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6 魔力と魔法
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「今ルビーの髪を整えたのはセイラだ。今後、何か女手が必要になったらこいつを呼べ。後で連絡魔法用の場所を教える」
テビスがそう言うと、セイラと呼ばれた女性は片付けをしていた手を止めて、僕に丁寧にお辞儀をした。
「そこまでしてもらわなくても……今回は助かったけど」
「こいつが魔族や人と同じように女として成長したら、リョーバだけでは手に負えまい」
僕の記憶にギリギリ引っかかっていた、女性の性徴の知識。
確かに、僕では手に負えない部分も出てくる。
「では、申し訳ないのですが今後も……」
僕がセイラさんに頭を下げようとすると、セイラさんが手で制した。
「王命を申し付けられるのは名誉なことです。しかも、魔王討伐者であるリョーバ様にお仕えできるのですから、これ以上のことはございません」
「ええっとぉ……」
どうしよう。テビスが僕に良くしてくれるだけでも有り難さでいっぱいなのに、テビスの部下まで僕に尽くしてくれようとする。
「セイラ、リョーバはおそらく他人に傅かれるのに慣れておらぬ。主従関係というより、相談役として面倒を見てやってくれ」
「陛下がそうおっしゃるのでしたら」
テビスがフォローを入れてくれた上でセイラさんが正確に意図を汲み取り、セイラさんは僕にタメ口に近い口調で話してくれることになった。
「ルビー、今度から僕に言いづらいことがあったらセイラさんを呼ぶよう言うんだよ」
「わかった」
「って、その服どうしたの?」
「そこできせられた」
ルビーはいつの間にか、僕が魔法で創った白い簡単なワンピースではなく、このまま町に出しても違和感のない村娘の格好になっていた。
生成り色のブラウスにチェックのロングスカートが、とてもよく似合っている。
髪型もツインテールになっていた。
「テビス、これは一体」
「お前に女物の服のことはわかるか? 男物のシャツを大きくしただけではワンピースと呼べん」
僕がワンピースだと思い込んで着せていたのは、間違っていたようだ。
「わかりません、すみません」
思わず謝った。
「着替えは後で送り届ける。ついでにお前のぶんも見繕ってやろう。……それはそうと、ルビーは魔法は使えぬのか」
テビスは僕ではなく、ルビーに直接尋ねた。
ルビーは一度僕を見上げる。僕が頷くと、ルビーはテビスに向き直った。
「つかえる。でも、まりょくたくさんつかう」
「魔法ならば魔力を使うのは当然だ」
「たぶん、ちがう……」
ルビーは言い淀んで、下を向いた。
僕とテビスは顔を見合わせた。
「そもそも何故お前が把握しておらんのだ」
「この世界、みんな魔法が使えるのが常識かと……」
僕に残っている記憶の中の常識は、全て異世界のものだ。自分が魔法を使えると知るまでは、魔力や魔法なんておとぎ話の世界だと思っていた。
そして、魔法は人間と魔物のみが使える、とセリステリアで教わった。
魔族が入っていなかったのは、意図的なのか無知なのか、今となっては聞こうとも思わない。
今、僕とルビーとテビスは、城の兵士や騎士たちの訓練場にいる。
ルビーに「魔法を使ってみてくれ」と頼むと、「ひろいばしょがいい」とのことだったので、ここへ案内されたのだ。
そのルビーは訓練場の中心に立っている。ちなみに相変わらず僕のシャツを両手で握りしめている。
「こわしていいもの、わるいもの、おしえて」
ルビーが振り返って僕を見る。
「的と木人形は壊していい。それ以外は駄目だ」
標的をそれぞれ指差すと、ルビーは一旦それらを見てから、再び僕に向き直り、うなずいた。
ルビーはまず的に向かって右掌を向けた。
「……?」
思わず胸のあたりを押さえる。
なんだか、魔力が身体から抜けていくような……。
「ん」
ルビーが小さく気合を発すると、的がぱぁんと弾けた。
僕が攻撃魔法だと教えられたものとよく似ている。
実際は、魔力を使った衝撃波のようなもので、魔法とはまた違うのだが。
「それは魔法ではない。魔法というのは……こうだ」
テビスが人差し指を立てて、その先に拳くらいの大きさの氷を出現させた。
ルビーも動作を真似たが、何も起きない。
「氷でなくてもいい」
