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第四章
10 対決、決着
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不東は剣を止められて、片眉を上げた。
「なんだ、ちょっとはやれるようになったか」
相変わらずの上から目線だ。
更に力を込めて両手で剣を押しているが、僕は片手で握った剣に軽く力を入れるだけでよかった。
不東に[鑑定]スキルを使うと、レベルが99に達しているのが見えた。
あと「莫人」っていう種族になってた。
なんだこれ。
[莫人]
卑劣な手段で経験値を稼いだ愚か者。レベルが最高値の99に達した後、徐々に弱くなる。
「なんだこれ」
思わず口から出た。
「はぁ?……力は強くなったなっ!」
動かない僕に焦れたのか、剣を弾こうとしてそれすらできないことにようやく気づかれた。
「不東、お前の種族の『莫人』だけど……」
不東は[鑑定]を持っていない。教えてやろうとしたが、再び剣を振り上げて迫ってきた。
「話、聞けって」
再び剣で受けて、今度は僕から弾いた。蹌踉めいた不東の手を突いて剣を取り落とさせ、うつ伏せで倒れた背中を左足で踏みつけた。
「うぐっ!? な、なんで横伏なんかにっ」
「お前の種族、やばいぞ」
鑑定結果を伝えてやると、足元の不東は見る見る青ざめた。
「徐々に、弱くなる……?」
僕を囮にしたり、ジストを何度も殺したり、城の兵士やこの屋敷の住人を手に掛けたり。
本人でない僕にも、思い当たるフシはいくつもある。
この世界のレベリングは、そんなに甘くなかったというわけだ。
足を一旦上げて、起き上がろうとしたところを蹴りつけた。
「あがっ!」
「立て」
声に魔力を込める。不東は不自然な動きで起き上がり、両足で立った。脇腹を手で押さえている。
「う、うう、くそ」
不東が呻いている間に落ちていた剣を蹴り上げて柄を手に取り、不東に投げ渡した。
「お前らに捨てられてから、僕は弓使いになった」
突然の自分語りを、無理やり聞いてもらう。
「だけど今ここで弓を使うつもりはない。お前の得意な剣で相手してやるよ。本気でかかってこい」
不本意だが、治癒魔法を使ってやった。
完璧に心を折るために、完璧な状態で倒してやるのだ。
魔力による静止を解除した後、剣を緩く構える。
傷の治った不東は、笑いだした。
「ハハハハハ! 莫人の話は嘘だろう! オレが弱くなるわけがない! 今だって傷がすぐに」
「僕が治癒魔法使ったんだよ」
どうやったら勘違いできるんだ。
「お前が魔法使えるわけないだろう!」
あ、そっか。不東は僕が魔法使えない時期しか知らないのか。
……いやいや、だとしても自力で傷が癒せないのに、莫人だから治ったって思考はおめでた過ぎるでしょう。
無策で突っ込んできた不東の剣を、軽くいなす。
不東の剣は高価そうな絨毯を切り裂き、床に刺さった。
が、すぐに引っこ抜いて、今度は横薙ぎに払ってくる。
剣の腹を腕で支えて止めて、あっさり押し返した。
レベルとスキルに頼った強さしか持たない不東は、体幹が鍛えられておらず、足腰が弱い。簡単に身体がぐらつく。
それにしたって弱すぎる。
イネアルさんの助言に従い、冒険者ギルドで何人かをこっそり[鑑定]で見たことがある。
[能力補正]や[魔力]系を持っている人は稀で、ランクB以上に数人いた程度だ。
スキルがあるからランクBになったのではなく、ランクBへ至るまでに努力を重ねた人が持っていたように思う。
不東の剣を軽くさばきながら、[全能力補正]と[達人]を鑑定してみた。
[全能力補正]
異世界から召喚された者のみが持つことができる。基礎身体能力が著しく貧弱なため、それを補う。
[達人]
異世界から召喚された者のみが持つことができる。基礎運動能力が著しく貧弱なため、それを補う。
ええ……。
「なあ不東……」
こいつだけは赦してはいけない。優しさを向ける価値はない。解っていても、これは本人に伝えるべきだろう。
