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第三章
22 急展開
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この世界にも娯楽はある。でも日本に比べたら段違いに少ない。
まずスマホがない。ゲームはボードゲームやカードゲームみたいなアナログオンリー。
テレビやラジオもない。大衆が情報を得るための新聞はあるらしいけど、オレ活字苦手だから全く読んでない。
プロのスポーツ団体がない。たまに武術や馬術の大会とか力比べ食べ比べが村から国まで色んな規模で開催されてる。武術馬術はともかく他は祭りのときに素人が参加するやつだ。
音楽は、道端や酒場で吟遊詩人っていうの? ソロアーティストが路上ライブしてるのをたまに見かける程度。
気に入ってもCDやDL販売なんてしてないし、聞きたかったら歌えるやつ見つけて金払ってその場で歌わせて終わり。
そもそもオレの好きなパンクロックってジャンルがない。テンポのゆるいバラードみたいなのしかない。
オレはあんまり趣味じゃないからよく知らないが、椿木は「アニメどころか漫画すらない」って嘆いてたな。
本はわりとあるんだが、大抵小難しい。読んでたのは土之井くらいだ。
賭博場には伝手がないと入れないと門前払いされた。
一度だけ演劇を見に行ったが、こっちの世界の歴史を元にした話だったから、ぜんぜん意味わかんなかった。
そして全てにおいてインターネットやテレビがないから、自分の足でその場所へ行かなきゃならない。
足は自分の足か、馬だ。車も電車も飛行機もない。
日本になくてこっちにあるものっつったら、魔力と魔物くらいか?
とにかく、この世界は退屈だ。
っつーか魔王はどうなったんだよ、魔王は。
日本に戻れないらしいからこの世界で生きていくしかないのはオレにだってわかる。
生活を悠々自適にするために魔王をぶっ殺せっていう話だったのにさ。
そこへ、暇すぎて城を抜け出して町で遊んでたときに聞いた噂。
「スタグハッシュの王は数年前からいない」
じゃあ誰だよ、オレたち召喚したの。
そんで目的は何だよ。
「おーい! 誰かいないかー!」
叫んでみる。
宿屋にいたはずなのに、一眠りして起きたらなにもない空間だった。
寝てたはずなのに立ってたし。立てるってことは地面はあるのか。
あと、照明や日光の類はないけど明るい。
だとしても、意味不明。理解不能。
「むぅ。そなたの故郷では『残り物にはフクがある』というのだろう? フクとは良い物という意味のはずで……何故そなたが残ったのじゃ」
不機嫌そうな女の声がする。だいぶ年増のオバサンに違いない。
「誰がクソババァじゃ、無礼な。……はぁ、まぁ種族もついておるし、現実としてお主しか残っとらんでのぅ」
「そこまで言ってな……誰だよ!?」
「全く。粒が揃ってから仕掛けよと言うたのに、好き勝手なタイミングで先走るから」
自称クソババァはオレの問いかけを無視して何か愚痴ってる。
「莫人なれば、妾が直に傀儡にせねばならぬのもまた面倒……じゃが、魂は良い具合に腐っておるし」
声しか聞こえないクソババァが、気持ち悪い笑みを浮かべたのが、なぜかはっきり想像できた。
ぐぐつ? 魂が腐ってる?
やばそうな単語しか聞こえてこない。
「さて、不東剛石。ぬしが保てば、妾の勝ちも同然じゃ。ゆくぞ」
「どこへ? ってどうしてオレの名前知ってんだ? それに誰……ぐっ、あ、ああああああああっ!?」
何かが耳の穴から入ってきたと思ったら、頭が割れるように痛い。
頭を抑えて転がっていると、痛みが徐々に全身に回った。
痛い、痛い……痛い、痛い!
死んじまう!
