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第二章
4 ペットと過ごす
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ヒイロを家に連れ帰ったその日は、誰がヒイロといっしょに寝るかで揉めかけた。
僕とヒイロはソウルリンクというもので感覚の一部が繋がっている。
ヒイロが女の子と一緒のベッドに寝たら……うん。僕がヤバイ。
ヒイロに選んでもらった結果、僕の部屋のクッションの上ということになって安堵したわけだけど。
「聖獣とソウルリンクのことをもっとよく知りたい……寝ちゃったか」
ヒイロは僕が渡したクッションと毛布に対し前足でぺしぺしとセッティングらしき行為をした後、くるんと丸まった。既に寝息をたてている。
初めて会う人達にあれだけもふもふされたら疲れもするか。
ヒイロはこのまま僕と一緒に暮らしてくれるのだろう。話はいつでも聞ける。
「おやすみ」
声に出して言って、僕も自分のベッドに潜り込んだ。
***
「こういう場を設けてみたよ」
「どこだ、ここ」
眠ったと思ったら、不思議な空間に立っていた。
辺りは夜のような暗さなのに、目の前のヒイロの姿ははっきりと見える。
足元は、あるのかないのか曖昧な感覚だ。ふわふわしているわけじゃないけど、硬い地面に立っている感じはしない。
「夢の中みたいなものだよ」
「うーん、了解」
異世界だし、魔力や幽霊があるくらいのところだから、何でもアリなんだ。自分を無理やり納得させた。
「聖獣は魔物から稀に生まれる、聖属性を持った生き物だよ。ソウルリンクすることで、お互いの力が高まり、人間に何かあれば聖獣にも影響が出る」
ヒイロは僕が知りたかった情報を、どんどん流し込んでくる。
「聖属性は光属性の上位互換だと思ってくれれば大体あってる思う。光属性にできることは傷を癒やし魔物を退けること。聖属性は身体の欠損を再生させ魔物を消滅させる力がある」
僕が理解しきるのに、ほんの少し間がある。ヒイロはその間を正確に読み取って、続きを出してくれる。
「ソウルリンクは、魂のつながり。繋げ方は聖獣による。血液を媒介にしたり、心臓に取りついたり」
「うわっ」
エグいなぁ、という言葉は飲み込んだけど、どうせ読まれているのだろうな。
「ヨイチならどの方法でも、あの時ぼくを助けてくれてたよ」
「ええ、どうかな」
「そういう人だから、ぼくとソウルリンクできたんだ。他の人はぼくがソウルリンクできるって聞いた途端に離れたじゃないか」
「いや、僕は詳しく知らなかったから……」
「ぼくを放っておけた?」
「……」
あれだけのブラックウルフがいたなかで、ヒイロは怪我をしてうずくまっていた。
僕たちが来る前から動けなかったのだろう。動いていたものは全部倒したから。
「自分でもよくわからないんだよ」
放っておけなかった。助けたかった。
魔力を流せば助かると知ったら、他のことは考えられなかった。
「理由はヨイチにしかわからないよ。ヨイチがわからないなら、他の誰にもわからない」
「そっか」
どうせ誰も知らないのなら、これ以上考えても仕方ないか。
「ソウルリンクした聖獣は、相手の人間と同じくらい強くなれるんだ。今はまだヨイチの魔力に馴染めてないから、大したことは出来ない」
「この空間創ったのはヒイロなんだろ? 大したことじゃないか」
「空間創造自体は聖獣のスキルみたいなものだからね。本来、この世界の広さはヨイチの魔力量と比例するはずなんだ。ここは狭いものだよ」
狭いと言われても、辺りは真っ暗で端なんて見えない。
「だからしばらくは、なるべくヨイチと一緒にいたい。クエストもついていくよ。邪魔はしない」
ヒイロが一番言いたかったのは、このことだったようだ。
「わかった」
僕が頷くと、ヒイロはしっぽをぱたぱたと振った。
***
ベッドの上で起きたからにはしっかり眠っていたはずなのに、ヒイロとの会話は全て鮮明に覚えている。
