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3 名付け
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インフィニオル国を中心に考えると、魔王城跡地は西へ徒歩で三日、セリステリア国は北東方向へ直線距離にして徒歩で一ヶ月。途中に山や谷などがあるため、人の足だけで越えようとすると半年はかかる。僕が半年足らずで行き来できたのは奇跡だと思ってもらいたい。
こんな地理関係で、僕はインフィニオル国から真南へ徒歩五日の荒野を転移魔法の到着地点にした。
「ひとまず風雨がしのげる程度のシンプルなやつでいいか」
セリステリア国の魔道士だけでなく、人間は魔力の使い方が限定的すぎる。
攻撃、治癒、補助。この三パターンしかない上に、全て魔物と戦うことが前提の使い方だ。
まあ、他の使い方を知ってしまった魔道士がいたから魔物や魔王が生まれてしまったわけで、人間知らないほうが良いこともあるのだが……それはおいといて。
魔族は魔力をもっと便利に、クリエイティブに使う。
例えば……。
「……よし、こんなもんか」
頭の中に単純な家を思い浮かべて魔力を解き放つ。
それだけで、僕の目の前には木造の一軒家が建った。
「扉は……ちゃんと開く。あ、お風呂とかトイレとか……あとキッチンも必要だったな。ほい、ほい、ほいと」
掌を向けて魔力を解き放つごとに、簡易的な設備がぽんぽんぽんと出来上がる。ちょっと楽しい。
「君の部屋も必要だね。とりあえずベッドだけ置いとくから、欲しい家具があったら言ってね」
僕が毛布に向かって声をかけると、毛布はもぞもぞと身じろぎした。
「え、どっち?」
初めて見る反応だった。
毛布はしばらくもぞもぞすると、隙間から白い指がにょきりと現れ、それからワインみたいな赤い髪が見えて……とうとう毛布から少女が顔を出した。
「へや、いっしょ、いい」
しばらく声を出していない人の独特のかすれはあるものの、可愛らしい声だ。
「一緒って、僕と一緒ってこと? いや、それは……」
「いっしょ、これ、すみっこ、おく」
「毛布いい加減洗わせてよ」
少女は魔王城の地下にいた。
背中に紫色の小さな、コウモリみたいな翼を持つ彼女は、魔王城で魔物以外の唯一の生存者だ。
人間ではないし、魔族でもない。
かといって魔物とも違う。
不思議な彼女を見つけた時、テビスは放っておこうと主張したが、僕は放っておけなかった。
彼女の身体が震えていたから、僕が寝床に使っていた毛布で包んでやったら、そこから出てこなくなったのだ。
「いや、におい、きえる」
「……もしかして、僕の匂いが染み付いてるから毛布に執着してるの?」
「リョーバ、つよい。つよい、におい、すき」
「うーん」
少女の瞳は白に近い金色だ。その瞳が、真っ直ぐ僕を見つめてくる。
他人からこんな好意の籠もった瞳で見つめられるのは初めてだ。
「匂いなら何度でも付けてあげるから。あとは、そうだな……わかった、慣れるまで一緒の部屋で寝ようか」
「ん」
「ところで、そろそろ名前だけでも教えてくれないかな」
毛布にくるまった彼女は保護したときから今まで毛布から出てこようとせず、テビスによれば食事も摂っていないそうだ。
そしてまともな会話をしたのも、このときが初めて。
心を開いてくれたと見て、思い切って名前を聞いてみた。
「なまえ、ない。リョーバ、きめて」
なんと名無しだった。
「ええーっとぉ……?」
誰かの名前を決めたことなんて記憶にない。記憶を失う前にもなかったんじゃないかな。
こういう時ってどういうふうに決めればいいんだろう。
テビスに相談したいが、あれでも王様だから割りと忙しいのだ。多分。
「どんな名前がいい?」