「くそっ、くそっ、どうして当たらない!? どうして殺せない!」
不東は必死で、聞く耳は持たないようだ。
やっぱり教えなくてもいいか。
不東の剣を再び弾き飛ばし、柄で頭を殴ってその場に倒した。
「うげっ」
腹を踏んで、ゆっくり力を込める。
「ぐ、苦じい! や、やめ……」
不東の唇の端から、血の混じった泡が溢れてくる。
何人も殺してきたくせに、自分自身の苦痛は嫌がるんだな。
「たす、けろ、アジャイル!」
アジャイルはタイヴェが相手している。不東も気配を追えていたはずだが、それすらできなくなったのだろうか。
「やめ……オレ、が……こん……」
喉に何か詰まったのか、呼吸音が細くなってきた。
足をどけてやり、また治癒魔法。
「……はっ?」
今度は自力じゃないと自覚したようだ。
最初にいた部屋から、僕たちのいる廊下へ何かが飛び出してきた。
「ごめん、止めきれなかった!」
少年の声が僕の脳内に直接こだまする。
見えない気配は僕と不東の前に割り込み、見えないが明らかに僕を睨みつけてきた。
「こやつは妾のもの。お主にはやらぬ!」
なにかされる前にと展開した防御結界が奏功し、屋敷の家具や壁がバキバキと音を立てて壊れ、砕けて辺りに散らかったが、僕は無傷だ。
「僕はもう限界だ。手を出してしまったからね」
タイヴェと名乗った少年の声が、小さくなっていく。
「でもだいぶ削った。悪いけど、あとは任せる」
タイヴェは何かをやりきったように満足げだ。
「ありがとう、ヨイチ。君のお陰で、僕は望む形になれそうだ」
その言葉を最後に、タイヴェの気配は完全に消え失せてしまった。
「ふん。先に逝きよったか。身勝手なガキじゃ」
顔も知らない少年だったが、僕が目の前に姿を現した老婆へ憎悪を向けるのには十分だ。
「僕はお前の始末をつけてくれと、エルドに頼まれている」
不東とやりあっている最中は完全に抑えていた魔力を解き放つ。
「ひっ!?」
魔力に怯えたのか、僕が全力じゃなかったことに気付いたのか、不東が怯えて後退った。
「むぅ、これは魔力そのものか? なんという……」
アジャイルは怯えではなく、純粋な好奇心で僕に問いかけてくる。恍惚とした表情で、魔力を隅から隅まで見られている感覚が気色悪い。
エルドの話の通りだ。
アジャイルが気を取られている間に、魔力の檻でアジャイルを捕らえ、閉じ込めた。
「しまった!」
「エルド!」
エルドから貰った石に話しかけると、すぐにエルドが音もなく現れた。
「よくやってくれた、ヨイチ。あとは任せてくれ」
「ディヘイエルド、貴様の差し金じゃったか」
アジャイルは檻から出ようと、魔法をぶつけている。勿論そのくらいで壊れるような檻じゃない。
僕は先日、エルドに「アジャイルを滅してくれ」と頼まれた。
しかし、「できることなら生きたまま俺に引き渡してほしい」とも付け加えられた。
このまま檻を狭めて潰せば、アジャイルを滅することもできる。
僕は、エルドに引き渡す方を選んだ。
魔力の所有権をエルドに引き渡すと、エルドはその檻を極限まで狭めた。
「い、いいのか!? 妾を潰せばそこの人間の命も……」
「構わないよ。どうせここで終わらせるつもりだから」
「なんじゃと!?」
驚かれた。今までのやりとりで、僕と不東が仲間じゃないことくらい分かるだろうに。
それとも僕が、目の前の命は例え敵であっても救いそうな人間にでも見えたのかな。
不東は敵じゃない。
害悪だ。
人殺しに関する罪が比較的ぬるいこの世界の法にかけても、死刑は免れないだろう。
ただ死なせるだけでは不東の手にかかった人たちが浮かばれないほどのことをしてきている。
「この礼は後日必ず」
「気にしなくていいよ」
「俺の気が済まん。では、またな」
エルドが、まだなにか喚いているアジャイルと共に消え去ると、不東がその場に仰向けに倒れて動かなくなった。
アジャイルと何らかのやりとりをして、力を貰っていたのだろう。それが急になくなり、今は立つことも出来ない様子だ。