「死にはせぬよ」
何でだよ。いっそ殺してくれよ。
声も出せない。
痛い。やめてくれ。痛い。
「やめぬよ」
クソが。
「意外に抵抗するのう。ちとかかるな」
やめろっつってんのに。
止めることはできなかった。
***
私、髄弁ローズ。いまイネアルさんのお店でポーションを作成中。
ポーションづくりに慣れていない頃は、魔力の調節が難しくて、一日に数本しか作れなかった。
しかもどういうわけか、イネアルさんや他の人が作るポーションより、少しだけ効果が高い。
更にヨイチが使うと効果が何倍にもなるという、ちょっと変わったポーションになってしまっていた。
魔力の調節が上手くできるようになっても、その効果は変わらない。
ポーションはお薬と同じで、常に同じ効果でないといけない。
そのためのレシピで、そのための等級設定だ。
イネアルさんと二人で編み出した解決策は、『手抜きする』ことだった。
込める魔力の量を調節したり、混ぜる薬草の量を調節したり……ありとあらゆる試行錯誤を試した結果、偶然私が気を抜いて魔力を込めた泉の水が、イネアルさんが魔力を込めた水と全く同じ色になった。
「これだよローズ! 再現できるかい?」
私の実験に付き合ってくれたイネアルさんが興奮して、私にもう一度を促す。
手抜き、手抜き……とブツブツつぶやいていたら、イネアルさんに首筋を突かれた。
「ひゃっ!?」
「肩に力が入っていたよ」
イネアルさんはいたずら大成功! みたいな笑顔だ。
「もう……」
イネアルさんを睨みつけつつ、肩の力を抜く。
ついでに深呼吸。
落ち着いたところで、ゆっくりと、気を抜く感じで魔力を込めた。
「いいね。この感じでいこう」
「はい」
何度か練習し、安定したころにはとっぷりと日が暮れていた。
「すみません、イネアルさん」
「気にしないで」
遅くなると、イネアルさんが私を家まで送ってくれる。
私にはヨイチの護りがついたペンダントがあるから心配する必要はないのに、イネアルさんが譲らない。
イネアルさんは私のことを「大切な従業員」と言ってくれる。
ちなみに他に従業員はいない。
隣を歩くイネアルさんを見上げると、視線に気づいたのか、こっちを見つめてきた。
「何だい?」
「えっと……。イネアルさんは、どうして私を雇ってくれたのですか?」
イネアルさんのお店は、勤めている私が言うのも何だけど、とても小規模だ。
ずっと一人でやってきて、仕事も一人で回せる分しか請けなかったみたい。
業務拡大したいならもう何人か雇うべきだ。
「シスターが勧めてくれたからね。雇って正解だった」
シスターというのは、私がこの世界に召喚されてすぐお世話になった、修道院のシスターのことだ。
「あの方はね、人を見る目があるんだ。アルマーシュやディオンがその人に合う武具を見極められるように、シスターは誰がどんな仕事に合うか、見極められる。何故か修道院に来る、その、乙女限定らしいけれど」
イネアルさんが目を泳がせながら言い淀んだ部分を色々と察してしまい、顔が赤くなった。
「知らなかった……」
「あの方は自分から言わないからね。それに、例え合っていても本人が納得しなければ意味がない」
「最終的に仕事を選ぶのは自分で、ってことですか」
「そうだよ。ローズがうちで働くと決めてくれて、嬉しかった」
イネアルさんが目を細めて微笑む。顔が良いから、笑顔の破壊力も凄まじい。
そんな雑談をしている間に、家の前に着いた。
「ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀して顔を上げると、イネアルさんはいつも寂しそうな顔をする。
前に理由を尋ねたら「気の所為だよ」とはぐらかされた。
毎回同じ顔をしておいて、気の所為だなんて思えない。
「あの……」