一か八か、本人に聞いてみた。
「リョーバ、みたいな、つよそうなの」
「うーん??」
強そうと言われても……余計に困った。
「ちゃんと顔見せてくれる? そしたら思い浮かぶかも」
彼女はしばらくもじもじした後、毛布を首の下に巻いたまま、すっくと立ち上がった。
僕はどうやら背の高い方らしいが、それを差し引いても彼女はかなり小さい。僕の腰のあたりに目線がある。
つまり、僕からは彼女の頭の天辺が見える。
ワインのような赤い髪は傷んでボサボサだが、彼女の腰まで伸びていて、ちゃんと手入れすればとても綺麗だろうなと想像できる。
赤くて煌めくもの……。
「ルビー……は、単純すぎるかな」
僕が彼女の名を決めた瞬間だった。
「! ルビー! わたし、ルビー!」
ルビーは目をキラキラと輝かせて、何度もルビーと連呼した。興奮したのか毛布を掴んでいた手が緩み、毛布が床に落ちて、ルビーの全身をあらわにした。
ボロボロの薄布の服の下はどうやら抜群のスタイルをお持ちのようで、目の遣り場に困る。
僕は掌をルビーに向けて、質素な白いワンピースを着せた。
「勝手に服着せてごめんね。名前、気に入ってくれたの?」
「うん、わたし、ルビー! ふくも、きにいった!」
「ならよかった。改めてよろしく、ルビー」
「よろしく、リョーバ!」
本人が気に入ったのならいいか。
セリステリア国は魔王討伐の報酬こそ半銅貨一枚も渡さなかったが、僕の手元には物がいくらでも入る魔法の鞄と、目的地まで完璧にナビしてくれる魔法の地図が残っている。
特に鞄の方は、生ものを入れても腐らないため食料保管庫代わりに使える。
今なら魔法で同等以上の品が作れるが、返せと言われてないので、このまま使わせてもらうことにした。
家をあらかた作り上げると、腹の虫が騒ぎ出した。
インフィニオルで朝食を食べてはきたが、魔力を割と使ったので食事が必要だ。
鞄の中には、テビスが大量の食料を詰め込んでくれた。
早速、すぐに食べられるパンや果物を取り出した。
「ルビーは好きな食べ物とかある?」
テーブルにつくと、ルビーは向かい側に置いた椅子をわざわざ僕の隣に持ってきて、ちょこんと座った。
「すき、たべもの? ない、わからない」
椅子とテーブルは僕の身体に合うように作ってしまったから、ルビーには高すぎて、足をぶらぶらさせている。椅子の方に足掛けをつくって高くし、調整してやった。
そうするとちょうどルビーの眼の前にパンや果物があるのだが、全く興味を示さない。
「あの城ではなにを食べてたの?」
「まりょく」
「魔力?」
「まりょく。リョーバ、いっぱいある」
「ああ、まぁそうだね。魔力ってどうやって食べるの?」
「いきをすると、はいってくる」
「へぇ……」
背中の翼といい、雰囲気といい、明らかに人間とは違う上に、食事まで概念が違う。
ルビーは一体何者なのだろう。
「テビスのところではなにを食べた?」
「この、ちゃいろいのに、にたやつ、くちにいれられた。ぺってした」
ルビーが指さしたのは、パンだ。
テビスが何も食べようとしないルビーに手を焼いている様子を思い浮かべると、ちょっと笑える。
「今、お腹空いてない?」
「リョーバのまりょく、いっぱいある。おなかいつもいっぱい」
いつのまにか魔力を吸われてたらしい。が、僕には何の変化もない。
「……具合が悪くなったらちゃんと教えてね」
「うん? うん」
パンや果物を勧めてみたが、やはりルビーは何も食べなかった。
「さてと次は……畑の準備をするか」
魔法でほぼなんでも作り出せるが、食料だけはそうはいかない。
自分の魔力でできたものを自分で食べたところで、お腹は膨れないのだ。
しかし、取っ掛かりだけは作ることができる。しかも、かなり便利な形で。
「ルビーは気になる食べ物……は、なさそうだな。花とか木とか、興味ない?」
