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2 魔族の王と元勇者
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「リョーバです」
「セリステリアから来たそうだな」
「はい」
「なにしに来た?」
「魔王を倒すために旅をしています」
玉座の間には他にも沢山の人が居て、僕の発言にざわめいたが、玉座の男が片手を上げるとすぐに静まり返った。
「ふむ……詳しく話そうか。おい、リョーバの拘束を解け。心配いらぬ。もしこやつが悪であったなら、そなたらはとうに命など無いぞ」
玉座の男の一言で、僕は拘束を解かれ、更に別の部屋に案内された。
男はテネビリス・リエクサ・インフィニオルと名乗った。
「魔族の国、インフィニオルの王をしておる。人間には魔物の王のほうの魔王と勘違いされることもあるから、警戒したのだ。すまなかった」
テネビリスは最初にこう言って頭を下げてきた。
部屋には僕とテネビリスしかいない。テネビリスが「心配無用」といって、人払いしてしまったのだ。
「僕も勘違いしそうになりましたし、気にしないでください」
「そうか、お主は心が広いな。……リョーバと呼んでも構わないか? 偽名ではあるまいな」
「本名です。フルネームは、涌良涼葉」
久しぶりにフルネームを名乗った。玉座の間では名だけ告げたが、テネビリスがフルネームを名乗ってくれたから、僕もそうしたい気分だったのだ。
「その名は、異世界の者か」
テネビリスがずばり当ててくる。
「はい」
「ああ、楽にして良いぞ。いつもの口調で構わん。堅苦しいのは苦手でな。俺のことはテビスと呼べ。こちらもそなたのことをリョーバと呼ぶ」
「えっと、うん、わかった、テビス」
「リョーバはセリステリアから魔王を倒すためにここまで旅してきたということだったな。魔王や魔物について、あの国の連中は何と言っていた?」
テビスは銀色の瞳で僕を見つめながら、真っ直ぐ問うてきた。
「人間の敵」
「間違ってはおらぬが、魔物がどこから来たかについては?」
僕は言葉に詰まった。
そういえば、魔物の生態について全くの無知だ。
「知らない」
「あの連中が言うはずがないか。魔物はな、あの国の魔道士が創り出してしまったものだ」
モヤモヤしていたものが、ぱちりとはまった。
「あー、そういうことか」
「なんだ、驚かぬのか」
「旅の途中で他の人……人間に会って、ちらちら話を聞いてきたからね」
「なるほど。で、そなたは尻拭いのために異世界から誘拐されたわけだ。さあ、どうだ?」
「どう、って?」
「まだ魔王を倒す気でおるか?」
僕が考えこんだのは数秒だった。
「うーん、他にやることないし、魔物や魔王が人間を脅かすんなら僕も困るし」
異世界から召喚という名目で誘拐されたらしい僕は、前の世界でどう暮らしていたかの記憶がない。そしてなんとなく、前の世界に帰ることはできないのだろうと悟っている。だったら、永住するこの世界が少しでも安全になれば良い。そういう結論になった。
「ふっふふふ、豪胆よのう」
テビスは僕の答えを聞くと、何故かしばらく肩を震わせて笑った。
「潮時ではあるからな。魔王討伐、協力しよう」
「え?」
唐突な申し出だった。
「リョーバは大変強いが、魔王もそこそこ強い。苦戦するだろうから力を貸すと言っている」
「その、玉座の間でも僕の力を見抜いてたみたいだけど、どうやったの?」
「見ればわかる。俺も相当強いからな」
僕には他人の強さなんて、見ただけじゃわからない。ただ、テビスは自信たっぷりだし、嘘をついているようには見えなかった。
「で、でも……」
「魔王討伐に仲間を増やしてはならないと言われたか?」
「言われてない」
「ならば良いではないか。流石に明日すぐというわけにはいかぬが、三日以内には出発しようぞ」
「ん? テビスが着いてくるみたいに聞こえるんだけど」
「そうだぞ、俺が着いていく」
「テビス、王様なんだよね!?」
「だからこそよ。魔族は魔物なんぞに遅れはとらんが、これ以上人間が少なくなるのは困るでな」
