上 下
40 / 103
第二章

15 使いみち

しおりを挟む
 前回の魔物の巣での報酬振り分けが決定したと、冒険者ギルドに呼び出された。
 大規模なほど時間がかかるものらしい。

 ギルド発表によって正式に、「魔物の巣掃討者」、「核破壊者」の称号は僕が頂いてしまった。
 シアーダの所業が例のほぼスマホ冒険者カードの記録によって暴露されると、
「これはもう『掃討妨害者』では」
 という声が上がり、巣に潜って生還しただけでも貰えるはずだった報酬を全て無しにされ、その分を他の冒険者、主にマイルトやチェスタに割り振られた。

 僕は先の二つの称号に付随したものに加え、魔物の巣自体のクエスト報酬で、合計二千万ゴルも貰ってしまった。
 チェスタとマイルトが八百万ゴルずつ、アトワとキュアンは五百万ゴルずつだから、核を破壊したことにされただけで格差付き過ぎでは、と物申してみた。
「冒険者カードの記録は嘘をつかん。ヨイチの魔物討伐数は群を抜いている。ヨイチが数多くの魔物を討伐したお陰で救われた命が幾つもあったのだ。寧ろ足りないくらいだ」
 統括に懇懇と諭されてしまった。

 更に、冒険者ランクがSに昇格した。チェスタもめでたく暫定が外れ、正式なランクAとなった。
 大規模な巣の討伐に参加した冒険者が軒並みランクアップするのは珍しいことではないらしい。
 アトワとキュアンもランクBになっていた。

「はぁ、どうしよ」
 暗い顔で沈み気味なのはキュアンだ。
 冒険者はランクCのときが一番死亡率が低く、稼ぎとの釣り合いが良い。アトワとキュアンは意図的にランクCでいられる時間を伸ばしていたクチだ。
「だったら巣掃討に参加しなければよかっただろうに」
 アトワはランクBを粛々と受け入れていた。
「だって、あんな大きな巣、見たことなかったから……」
 キュアンの参加理由は好奇心だったのか。ちょっとわかる。
「引退するのか?」
「しない。頑張る」
 覇気のない口調で話しつつも、冒険者を辞めたりはしなかった。良かった。

 そんな大規模魔物の巣掃討クエストで、ランクを下げた冒険者が二人いた。
 一人は、核がまだ破壊出来ていない時点で降格が決定したアルダ。
 冒険者は強さが正義と言っても過言ではない。もしアルダが下層のマップを埋めるとか、高危険度の魔物を積極的に倒す等していたら、降格にはならなかった。ギルドの作戦を全無視して、自分の気の赴くままに巣を散歩してただけだったからね、あの人。アルダは統括やギルドの偉い人たち、他のランクA冒険者に代わる代わる説教されて、小さくなっていた。
 もう一人は、シアーダ。例の記録と、ランクZ冒険者マイルトの証言により行動に悪意があったと認められ、ランク降格の上、三年間は昇格できないという厳重な処罰が下った。アルダとの決定的な違いは、本人に反省の色が全く無いこと。

 ところで現在ギルドを出て帰宅途中なのですが、背中に殺気が刺さってます。最早物理的に痛いレベル。

 家まで付けられたくないので、町を適当にうろつきつつ、冒険者カードで統括さんとマイルトにこっそり連絡を取る。
 統括さんの指示通りに歩くと、ギルドから3ブロック離れた場所にある広めの空き地に到着した。
 そこで、冒険者カードに向かってボソボソ喋りながら、誰かと待ち合わせるフリをしてみせた。
 殺気はここがギルドからそう離れていないと把握できない程目が曇っている様子で、一息に距離を詰めて僕に剣を振り下ろした。

 剣は避けるまでもなく、別の場所から飛んできた攻撃魔法によって弾かれた。

「信頼はありがたいのですが、ヒヤヒヤしますね。もう少し逃げる素振りをしてくださいよ」
 魔法を使ったのはマイルトだ。
「当たりそうになったら避けるつもりでした」
 僕はすぐに避けるよりギリギリまで引きつけたほうが、犯人も油断するかと思ったのだ。

 殺気の犯人は、先日と同じように身体中を地面から生えた蔦でぐるぐる巻きにされている。
 もちろんシアーダだ。

「くそっ、貴様のせいでっ! 俺はっ!」
「ヨイチのせいではありません。全て貴方の自業自得です」
 マイルトが何度も繰り返している台詞だ。
「言いましたよね? これ以上、他の冒険者に危害を加えるならば……」
 冒険者ギルドが冒険者に対して行える最大の罰則は、カード剥奪及び再登録不可というものだ。
 それと普通に、国が定めた法の基にも裁かれる。
 シアーダは僕に対して明らかに危害を加えようとしていたから、傷害未遂罪になるかな。
 罰の内容には罰金、投獄、あとは奴隷労働というのもあるらしい。冒険者の体力なら多少の肉体労働は何でも無いように思えるのだけど、この世界の常識からすると、一日十時間以上の強制肉体労働というのは耐え難い苦痛と屈辱だそうで。
「時間を取らせてすみませんね、ヨイチ」
 地面に転がっているシアーダを完全に放置して、マイルトさんがやや困ったような笑みを僕に向ける。
「おそらく数年単位で労働奴隷に落ちると思われますが……シアーダは腐っても元ランクAです。反省もしないでしょう。勤めを終えたときは必ず連絡しますが、どこまで抑止力になるか……」
 確かに反省しなさそうだなぁ。今も足元で「絶対許さない」「俺はランクAだぞ」等など喚いてるし。
「こういうのは、何かの法に触れますか?」
 思いついた方法をマイルトに耳打ちで相談すると、「その程度なら正当防衛です」とお墨付きを頂いた。