テビスは指先に炎や水球などを次々に出してみせた。
「できない」
「ふむ。魔力はあるが魔法は使えぬということか」
テビスが分析してる間に、ルビーは僕の元へやってきた。何故か心配そうな顔で僕を見上げている。
「やっぱり、リョーバと、つながってる」
この言葉の意味が僕には分からなかったが、テビスはハッと顔を上げ、僕とルビーの間に割り込んだ。
「貴様っ!」
「待って、テビス」
「しかし、このままにしておけばリョーバが」
「僕は平気。僕の魔力量知ってるでしょう?」
「有限ではあるだろう」
「大丈夫。普段は魔力を吸われる感覚なんて無いんだ」
「吸われておるではないか!」
僕とテビスが言い合ってる最中、ルビーが少しずつ身を引いていた。
なんだかまるで、そのまま消えてしまうように。
「ルビー、大丈夫だよ」
「でも、リョーバ……」
「テビスも、いいね?」
僕がテビスを睨むように見つめると、テビスはびくりと肩を震わせた。ちょっと脅しすぎたかな。
でも僕は、僕がやりたいことを誰にも邪魔されたくない。
ルビーとはまだ数日しか一緒にいないけれど、もう手放したくない存在なんだ。
「もしテビスが嫌だって言うなら、これ以上世話にならないから」
テビスは尚もなにか言いたげに口を開き、やっぱり閉じて、諦めたようにため息をついた。
「リョーバが良いなら、もう何もいわぬ」
「ありがとう、テビス」
セイラさんとの連絡は、ルビーに頼まれた際に僕が行うことになった。
城から転移魔法で直接、我が家へ帰ってきた。
「リョーバ、ほんとに、いいの?」
テビスに渡された荷物を魔法でほいほいと片付けている僕に、ルビーが遠慮がちに聞いてくる。
「意外と心配性なんだね。僕は僕の好きなようにしているから、ルビーもルビーの好きなようにしていいんだよ」
言ってから、ハッと気づいた。
もしルビーが、僕の傍より別のところがいいと言い出したら、止められないではないか。
「あっでも、なるべく僕の近くに居てほしいかなー……なんて、わっ!?」
ルビーが僕の腰に抱きついてきた。
それまで握りしめていた僕の服は、床に落ちている。
体型からは想像がつかないほど大きな胸の感触が柔らかい……って、そうじゃなくて。
「リョーバがいい。でもわたし、まりょく、とっちゃう」
ルビーの声が掠れている。
僕はルビーの肩に手をおいて、一旦ルビーを身体から離した。
「僕の魔力のことなら気にしないで。ちょっと、見せるね」
目を閉じて、身体の中心あたりに集中する。
セリステリアで自分の魔力を自覚した直後、セリステリアの訓練場は僕の魔力が起こす衝撃波でボロボロになってしまった。
すぐに魔力を自在に操れるようになったお陰で、僕は自分の魔力を体の奥底に留めておくこともできるようになった。
その魔力を、少しだけ解き放つ。
「わっ……!?」
当然、衝撃波なんかにしない。
ただ魔力を辺りに撒き散らす。僕がしたのはそれだけだ。
魔力はすぐに引っ込めたが、ルビーは僕が言いたいことをわかってくれた。
「これでごく一部なんだけど、まだ心配かな」
「ない」
ルビーは改めて僕に抱きついた。
さて、「できるだけ自給自足して、ゆっくりのんびり過ごす」を目標に掲げた僕であるが、自給自足をするにも最低限必要なものがある。
お金だ。
セリステリア国以外の国や町はほぼ滅んでいるが、魔王討伐の旅の途中で出会ってきた人たちがいた。
彼らは、魔族の国インフィニオルの加護を受けていた。
具体的には魔物に襲われないよう魔族の人に防護魔法を掛けてもらい、仕事や物流をインフィニオル国から援助してもらっている。
お陰で荒野の真ん中にぽつんと一軒家という立地でも安全に生活できている。
ただし、物資の入手に欠かせないのが他の物資またはお金だ。
テビスは「物資も金も俺を頼ればいいではないか」と言ってくれたが、それは最終手段に取っておく。
僕は僕の力で自活したいのだ。
誰かの力を思いっきり借りての自給自足は、なにか違う気がするし。
あと、いくら豊富な魔力を持っているからといって、これをフル活用するのも避けたい。
突然得たものは突然無くなる可能性も否定できないからね。
僕が作り出せる換金できるものといえば、農作物だ。
「ベースは魔法使ったけど、今後は自分の手で農作業するよ」
草むしりをするために作業用手袋を装備して畑に出ると、ルビーもついてきた。
