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第二章
19 休日の過ごし方
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孤児院の被害そのものは見た目より少なかったとはいえ、バザーの露店の他にも被害が出ていた。
クエストを請けない日はそこそこ暇している僕なので、ツキコと一緒に孤児院を訪れた。
ヒスイとローズも来たがっていたけれど、二人とも今日は仕事だ。ヒイロには家の番犬を任せてきた。
壊れた建物や荷車、バザーに使う露店の道具をツキコが修繕し、僕は修繕に必要な素材をアイテムボックスから取り出したり、物を運んだり。
「知ってたけど、流石にそのサイズを片手で持ち上げるのは引くわー」
ツキコが修繕完了した屋台用のテント一式を片手で持ち上げて運んでいたら、ツキコに何か言われた。
レベルアップで筋力上がって何が便利かって、こういうときだ。ツキコがしょっちゅう家を改築するから、家具の移動もこうやっている。
「片手で持てば、空いてる手で別のものが運べて便利じゃん」
「違うそういうことじゃない」
「?」
僕を見上げて何故か呆れているツキコはそのままにしておいて、言われた場所へテントを運んだ。
「あっ、ヨイチ兄ちゃん!」
「ヨイチにいちゃんだ!」
「遊びに来たの!?」
「残念、今日は手伝いに来たんだよ」
先日面倒を見た子供たちに見つかった。
「そっかー」
「次はいつ遊びに来るの?」
「またバザーのときかな」
僕が何気なくそう口にした瞬間、子供たちが固まった。
「あ……」
「バザー、またやるの?」
「またこわい人たち来る?」
しまった。この子たちは屋内にいたとはいえ、あの騒ぎでは怪我人もでている。話は聞いているのだろう。
「怖い人達は皆遠いところへ行ったから、もうここには来ないよ」
「本当?」
無垢な目で見上げられて、ぐっ、と詰まる。
「うん。……そうだ、綺麗な石を探そうか」
あることを思いつき、子供たちに石探しを持ちかけた。
「探す!」
「ヨイチ兄ちゃんも探すの?」
「手伝うよ」
ツキコに少し抜けると断ってから、皆で孤児院の敷地内にある砂利道へ赴く。
先日、ツキコ達は約束通り、本物の宝石を使ったアクセサリーをそれぞれ選んできた。
と言っても選んできたのは石のみで、加工したのはツキコだ。
そして全員、石の色は青、アクセサリーはペンダントを選んだ。
「お揃いにしたの?」
「違う。石は個別に探してきた」
「ペンダントなら仕事中も服の下に付けられるから」
「石の色は、まあ、これしか無いよねぇ」
どうして青なのかと尋ねても、三人は顔を見合わせてニヤニヤするばかりだった。
ともかくその場でペンダントに聖属性の魔法を籠めて、護りのペンダントに仕上げた。
「なるほどねー。これ、どういう効果があるの?」
「思いついたのは大体付与してみたよ。防御力アップ、攻撃無効、攻撃魔法無効、状態異常無効、緊急時は僕がその場に転移できるように目印と……」
付与した効果を挙げていくと、途中でローズに止められた。
「例えがこれしかない」
そう言って、ポケットから例の椿木から貰ったブローチを取り出す。
「無粋な話をする。これには魔法避けの魔法が掛かっていて、だいたい一万二千ゴルくらい」
「へぇ」
椿木のやつ、結構良いのを渡してたんだ。
「もとの石の値段が二千ゴル。魔法が一種類掛かるとプラス一万、二種類だと五倍の五万」
「……ん?」
「魔法の複数種類掛けは難しい。魔法の種類が増えるごとに、価値はだいたい五倍になる。……それで、ヨイチは幾つ魔法をかけたって?」
「……あはは」
乾いた笑いしか出なかった。
作れてしまったものは仕方ないので、皆にはそのまま持っていてもらった。
「落としたらどうしよう……」
「あ、紛失防止の魔法もかかって……ます……」
三人の変な悲鳴が家中にこだました。
「ヨイチ兄ちゃん、これ!」