「身体はちゃんと休めてるはずだよ」
「うん、大丈夫。おはよう」
「おはよう」
身支度してキッチンへ向かうと、ヒスイ達が朝食を用意していた。
この家で一番遅く起きるのは僕だ。申し訳ないから同じ時間に起きようとしたら、皆がそれより更に早起きするので現状で落ち着いている。うちのメイドさん達働き者すぎる。
「ヒイロ、こっちも食べてみる?」
「ヒキュン」
ヒイロに食事は必要ないことは説明済みなのだけど、皆して朝食のおかずを少しずつ与えている。
ヒイロも美味しそうに食べるから、食事自体は好きなようだ。
「見た目は犬っぽいけど、聖獣だからタマネギとかも平気かな?」
「ヒキュン」
「大丈夫だってさ。何なら多少の毒は無効化するらしい」
「毒なんてあげないわよ」
「ヒキュン」
「助かる、って言ってる」
「ヒイロと話せるのいいなぁ」
ツキコがうらやましがる。ツキコは圧倒的犬派を自称しており、昨夜いちばんヒイロを手放さなかったのはツキコだ。
僕が食べ終わると、ヒイロも満腹だと言わんばかりにその場に寝そべった。後ろ足で耳のあたりを掻いている。
こういう、あざとい動作は狙ってるのかな。ツキコがもふりたそうにそっちを見てるぞ。
今日は僕だけ仕事がない。ヒスイ達が各々仕事へ行ってる間に家事をやると「仕事を取り上げないでくださいませご主人さま」と謎の苦情がくるので、自室を軽く掃除するだけにとどめて外へ出た。
家の裏手の運動場には、いつのまにか自動標的が置いてあった。
イネアルさんとアルマーシュさんはここへ自由に出入りして、自動標的を置いたり持っていったりしている。
戻ってきているということは、また何かしら改良が施されているはずだ。
毎回、簡単なレポートを書くよう頼まれているので、一旦家から紙とペンを持ってきて自動標的の側に置き、日付を書き入れた。
「なにそれ?」
「全自動標的生成機Ver……いくつになったのかな。一度やってみせるから、少し離れてて」
当然のようについてきているヒイロを安全な場所まで下がらせて、僕は剣を手に、ボタンを押した。
以前までは押すと当時に駆け出していたけど、五秒ほどカウントダウンが入るようになった。こうすることで、僕の速さでもエラーを吐かなくなったのだ。
ピッ、と甲高い機械音とともに幻影の的が二十浮かび上がり、それを剣で次々斬っていく。
斬り終わって自動標的の場所へ戻ると、タイムがしっかり表示されていた。ちなみに三秒九八だった。
「おお、完璧だ」
「面白そう。ぼくもやっていい?」
「いいよ。ボタンは僕が押そうか。準備できたら言って」
弓でも試したかったけど、ヒイロがわくわくしていたので譲った。
「よろしく」
「ん」
ボタンを押して、カウントダウンの後、ヒイロが的めがけてとびついていく。
全ての的に飛びつき終えると、僕の元へ一直線に戻ってきた。
「どうだった?」
「五十四秒だ。ヒイロ、文字は読める?」
「読めるよ。ぼくも見たい」
自動標的は僕の腰くらいの高さの台に置いてあるから、ヒイロではタイムを直に見ることが出来ない。抱き上げて見せてやると、耳としっぽがしょんぼりと垂れた。
「ぼく、遅いねぇ」
「的の位置を低くしようか」
「ヨイチと同じ条件でやりたい」
「わかった」
ヒイロはその後三十回程繰り返し、三十秒台まで縮めることが出来た。
しかしヒイロは不満げだ。
「はやくヨイチの魔力に馴染みたい」
「ランクBの冒険者でも四十秒切る人は滅多にいないらしいよ」
「ヨイチみたいに目にも留まらぬ速さになりたい」
まだやりたそうにしているけれど、一時間近く跳び回りっぱなしでさすがにへばっている。
「魔力が馴染めば、僕と同じくらい強くなるんだよな? そのために僕ができることってあるかな」
「自然と馴染むのを待つのが一番いい方法なんだ」
「そっか。じゃあ一緒にいような」
おとなしくなったヒイロの頭をわしわし撫でてやると、ヒイロから不満げな様子がすこしだけ抜けた。
「さて、次はコレで」