「ローズ、明日はお休みだよね」
「は、はい」
「ヨイチはどうかな」
「えっと……待機日だったと思います」
ヨイチに用事があるのかな? そういえば最近、自動標的君の調整に来てなかったから、それのことかな。
「わかった。じゃあ、おやすみ」
イネアルさんはいつものように私の頭をぽん、と撫でて、町に向かって歩き去った。
翌朝、大騒動になるなんて想像できなかった。
朝食を終えたタイミングで、家にイネアルさんがやってきた。
「おはようございます……えっと、どうされたのですか?」
エントランスで出迎えたヒスイの声が、戸惑っている。
「ローズ、ウチがやっておくから、見てきて」
一緒にお茶の用意をしていたツキコに言われてエントランスへ向かうと……いつものヨレヨレの作業着じゃないイネアルさんが立っていた。
「イネアルさん?」
「おはよう、ローズ」
「おはようございます」
黒い襟付きのジャケットには銀糸で刺繍が施され、ひと目で高価な正装だとわかる姿だ。
背の高いイネアルさんだから、細身のパンツも似合ってる……じゃなくて。
「なんですか、その格好は」
セミロングの銀髪まで丁寧に梳かれて、紺のリボンでゆるく纏められている。
「ヨイチに話があってね。ヨイチはいるかい?」
「はい。こちらへどうぞ」
忘れかけていたメイドとしての仕事をギリギリで思い出し、イネアルさんを応接室へ案内した。
「どうしたんですかイネアルさん」
ヒスイと似たような反応を示すヨイチに、イネアルさんはニッコリと笑顔を見せた。
「大事な話がしたくてね」
「はあ……あの、どうぞ」
ヨイチが椅子を勧めると、イネアルさんは一旦座った。
紅茶を一口飲み、カップをソーサーに置く。全ての仕草が優雅だ。
ヨイチも同じように紅茶を飲んでから、イネアルさんを促した。
「それで、大事な話とは?」
イネアルさんは一度目を閉じて、自分を落ち着かせるように深呼吸した。
「ローズを口説く許しを、頂きたい」
きゃ、と控えめな悲鳴を上げるヒスイとツキコ。
きょとん、と目を丸くするヨイチ。
一人真面目な、絶対に嘘や冗談を言っている顔をしていないイネアルさん。
ローズを口説く許し、って。口説くって、私を?
イネアルさんが?
イネアルさんって……私を口説きたかったの?
私は不測の事態にとても弱い。
イネアルさんが何を言ったのか、理解するまで数分を要した。
まずスマホがない。ゲームはボードゲームやカードゲームみたいなアナログオンリー。
テレビやラジオもない。大衆が情報を得るための新聞はあるらしいけど、オレ活字苦手だから全く読んでない。
プロのスポーツ団体がない。たまに武術や馬術の大会とか力比べ食べ比べが村から国まで色んな規模で開催されてる。武術馬術はともかく他は祭りのときに素人が参加するやつだ。
音楽は、道端や酒場で吟遊詩人っていうの? ソロアーティストが路上ライブしてるのをたまに見かける程度。
気に入ってもCDやDL販売なんてしてないし、聞きたかったら歌えるやつ見つけて金払ってその場で歌わせて終わり。
そもそもオレの好きなパンクロックってジャンルがない。テンポのゆるいバラードみたいなのしかない。
オレはあんまり趣味じゃないからよく知らないが、椿木は「アニメどころか漫画すらない」って嘆いてたな。
本はわりとあるんだが、大抵小難しい。読んでたのは土之井くらいだ。
賭博場には伝手がないと入れないと門前払いされた。
一度だけ演劇を見に行ったが、こっちの世界の歴史を元にした話だったから、ぜんぜん意味わかんなかった。
そして全てにおいてインターネットやテレビがないから、自分の足でその場所へ行かなきゃならない。
足は自分の足か、馬だ。車も電車も飛行機もない。
日本になくてこっちにあるものっつったら、魔力と魔物くらいか?
