目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ

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第二章

14 ひとつの顛末

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 闇魔法で姿と気配を影に隠し、天使たちの後をこっそり追った。
 天使たちはボクが見張りを頼まれた小道を通り、町の外れにある大きな屋敷へ入っていく。
 小さなお城のような豪邸だ。周囲に足場が組んであるから、更に増築するのだろう。
 天使が住むには相応しい。

 しかし、横伏。どうしてオマエが天使と同じ家に入っていく?

 更に闇魔法を使って小さな人形を作り、隠形魔法をかけた。

 ドルシェスさんには本当にお世話になっているから、仕事をサボるわけにはいかない。
 人形を見張りに置き、ボクは気配を消したままお店に戻った。


「何かあったのか、ジスト」
「へ? いえ、何も」
「じゃあその手に持ってるモンは何だ」
「え? あっ!?」
 手の中には赤いペンダントがある。反射魔法が三重にかかってしまっていた。
 反射魔法は攻撃魔法を対象に返す魔法だ。何重もかけると、反射先の予測がつかなくなる。
 見張り人形と視界を繋いだり消したりしていて、手元をよく見ていなかったせいだ。
「すみません……」
「気をつけろよ。あと、今日はもう上がれ」
 二回分の魔法を解除し、ドルシェスさんのお言葉に甘えて仕事道具を片付けた。


 部屋に戻り、見張り人形と視界を繋ぐ。
 視界が繋がっている状態ならば、人形を自在に操れる。
 窓から家の中をそっと覗くと、横伏がこちらを見た。
 確かに目が合った。横伏の目が、青く光った気がした。
 次の瞬間、ばちゅん、と音がして、視界が遮断された。

「いっ!? 痛った……くはないな」

 隠形魔法で気配も姿も完全に消していたはずの人形が、横伏になにかされたらしい。
 目を直に触られたような感じがして、全身に鳥肌が立つ。
 しばらく目を閉じてやり過ごそうとして、それに気づいた。
「引っ張られている?」
 身体に糸を巻きつけられ、胸のあたりでその糸を引かれる感覚。これに関する痛みはないが、なんだろう。
 引かれている方向は……あの屋敷だ。
 まさか、横伏に見つかった!?
 有り得る。あの[魔眼]とかいうスキルで、視えないものを視てボクが操っていることに気づいたのかもしれない!

 僕は部屋中の荷物をマジックボックスに放り込み、ドルシェスさんのところへ走る。
 ドルシェスさんは店のカウンター横でお茶を飲みながら書類整理をしていた。
「すみませんっ、お世話になりました!」
 給与はまだ貰っていないが、部屋賃と食費が浮いただけでもかなり助かった。
 いつか必ず、恩返しに来ます。
「ジスト?」
「ごめんなさいっ!」
 引き留めようと立ち上がるドルシェスさんを振り切って、店を出た。


 町の外へ出た。何も考えず、屋敷と逆方向へ。
 目の前には森が広がっている。
 森へ入れば、横伏の目から逃れられないだろうか。
 そう考えて入った森は、なんとなく既視感がある。
 いや、既視感じゃない。ここは……。
「スタグハッシュ西の森じゃないか……」
 思わず立ち止まる。
 最初に逃げたはずの場所へ、自ら近づいてしまった。
 しかも、チートで強化された自分の足は、既ににかなりの距離を進んでいた。

 引き返そうと踵を返し、右足に何かが刺さった。

 脛から矢尻が突き出ている。
 どうして、と見つめていると、左足の脛からも同じものが生えた。
 痛みは感じない。二度目に生き返ってから、痛覚を忘れてしまったらしい。
 ただ、意識が朦朧としてきた。

「麻酔矢と、魔封じの矢だ。じきに動けなくなる」
「見張っていてよかった」
「よかった、これでやっと……」

 遠くなる意識の向こうで、どこかで聞いた覚えのある声が何か言っている。
 これ以上、犠牲は出なくなる、だって。
 何のことだろう。
 ああ、考えるのも億劫だ。



***



 プラム食堂でお昼を食べた後、家に帰ると何か嫌な気配がした。
 巧妙に隠しているのが余計気に障る。
 気配が読めなくても、魔力を辿ればいい。魔力は隠せないからね。
 窓の外を見ると、黒い人型の何かがいた。魔力の元はそいつだ。
 全身真っ黒のそいつには顔どころか目すらないのに、僕をじっと見ている気がする。
 気持ち悪い。
 そいつが垂れ流している魔力を辿って、それ自体に僕の魔力を送り込み、潰した。
「どしたの?」
 窓の外を睨みつけていた僕を、ローズが見上げている。
「何か妙なのがいたから潰した。今、魔力の痕跡を追ってる」
「えっ、ストーカー?」
 ツキコが青褪める。ツキコは知らないうちにストーカーされてたから、尾行や監視という行為に人一倍嫌悪感を抱く。
「違うよ。見張ってたみたいだった……って、これもストーカーのやることか。でも、そういうのじゃないと思う」
 この家の誰かを追ってきたのは間違いない。尾行に気づかないなんて、僕としたことが油断していた。
 いや、町の中くらい気を抜かせてよ。四六時中周囲を警戒するわけにいかないでしょう。
 だから、犯人を突き止めて締め上げるつもりだった。二度とこんなことをしないように。
 しかし犯人は完全に諦めたらしく、途中で魔力が途絶えてしまったので、それ以上追えなかった。
 最初の人型を潰さず残して泳がせればよかったなぁ。
「ごめん、犯人のとこまで辿れなかった」
 集中して魔力を視たせいか、目が疲れた。眉間を揉みながら、ソファーに座り込む。このソファーもツキコ製作だ。クッションの素材は僕が討伐した魔物の革が使われていて、意外と座り心地が良い。
「町の中でまで気を抜くなって方が無理な話よ。目、冷やす? 濡れタオル持ってこようか」
「冷やすの気持ちよさそうだね。頼むよ」
 ツキコがキッチンへタオルを取りに行った。
 僕の横に、ローズとヒイロが座る。
 ローズはヒイロを膝に乗せて、その頭を撫でながらしばらく何事か考え込んでいた。
「ヨイチ、話がある」
 随分と改まった口調だ。
「どうした?」
「シスイに会った。……さっきの、シスイかもしれない」
「シスイって……椿木!?」
「ヨイチ、一旦話聞いて欲しい」
 腰を浮かせた僕の足に、ローズが縋るように触れる。再びソファーに腰を下ろした。