僕の目の前に、つやつやした小石が差し出された。
他の子たちも思い思いに「これ!」という石を見つけ出せたようだ。
「ちょっと借りるね」
ひとりから石を借り受けて、聖属性の魔法を籠める。普通の小石で魔力量も少ないから、二つが限度だ。攻撃除けと、状態異常無効にしよう。
「出来た。こっちも借りるよ」
魔法を籠める時はどうしても白く光る。僕が何をしているか、この孤児院の聡い子供たちなら理解しているかな。
「……よしっ。今の、何してたかわかる?」
「守りの魔法?」
一番年上の子が、すぐに答えてくれた。
「正解。普通の石にしか見えないけど、持ってるだけで少しだけ皆を護るよ」
「こわい人からも?」
「うん」
「すっげー!」
「ありがとう、ヨイチ兄ちゃん!」
「どういたしまして。他の子たちの分も作りたいから、きれいな石を集めてくれるかな」
「皆の分も? 院長先生のは?」
「そうだね、院長先生の分も見繕ってくれる?」
「うん!」
「というわけで、どうぞ」
「……」
院長先生に魔法を籠めた石を渡したら、絶句されてしまった。やっぱり大人の男性に石ころは拙いかな。
「あの、やっぱりもっと他の……」
「これを、子供たちにまで配って頂いたと?」
「あ、はい」
「なんとお礼を申し上げたら良いか……」
院長先生が顔を上げると、その目は真っ赤になっていた。涙もろい人だ。
「僕が勝手にやったことなので。じゃあ今日はこれで」
「ありがとうございます! いつかこの御恩に……」
院長先生をどうにか押し留めて、ツキコと家路についた。
「見てたよ。やるじゃん」
「自己満足だよ」
「はいはい、そーですね」
ツキコが僕の頭を片手でがしっと掴んで、ヒイロにやるみたいにわしゃわしゃしてきた。
「それより、途中で抜けちゃってごめん」
「ううん。ヨイチが子供たちのところへ行ってすぐにこっちは終わってたよ。ヨイチが石に魔法籠めるの眺めながら、お茶してた」
「ならよかった」
「これはヨイチの分」
ツキコが鞄から取り出した小さな紙袋の中身は、クッキーだ。
「これ、孤児院で作ってるやつ?」
「そう。バザーでも一番の人気商品なんだって。確かに美味しかったよ」
小腹が空いていたので、その場で開けてひとつつまむ。
「ん、美味い」
木の実やドライフルーツが入っていて、食べごたえがある。もう一つつまむと、今度は何も入っていない素朴なクッキーだった。これはこれで美味しい。
「次のバザーのときも一緒に遊ぶって約束したんだよね。ヒスイに買い置き頼もうかな」
「ウチも行くから買っておくよ」
「よろしく」
家に着く前に食べきってしまい、ヒイロに匂いで僕がクッキーを食べたことがバレて、その日は盛大に拗ねられた。クッキーでそんなに? って思うくらい拗ねられた。甘味聖獣め。
***
一ヶ月の予定がだいぶ固定化されてきた。
週に三日はチェスタ達とクエストを請ける。請けるクエストの数は一つか二つ。先日、新たな仲間を迎えたので、ここ数回は様子見がてら危険度低めのクエストをこなした。
リヤンとミオスは明るい茶髪に焦げ茶色の瞳をした双子の兄弟で、背格好がよく似ている。長剣を使うのがリヤンで、短剣二本を操るのがミオスだ。
初めて会ったときは、僕より大きな二人の迫力に思わず「おおう……」と声を上げてしまった。
「はっ!? ランクSのヨイチさん!?」
「さん付け要らないよ。よろしくね」
「とんでもない! こちらこそよろしくお願いします、ヨイチさん!」
「敬語とかもいいってば」
「まさかヨイチさんとパーティを組めるとは……」
「正式なパーティメンバーじゃないからね」
「光栄です!」
何故か僕のことを知っていた上、テンションが高かった。
週の残りの四日はフリーだ。ギルドから呼び出されない限り、かなり暇だったりする。家事をするとメイドさん達が渋るのだ。
よって、未だに仕分けきっていない魔物の素材をアイテムボックスから出し入れして整頓したり、ヒイロと一緒に訓練を積んだりが主な過ごし方になっている。