とにかく、この世界は退屈だ。
っつーか魔王はどうなったんだよ、魔王は。
日本に戻れないらしいからこの世界で生きていくしかないのはオレにだってわかる。
生活を悠々自適にするために魔王をぶっ殺せっていう話だったのにさ。
そこへ、暇すぎて城を抜け出して町で遊んでたときに聞いた噂。
「スタグハッシュの王は数年前からいない」
じゃあ誰だよ、オレたち召喚したの。
そんで目的は何だよ。
「おーい! 誰かいないかー!」
叫んでみる。
宿屋にいたはずなのに、一眠りして起きたらなにもない空間だった。
寝てたはずなのに立ってたし。立てるってことは地面はあるのか。
あと、照明や日光の類はないけど明るい。
だとしても、意味不明。理解不能。
「むぅ。そなたの故郷では『残り物にはフクがある』というのだろう? フクとは良い物という意味のはずで……何故そなたが残ったのじゃ」
不機嫌そうな女の声がする。だいぶ年増のオバサンに違いない。
「誰がクソババァじゃ、無礼な。……はぁ、まぁ種族もついておるし、現実としてお主しか残っとらんでのぅ」
「そこまで言ってな……誰だよ!?」
「全く。粒が揃ってから仕掛けよと言うたのに、好き勝手なタイミングで先走るから」
自称クソババァはオレの問いかけを無視して何か愚痴ってる。
「莫人なれば、妾が直に傀儡にせねばならぬのもまた面倒……じゃが、魂は良い具合に腐っておるし」
声しか聞こえないクソババァが、気持ち悪い笑みを浮かべたのが、なぜかはっきり想像できた。
ぐぐつ? 魂が腐ってる?
やばそうな単語しか聞こえてこない。
「さて、不東剛石。ぬしが保てば、妾の勝ちも同然じゃ。ゆくぞ」
「どこへ? ってどうしてオレの名前知ってんだ? それに誰……ぐっ、あ、ああああああああっ!?」
何かが耳の穴から入ってきたと思ったら、頭が割れるように痛い。
頭を抑えて転がっていると、痛みが徐々に全身に回った。
痛い、痛い……痛い、痛い!
死んじまう!
「死にはせぬよ」
何でだよ。いっそ殺してくれよ。
声も出せない。
痛い。やめてくれ。痛い。
「やめぬよ」
クソが。
「意外に抵抗するのう。ちとかかるな」
やめろっつってんのに。
止めることはできなかった。
***
私、髄弁ローズ。いまイネアルさんのお店でポーションを作成中。
ポーションづくりに慣れていない頃は、魔力の調節が難しくて、一日に数本しか作れなかった。
しかもどういうわけか、イネアルさんや他の人が作るポーションより、少しだけ効果が高い。
更にヨイチが使うと効果が何倍にもなるという、ちょっと変わったポーションになってしまっていた。
魔力の調節が上手くできるようになっても、その効果は変わらない。
ポーションはお薬と同じで、常に同じ効果でないといけない。
そのためのレシピで、そのための等級設定だ。
イネアルさんと二人で編み出した解決策は、『手抜きする』ことだった。
込める魔力の量を調節したり、混ぜる薬草の量を調節したり……ありとあらゆる試行錯誤を試した結果、偶然私が気を抜いて魔力を込めた泉の水が、イネアルさんが魔力を込めた水と全く同じ色になった。
「これだよローズ! 再現できるかい?」
私の実験に付き合ってくれたイネアルさんが興奮して、私にもう一度を促す。
手抜き、手抜き……とブツブツつぶやいていたら、イネアルさんに首筋を突かれた。
「ひゃっ!?」
「肩に力が入っていたよ」
イネアルさんはいたずら大成功! みたいな笑顔だ。
「もう……」
イネアルさんを睨みつけつつ、肩の力を抜く。
ついでに深呼吸。
落ち着いたところで、ゆっくりと、気を抜く感じで魔力を込めた。
「いいね。この感じでいこう」
「はい」
何度か練習し、安定したころにはとっぷりと日が暮れていた。
「すみません、イネアルさん」
「気にしないで」
遅くなると、イネアルさんが私を家まで送ってくれる。
私にはヨイチの護りがついたペンダントがあるから心配する必要はないのに、イネアルさんが譲らない。
イネアルさんは私のことを「大切な従業員」と言ってくれる。
ちなみに他に従業員はいない。
隣を歩くイネアルさんを見上げると、視線に気づいたのか、こっちを見つめてきた。
