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第四章
4 冬武翡翠と夢で逢えたら
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ある日我が家に、聖女を生贄に差し出せ、と人がやってきた。
ヨイチくんがすぐに追い払ってくれて、その後は私達を守るためにあちこちに根回しして、仕事まで休んでくれた。
ひと月もしない間に解決したのだけど……犯人を捕まえてきた後から、ヨイチくんの様子がおかしい。
犯人は私達を元の世界からこの世界へ召喚した、アマダンの王様。もう王様じゃないし、アマダン国はリートグルク国に所属する地域の一つになった。
元王を生け捕りにしてきたヨイチくんは、リートグルク城へ着くなり眠ってしまったと、モモちゃんが教えてくれた。
今にも転移魔法で飛ぼうとするモモちゃんの腕を、無意識に掴んでいた。
「ヒスイ様?」
「お願い、私もヨイチくんの側へ連れて行って」
気がついたら、モモちゃんに頼んでいた。
この時の私は、後で思い返せば自惚れがすぎるのだけど……どうしても私がヨイチくんの側に行かなくちゃいけないって直感した。
モモちゃんは少しだけ考えて、頷いた。
「主様は目覚めたら、大量の食事を必要とします」
「すぐに準備するわ」
ヨイチくんがいつも美味しいと言ってくれる、自家製のドレッシングやソース、作り置きの干し肉や燻製肉を持てるだけ持った。
準備を手伝ってくれたツキコとローズに見送られながら、モモちゃんの転移魔法の光に包まれた。
「おや、貴女がたは?」
モモちゃんはリートグルクのヨイチくんがいる部屋へ、直に飛んだ。
そこにいた貴族みたいな人が、わずかに警戒しながら話しかけてくる。
「ヒキュン」
ヒイロがモモちゃんと私達のところへ駆け寄り、私が出した手に、甘えるように頭をこすりつけた。
「私はヒイロと同じくヨイチ様の聖獣で、こちらはヨイチ様のメイドのヒスイ様です」
モモちゃんの完璧なお辞儀に合わせて、私も頭を下げる。
それにしても、モモちゃん。私を人に紹介する時は様付けしなくてもいいのよ?
「ヒイロがそれだけ懐くということは、本当のようですね」
「信じて頂きありがとうございます。では、私とヒイロは家へ戻ります。ヒスイ様、あとはお願いします」
「へっ!? え、えっと?」
呼び止める間もなく、モモはヒイロを連れて転移魔法で消えてしまった。
「ヒスイ様」
「あの、様は付けなくていいので……」
「そうですか? ではヒスイさん。私は書記長官のティールと申します。以後お見知りおきを」
「は、はいっ」
丁寧に挨拶されて、緊張してしまう。
ヨイチくんは自分のことを人見知りコミュ障なんて言うけど、身分や種族が違っていてもある意味平等な対応ができるのだから、凄いと思う。
「ところで、モモさんに『あとはお願いします』と頼まれておられましたが、この後如何しますか?」
「えっと、ヨイチくん、魔力の使いすぎか、最大値が上がりすぎて枯渇状態になってると思うんです」
ティールさんはふむふむと聞いてくれている。
「だから目が覚めた時、とてもお腹が空いてるはずです。前にこうなった時は、二十人分は食べてました」
「二十人分!? それはまた、多いですね」
「はい。ですから厨房を貸してください。それと、いつも使っている調味料や食材は持ってきましたが、これだけでは足りないので……」
「食材のことはお気になさらず、城のものを使ってください。厨房の料理人達にも手伝わせましょう」
「ありがとうございます!」
ティールさんが私を厨房の人たちに紹介し、事情を説明すると料理長が私の前に進み出た。
「話はわかった。持ってきたモンをちょいと味見させてくれるか?」
持ってきたものを調理台に並べると、料理長はビンの蓋を開けてスプーンで掬って舐めたり、作りおきのおかずをナイフで小さく切り取って咀嚼した。
「……大したもんだ。お前ら! ヒスイ嬢ちゃんの指示に従え!」