ヒイロは自動標的でめきめきと実力をつけ、ついに僕の剣のタイムに追いついた。こうなると自動標的では肩慣らしにしかならないので、最近は僕と魔法の練習をしている。
ヒイロは聖属性の魔法について詳しいのに、魔法自体はあまり得意じゃないのだ。
「ヨイチが凄すぎるんだよ。想像をそのまま魔法にできるのって才能だからね?」
「ええ、でも……いや、なんでもない」
つい椿木のことを思い出してしまった。
あいつは日本でライトノベルを「千冊は読んだ」と豪語していて、そのせいか繰り出す魔法のパターンが多く、エフェクトも派手だった。
でも結局、エフェクトには殆ど意味がなく、効果的なのは一つ二つのみで、そればっかり使ってたかな。
「どうしたの、ヨイチ」
「嫌な奴のことを思い出しちゃっただけだよ。続きやろうか」
ヒイロは僕が三人のペンダントに付与した防御系の魔法を一通り扱えるようになるのが目標だ。
まずヒイロが自分に掛けて、僕がその強度を見極めて、攻撃を繰り出す。
はじめのうちは、僕が軽くつつくだけで砕けるほど脆かったのが、今では剣をかなり思い切り振り抜いてもびくともしなくなった。
「ヒイロの成長速度も凄いよ」
一通り練習を終えてヒイロを撫でてやると、ヒイロは得意気に胸を張った。
月に二日ある祝祭日は完全に休みの日だ。全員、思い思いに過ごすことにしている。
異世界生活に馴染んできたと実感するのは、この祝祭日を過ごしてるときだったりする。
祝祭日はほとんどの冒険者が休息を取るが、魔物には関係のないことだ
冒険者ギルドに呼ばれてギルドハウスへ行ってみれば、統括が深刻そうな顔になっている。
「来たか、ヨイチ。悪いがスタグハッシュ西の森へ行ってもらう。……瘴気溜まりとはまた別の、悪いことが起きているようだ」
統括は僕の事情を知っている。その上で僕にスタグハッシュの近くへ行けという命令だ。
「具体的な話は?」
「冒険者カードに送っておく。準備はギルドで用意しておいたから、持っていってくれ」
「わかりました」
渡された荷物をマジックボックスへ放り込み、ギルドハウスを出た。
クエストを請けない日はそこそこ暇している僕なので、ツキコと一緒に孤児院を訪れた。
ヒスイとローズも来たがっていたけれど、二人とも今日は仕事だ。ヒイロには家の番犬を任せてきた。
壊れた建物や荷車、バザーに使う露店の道具をツキコが修繕し、僕は修繕に必要な素材をアイテムボックスから取り出したり、物を運んだり。
「知ってたけど、流石にそのサイズを片手で持ち上げるのは引くわー」
ツキコが修繕完了した屋台用のテント一式を片手で持ち上げて運んでいたら、ツキコに何か言われた。
レベルアップで筋力上がって何が便利かって、こういうときだ。ツキコがしょっちゅう家を改築するから、家具の移動もこうやっている。
「片手で持てば、空いてる手で別のものが運べて便利じゃん」
「違うそういうことじゃない」
「?」
僕を見上げて何故か呆れているツキコはそのままにしておいて、言われた場所へテントを運んだ。
「あっ、ヨイチ兄ちゃん!」
「ヨイチにいちゃんだ!」
「遊びに来たの!?」
「残念、今日は手伝いに来たんだよ」
先日面倒を見た子供たちに見つかった。
「そっかー」
「次はいつ遊びに来るの?」
「またバザーのときかな」
僕が何気なくそう口にした瞬間、子供たちが固まった。
「あ……」
「バザー、またやるの?」
「またこわい人たち来る?」
しまった。この子たちは屋内にいたとはいえ、あの騒ぎでは怪我人もでている。話は聞いているのだろう。
「怖い人達は皆遠いところへ行ったから、もうここには来ないよ」
「本当?」
無垢な目で見上げられて、ぐっ、と詰まる。
「うん。……そうだ、綺麗な石を探そうか」
あることを思いつき、子供たちに石探しを持ちかけた。
「探す!」
「ヨイチ兄ちゃんも探すの?」
「手伝うよ」
ツキコに少し抜けると断ってから、皆で孤児院の敷地内にある砂利道へ赴く。