弓と弓懸の魔道具を取り出して魔力を流し、自動標的のボタンを押した。カウントダウンの間に、初撃用の矢も作り出しておく。
僕が弓を持ったら、ヒイロがむくりと顔を起こした。そういえば、弓のことは言ってなかったか。
機械音が鳴ると同時に、弓矢で的を射抜く。
「……こっちはだめか」
自動標的はエラーを吐いてしまった。
弓は駄目でした、とメモに書き込んでおく。
「魔法でもいいの?」
ヒイロが疲れを忘れたかのように起き上がり、駆け寄ってきた。
「うん。魔法のほうが得意?」
「ヨイチの矢ほどではないけれど、体当たりよりは速いと思う」
「じゃあやってみなよ。あ、家や周りの木を壊さないようにだけ気をつけて」
「うん!」
ヒイロは自分の周囲に二、三秒ほどかけて五本の光の矢を作り出すと、的めがけて放った。それを四回繰り返した。
「十九秒、すごいじゃないか」
「まだまだだよ」
謙遜の言葉とは裏腹に、しっぽはぶんぶん振られているし、顔も得意気だ。
しかし魔法の方は何度やっても十七秒が最短だった。
「も、もう一回……」
「フラフラじゃないか。今日はお終い。お昼作るから食べよう」
自分の足で歩こうとしたヒイロを抱き上げて、家の中に戻った。
ヒイロは魔力が枯渇しかけていた。
「頑張りすぎだよ」
「ううー……」
今朝ヒスイが甘辛ダレに漬け込んでおいてくれたイデリク牛を炒めて、ご飯と一緒に食べている間、ヒイロは僕の膝の上でぐったりしていた。
口元に肉を運んでやると、ぺろりと舐めた後ぱくりと一口で食べた。
「おいしいね。朝のもおいしかった」
「どれが好きだ?」
「いま食べたやつ。朝の棒みたいなのも好き」
ソーセージのことかな。肉食で、味の濃いものが好みらしい。
「直接食べるのは楽しいけど、ヨイチが満足してこそだからね。ぼくの分は考えなくていいよ」
なんとも殊勝なことを言ってくれる。
「僕が満足した上でヒイロも楽しく食べればいいじゃないか」
「……ありがとう。もうひとくちもらってもいい?」
「遠慮しなくていいから、どんどん食べて」
結局、皿の半分をヒイロが食べ、僕はもう一度キッチンに立つことになったけれど、嬉しそうに食べるヒイロを見るのは楽しかった。
僕とヒイロはソウルリンクというもので感覚の一部が繋がっている。
ヒイロが女の子と一緒のベッドに寝たら……うん。僕がヤバイ。
ヒイロに選んでもらった結果、僕の部屋のクッションの上ということになって安堵したわけだけど。
「聖獣とソウルリンクのことをもっとよく知りたい……寝ちゃったか」
ヒイロは僕が渡したクッションと毛布に対し前足でぺしぺしとセッティングらしき行為をした後、くるんと丸まった。既に寝息をたてている。
初めて会う人達にあれだけもふもふされたら疲れもするか。
ヒイロはこのまま僕と一緒に暮らしてくれるのだろう。話はいつでも聞ける。
「おやすみ」
声に出して言って、僕も自分のベッドに潜り込んだ。
***
「こういう場を設けてみたよ」
「どこだ、ここ」
眠ったと思ったら、不思議な空間に立っていた。
辺りは夜のような暗さなのに、目の前のヒイロの姿ははっきりと見える。
足元は、あるのかないのか曖昧な感覚だ。ふわふわしているわけじゃないけど、硬い地面に立っている感じはしない。
「夢の中みたいなものだよ」
「うーん、了解」
異世界だし、魔力や幽霊があるくらいのところだから、何でもアリなんだ。自分を無理やり納得させた。
「聖獣は魔物から稀に生まれる、聖属性を持った生き物だよ。ソウルリンクすることで、お互いの力が高まり、人間に何かあれば聖獣にも影響が出る」
ヒイロは僕が知りたかった情報を、どんどん流し込んでくる。
「聖属性は光属性の上位互換だと思ってくれれば大体あってる思う。光属性にできることは傷を癒やし魔物を退けること。聖属性は身体の欠損を再生させ魔物を消滅させる力がある」
僕が理解しきるのに、ほんの少し間がある。ヒイロはその間を正確に読み取って、続きを出してくれる。
「ソウルリンクは、魂のつながり。繋げ方は聖獣による。血液を媒介にしたり、心臓に取りついたり」