「ない」
外へ出た僕に当然のようについてくるルビーに尋ねてみたが、ばっさり切り捨てられた。
「わかってたよ……。じゃあ、とりあえずこの辺りの緑を復活させてみるか。よっ!」
魔力を解き放って、荒野の土に干渉する。
表面は焼け焦げているが、土の中には元々ここに植生していた植物の根や種、枝葉の一部が残っているはずだ。
それを取り出して、そこから直接芽吹かせたり、組織をつなぎ合わせて仮の種を組み上げる。
更に、僕の魔力で成長を促してやると……。
「わあ……」
ルビーが感嘆の声をあげる。
僕たちの周辺は見渡す限り、瑞々しい草木で覆われた。
「みどり、きれい、きれい!」
ルビーが草の上を裸足で――そういえば靴履かせてなかったが、後でいいか――駆け回る。
「あんまり走ると、危なっ!」
草の水分で滑ったのだろう。見事に転倒しそうになったルビーを魔法で受け止め、その場に座らせた。
「ありがと、リョーバ」
「どういたしまして。気をつけてくれよ」
駆け寄って、念のために怪我の有無を調べるが、なんともなさそうだ。その場で靴を魔法で創って履かせた。
「さすがに都合よく畑だった土地は無いか。でもま、これだけ生えてれば食べられる植物くらい見つかるだろ」
改めてあたりを見渡すと、道や建物だったところには何も生えていない。
かといって建物跡が密集しているわけではない。
町と町をつなぐ街道沿いの土地といったところか。
「うん、順調じゃないか。じゃあ次は耕すか」
家から少し離れた場所を広めに柵で囲い、その場の地面を掘り起こしてから耕した。
人力でやろうとしたら何日もかかる作業だが、魔法を使えば一瞬だ。
「どうしてセリステリアでは魔力をこういうふうに使おうとすらしなかったんだろうなぁ」
あの国では、水汲みから排泄物の処理まで、全て人の手で行われていた。
もっと言えば、城の人たちは下働きの人たちを使ってやらせていた。
魔道士が魔物を作ったと聞いたあとでも、魔力はもっと便利なものなのだからこう使えばいいのに、と思ってしまう。
今更あの国になにかしてやるつもりはこれっぽっちもないけどね。
こんな地理関係で、僕はインフィニオル国から真南へ徒歩五日の荒野を転移魔法の到着地点にした。
「ひとまず風雨がしのげる程度のシンプルなやつでいいか」
セリステリア国の魔道士だけでなく、人間は魔力の使い方が限定的すぎる。
攻撃、治癒、補助。この三パターンしかない上に、全て魔物と戦うことが前提の使い方だ。
まあ、他の使い方を知ってしまった魔道士がいたから魔物や魔王が生まれてしまったわけで、人間知らないほうが良いこともあるのだが……それはおいといて。
魔族は魔力をもっと便利に、クリエイティブに使う。
例えば……。
「……よし、こんなもんか」
頭の中に単純な家を思い浮かべて魔力を解き放つ。
それだけで、僕の目の前には木造の一軒家が建った。
「扉は……ちゃんと開く。あ、お風呂とかトイレとか……あとキッチンも必要だったな。ほい、ほい、ほいと」
掌を向けて魔力を解き放つごとに、簡易的な設備がぽんぽんぽんと出来上がる。ちょっと楽しい。
「君の部屋も必要だね。とりあえずベッドだけ置いとくから、欲しい家具があったら言ってね」
僕が毛布に向かって声をかけると、毛布はもぞもぞと身じろぎした。
「え、どっち?」
初めて見る反応だった。
毛布はしばらくもぞもぞすると、隙間から白い指がにょきりと現れ、それからワインみたいな赤い髪が見えて……とうとう毛布から少女が顔を出した。
「へや、いっしょ、いい」
しばらく声を出していない人の独特のかすれはあるものの、可愛らしい声だ。
「一緒って、僕と一緒ってこと? いや、それは……」
「いっしょ、これ、すみっこ、おく」
「毛布いい加減洗わせてよ」