テビスが手を二度打ち鳴らすと、扉から魔族が何人か入ってきた。
「余は勇者リョーバと共に、魔物の王を討ってくる」
魔族の人たちがいくら止めてもテビスは聞かなかった。
僕は三日後、魔族王テビスを仲間にして、魔王討伐の旅を再開した。
そして更に三日後、僕はテビスと協力して、魔王を討伐したのだった。
帰りはインフィニオル国でテビスと別れてから、セリステリア国へ戻った。
インフィニオル国で過ごした三日間と、魔王討伐までの三日間の計六日間で、僕はテビスから攻撃以外の魔法をたくさん教えてもらった。
その中の一つに、転移魔法があった。知っている場所まで瞬間移動できるやつだ。
転移魔法のお陰で、魔王の住処まで約半年も掛かったのに、帰りは一瞬で済んだ。
城へ到着して魔王討伐を報告すると、国王陛下から「ご苦労だった」と一言だけ労いの言葉をかけられた。
そういえば、魔王を倒した場合の報酬や褒美の話は一切してなかった。
陛下以外の人たちも、僕が魔王を倒すのは当然であるという顔をしている。
「では次は、魔物をのさばらせた原因であるインフィニオル国の王の首をとってまいれ」
仕事が一つ終わったのなら、次の仕事がある。これも当然の話だ。
陛下は仕事が終わった僕へ次の仕事を命じた。
仕事ならば給料や報酬が出るはずなのに、その話はやはり無い。
僕は陛下――もうこの国には仕えないから、陛下じゃないか。セリステリアの王に向かって、はっきり告げた。
「お断りします」
こうして僕は、勇者の称号を剥奪され、国外追放を命じられたのだった。
◇
「報酬もないと。いくらなんでもそれは……俺が攻め入って金品ぶんどってこようか?」
国外追放を命じられた僕は、そのまま玉座の間から転移魔法でインフィニオル国へ舞い戻った。
城門を顔パスで通って城へ入れば、お城の兵士さんがさくっとテビスのところへ案内してくれる。
そこで、セリステリアでのやりとりを話したら、テビスが物騒な提案をしてきたところだ。
「やめてあげて。せっかく僕が壊さずに置いといたんだから」
初めてテビスと会った時、テビスは僕が相当強いと見抜いた。
しかし、僕はテビスの想像以上にも強かったのだ。
はっきり言って、魔王は僕一人で簡単に討伐できた。
僕はわざと自分の力を抑えて出力して周辺への被害を最小限に抑え、足りない部分や危うい部分をテビスにフォローしてもらった。協力とは、そういう意味だ。
「気が変わったらいつでも言え。物理的な破壊でない方法もあるからな」
魔族は人間から見たら、言い方は悪いが大体悪人面だ。
その王であるテビスがクックックと嗤うと、背筋が凍える。
「してこれから先は、話していたとおりにするか」
「そのつもりだよ」
実はここまでの流れは、テビスが予想していた。
報酬ゼロは想定外だったが、僕はこうなったらこうする、と決めていたことがある。
魔物に荒らされた土地は、既に誰のものでもなくなっている。
その土地に家を建てたり、畑として耕したりしても、誰も文句は言えない。
魔王を倒してしまったし、原因も綺麗に掃除してきたから、もう魔物に脅かされることはない。
僕の前の世界の記憶はまだ戻らないが、旅の途中で家を見るたびに、心の奥底からある欲求が湧き出ていた。
「大きな家を建てて、できるだけ自給自足して、ゆっくりのんびり過ごすんだ」
おそらく前の世界では自分の家を持つことが夢だったのだろう。
余り放題の土地に、僕の魔力があれば、できないことはない。
「で、アレはどうする?」
今いるのは、テビスの私室だ。
一国の主に相応しい内装と調度品が並び、隅々まで従者による掃除が行き届いている。
そんな部屋の隅に目をやると、そこには綺麗な部屋に不釣り合いな、古ぼけた毛布がある。
僕が寝床に使っていた毛布だ。
毛布は、子供一人分くらいの大きさに盛り上がっている。
中に入っているのは、僕とテビスが魔王城で見つけた少女だ。
「連れて行くよ。放っておけない」
「そうしろ。今後、困ったことがあればなんでも遠慮なく言え」
「ありがとう、テビス」
立ち上がり、毛布に近づいて、声を掛けてみる。
「聞こえてた? これから僕は荒野に家を建てて暮らすつもりなんだ。一緒に暮らさない?」
毛布がもぞり、と動く。
