婚を約束しましたって意味だよ。正式に結婚したら結婚指輪を贈るから、身に着けてくれると嬉しい」
「わかった」
 ルビーは素直にうなずいた。


「正式な結婚、いつ?」
「婚姻届はテビスに頼めば速攻で処理してくれるだろうから、すぐにでもできるよ」
「じゃあ、テビスのとこ行く」
「その前に朝食にしない?」
「そうだった」

 ちょっとズレたルビーと、異世界出身で元勇者の僕。
 我ながら、似合いの夫婦だと、思う。
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