「シスイ、怪我して倒れてた。魔物の仕業じゃなくて、転移魔法に失敗したって言ってた」
「つまり、僕を狙ってこの町に来たわけではなく、偶然ローズに会ったってこと?」
「ローズはそう思う。それで、ヨイチが帰ってくるまで、家に来るまでの暗い道の監視を頼んだ。そこで最初のとき以外に二回会ったの。二回目に、これくれた」
 ローズがポケットから取り出したのは、紫色の石が嵌ったブローチだ。
「身につけた?」
「ううん。ポケットに入れっぱなし。[鑑定]してみて?」
 言われずとも、[鑑定]を発動させていた。


 魔法除けのブローチ<残1、再充填可>
 効果:攻撃魔法を逸らす


 随分シンプルな説明しか出てこない。
「効果以外の魔法や呪いは掛かってないよ」
「そう……」
 ローズは俯いて、再び考え込みはじめた。
「ヨイチ、あの……。シスイに会ったら、ヨイチはどうする?」
「ブローチに呪いか何か掛かってたら、すぐ捕まえに行って締め上げてたよ。そうじゃないから、別に何もしない」
 僕はこの家の女の子たちには、何度か言っている。
 奴らに復讐する気は無いと。
 亜院は、向こうから僕の前に姿を見せただけでなく、ツキコを拐ったから、二度とそんな真似が出来ないように壊した。
 今回の椿木はローズに危害を加えていない。
「ここを見張ってたのは、僕がローズと歩いてるところを見かけて、気になっただけかな」
「きっとそう。ごめんね、ヨイチ」
「どうして謝るの」
「ローズはヨイチと違って人間ができてないから。最初からシスイがシスイだって気づいてたら、回復ポーションなんて飲ませなかった。名前聞いてからは、利用して、ヨイチに引き渡すつもりだったの」
 僕以外の人たちが連中への殺意高めでちょっと怖い。
「僕だって人間ができてるわけじゃないよ。ローズは怪我人を助けて、お礼にブローチを貰っただけだ」
「……そういうことにしておく」

 話が一段落ついたところで、キッチンからツキコの「ヘルプー」という声がした。
「何事? 水浸し……」
「製氷機能が上手くいってなかったみたいで、開けたらバシャーって……」
 魔法式冷蔵庫には自動製氷機能までついた、ハイエンド製品だ。日頃家事をしてくれる皆に感謝して、先日僕がプレゼントした。予想外に喜ばれ、全力でフル活用されている。
 製氷機能が壊れるのは初めてだ。魔道具屋さんに来てもらわなければ。
「乾かすよ、離れてて」
 火と風の魔法を組み合わせて、床の水気を払った。ドライヤー代わりによく使う魔法を即興で広範囲にしてみたのが、無事に上手くいった。
「ありがとー! やっぱり魔法って便利ね」
「ところで濡れタオルの方は……」
「キンキンに冷やそうとしたらコレよ。水で濡らしただけのやつでいい?」
「充分だよ、ありがとう」
 居間に戻り、目に濡れタオルを載せた状態でソファーに沈み込む。
 もう一度魔力の気配を追ってみるも、何も見つけられなかった。



 翌日、魔道具屋さんに来てもらった。
「冷却部品に不備がありましたよ。初期不良なんで、交換は無料です。十五分ほど掛かりますが、宜しいですか?」
「お願いします」
「では、部品をとってまいります……おや? お嬢さん、そのブローチはどうしました?」
 魔道具屋さんの視線の先は、ローズの胸元についた例のブローチだ。
「知り合いに貰ったの」
 ローズが答えると、魔道具屋さんは微妙な表情になった。
「これに見覚えが?」
「いいえ、そのブローチは初めて見ました。実は、知り合いの魔道具屋が腕のいい闇魔法使いを雇えたと喜んでいたのですが、ある日突然理由も言わずに出ていったそうで。知り合いが落ち込んでいるのですよ。確かそういうブローチも手掛けてたな、と。……ああ、すみません、無駄話を。すぐに部品をとってまいります」

「今の話、シスイのことかな」
「だろうね。闇魔法使いって冒険者でもあまり見かけないんだ」
「急にいなくなったのは、ローズがヨイチと繋がりがあると知ったせいだね」
「うん。ローズはどうしたい? 僕の事情は考えなくていいよ」
「どうもしない。ローズは怪我人を助けてお礼にブローチを貰っただけ」
 ローズは胸元のブローチを無造作に外し、ポケットに突っ込んだ。
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