少女は魔王城の地下にいた。
背中に紫色の小さな、コウモリみたいな翼を持つ彼女は、魔王城で魔物以外の唯一の生存者だ。
人間ではないし、魔族でもない。
かといって魔物とも違う。
不思議な彼女を見つけた時、テビスは放っておこうと主張したが、僕は放っておけなかった。
彼女の身体が震えていたから、僕が寝床に使っていた毛布で包んでやったら、そこから出てこなくなったのだ。
「いや、におい、きえる」
「……もしかして、僕の匂いが染み付いてるから毛布に執着してるの?」
「リョーバ、つよい。つよい、におい、すき」
「うーん」
少女の瞳は白に近い金色だ。その瞳が、真っ直ぐ僕を見つめてくる。
他人からこんな好意の籠もった瞳で見つめられるのは初めてだ。
「匂いなら何度でも付けてあげるから。あとは、そうだな……わかった、慣れるまで一緒の部屋で寝ようか」
「ん」
「ところで、そろそろ名前だけでも教えてくれないかな」
毛布にくるまった彼女は保護したときから今まで毛布から出てこようとせず、テビスによれば食事も摂っていないそうだ。
そしてまともな会話をしたのも、このときが初めて。
心を開いてくれたと見て、思い切って名前を聞いてみた。
「なまえ、ない。リョーバ、きめて」
なんと名無しだった。
「ええーっとぉ……?」
誰かの名前を決めたことなんて記憶にない。記憶を失う前にもなかったんじゃないかな。
こういう時ってどういうふうに決めればいいんだろう。
テビスに相談したいが、あれでも王様だから割りと忙しいのだ。多分。
「どんな名前がいい?」
一か八か、本人に聞いてみた。
「リョーバ、みたいな、つよそうなの」
「うーん??」
強そうと言われても……余計に困った。
「ちゃんと顔見せてくれる? そしたら思い浮かぶかも」
彼女はしばらくもじもじした後、毛布を首の下に巻いたまま、すっくと立ち上がった。
僕はどうやら背の高い方らしいが、それを差し引いても彼女はかなり小さい。僕の腰のあたりに目線がある。
つまり、僕からは彼女の頭の天辺が見える。
ワインのような赤い髪は傷んでボサボサだが、彼女の腰まで伸びていて、ちゃんと手入れすればとても綺麗だろうなと想像できる。
赤くて煌めくもの……。
「ルビー……は、単純すぎるかな」
僕が彼女の名を決めた瞬間だった。
「! ルビー! わたし、ルビー!」
ルビーは目をキラキラと輝かせて、何度もルビーと連呼した。興奮したのか毛布を掴んでいた手が緩み、毛布が床に落ちて、ルビーの全身をあらわにした。
ボロボロの薄布の服の下はどうやら抜群のスタイルをお持ちのようで、目の遣り場に困る。
僕は掌をルビーに向けて、質素な白いワンピースを着せた。
「勝手に服着せてごめんね。名前、気に入ってくれたの?」
「うん、わたし、ルビー! ふくも、きにいった!」
「ならよかった。改めてよろしく、ルビー」
「よろしく、リョーバ!」
本人が気に入ったのならいいか。
セリステリア国は魔王討伐の報酬こそ半銅貨一枚も渡さなかったが、僕の手元には物がいくらでも入る魔法の鞄と、目的地まで完璧にナビしてくれる魔法の地図が残っている。
特に鞄の方は、生ものを入れても腐らないため食料保管庫代わりに使える。
今なら魔法で同等以上の品が作れるが、返せと言われてないので、このまま使わせてもらうことにした。
家をあらかた作り上げると、腹の虫が騒ぎ出した。
インフィニオルで朝食を食べてはきたが、魔力を割と使ったので食事が必要だ。
鞄の中には、テビスが大量の食料を詰め込んでくれた。
早速、すぐに食べられるパンや果物を取り出した。
「ルビーは好きな食べ物とかある?」
テーブルにつくと、ルビーは向かい側に置いた椅子をわざわざ僕の隣に持ってきて、ちょこんと座った。
「すき、たべもの? ない、わからない」