「何だい?」
「えっと……。イネアルさんは、どうして私を雇ってくれたのですか?」
イネアルさんのお店は、勤めている私が言うのも何だけど、とても小規模だ。
ずっと一人でやってきて、仕事も一人で回せる分しか請けなかったみたい。
業務拡大したいならもう何人か雇うべきだ。
「シスターが勧めてくれたからね。雇って正解だった」
シスターというのは、私がこの世界に召喚されてすぐお世話になった、修道院のシスターのことだ。
「あの方はね、人を見る目があるんだ。アルマーシュやディオンがその人に合う武具を見極められるように、シスターは誰がどんな仕事に合うか、見極められる。何故か修道院に来る、その、乙女限定らしいけれど」
イネアルさんが目を泳がせながら言い淀んだ部分を色々と察してしまい、顔が赤くなった。
「知らなかった……」
「あの方は自分から言わないからね。それに、例え合っていても本人が納得しなければ意味がない」
「最終的に仕事を選ぶのは自分で、ってことですか」
「そうだよ。ローズがうちで働くと決めてくれて、嬉しかった」
イネアルさんが目を細めて微笑む。顔が良いから、笑顔の破壊力も凄まじい。
そんな雑談をしている間に、家の前に着いた。
「ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀して顔を上げると、イネアルさんはいつも寂しそうな顔をする。
前に理由を尋ねたら「気の所為だよ」とはぐらかされた。
毎回同じ顔をしておいて、気の所為だなんて思えない。
「あの……」
「ローズ、明日はお休みだよね」
「は、はい」
「ヨイチはどうかな」
「えっと……待機日だったと思います」
ヨイチに用事があるのかな? そういえば最近、自動標的君の調整に来てなかったから、それのことかな。
「わかった。じゃあ、おやすみ」
イネアルさんはいつものように私の頭をぽん、と撫でて、町に向かって歩き去った。
翌朝、大騒動になるなんて想像できなかった。
朝食を終えたタイミングで、家にイネアルさんがやってきた。
「おはようございます……えっと、どうされたのですか?」
エントランスで出迎えたヒスイの声が、戸惑っている。
「ローズ、ウチがやっておくから、見てきて」
一緒にお茶の用意をしていたツキコに言われてエントランスへ向かうと……いつものヨレヨレの作業着じゃないイネアルさんが立っていた。
「イネアルさん?」
「おはよう、ローズ」
「おはようございます」
黒い襟付きのジャケットには銀糸で刺繍が施され、ひと目で高価な正装だとわかる姿だ。
背の高いイネアルさんだから、細身のパンツも似合ってる……じゃなくて。
「なんですか、その格好は」
セミロングの銀髪まで丁寧に梳かれて、紺のリボンでゆるく纏められている。
「ヨイチに話があってね。ヨイチはいるかい?」
「はい。こちらへどうぞ」
忘れかけていたメイドとしての仕事をギリギリで思い出し、イネアルさんを応接室へ案内した。
「どうしたんですかイネアルさん」
ヒスイと似たような反応を示すヨイチに、イネアルさんはニッコリと笑顔を見せた。
「大事な話がしたくてね」
「はあ……あの、どうぞ」
ヨイチが椅子を勧めると、イネアルさんは一旦座った。
紅茶を一口飲み、カップをソーサーに置く。全ての仕草が優雅だ。
ヨイチも同じように紅茶を飲んでから、イネアルさんを促した。
「それで、大事な話とは?」
イネアルさんは一度目を閉じて、自分を落ち着かせるように深呼吸した。
「ローズを口説く許しを、頂きたい」
きゃ、と控えめな悲鳴を上げるヒスイとツキコ。
きょとん、と目を丸くするヨイチ。
一人真面目な、絶対に嘘や冗談を言っている顔をしていないイネアルさん。
ローズを口説く許し、って。口説くって、私を?
イネアルさんが?
イネアルさんって……私を口説きたかったの?
私は不測の事態にとても弱い。
イネアルさんが何を言ったのか、理解するまで数分を要した。
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