「てつだう」
「助かるよ。ルビーのぶんの手袋は……」
早速魔法を使ってしまったが、このくらいは勘弁してもらいたい。
テビスがそう言うと、セイラと呼ばれた女性は片付けをしていた手を止めて、僕に丁寧にお辞儀をした。
「そこまでしてもらわなくても……今回は助かったけど」
「こいつが魔族や人と同じように女として成長したら、リョーバだけでは手に負えまい」
僕の記憶にギリギリ引っかかっていた、女性の性徴の知識。
確かに、僕では手に負えない部分も出てくる。
「では、申し訳ないのですが今後も……」
僕がセイラさんに頭を下げようとすると、セイラさんが手で制した。
「王命を申し付けられるのは名誉なことです。しかも、魔王討伐者であるリョーバ様にお仕えできるのですから、これ以上のことはございません」
「ええっとぉ……」
どうしよう。テビスが僕に良くしてくれるだけでも有り難さでいっぱいなのに、テビスの部下まで僕に尽くしてくれようとする。
「セイラ、リョーバはおそらく他人に傅かれるのに慣れておらぬ。主従関係というより、相談役として面倒を見てやってくれ」
「陛下がそうおっしゃるのでしたら」
テビスがフォローを入れてくれた上でセイラさんが正確に意図を汲み取り、セイラさんは僕にタメ口に近い口調で話してくれることになった。
「ルビー、今度から僕に言いづらいことがあったらセイラさんを呼ぶよう言うんだよ」
「わかった」
「って、その服どうしたの?」
「そこできせられた」
ルビーはいつの間にか、僕が魔法で創った白い簡単なワンピースではなく、このまま町に出しても違和感のない村娘の格好になっていた。
生成り色のブラウスにチェックのロングスカートが、とてもよく似合っている。
髪型もツインテールになっていた。
「テビス、これは一体」
「お前に女物の服のことはわかるか? 男物のシャツを大きくしただけではワンピースと呼べん」
僕がワンピースだと思い込んで着せていたのは、間違っていたようだ。
「わかりません、すみません」
思わず謝った。
「着替えは後で送り届ける。ついでにお前のぶんも見繕ってやろう。……それはそうと、ルビーは魔法は使えぬのか」
テビスは僕ではなく、ルビーに直接尋ねた。
ルビーは一度僕を見上げる。僕が頷くと、ルビーはテビスに向き直った。
「つかえる。でも、まりょくたくさんつかう」
「魔法ならば魔力を使うのは当然だ」
「たぶん、ちがう……」
ルビーは言い淀んで、下を向いた。
僕とテビスは顔を見合わせた。
「そもそも何故お前が把握しておらんのだ」
「この世界、みんな魔法が使えるのが常識かと……」
僕に残っている記憶の中の常識は、全て異世界のものだ。自分が魔法を使えると知るまでは、魔力や魔法なんておとぎ話の世界だと思っていた。
そして、魔法は人間と魔物のみが使える、とセリステリアで教わった。
魔族が入っていなかったのは、意図的なのか無知なのか、今となっては聞こうとも思わない。
今、僕とルビーとテビスは、城の兵士や騎士たちの訓練場にいる。
ルビーに「魔法を使ってみてくれ」と頼むと、「ひろいばしょがいい」とのことだったので、ここへ案内されたのだ。
そのルビーは訓練場の中心に立っている。ちなみに相変わらず僕のシャツを両手で握りしめている。
「こわしていいもの、わるいもの、おしえて」
ルビーが振り返って僕を見る。
「的と木人形は壊していい。それ以外は駄目だ」
標的をそれぞれ指差すと、ルビーは一旦それらを見てから、再び僕に向き直り、うなずいた。
ルビーはまず的に向かって右掌を向けた。
「……?」
思わず胸のあたりを押さえる。
なんだか、魔力が身体から抜けていくような……。
「ん」
ルビーが小さく気合を発すると、的がぱぁんと弾けた。
僕が攻撃魔法だと教えられたものとよく似ている。
実際は、魔力を使った衝撃波のようなもので、魔法とはまた違うのだが。
「それは魔法ではない。魔法というのは……こうだ」
テビスが人差し指を立てて、その先に拳くらいの大きさの氷を出現させた。
ルビーも動作を真似たが、何も起きない。
「氷でなくてもいい」
テビスは指先に炎や水球などを次々に出してみせた。
「できない」
「ふむ。魔力はあるが魔法は使えぬということか」
テビスが分析してる間に、ルビーは僕の元へやってきた。何故か心配そうな顔で僕を見上げている。