 しゃがみこんで、シアーダの頭を片手で掴み、顔が僕へ向くよう固定する。
「痛っ! 離せ」
「黙れ。動くな」
 魔力を乗せた言葉でシアーダの動きを封じる。
 この方法で暗示をかけられないかと試すことにした。
 言葉に魔力を乗せるのは、通常でもかなり魔力を消耗する上、長いほど消耗が激しくなるので、慎重に言葉を選ぶ。
「二度と人に危害を加えるな」
 青くなっているだろう目でシアーダを睨みながら、言い切る。
 これでどこまで効果があるのかは未知数だ。でも、やらないよりマシだろう。
 動けず、声も発せないシアーダから返事はなかったが、身体はカタカタと震えていた。

 動きを封じている言葉は魔力とのつながりを切ると解除されてしまう。
 しかし、身体は震えっぱなしだったので、暗示は効いている気がする。
「貴方をランクZにお誘いしたいですね」
「普通の冒険者やっていたいです」
 マイルトが冗談に聞こえない口調で言うので、慌ててお断りした。
 僕は基本的に嘘を付くのが苦手なので、マイルトがやったような、敵を欺くにはまず味方から的な動きは無理だ。
「ふふ、本人の意向を無視してランクSをZにすることはありませんよ。冒険者は魔物討伐が最優先事項ですからね」
 マイルトは足までぷるぷるさせているシアーダを、蔦で縛り上げたまま連行していった。転移魔法を使えるはずなのにシアーダをわざわざ人通りの多い方へ歩かせたのは、見せしめだろうな。

 マイルトが去り、僕も帰ろうとしたところで思いついた。そうだ、転移魔法を試してみよう。
 その場で「家に帰りたい」と念じると、足元に魔力の渦が起こり、次の瞬間には家の前に立っていた。
「本当に理屈がわからない……」
 確かに魔力は消耗したし、一瞬の出来事とはいえ不思議な空間を抜けたような気がした。
 何の属性を使ったのか、僕が抜けた空間はこの世のどの部分だったのか。自分でやっておいて、どうしてできたかわからない。
 家の前で呆然と突っ立っていると、ヒイロが自力で入口の扉をあけて、足元へ駆け寄ってきた。
「おかえりヨイチ。転移魔法できたね」
「ただいま。できたけど、やっぱり理解不能だよ」
「何度も使えば、ヨイチなら解るんじゃないかな。そしたら燃費も良くなるよ」
「燃費、確かに悪いね」
 魔力の消費量が大きい。歩いて帰ってきたほうが疲れなかったくらいだ。
「今日はもうお仕事ないの?」
「ないよ」
 明日はチェスタ達と今後についての話し合いがある。
 僕がランクSに昇格したため、パーティをどうするか決めるのだ。
 できることなら、僕は……。
「じゃあ、自動標的で遊ばせて」
「うん」
 ヒイロは自動標的のタイムアタックに夢中だ。僕の剣に近いタイムを出せるようになり、今の目標は一秒を切ることだ。
 一旦家の中に入り、裏口から運動場へ出る。
 夕方近くまで、ヒイロに付き合って過ごした。



 夕食の後、家のみんなに今回得た報酬等について全て話した。
 家計はみんなで共有しているし、管理についてはほぼヒスイに任せてある。
「ヨイチはそれで、何か欲しい物とかないの?」
 一通り話した後、ツキコに問われた。
 今回、流石に金額が大きかったから、自分でも何か欲しいものはないかと散々考えた。

 結果、特に思いつかなかった。

「たしかに日本に比べたら娯楽少ないけどさ。もっとこう……無いかなぁ!?」
 ツキコが後半は叫ぶように言い募る。
「ツキコ達は無いの?」
 女の子が欲しがるものってよくわからないけど、服とか装飾品とかかな。
「金物はツキコが普通のより良いのを職場で作ってきてくれるし、家電はヨイチくんが買ってくれるし……」
 家の鍋やフライパンはツキコが職場の空き時間にトンカンやったものだ。DIYって何だっけ。
 家電は日本で使っていて便利だったものに近い魔道具を、僕が「家事のお供に」とあれこれ買い足している。お掃除ロボット的な物まで存在していて、今も無人の部屋を掃除しまくっていたりする。
「生活必需品的な欲しい物じゃなくて、アクセサリーとか、そういうのは?」
「必要ないから」
「自分で作る」
「ツキコにお願いする」
 無欲なヒスイに加えてツキコが万能すぎる。

 まあ、貯金しておいても問題ないし、必要なときが来たらでいいかと思いはじめた時、ずっとツキコの膝の上でもふられていたヒイロが僕のところへやってきた。
「ヨイチ、皆にローズが持ってるのと似たようなブローチをあげたら?」
「魔法よけのブローチのこと?」
「ローズが持ってるのは闇魔法だから、護るより報復の意味合いが強い。ヨイチが聖属性の魔力を込めれば、ほんとうの意味で護れるよ」
「それ、いいな。どんなアクセサリーでも魔力って籠められるの?」
「樹脂やガラスじゃない、天然の鉱物なら何でもいいよ。大きさは、ヨイチの小指の爪より大きな石がいい」
「わかった。……あのさ」
 三人に、本物の宝石を使っていて普段遣いできるアクセサリーを一人一つ必ず買うようにとお願いした。
「ヨイチの魔力が護ってくれるものになるのね? それなら欲しいわ」
 装飾品に興味を示さなかったヒスイが、一転して目を輝かせた。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

処理中です...