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第二章
3 ヒキュン
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腕の中の白いブラックウルフは最早、今にも死にそうなほどか細い呼吸しかしていない。
「ソウルリンクって、何かよくないものなの?」
僕と白ウルフから距離をとってしまった三人に尋ねると、アトワが首を横に振った。
「ヨイチは知らないから側にいられるのか。ソウルリンクとは、神使と繋がるという意味だ。魔力交流が条件なら無差別にリンクすることは無いだろうが……ヨイチも離れたほうがいい」
僕はますます困惑する。
「シンシって何?」
「神の御使い、つまりそのコは聖なる存在よ。魔物と対極の存在でありながら、魔物の群れに稀に生まれるの。ソウルリンクできるなら、相応しい力が手に入る。だけど……」
顔を曇らせるキュアンに不安が生まれなかったわけじゃない。
でも、どうしてか、こいつのことを放っておけない。
魔物でないのなら、助けても問題ないだろう。
「ねえ、ソウルリンクってのをやったら、こいつの怪我治るかな」
「そうかもしれんが、ヨイチが相応しい相手じゃなかった場合、何が起きるかわからんぞ」
「わかった」
治癒魔法をかけるためにかざしていた右手から、白ウルフに僕の魔力を直接流し込んだ。
こいつを治してやりたい。
それしか考えられなかった。
「話聞いてたか!? 何が起きるか知らんぞ!!」
チェスタの声も、キュアンの悲鳴も、アトワが息を呑む音も、全て聞こえてる。
僕の魔力は、そうするつもりはなかったのに青白く輝いて、僕と白ウルフを繋いだ。
眩しさに目を閉じて、次に開けた時、白ウルフの透き通った赤い目が僕の目と合った。
「ヒキュン!」
「元から変な鳴き声なのか、おまえ」
腕から降りたそうにもがくので地面に下ろすと、白ウルフは僕の周りをぐるぐる駆け回った。元気だ。
サイズはトイプードルくらいかな。毛足は長く、耳はピンとしていてしっぽはふさふさと揺れている。
毛の長い柴犬みたいな印象だ。
僕の周りを何周かすると気が済んだのか、足元でピシッとおすわりをした。ただし顔は半開きの口から舌が覗いていて、赤い目をキラキラさせながら僕を見上げている。なんだこいつ、可愛いな。
「ヨイチ、なんともないか!?」
チェスタ達がこちらへ駆け寄ってくる。
「うん」
強いて言うなら、白ウルフが元気になってホッとしたせいか、気分が良い。
「どこか変化はないか? 外見はなさそうだが……自分でステータスを見てみろ」
「あ、そうか」
こっちの世界に来て半年以上経つのに、未だにステータスや鑑定に慣れない。
レベル 208
属性:聖
ソウルリンク:聖獣マガミ
変化があったのはこの三つだ。
「属性に『聖』が追加されて、ソウルリンクが聖獣マガミってなってる。マガミってのがおまえのことか?」
僕が白ウルフに向けて言うと、白ウルフは「ヒキュン」と応えた。なんとなく、意思疎通できてる気がする。
「ソウルリンクされた聖獣を、この目で拝める日が来るとは……」
アトワが両手で顔を覆って膝をついた。キュアンも白ウルフではなく聖獣マガミをじっと見ている。でもキュアンの方はどちらかというと、モフりたそうだ。
「なんともないなら良いんだが」
チェスタは「仕方ないやつだ」みたいな感じで僕とマガミを交互に見た。
「何かあったら、どうなってたの?」
「今更それを聞くか!? 相応しくなかったら条件に必要なものを根こそぎ奪わる、または聖獣に食われる、なんて聞いたことがある。つまり、碌なことにならないわけだ」
「相応しいかどうかってのは、どう決まるの?」
「そこまでは知らん。聖獣次第とも人間次第とも言われてる」
「へぇ。……ところでさ、こいつこの後どうすればいい?」
聖獣は僕の足元でお腹を見せてごろんごろんしている。我慢できなくなったキュアンが腹をわしゃわしゃすると、大人しく撫でられ、目を細めていた。見てるこっちまでお腹がこそばゆい。
「責任持って飼えばいいんじゃないか?」
チェスタは呆れを通り越して、最早面倒くさそうだった。
***
野営をもう一泊挟んで、モルイへ帰ってきた。
ギルドで諸々の手続きをしている間、聖獣は大人しく僕に抱かれていた。
「可愛いワンちゃんですねー。どうしたのですか?」
受付さんが手を伸ばすと、聖獣はその手をふんふんと興味深げに嗅いだ。
「ブラックウルフの群れに紛れ込んでいたんだ。ヨイチに懐いたからつれてきた」
チェスタ達に「聖獣だとバラすと大変なことになる」といわれたので、ここでは聖獣も犬扱いだ。
幸いまだ仔犬くらいのサイズしかないし、見た目も狼っぽさはあまりない。色も白いから元がブラックウルフだとは思われないだろう。
四人で報酬を分け合い、一旦解散となった。
次のクエストは早ければ三日後。冒険者カードで連絡先を交換し、僕は三日ぶりの我が家へ帰宅した。聖獣と一緒に。
出迎えてくれたのは、例のお仕着せ……つまりはメイド服を着たヒスイだ。
「おかえりなさいませご主人さま!」
まだやるんだ、そのノリ。
「ただいま」