これは肯定の動きだ。
僕の転移魔法は他人を一緒に運ぶことができる。
なんとなく悪い予感がしたので、少女をセリステリアまで連れて行かず、テビスに預かってもらったのだ。
もしセリステリアで追放されず、ことが穏便に済んだら、彼女を迎えに来るつもりでいた。
「この子の面倒を見てくれてありがとう」
「面倒というほどのことはしとらん」
テビスに再びお礼を言うと、テビスは面倒くさそうに手を振った。照れている。
僕は少女を毛布ごと小脇に抱えると、転移魔法を使った。
「セリステリアから来たそうだな」
「はい」
「なにしに来た?」
「魔王を倒すために旅をしています」
玉座の間には他にも沢山の人が居て、僕の発言にざわめいたが、玉座の男が片手を上げるとすぐに静まり返った。
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久しぶりにフルネームを名乗った。玉座の間では名だけ告げたが、テネビリスがフルネームを名乗ってくれたから、僕もそうしたい気分だったのだ。
「その名は、異世界の者か」
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「はい」
「ああ、楽にして良いぞ。いつもの口調で構わん。堅苦しいのは苦手でな。俺のことはテビスと呼べ。こちらもそなたのことをリョーバと呼ぶ」
「えっと、うん、わかった、テビス」
「リョーバはセリステリアから魔王を倒すためにここまで旅してきたということだったな。魔王や魔物について、あの国の連中は何と言っていた?」
テビスは銀色の瞳で僕を見つめながら、真っ直ぐ問うてきた。
「人間の敵」
「間違ってはおらぬが、魔物がどこから来たかについては?」
僕は言葉に詰まった。
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「知らない」
「あの連中が言うはずがないか。魔物はな、あの国の魔道士が創り出してしまったものだ」
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「なんだ、驚かぬのか」
「旅の途中で他の人……人間に会って、ちらちら話を聞いてきたからね」
「なるほど。で、そなたは尻拭いのために異世界から誘拐されたわけだ。さあ、どうだ?」
「どう、って?」
「まだ魔王を倒す気でおるか?」
僕が考えこんだのは数秒だった。
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「ふっふふふ、豪胆よのう」
テビスは僕の答えを聞くと、何故かしばらく肩を震わせて笑った。
「潮時ではあるからな。魔王討伐、協力しよう」
「え?」
唐突な申し出だった。
「リョーバは大変強いが、魔王もそこそこ強い。苦戦するだろうから力を貸すと言っている」
「その、玉座の間でも僕の力を見抜いてたみたいだけど、どうやったの?」
「見ればわかる。俺も相当強いからな」
僕には他人の強さなんて、見ただけじゃわからない。ただ、テビスは自信たっぷりだし、嘘をついているようには見えなかった。
「で、でも……」
「魔王討伐に仲間を増やしてはならないと言われたか?」
「言われてない」
「ならば良いではないか。流石に明日すぐというわけにはいかぬが、三日以内には出発しようぞ」
「ん? テビスが着いてくるみたいに聞こえるんだけど」
「そうだぞ、俺が着いていく」
「テビス、王様なんだよね!?」
「だからこそよ。魔族は魔物なんぞに遅れはとらんが、これ以上人間が少なくなるのは困るでな」
テビスが手を二度打ち鳴らすと、扉から魔族が何人か入ってきた。
「余は勇者リョーバと共に、魔物の王を討ってくる」
魔族の人たちがいくら止めてもテビスは聞かなかった。
僕は三日後、魔族王テビスを仲間にして、魔王討伐の旅を再開した。
そして更に三日後、僕はテビスと協力して、魔王を討伐したのだった。
帰りはインフィニオル国でテビスと別れてから、セリステリア国へ戻った。
インフィニオル国で過ごした三日間と、魔王討伐までの三日間の計六日間で、僕はテビスから攻撃以外の魔法をたくさん教えてもらった。