「「「おうっ!」」」
野太い雄叫びが上がる。
王城の料理人さん達は体育会系だった。
指示といっても、「とにかくお腹が膨れるものを、なるべく種類多めで」くらいしか出さなかった。
料理長初めとした料理人さん達は皆、レベルの高低はあれど料理スキルを持っていた。
私がシチューを作っている間に、たくさんのロールパンサンドが積み上がり、煮物、揚げ物、焼き物……見たことのない料理からよく知っている料理まで、およそ二十人分が完成した。
「これで足りなきゃ倉庫にチーズと小麦粉が入ってる。ピザでも焼いてやろう」
「ありがとうございますっ!」
まだ眠っているヨイチくんの部屋に、私とお城の侍女さんは料理の載ったワゴンを押しながら入った。
音を出さないように支度をするのは、侍女さん達が引き受けてくれた。
本当に、微かな物音もたてずに料理が並べられてゆく。
私がやると失敗しそうなので、邪魔にならないように隅に避けた。
自然と、ヨイチくんのベッドの横へ立つことになる。
そっと顔を覗き込む。顔色は悪くなさそう。
少し安心していると、ヨイチくんの目がゆっくりと開いた。
「あれ? リートグルクだよね、ここ?」
「モモちゃんに連れてきてもらったわ」
「そっかー……うん、そっか」
ヨイチくんはなぜか腑に落ちない顔をし、それから自分で自分を納得させるように頷いて、起き上がった。
食事の後、アマダン王の話を少しだけ聞き、この日はこの客室に泊めてもらうことになった。
ヨイチくんがものすごく狼狽えていたけど、客室がここしか空いていないのだから、腹を括るべきよね。
眠れないと言うので、ヨイチくんの頭を抱きかかえた。
寝付きの悪いローズによくやっていることなので、自然とそうしてしまった。
「わぶ!?」
それから、自分のしでかしたことに気づいた。
だけど……ヨイチくんなら、いい。
いいえ、ヨイチくん以外の男性に、こんなことするつもりはない。
ああ、そうか。
私は、この人が好きなのね。
「あのね……。…………。ううん、なんでもない」
「もが……」
半年近く一緒に暮らしていて、ヨイチくんが特定の誰かを好きだという素振りは、一度も見たことがない。
何なら、新人メイドさんのラフィネやアネットのことも、平等に対応している。
だから、この気持ちはまだ、仕舞っておこう。
「ヨイチくん、疲れてるはずよ。眠れるわ」
いつもローズにするように、ゆっくり頭を撫でると、ヨイチくんの肩から力が抜けていった。
「いつも助けてもらってるわね。ありがとう」
「……」
ヨイチくんをベッドへ誘導し、眠ったのを見計らって、私もその横に潜り込んだ。
「おやすみなさい」
私は夢を見た。
ヨイチくんと手をつないで、明るいところを歩く夢。
ふわふわして、幸せな気分だった。
夢である自覚はなかったけれど、つい、言ってしまった。
「ヨイチくん、好きです」
ヨイチくんの返事はなかった。
そうして起きてからヨイチくんがどことなく余所余所しい。
どうしたのかしら。
***
「ったく、情けねぇなぁ、王サマともあろうお方が」
リートグルクの地下牢に、アマダンの元王が鎖で繋がれたまま目を閉じてる。
オレは不東。それから、俺の身体に取り憑いているのは、元魔王のババア。
「ババアと呼ぶな。アジャイルと名乗っておろう」
「長いからアジャちゃんて呼ぶっつってんのに嫌がるからだろうが」
「……正しい名を使わぬと、力を発揮できぬぞ」
「へいへい。で、このジジイはどうする?」
元王サマを足先でつつく。さっきババアが魔力を直接操って心臓を握りつぶしたから、もう死んでる。
ババア曰く、これ以上生かしておいてオレらのことがバレたら面倒くさいんだと。
だったら経験値の足しにするからオレに殺させろって言ったら、
「阿呆め。剣で叩き切ったら証拠が残るじゃろうが」
だとさ。阿呆なのは認めるが、なんか気に食わねぇ。
っつーか、散々痛い思いしたのに、このババアは結局、オレに対してやりたかったことができなかったらしい。