「うわっ」
エグいなぁ、という言葉は飲み込んだけど、どうせ読まれているのだろうな。
「ヨイチならどの方法でも、あの時ぼくを助けてくれてたよ」
「ええ、どうかな」
「そういう人だから、ぼくとソウルリンクできたんだ。他の人はぼくがソウルリンクできるって聞いた途端に離れたじゃないか」
「いや、僕は詳しく知らなかったから……」
「ぼくを放っておけた?」
「……」
あれだけのブラックウルフがいたなかで、ヒイロは怪我をしてうずくまっていた。
僕たちが来る前から動けなかったのだろう。動いていたものは全部倒したから。
「自分でもよくわからないんだよ」
放っておけなかった。助けたかった。
魔力を流せば助かると知ったら、他のことは考えられなかった。
「理由はヨイチにしかわからないよ。ヨイチがわからないなら、他の誰にもわからない」
「そっか」
どうせ誰も知らないのなら、これ以上考えても仕方ないか。
「ソウルリンクした聖獣は、相手の人間と同じくらい強くなれるんだ。今はまだヨイチの魔力に馴染めてないから、大したことは出来ない」
「この空間創ったのはヒイロなんだろ? 大したことじゃないか」
「空間創造自体は聖獣のスキルみたいなものだからね。本来、この世界の広さはヨイチの魔力量と比例するはずなんだ。ここは狭いものだよ」
狭いと言われても、辺りは真っ暗で端なんて見えない。
「だからしばらくは、なるべくヨイチと一緒にいたい。クエストもついていくよ。邪魔はしない」
ヒイロが一番言いたかったのは、このことだったようだ。
「わかった」
僕が頷くと、ヒイロはしっぽをぱたぱたと振った。
***
ベッドの上で起きたからにはしっかり眠っていたはずなのに、ヒイロとの会話は全て鮮明に覚えている。
「身体はちゃんと休めてるはずだよ」
「うん、大丈夫。おはよう」
「おはよう」
身支度してキッチンへ向かうと、ヒスイ達が朝食を用意していた。
この家で一番遅く起きるのは僕だ。申し訳ないから同じ時間に起きようとしたら、皆がそれより更に早起きするので現状で落ち着いている。うちのメイドさん達働き者すぎる。
「ヒイロ、こっちも食べてみる?」
「ヒキュン」
ヒイロに食事は必要ないことは説明済みなのだけど、皆して朝食のおかずを少しずつ与えている。
ヒイロも美味しそうに食べるから、食事自体は好きなようだ。
「見た目は犬っぽいけど、聖獣だからタマネギとかも平気かな?」
「ヒキュン」
「大丈夫だってさ。何なら多少の毒は無効化するらしい」
「毒なんてあげないわよ」
「ヒキュン」
「助かる、って言ってる」
「ヒイロと話せるのいいなぁ」
ツキコがうらやましがる。ツキコは圧倒的犬派を自称しており、昨夜いちばんヒイロを手放さなかったのはツキコだ。
僕が食べ終わると、ヒイロも満腹だと言わんばかりにその場に寝そべった。後ろ足で耳のあたりを掻いている。
こういう、あざとい動作は狙ってるのかな。ツキコがもふりたそうにそっちを見てるぞ。
今日は僕だけ仕事がない。ヒスイ達が各々仕事へ行ってる間に家事をやると「仕事を取り上げないでくださいませご主人さま」と謎の苦情がくるので、自室を軽く掃除するだけにとどめて外へ出た。
家の裏手の運動場には、いつのまにか自動標的が置いてあった。
イネアルさんとアルマーシュさんはここへ自由に出入りして、自動標的を置いたり持っていったりしている。
戻ってきているということは、また何かしら改良が施されているはずだ。
毎回、簡単なレポートを書くよう頼まれているので、一旦家から紙とペンを持ってきて自動標的の側に置き、日付を書き入れた。
「なにそれ?」
「全自動標的生成機Ver……いくつになったのかな。一度やってみせるから、少し離れてて」
当然のようについてきているヒイロを安全な場所まで下がらせて、僕は剣を手に、ボタンを押した。
以前までは押すと当時に駆け出していたけど、五秒ほどカウントダウンが入るようになった。こうすることで、僕の速さでもエラーを吐かなくなったのだ。