先日、ツキコ達は約束通り、本物の宝石を使ったアクセサリーをそれぞれ選んできた。
と言っても選んできたのは石のみで、加工したのはツキコだ。
そして全員、石の色は青、アクセサリーはペンダントを選んだ。
「お揃いにしたの?」
「違う。石は個別に探してきた」
「ペンダントなら仕事中も服の下に付けられるから」
「石の色は、まあ、これしか無いよねぇ」
どうして青なのかと尋ねても、三人は顔を見合わせてニヤニヤするばかりだった。
ともかくその場でペンダントに聖属性の魔法を籠めて、護りのペンダントに仕上げた。
「なるほどねー。これ、どういう効果があるの?」
「思いついたのは大体付与してみたよ。防御力アップ、攻撃無効、攻撃魔法無効、状態異常無効、緊急時は僕がその場に転移できるように目印と……」
付与した効果を挙げていくと、途中でローズに止められた。
「例えがこれしかない」
そう言って、ポケットから例の椿木から貰ったブローチを取り出す。
「無粋な話をする。これには魔法避けの魔法が掛かっていて、だいたい一万二千ゴルくらい」
「へぇ」
椿木のやつ、結構良いのを渡してたんだ。
「もとの石の値段が二千ゴル。魔法が一種類掛かるとプラス一万、二種類だと五倍の五万」
「……ん?」
「魔法の複数種類掛けは難しい。魔法の種類が増えるごとに、価値はだいたい五倍になる。……それで、ヨイチは幾つ魔法をかけたって?」
「……あはは」
乾いた笑いしか出なかった。
作れてしまったものは仕方ないので、皆にはそのまま持っていてもらった。
「落としたらどうしよう……」
「あ、紛失防止の魔法もかかって……ます……」
三人の変な悲鳴が家中にこだました。
「ヨイチ兄ちゃん、これ!」
僕の目の前に、つやつやした小石が差し出された。
他の子たちも思い思いに「これ!」という石を見つけ出せたようだ。
「ちょっと借りるね」
ひとりから石を借り受けて、聖属性の魔法を籠める。普通の小石で魔力量も少ないから、二つが限度だ。攻撃除けと、状態異常無効にしよう。
「出来た。こっちも借りるよ」
魔法を籠める時はどうしても白く光る。僕が何をしているか、この孤児院の聡い子供たちなら理解しているかな。
「……よしっ。今の、何してたかわかる?」
「守りの魔法?」
一番年上の子が、すぐに答えてくれた。
「正解。普通の石にしか見えないけど、持ってるだけで少しだけ皆を護るよ」
「こわい人からも?」
「うん」
「すっげー!」
「ありがとう、ヨイチ兄ちゃん!」
「どういたしまして。他の子たちの分も作りたいから、きれいな石を集めてくれるかな」
「皆の分も? 院長先生のは?」
「そうだね、院長先生の分も見繕ってくれる?」
「うん!」
「というわけで、どうぞ」
「……」
院長先生に魔法を籠めた石を渡したら、絶句されてしまった。やっぱり大人の男性に石ころは拙いかな。
「あの、やっぱりもっと他の……」
「これを、子供たちにまで配って頂いたと?」
「あ、はい」
「なんとお礼を申し上げたら良いか……」
院長先生が顔を上げると、その目は真っ赤になっていた。涙もろい人だ。
「僕が勝手にやったことなので。じゃあ今日はこれで」
「ありがとうございます! いつかこの御恩に……」
院長先生をどうにか押し留めて、ツキコと家路についた。
「見てたよ。やるじゃん」
「自己満足だよ」
「はいはい、そーですね」
ツキコが僕の頭を片手でがしっと掴んで、ヒイロにやるみたいにわしゃわしゃしてきた。
「それより、途中で抜けちゃってごめん」
「ううん。ヨイチが子供たちのところへ行ってすぐにこっちは終わってたよ。ヨイチが石に魔法籠めるの眺めながら、お茶してた」
「ならよかった」
「これはヨイチの分」
ツキコが鞄から取り出した小さな紙袋の中身は、クッキーだ。
「これ、孤児院で作ってるやつ?」
「そう。バザーでも一番の人気商品なんだって。確かに美味しかったよ」
小腹が空いていたので、その場で開けてひとつつまむ。
「ん、美味い」