「やっぱり、リョーバと、つながってる」
この言葉の意味が僕には分からなかったが、テビスはハッと顔を上げ、僕とルビーの間に割り込んだ。
「貴様っ!」
「待って、テビス」
「しかし、このままにしておけばリョーバが」
「僕は平気。僕の魔力量知ってるでしょう?」
「有限ではあるだろう」
「大丈夫。普段は魔力を吸われる感覚なんて無いんだ」
「吸われておるではないか!」
僕とテビスが言い合ってる最中、ルビーが少しずつ身を引いていた。
なんだかまるで、そのまま消えてしまうように。
「ルビー、大丈夫だよ」
「でも、リョーバ……」
「テビスも、いいね?」
僕がテビスを睨むように見つめると、テビスはびくりと肩を震わせた。ちょっと脅しすぎたかな。
でも僕は、僕がやりたいことを誰にも邪魔されたくない。
ルビーとはまだ数日しか一緒にいないけれど、もう手放したくない存在なんだ。
「もしテビスが嫌だって言うなら、これ以上世話にならないから」
テビスは尚もなにか言いたげに口を開き、やっぱり閉じて、諦めたようにため息をついた。
「リョーバが良いなら、もう何もいわぬ」
「ありがとう、テビス」
セイラさんとの連絡は、ルビーに頼まれた際に僕が行うことになった。
城から転移魔法で直接、我が家へ帰ってきた。
「リョーバ、ほんとに、いいの?」
テビスに渡された荷物を魔法でほいほいと片付けている僕に、ルビーが遠慮がちに聞いてくる。
「意外と心配性なんだね。僕は僕の好きなようにしているから、ルビーもルビーの好きなようにしていいんだよ」
言ってから、ハッと気づいた。
もしルビーが、僕の傍より別のところがいいと言い出したら、止められないではないか。
「あっでも、なるべく僕の近くに居てほしいかなー……なんて、わっ!?」
ルビーが僕の腰に抱きついてきた。
それまで握りしめていた僕の服は、床に落ちている。
体型からは想像がつかないほど大きな胸の感触が柔らかい……って、そうじゃなくて。
「リョーバがいい。でもわたし、まりょく、とっちゃう」
ルビーの声が掠れている。
僕はルビーの肩に手をおいて、一旦ルビーを身体から離した。
「僕の魔力のことなら気にしないで。ちょっと、見せるね」
目を閉じて、身体の中心あたりに集中する。
セリステリアで自分の魔力を自覚した直後、セリステリアの訓練場は僕の魔力が起こす衝撃波でボロボロになってしまった。
すぐに魔力を自在に操れるようになったお陰で、僕は自分の魔力を体の奥底に留めておくこともできるようになった。
その魔力を、少しだけ解き放つ。
「わっ……!?」
当然、衝撃波なんかにしない。
ただ魔力を辺りに撒き散らす。僕がしたのはそれだけだ。
魔力はすぐに引っ込めたが、ルビーは僕が言いたいことをわかってくれた。
「これでごく一部なんだけど、まだ心配かな」
「ない」
ルビーは改めて僕に抱きついた。
さて、「できるだけ自給自足して、ゆっくりのんびり過ごす」を目標に掲げた僕であるが、自給自足をするにも最低限必要なものがある。
お金だ。
セリステリア国以外の国や町はほぼ滅んでいるが、魔王討伐の旅の途中で出会ってきた人たちがいた。
彼らは、魔族の国インフィニオルの加護を受けていた。
具体的には魔物に襲われないよう魔族の人に防護魔法を掛けてもらい、仕事や物流をインフィニオル国から援助してもらっている。
お陰で荒野の真ん中にぽつんと一軒家という立地でも安全に生活できている。
ただし、物資の入手に欠かせないのが他の物資またはお金だ。
テビスは「物資も金も俺を頼ればいいではないか」と言ってくれたが、それは最終手段に取っておく。
僕は僕の力で自活したいのだ。
誰かの力を思いっきり借りての自給自足は、なにか違う気がするし。
あと、いくら豊富な魔力を持っているからといって、これをフル活用するのも避けたい。
突然得たものは突然無くなる可能性も否定できないからね。
僕が作り出せる換金できるものといえば、農作物だ。
「ベースは魔法使ったけど、今後は自分の手で農作業するよ」
草むしりをするために作業用手袋を装備して畑に出ると、ルビーもついてきた。
「てつだう」
「助かるよ。ルビーのぶんの手袋は……」
早速魔法を使ってしまったが、このくらいは勘弁してもらいたい。
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