ピッ、と甲高い機械音とともに幻影の的が二十浮かび上がり、それを剣で次々斬っていく。
斬り終わって自動標的の場所へ戻ると、タイムがしっかり表示されていた。ちなみに三秒九八だった。
「おお、完璧だ」
「面白そう。ぼくもやっていい?」
「いいよ。ボタンは僕が押そうか。準備できたら言って」
弓でも試したかったけど、ヒイロがわくわくしていたので譲った。
「よろしく」
「ん」
ボタンを押して、カウントダウンの後、ヒイロが的めがけてとびついていく。
全ての的に飛びつき終えると、僕の元へ一直線に戻ってきた。
「どうだった?」
「五十四秒だ。ヒイロ、文字は読める?」
「読めるよ。ぼくも見たい」
自動標的は僕の腰くらいの高さの台に置いてあるから、ヒイロではタイムを直に見ることが出来ない。抱き上げて見せてやると、耳としっぽがしょんぼりと垂れた。
「ぼく、遅いねぇ」
「的の位置を低くしようか」
「ヨイチと同じ条件でやりたい」
「わかった」
ヒイロはその後三十回程繰り返し、三十秒台まで縮めることが出来た。
しかしヒイロは不満げだ。
「はやくヨイチの魔力に馴染みたい」
「ランクBの冒険者でも四十秒切る人は滅多にいないらしいよ」
「ヨイチみたいに目にも留まらぬ速さになりたい」
まだやりたそうにしているけれど、一時間近く跳び回りっぱなしでさすがにへばっている。
「魔力が馴染めば、僕と同じくらい強くなるんだよな? そのために僕ができることってあるかな」
「自然と馴染むのを待つのが一番いい方法なんだ」
「そっか。じゃあ一緒にいような」
おとなしくなったヒイロの頭をわしわし撫でてやると、ヒイロから不満げな様子がすこしだけ抜けた。
「さて、次はコレで」
弓と弓懸の魔道具を取り出して魔力を流し、自動標的のボタンを押した。カウントダウンの間に、初撃用の矢も作り出しておく。
僕が弓を持ったら、ヒイロがむくりと顔を起こした。そういえば、弓のことは言ってなかったか。
機械音が鳴ると同時に、弓矢で的を射抜く。
「……こっちはだめか」
自動標的はエラーを吐いてしまった。
弓は駄目でした、とメモに書き込んでおく。
「魔法でもいいの?」
ヒイロが疲れを忘れたかのように起き上がり、駆け寄ってきた。
「うん。魔法のほうが得意?」
「ヨイチの矢ほどではないけれど、体当たりよりは速いと思う」
「じゃあやってみなよ。あ、家や周りの木を壊さないようにだけ気をつけて」
「うん!」
ヒイロは自分の周囲に二、三秒ほどかけて五本の光の矢を作り出すと、的めがけて放った。それを四回繰り返した。
「十九秒、すごいじゃないか」
「まだまだだよ」
謙遜の言葉とは裏腹に、しっぽはぶんぶん振られているし、顔も得意気だ。
しかし魔法の方は何度やっても十七秒が最短だった。
「も、もう一回……」
「フラフラじゃないか。今日はお終い。お昼作るから食べよう」
自分の足で歩こうとしたヒイロを抱き上げて、家の中に戻った。
ヒイロは魔力が枯渇しかけていた。
「頑張りすぎだよ」
「ううー……」
今朝ヒスイが甘辛ダレに漬け込んでおいてくれたイデリク牛を炒めて、ご飯と一緒に食べている間、ヒイロは僕の膝の上でぐったりしていた。
口元に肉を運んでやると、ぺろりと舐めた後ぱくりと一口で食べた。
「おいしいね。朝のもおいしかった」
「どれが好きだ?」
「いま食べたやつ。朝の棒みたいなのも好き」
ソーセージのことかな。肉食で、味の濃いものが好みらしい。
「直接食べるのは楽しいけど、ヨイチが満足してこそだからね。ぼくの分は考えなくていいよ」
なんとも殊勝なことを言ってくれる。
「僕が満足した上でヒイロも楽しく食べればいいじゃないか」
「……ありがとう。もうひとくちもらってもいい?」
「遠慮しなくていいから、どんどん食べて」
結局、皿の半分をヒイロが食べ、僕はもう一度キッチンに立つことになったけれど、嬉しそうに食べるヒイロを見るのは楽しかった。
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