だから未練がましく、幽霊みたいにオレに取り憑いた。
まぁ、お陰で暗い場所や影ならどこでも自由に出入りできるようになったのは便利だ。
腹が減ったら飯を盗めばいいし、宿だって空き部屋に忍び込んで好き勝手できる。
「もうこの場に用はない。ところで、こやつを捕まえた男のことを知っておるのじゃな?」
オレは肩をすくめた。
「あー、知ってる知ってる。横伏だよ。元オレの仲間で、弱っちいから捨てたのに、なんか生きてたわ。ウケる」
「その男に接触したい」
「へえ、何で?」
「使えそうじゃ。しかし一筋縄ではゆきそうにない。情報を集めよ」
「え、オレがやるの? オレそういうの一番苦手なんだけど」
「何のために力を与えたと思うておる」
「……はいはい。仰せのままに」
暗闇だらけの牢獄は、出入りが簡単だ。オレは適当な影へ、水中に潜るみたいに沈んだ。
ちなみにババアの目的は、魔王としての復活だ。
勇者として召喚されたオレが魔王の器だとか、どんな喜劇だよ。
だけどもう、どっちでも、なんでもいい。
オレはこの世界が嫌いだ。
勝手に喚んでおいて、命令はされるし、自由はきかねぇし、元の世界には帰れねぇし。
だから、オレを影の世界ってとこに連れ込んで死にたいくらいの苦痛を与えてきたババアの戯言に乗ってやってる。
ババアの力を利用して、オレを喚んだ連中や関わった連中……つまり、この世界をぶっ壊す。
横伏は勿論、オレの言いなりにならなかった亜院、椿木、土之井、も殺す。
このババアもいつか殺す。
それでようやく、オレは復讐を果たせるんだ。
「まずはどこへ行く?」
「横伏の後を追え」
「はいよ。じゃああいつの影に入っとくか」
横伏は王城の客室で、すっげー巨乳の可愛いコと一緒に寝てやがった。
マジか、こいつ。
どうして横伏が良い目にあってんだよ、巫山戯んな。
「女が気になるのは分かるが、今ではないぞ」
「わあったよ。でもさ、こっちの女のほうが使えそうじゃね?」
「ほう、お主にしては良い考えじゃ」
「うるせぇ」
添い寝するくらいだから、きっと付き合ってんだろうな。
だったら、横伏の前で犯してやるのが楽しそうだ。
オレは女の影に潜り込んだ。
ヨイチくんがすぐに追い払ってくれて、その後は私達を守るためにあちこちに根回しして、仕事まで休んでくれた。
ひと月もしない間に解決したのだけど……犯人を捕まえてきた後から、ヨイチくんの様子がおかしい。
犯人は私達を元の世界からこの世界へ召喚した、アマダンの王様。もう王様じゃないし、アマダン国はリートグルク国に所属する地域の一つになった。
元王を生け捕りにしてきたヨイチくんは、リートグルク城へ着くなり眠ってしまったと、モモちゃんが教えてくれた。
今にも転移魔法で飛ぼうとするモモちゃんの腕を、無意識に掴んでいた。
「ヒスイ様?」
「お願い、私もヨイチくんの側へ連れて行って」
気がついたら、モモちゃんに頼んでいた。
この時の私は、後で思い返せば自惚れがすぎるのだけど……どうしても私がヨイチくんの側に行かなくちゃいけないって直感した。
モモちゃんは少しだけ考えて、頷いた。
「主様は目覚めたら、大量の食事を必要とします」
「すぐに準備するわ」
ヨイチくんがいつも美味しいと言ってくれる、自家製のドレッシングやソース、作り置きの干し肉や燻製肉を持てるだけ持った。
準備を手伝ってくれたツキコとローズに見送られながら、モモちゃんの転移魔法の光に包まれた。
「おや、貴女がたは?」
モモちゃんはリートグルクのヨイチくんがいる部屋へ、直に飛んだ。
そこにいた貴族みたいな人が、わずかに警戒しながら話しかけてくる。
「ヒキュン」
ヒイロがモモちゃんと私達のところへ駆け寄り、私が出した手に、甘えるように頭をこすりつけた。
「私はヒイロと同じくヨイチ様の聖獣で、こちらはヨイチ様のメイドのヒスイ様です」
モモちゃんの完璧なお辞儀に合わせて、私も頭を下げる。
それにしても、モモちゃん。私を人に紹介する時は様付けしなくてもいいのよ?