椅子とテーブルは僕の身体に合うように作ってしまったから、ルビーには高すぎて、足をぶらぶらさせている。椅子の方に足掛けをつくって高くし、調整してやった。
そうするとちょうどルビーの眼の前にパンや果物があるのだが、全く興味を示さない。
「あの城ではなにを食べてたの?」
「まりょく」
「魔力?」
「まりょく。リョーバ、いっぱいある」
「ああ、まぁそうだね。魔力ってどうやって食べるの?」
「いきをすると、はいってくる」
「へぇ……」
背中の翼といい、雰囲気といい、明らかに人間とは違う上に、食事まで概念が違う。
ルビーは一体何者なのだろう。
「テビスのところではなにを食べた?」
「この、ちゃいろいのに、にたやつ、くちにいれられた。ぺってした」
ルビーが指さしたのは、パンだ。
テビスが何も食べようとしないルビーに手を焼いている様子を思い浮かべると、ちょっと笑える。
「今、お腹空いてない?」
「リョーバのまりょく、いっぱいある。おなかいつもいっぱい」
いつのまにか魔力を吸われてたらしい。が、僕には何の変化もない。
「……具合が悪くなったらちゃんと教えてね」
「うん? うん」
パンや果物を勧めてみたが、やはりルビーは何も食べなかった。
「さてと次は……畑の準備をするか」
魔法でほぼなんでも作り出せるが、食料だけはそうはいかない。
自分の魔力でできたものを自分で食べたところで、お腹は膨れないのだ。
しかし、取っ掛かりだけは作ることができる。しかも、かなり便利な形で。
「ルビーは気になる食べ物……は、なさそうだな。花とか木とか、興味ない?」
「ない」
外へ出た僕に当然のようについてくるルビーに尋ねてみたが、ばっさり切り捨てられた。
「わかってたよ……。じゃあ、とりあえずこの辺りの緑を復活させてみるか。よっ!」
魔力を解き放って、荒野の土に干渉する。
表面は焼け焦げているが、土の中には元々ここに植生していた植物の根や種、枝葉の一部が残っているはずだ。
それを取り出して、そこから直接芽吹かせたり、組織をつなぎ合わせて仮の種を組み上げる。
更に、僕の魔力で成長を促してやると……。
「わあ……」
ルビーが感嘆の声をあげる。
僕たちの周辺は見渡す限り、瑞々しい草木で覆われた。
「みどり、きれい、きれい!」
ルビーが草の上を裸足で――そういえば靴履かせてなかったが、後でいいか――駆け回る。
「あんまり走ると、危なっ!」
草の水分で滑ったのだろう。見事に転倒しそうになったルビーを魔法で受け止め、その場に座らせた。
「ありがと、リョーバ」
「どういたしまして。気をつけてくれよ」
駆け寄って、念のために怪我の有無を調べるが、なんともなさそうだ。その場で靴を魔法で創って履かせた。
「さすがに都合よく畑だった土地は無いか。でもま、これだけ生えてれば食べられる植物くらい見つかるだろ」
改めてあたりを見渡すと、道や建物だったところには何も生えていない。
かといって建物跡が密集しているわけではない。
町と町をつなぐ街道沿いの土地といったところか。
「うん、順調じゃないか。じゃあ次は耕すか」
家から少し離れた場所を広めに柵で囲い、その場の地面を掘り起こしてから耕した。
人力でやろうとしたら何日もかかる作業だが、魔法を使えば一瞬だ。
「どうしてセリステリアでは魔力をこういうふうに使おうとすらしなかったんだろうなぁ」
あの国では、水汲みから排泄物の処理まで、全て人の手で行われていた。
もっと言えば、城の人たちは下働きの人たちを使ってやらせていた。
魔道士が魔物を作ったと聞いたあとでも、魔力はもっと便利なものなのだからこう使えばいいのに、と思ってしまう。
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