「不東」
すぐ横に立ち、声をかけてみる。全く反応はないが、生きている。
だが、ちゃんと自分の身に何が起きるのか、知ってもらわないと困る。
何度目かの治癒魔法を不東に使い、ついでに足りなさすぎる魔力も補ってやった。
「……ん? なんだこりゃ、動けねぇ」
土魔法で生やした蔦で、身体の自由は奪ってある。
「今からお前の魔力の流れを壊す。二度と治らない。その体で、死ぬまで生きろ」
以前、『亜院』にやったものと同じやつだ。今度は徹底的に、慈悲なく、誰にも治せないほど壊す。
僕の言葉を徐々に理解した不東の顔色が、青を通り越して土気色になっていく。
「な、なあ横伏、ヨコっち、仲間だったじゃん? ちょっといじめたのは悪かったよ、謝るからさ、な?」
[魔眼]を発動させて、不東の体内魔力の流れを視る。
最強だと思っていたスキルが只の底上げ用で、弱体化する種族になってしまった奴だ。魔力量は今まで視てきた誰よりも少なく、弱い。
直接触れたくないから、剣の切っ先を心臓のあたりに近づける。不東は「ヒッ!」と空気を飲むような悲鳴を上げた。
剣伝いに僕の魔力を不東に通し、魔力の流れを引き出す。
「!? 痛、痛ってえええええ!!」
声が大きい。ずっと後ろで控えていたヒイロに、不東の顔の周りに遮音の結界を頼んだ。
僕の方は続けて、魔力の流れを掻き出し、端から乱暴に引き千切った。
不東の顔面はぐちゃぐちゃで、顎が外れるのではと心配になるくらい大口を上げて叫んでいる。何も聞こえないが。
亜院のときは、これをやった後寝込んだっけな。今回は魔力全てを完璧に断ち切ろうとしているわけだから、僕の方も少々疲れてきた。
「主様、失礼します」
人質の避難と後処理を終えたモモが、僕の横に転移魔法で現れた。
僕を見るなり、肩に手を置いて魔力を分けてくれた。
「助かる。でも、もう大丈夫」
前回に比べて大変だとはいえ、今の僕は魔力量も大幅に増えている。
モモの魔力も加わったお陰で、この後倒れることもないだろう。
最後に一番太い魔力の流れをぶちん、と引きちぎると、不東は白目を剥いて意識を失った。
「なんだ、ちょっとはやれるようになったか」
相変わらずの上から目線だ。
更に力を込めて両手で剣を押しているが、僕は片手で握った剣に軽く力を入れるだけでよかった。
不東に[鑑定]スキルを使うと、レベルが99に達しているのが見えた。
あと「莫人」っていう種族になってた。
なんだこれ。
[莫人]
卑劣な手段で経験値を稼いだ愚か者。レベルが最高値の99に達した後、徐々に弱くなる。
「なんだこれ」
思わず口から出た。
「はぁ?……力は強くなったなっ!」
動かない僕に焦れたのか、剣を弾こうとしてそれすらできないことにようやく気づかれた。
「不東、お前の種族の『莫人』だけど……」
不東は[鑑定]を持っていない。教えてやろうとしたが、再び剣を振り上げて迫ってきた。
「話、聞けって」
再び剣で受けて、今度は僕から弾いた。蹌踉めいた不東の手を突いて剣を取り落とさせ、うつ伏せで倒れた背中を左足で踏みつけた。
「うぐっ!? な、なんで横伏なんかにっ」
「お前の種族、やばいぞ」
鑑定結果を伝えてやると、足元の不東は見る見る青ざめた。
「徐々に、弱くなる……?」
僕を囮にしたり、ジストを何度も殺したり、城の兵士やこの屋敷の住人を手に掛けたり。
本人でない僕にも、思い当たるフシはいくつもある。
この世界のレベリングは、そんなに甘くなかったというわけだ。
足を一旦上げて、起き上がろうとしたところを蹴りつけた。
「あがっ!」
「立て」
声に魔力を込める。不東は不自然な動きで起き上がり、両足で立った。脇腹を手で押さえている。
「う、うう、くそ」
不東が呻いている間に落ちていた剣を蹴り上げて柄を手に取り、不東に投げ渡した。
「お前らに捨てられてから、僕は弓使いになった」
突然の自分語りを、無理やり聞いてもらう。
「だけど今ここで弓を使うつもりはない。お前の得意な剣で相手してやるよ。本気でかかってこい」