「ヒイロがそれだけ懐くということは、本当のようですね」
「信じて頂きありがとうございます。では、私とヒイロは家へ戻ります。ヒスイ様、あとはお願いします」
「へっ!? え、えっと?」
呼び止める間もなく、モモはヒイロを連れて転移魔法で消えてしまった。
「ヒスイ様」
「あの、様は付けなくていいので……」
「そうですか? ではヒスイさん。私は書記長官のティールと申します。以後お見知りおきを」
「は、はいっ」
丁寧に挨拶されて、緊張してしまう。
ヨイチくんは自分のことを人見知りコミュ障なんて言うけど、身分や種族が違っていてもある意味平等な対応ができるのだから、凄いと思う。
「ところで、モモさんに『あとはお願いします』と頼まれておられましたが、この後如何しますか?」
「えっと、ヨイチくん、魔力の使いすぎか、最大値が上がりすぎて枯渇状態になってると思うんです」
ティールさんはふむふむと聞いてくれている。
「だから目が覚めた時、とてもお腹が空いてるはずです。前にこうなった時は、二十人分は食べてました」
「二十人分!? それはまた、多いですね」
「はい。ですから厨房を貸してください。それと、いつも使っている調味料や食材は持ってきましたが、これだけでは足りないので……」
「食材のことはお気になさらず、城のものを使ってください。厨房の料理人達にも手伝わせましょう」
「ありがとうございます!」
ティールさんが私を厨房の人たちに紹介し、事情を説明すると料理長が私の前に進み出た。
「話はわかった。持ってきたモンをちょいと味見させてくれるか?」
持ってきたものを調理台に並べると、料理長はビンの蓋を開けてスプーンで掬って舐めたり、作りおきのおかずをナイフで小さく切り取って咀嚼した。
「……大したもんだ。お前ら! ヒスイ嬢ちゃんの指示に従え!」
「「「おうっ!」」」
野太い雄叫びが上がる。
王城の料理人さん達は体育会系だった。
指示といっても、「とにかくお腹が膨れるものを、なるべく種類多めで」くらいしか出さなかった。
料理長初めとした料理人さん達は皆、レベルの高低はあれど料理スキルを持っていた。
私がシチューを作っている間に、たくさんのロールパンサンドが積み上がり、煮物、揚げ物、焼き物……見たことのない料理からよく知っている料理まで、およそ二十人分が完成した。
「これで足りなきゃ倉庫にチーズと小麦粉が入ってる。ピザでも焼いてやろう」
「ありがとうございますっ!」
まだ眠っているヨイチくんの部屋に、私とお城の侍女さんは料理の載ったワゴンを押しながら入った。
音を出さないように支度をするのは、侍女さん達が引き受けてくれた。
本当に、微かな物音もたてずに料理が並べられてゆく。
私がやると失敗しそうなので、邪魔にならないように隅に避けた。
自然と、ヨイチくんのベッドの横へ立つことになる。
そっと顔を覗き込む。顔色は悪くなさそう。
少し安心していると、ヨイチくんの目がゆっくりと開いた。
「あれ? リートグルクだよね、ここ?」
「モモちゃんに連れてきてもらったわ」
「そっかー……うん、そっか」
ヨイチくんはなぜか腑に落ちない顔をし、それから自分で自分を納得させるように頷いて、起き上がった。
食事の後、アマダン王の話を少しだけ聞き、この日はこの客室に泊めてもらうことになった。
ヨイチくんがものすごく狼狽えていたけど、客室がここしか空いていないのだから、腹を括るべきよね。
眠れないと言うので、ヨイチくんの頭を抱きかかえた。
寝付きの悪いローズによくやっていることなので、自然とそうしてしまった。
「わぶ!?」
それから、自分のしでかしたことに気づいた。
だけど……ヨイチくんなら、いい。
いいえ、ヨイチくん以外の男性に、こんなことするつもりはない。
ああ、そうか。
私は、この人が好きなのね。
「あのね……。…………。ううん、なんでもない」
「もが……」
半年近く一緒に暮らしていて、ヨイチくんが特定の誰かを好きだという素振りは、一度も見たことがない。