その中の一つに、転移魔法があった。知っている場所まで瞬間移動できるやつだ。
転移魔法のお陰で、魔王の住処まで約半年も掛かったのに、帰りは一瞬で済んだ。
城へ到着して魔王討伐を報告すると、国王陛下から「ご苦労だった」と一言だけ労いの言葉をかけられた。
そういえば、魔王を倒した場合の報酬や褒美の話は一切してなかった。
陛下以外の人たちも、僕が魔王を倒すのは当然であるという顔をしている。
「では次は、魔物をのさばらせた原因であるインフィニオル国の王の首をとってまいれ」
仕事が一つ終わったのなら、次の仕事がある。これも当然の話だ。
陛下は仕事が終わった僕へ次の仕事を命じた。
仕事ならば給料や報酬が出るはずなのに、その話はやはり無い。
僕は陛下――もうこの国には仕えないから、陛下じゃないか。セリステリアの王に向かって、はっきり告げた。
「お断りします」
こうして僕は、勇者の称号を剥奪され、国外追放を命じられたのだった。
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「報酬もないと。いくらなんでもそれは……俺が攻め入って金品ぶんどってこようか?」
国外追放を命じられた僕は、そのまま玉座の間から転移魔法でインフィニオル国へ舞い戻った。
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しかし、僕はテビスの想像以上にも強かったのだ。
はっきり言って、魔王は僕一人で簡単に討伐できた。
僕はわざと自分の力を抑えて出力して周辺への被害を最小限に抑え、足りない部分や危うい部分をテビスにフォローしてもらった。協力とは、そういう意味だ。
「気が変わったらいつでも言え。物理的な破壊でない方法もあるからな」
魔族は人間から見たら、言い方は悪いが大体悪人面だ。
その王であるテビスがクックックと嗤うと、背筋が凍える。
「してこれから先は、話していたとおりにするか」
「そのつもりだよ」
実はここまでの流れは、テビスが予想していた。
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その土地に家を建てたり、畑として耕したりしても、誰も文句は言えない。
魔王を倒してしまったし、原因も綺麗に掃除してきたから、もう魔物に脅かされることはない。
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「大きな家を建てて、できるだけ自給自足して、ゆっくりのんびり過ごすんだ」
おそらく前の世界では自分の家を持つことが夢だったのだろう。
余り放題の土地に、僕の魔力があれば、できないことはない。
「で、アレはどうする?」
今いるのは、テビスの私室だ。
一国の主に相応しい内装と調度品が並び、隅々まで従者による掃除が行き届いている。
そんな部屋の隅に目をやると、そこには綺麗な部屋に不釣り合いな、古ぼけた毛布がある。
僕が寝床に使っていた毛布だ。
毛布は、子供一人分くらいの大きさに盛り上がっている。
中に入っているのは、僕とテビスが魔王城で見つけた少女だ。
「連れて行くよ。放っておけない」
「そうしろ。今後、困ったことがあればなんでも遠慮なく言え」
「ありがとう、テビス」
立ち上がり、毛布に近づいて、声を掛けてみる。
「聞こえてた? これから僕は荒野に家を建てて暮らすつもりなんだ。一緒に暮らさない?」
毛布がもぞり、と動く。
これは肯定の動きだ。
僕の転移魔法は他人を一緒に運ぶことができる。
なんとなく悪い予感がしたので、少女をセリステリアまで連れて行かず、テビスに預かってもらったのだ。
もしセリステリアで追放されず、ことが穏便に済んだら、彼女を迎えに来るつもりでいた。
「この子の面倒を見てくれてありがとう」
「面倒というほどのことはしとらん」
テビスに再びお礼を言うと、テビスは面倒くさそうに手を振った。照れている。
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