不本意だが、治癒魔法を使ってやった。
完璧に心を折るために、完璧な状態で倒してやるのだ。
魔力による静止を解除した後、剣を緩く構える。
傷の治った不東は、笑いだした。
「ハハハハハ! 莫人の話は嘘だろう! オレが弱くなるわけがない! 今だって傷がすぐに」
「僕が治癒魔法使ったんだよ」
どうやったら勘違いできるんだ。
「お前が魔法使えるわけないだろう!」
あ、そっか。不東は僕が魔法使えない時期しか知らないのか。
……いやいや、だとしても自力で傷が癒せないのに、莫人だから治ったって思考はおめでた過ぎるでしょう。
無策で突っ込んできた不東の剣を、軽くいなす。
不東の剣は高価そうな絨毯を切り裂き、床に刺さった。
が、すぐに引っこ抜いて、今度は横薙ぎに払ってくる。
剣の腹を腕で支えて止めて、あっさり押し返した。
レベルとスキルに頼った強さしか持たない不東は、体幹が鍛えられておらず、足腰が弱い。簡単に身体がぐらつく。
それにしたって弱すぎる。
イネアルさんの助言に従い、冒険者ギルドで何人かをこっそり[鑑定]で見たことがある。
[能力補正]や[魔力]系を持っている人は稀で、ランクB以上に数人いた程度だ。
スキルがあるからランクBになったのではなく、ランクBへ至るまでに努力を重ねた人が持っていたように思う。
不東の剣を軽くさばきながら、[全能力補正]と[達人]を鑑定してみた。
[全能力補正]
異世界から召喚された者のみが持つことができる。基礎身体能力が著しく貧弱なため、それを補う。
[達人]
異世界から召喚された者のみが持つことができる。基礎運動能力が著しく貧弱なため、それを補う。
ええ……。
「なあ不東……」
こいつだけは赦してはいけない。優しさを向ける価値はない。解っていても、これは本人に伝えるべきだろう。
「くそっ、くそっ、どうして当たらない!? どうして殺せない!」
不東は必死で、聞く耳は持たないようだ。
やっぱり教えなくてもいいか。
不東の剣を再び弾き飛ばし、柄で頭を殴ってその場に倒した。
「うげっ」
腹を踏んで、ゆっくり力を込める。
「ぐ、苦じい! や、やめ……」
不東の唇の端から、血の混じった泡が溢れてくる。
何人も殺してきたくせに、自分自身の苦痛は嫌がるんだな。
「たす、けろ、アジャイル!」
アジャイルはタイヴェが相手している。不東も気配を追えていたはずだが、それすらできなくなったのだろうか。
「やめ……オレ、が……こん……」
喉に何か詰まったのか、呼吸音が細くなってきた。
足をどけてやり、また治癒魔法。
「……はっ?」
今度は自力じゃないと自覚したようだ。
最初にいた部屋から、僕たちのいる廊下へ何かが飛び出してきた。
「ごめん、止めきれなかった!」
少年の声が僕の脳内に直接こだまする。
見えない気配は僕と不東の前に割り込み、見えないが明らかに僕を睨みつけてきた。
「こやつは妾のもの。お主にはやらぬ!」
なにかされる前にと展開した防御結界が奏功し、屋敷の家具や壁がバキバキと音を立てて壊れ、砕けて辺りに散らかったが、僕は無傷だ。
「僕はもう限界だ。手を出してしまったからね」
タイヴェと名乗った少年の声が、小さくなっていく。
「でもだいぶ削った。悪いけど、あとは任せる」
タイヴェは何かをやりきったように満足げだ。
「ありがとう、ヨイチ。君のお陰で、僕は望む形になれそうだ」
その言葉を最後に、タイヴェの気配は完全に消え失せてしまった。
「ふん。先に逝きよったか。身勝手なガキじゃ」
顔も知らない少年だったが、僕が目の前に姿を現した老婆へ憎悪を向けるのには十分だ。
「僕はお前の始末をつけてくれと、エルドに頼まれている」
不東とやりあっている最中は完全に抑えていた魔力を解き放つ。
「ひっ!?」
魔力に怯えたのか、僕が全力じゃなかったことに気付いたのか、不東が怯えて後退った。
「むぅ、これは魔力そのものか? なんという……」
アジャイルは怯えではなく、純粋な好奇心で僕に問いかけてくる。恍惚とした表情で、魔力を隅から隅まで見られている感覚が気色悪い。