何なら、新人メイドさんのラフィネやアネットのことも、平等に対応している。
だから、この気持ちはまだ、仕舞っておこう。
「ヨイチくん、疲れてるはずよ。眠れるわ」
いつもローズにするように、ゆっくり頭を撫でると、ヨイチくんの肩から力が抜けていった。
「いつも助けてもらってるわね。ありがとう」
「……」
ヨイチくんをベッドへ誘導し、眠ったのを見計らって、私もその横に潜り込んだ。
「おやすみなさい」
私は夢を見た。
ヨイチくんと手をつないで、明るいところを歩く夢。
ふわふわして、幸せな気分だった。
夢である自覚はなかったけれど、つい、言ってしまった。
「ヨイチくん、好きです」
ヨイチくんの返事はなかった。
そうして起きてからヨイチくんがどことなく余所余所しい。
どうしたのかしら。
***
「ったく、情けねぇなぁ、王サマともあろうお方が」
リートグルクの地下牢に、アマダンの元王が鎖で繋がれたまま目を閉じてる。
オレは不東。それから、俺の身体に取り憑いているのは、元魔王のババア。
「ババアと呼ぶな。アジャイルと名乗っておろう」
「長いからアジャちゃんて呼ぶっつってんのに嫌がるからだろうが」
「……正しい名を使わぬと、力を発揮できぬぞ」
「へいへい。で、このジジイはどうする?」
元王サマを足先でつつく。さっきババアが魔力を直接操って心臓を握りつぶしたから、もう死んでる。
ババア曰く、これ以上生かしておいてオレらのことがバレたら面倒くさいんだと。
だったら経験値の足しにするからオレに殺させろって言ったら、
「阿呆め。剣で叩き切ったら証拠が残るじゃろうが」
だとさ。阿呆なのは認めるが、なんか気に食わねぇ。
っつーか、散々痛い思いしたのに、このババアは結局、オレに対してやりたかったことができなかったらしい。
だから未練がましく、幽霊みたいにオレに取り憑いた。
まぁ、お陰で暗い場所や影ならどこでも自由に出入りできるようになったのは便利だ。
腹が減ったら飯を盗めばいいし、宿だって空き部屋に忍び込んで好き勝手できる。
「もうこの場に用はない。ところで、こやつを捕まえた男のことを知っておるのじゃな?」
オレは肩をすくめた。
「あー、知ってる知ってる。横伏だよ。元オレの仲間で、弱っちいから捨てたのに、なんか生きてたわ。ウケる」
「その男に接触したい」
「へえ、何で?」
「使えそうじゃ。しかし一筋縄ではゆきそうにない。情報を集めよ」
「え、オレがやるの? オレそういうの一番苦手なんだけど」
「何のために力を与えたと思うておる」
「……はいはい。仰せのままに」
暗闇だらけの牢獄は、出入りが簡単だ。オレは適当な影へ、水中に潜るみたいに沈んだ。
ちなみにババアの目的は、魔王としての復活だ。
勇者として召喚されたオレが魔王の器だとか、どんな喜劇だよ。
だけどもう、どっちでも、なんでもいい。
オレはこの世界が嫌いだ。
勝手に喚んでおいて、命令はされるし、自由はきかねぇし、元の世界には帰れねぇし。
だから、オレを影の世界ってとこに連れ込んで死にたいくらいの苦痛を与えてきたババアの戯言に乗ってやってる。
ババアの力を利用して、オレを喚んだ連中や関わった連中……つまり、この世界をぶっ壊す。
横伏は勿論、オレの言いなりにならなかった亜院、椿木、土之井、も殺す。
このババアもいつか殺す。
それでようやく、オレは復讐を果たせるんだ。
「まずはどこへ行く?」
「横伏の後を追え」
「はいよ。じゃああいつの影に入っとくか」
横伏は王城の客室で、すっげー巨乳の可愛いコと一緒に寝てやがった。
マジか、こいつ。
どうして横伏が良い目にあってんだよ、巫山戯んな。
「女が気になるのは分かるが、今ではないぞ」
「わあったよ。でもさ、こっちの女のほうが使えそうじゃね?」
「ほう、お主にしては良い考えじゃ」
「うるせぇ」
添い寝するくらいだから、きっと付き合ってんだろうな。
だったら、横伏の前で犯してやるのが楽しそうだ。
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