木の実やドライフルーツが入っていて、食べごたえがある。もう一つつまむと、今度は何も入っていない素朴なクッキーだった。これはこれで美味しい。
「次のバザーのときも一緒に遊ぶって約束したんだよね。ヒスイに買い置き頼もうかな」
「ウチも行くから買っておくよ」
「よろしく」
家に着く前に食べきってしまい、ヒイロに匂いで僕がクッキーを食べたことがバレて、その日は盛大に拗ねられた。クッキーでそんなに? って思うくらい拗ねられた。甘味聖獣め。
***
一ヶ月の予定がだいぶ固定化されてきた。
週に三日はチェスタ達とクエストを請ける。請けるクエストの数は一つか二つ。先日、新たな仲間を迎えたので、ここ数回は様子見がてら危険度低めのクエストをこなした。
リヤンとミオスは明るい茶髪に焦げ茶色の瞳をした双子の兄弟で、背格好がよく似ている。長剣を使うのがリヤンで、短剣二本を操るのがミオスだ。
初めて会ったときは、僕より大きな二人の迫力に思わず「おおう……」と声を上げてしまった。
「はっ!? ランクSのヨイチさん!?」
「さん付け要らないよ。よろしくね」
「とんでもない! こちらこそよろしくお願いします、ヨイチさん!」
「敬語とかもいいってば」
「まさかヨイチさんとパーティを組めるとは……」
「正式なパーティメンバーじゃないからね」
「光栄です!」
何故か僕のことを知っていた上、テンションが高かった。
週の残りの四日はフリーだ。ギルドから呼び出されない限り、かなり暇だったりする。家事をするとメイドさん達が渋るのだ。
よって、未だに仕分けきっていない魔物の素材をアイテムボックスから出し入れして整頓したり、ヒイロと一緒に訓練を積んだりが主な過ごし方になっている。
ヒイロは自動標的でめきめきと実力をつけ、ついに僕の剣のタイムに追いついた。こうなると自動標的では肩慣らしにしかならないので、最近は僕と魔法の練習をしている。
ヒイロは聖属性の魔法について詳しいのに、魔法自体はあまり得意じゃないのだ。
「ヨイチが凄すぎるんだよ。想像をそのまま魔法にできるのって才能だからね?」
「ええ、でも……いや、なんでもない」
つい椿木のことを思い出してしまった。
あいつは日本でライトノベルを「千冊は読んだ」と豪語していて、そのせいか繰り出す魔法のパターンが多く、エフェクトも派手だった。
でも結局、エフェクトには殆ど意味がなく、効果的なのは一つ二つのみで、そればっかり使ってたかな。
「どうしたの、ヨイチ」
「嫌な奴のことを思い出しちゃっただけだよ。続きやろうか」
ヒイロは僕が三人のペンダントに付与した防御系の魔法を一通り扱えるようになるのが目標だ。
まずヒイロが自分に掛けて、僕がその強度を見極めて、攻撃を繰り出す。
はじめのうちは、僕が軽くつつくだけで砕けるほど脆かったのが、今では剣をかなり思い切り振り抜いてもびくともしなくなった。
「ヒイロの成長速度も凄いよ」
一通り練習を終えてヒイロを撫でてやると、ヒイロは得意気に胸を張った。
月に二日ある祝祭日は完全に休みの日だ。全員、思い思いに過ごすことにしている。
異世界生活に馴染んできたと実感するのは、この祝祭日を過ごしてるときだったりする。
祝祭日はほとんどの冒険者が休息を取るが、魔物には関係のないことだ
冒険者ギルドに呼ばれてギルドハウスへ行ってみれば、統括が深刻そうな顔になっている。
「来たか、ヨイチ。悪いがスタグハッシュ西の森へ行ってもらう。……瘴気溜まりとはまた別の、悪いことが起きているようだ」
統括は僕の事情を知っている。その上で僕にスタグハッシュの近くへ行けという命令だ。
「具体的な話は?」
「冒険者カードに送っておく。準備はギルドで用意しておいたから、持っていってくれ」
「わかりました」
渡された荷物をマジックボックスへ放り込み、ギルドハウスを出た。
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