エルドの話の通りだ。
アジャイルが気を取られている間に、魔力の檻でアジャイルを捕らえ、閉じ込めた。
「しまった!」
「エルド!」
エルドから貰った石に話しかけると、すぐにエルドが音もなく現れた。
「よくやってくれた、ヨイチ。あとは任せてくれ」
「ディヘイエルド、貴様の差し金じゃったか」
アジャイルは檻から出ようと、魔法をぶつけている。勿論そのくらいで壊れるような檻じゃない。
僕は先日、エルドに「アジャイルを滅してくれ」と頼まれた。
しかし、「できることなら生きたまま俺に引き渡してほしい」とも付け加えられた。
このまま檻を狭めて潰せば、アジャイルを滅することもできる。
僕は、エルドに引き渡す方を選んだ。
魔力の所有権をエルドに引き渡すと、エルドはその檻を極限まで狭めた。
「い、いいのか!? 妾を潰せばそこの人間の命も……」
「構わないよ。どうせここで終わらせるつもりだから」
「なんじゃと!?」
驚かれた。今までのやりとりで、僕と不東が仲間じゃないことくらい分かるだろうに。
それとも僕が、目の前の命は例え敵であっても救いそうな人間にでも見えたのかな。
不東は敵じゃない。
害悪だ。
人殺しに関する罪が比較的ぬるいこの世界の法にかけても、死刑は免れないだろう。
ただ死なせるだけでは不東の手にかかった人たちが浮かばれないほどのことをしてきている。
「この礼は後日必ず」
「気にしなくていいよ」
「俺の気が済まん。では、またな」
エルドが、まだなにか喚いているアジャイルと共に消え去ると、不東がその場に仰向けに倒れて動かなくなった。
アジャイルと何らかのやりとりをして、力を貰っていたのだろう。それが急になくなり、今は立つことも出来ない様子だ。
「不東」
すぐ横に立ち、声をかけてみる。全く反応はないが、生きている。
だが、ちゃんと自分の身に何が起きるのか、知ってもらわないと困る。
何度目かの治癒魔法を不東に使い、ついでに足りなさすぎる魔力も補ってやった。
「……ん? なんだこりゃ、動けねぇ」
土魔法で生やした蔦で、身体の自由は奪ってある。
「今からお前の魔力の流れを壊す。二度と治らない。その体で、死ぬまで生きろ」
以前、『亜院』にやったものと同じやつだ。今度は徹底的に、慈悲なく、誰にも治せないほど壊す。
僕の言葉を徐々に理解した不東の顔色が、青を通り越して土気色になっていく。
「な、なあ横伏、ヨコっち、仲間だったじゃん? ちょっといじめたのは悪かったよ、謝るからさ、な?」
[魔眼]を発動させて、不東の体内魔力の流れを視る。
最強だと思っていたスキルが只の底上げ用で、弱体化する種族になってしまった奴だ。魔力量は今まで視てきた誰よりも少なく、弱い。
直接触れたくないから、剣の切っ先を心臓のあたりに近づける。不東は「ヒッ!」と空気を飲むような悲鳴を上げた。
剣伝いに僕の魔力を不東に通し、魔力の流れを引き出す。
「!? 痛、痛ってえええええ!!」
声が大きい。ずっと後ろで控えていたヒイロに、不東の顔の周りに遮音の結界を頼んだ。
僕の方は続けて、魔力の流れを掻き出し、端から乱暴に引き千切った。
不東の顔面はぐちゃぐちゃで、顎が外れるのではと心配になるくらい大口を上げて叫んでいる。何も聞こえないが。
亜院のときは、これをやった後寝込んだっけな。今回は魔力全てを完璧に断ち切ろうとしているわけだから、僕の方も少々疲れてきた。
「主様、失礼します」
人質の避難と後処理を終えたモモが、僕の横に転移魔法で現れた。
僕を見るなり、肩に手を置いて魔力を分けてくれた。
「助かる。でも、もう大丈夫」
前回に比べて大変だとはいえ、今の僕は魔力量も大幅に増えている。
モモの魔力も加わったお陰で、この後倒れることもないだろう。
最後に一番太い魔力の流れをぶちん、と引きちぎると、不東は白目を剥いて意識を失った。
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