「そのコどうしたの!?」
先程までのノリはどこへやら、僕の腕の中の聖獣を見つけて目を輝かせた。
「拾ったから飼うことにしたんだ。そういえば皆動物アレルギーとか大丈夫だっけ」
僕としたことが迂闊だった。誰かがアレルギー持ちだったら、家の中で飼えないな。
「私は平気。ツキコとローズには聞いたことないわね。でも二人共、魔物や動物の素材を触る仕事してるでしょう? 大丈夫なんじゃないかしら」
「だといいな。二人はまだ仕事か」
「ええ。帰ってきたら改めて聞いてみましょ」
ヒスイが聖獣を抱っこしたがったので渡してみると、聖獣は大人しくヒスイの腕におさまった。
聖獣はうっとりと腕というかヒスイの胸にもたれかかっている。温かそうだな。
……? 僕の顔のあたりもなんだか温かい。
熱でも出たのかと、自分の額に手の甲を当ててみる。なんともなさそうだ。
「あっ、ごめんねヨイチくん、疲れてるでしょう。ご飯食べる? お茶にする?」
「ご飯は食べてきちゃったから、お茶を頼んでいいかな。着替えてくるよ」
僕が歩きだすと、聖獣がヒスイの腕からひょいと飛び降りてあとをついてきて、そのまま一緒に部屋へ入った。
「あれ? 顔もう温かくないな。何だったんだろ」
「ぼくと感覚が繋がってるからね。あのヒスイって子の胸のぬくもりだよ」
「セクハラ案件じゃん! ……ヒスイに謝ったほうがいいかな、って……えっ!?」
装備を中途半端に解いた状態で振り返る。そこには聖獣がちまりと座っているだけだ。
「今しゃべったの、おまえか?」
「そろそろ名前をくれないかな。聖獣とかおまえって呼ばれ続けるのはちょっと」
小さな男の子みたいな高めの声は、間違いなく聖獣のものらしい。
「マガミって名前じゃないの?」
「それは種族名みたいなものだよ。固有名詞がほしい」
僕は軽くパニックに陥りながらも、そういえば名前をつけてなかったなぁと考える。
ブラックウルフなのに白くて、聖獣で……。
「ヒイロ、ってどうかな」
身体は白いけど目は赤いし。ヒキュン、って鳴くし。
「良いね。じゃあヨイチ、改めてよろしく」
「あ、はい、こちらこそ……じゃなくって!」
やっと頭が情報処理を終えた。
「何? 喋れるの?」
「意思疎通はリンクした者同士だけ。だから今誰かがこの光景をみたら、ヨイチが一人で狼相手に喋ってる」
「なにそれつらい」
「声を出さなくてもぼくには伝わるよ。やってみて」
それって考えたことが全部筒抜けってことにならないかな?
とりあえず、無難に頭の中で「こう話す」って決めた言葉だけヒイロに向けてみる。
「きこえる?」
「きこえるよ。ある程度心は読んじゃうけど、お互い様だからね」
「その割には、ヒイロの声なんてずっと聞こえなかったよ」
「ぼくは単純にできてるから。話す以上の言葉にできる思考は持ってないんだ」
「うーん、純粋ってこと?」
「そう捉えてもらってかまわない」
ヒイロは伏せの体勢になって自分の前足を舐めはじめた。
僕も自分の着替えが途中だったのを思い出す。
「話せるなら便利でいいかな。ヒイロ、食事はどんなのがいい?」
「ヨイチと繋がってるから、ヨイチが食べれば僕も満たされる。普通の食べ物も、食べられなくはないけど」
「じゃあ何か食べたくなったら教えてくれ。他にも必要なことがあれば遠慮しなくていい。僕、生き物を飼ったことないから、ヒイロから言ってくれると助かる」
ようやく着替え終わると、ヒイロは毛づくろいをやめて、僕を見上げていた。
「どうした?」
「ヨイチでよかった」
「え?」
「そのままの意味だよ」
「ふぅん」
意味はわからなかったけれど、不思議と安心感や信頼感が湧いてきた。
「抱き上げられるのと自分で歩くの、どっちが好き?」
「基本は自分で歩くけど、場合による。今は抱っこしてほしい」
ヒイロを片手に抱き上げてリビングへ向かった。
***
夕方になり、ツキコとローズが帰ってきた。
「というわけなんだけど、大丈夫?」
「かわいい!」
「かわいい!」
二人にアレルギーのことを聞いたのに、返事もせずにヒイロをもみくちゃにしている。
うん、大丈夫そうでなによりだ。
ヒイロはというと、ヒスイも加わった三人に順に抱き上げられ、撫でられている。
……そのたびに僕の方も身体がもぞもぞする。気分は悪くないどころか微妙に気持ちいい。謎の罪悪感が凄い。
感覚を少々共有していること、言うべきだろうか。
「言わなくていいんじゃない?」
ヒイロがもふもふもっふもふされながら、僕に伝えてくる。
「そうだな」
無表情は得意だ。顔に出ないように気をつけよう。
それはそれとして、ソウルリンクした聖獣であることを三人にも説明しようとおもったのだけど……。
「犬小屋つくる?」
「僕の部屋で飼うからいいよ」
「ええー。ヒイロと遊びたいときはどうしたらいいの?」
「言ってくれれば……」
「やっぱりヒイロのお部屋も作る。ヒイロが好きなところにいればいいよね?」
「あ、うん、はい」
家は現在進行系でツキコが増築している。
三日ぶりの家は、また部屋が増えていた。
……変なものはつくらないから、いいのだけどね。
「ソウルリンクって、何かよくないものなの?」
僕と白ウルフから距離をとってしまった三人に尋ねると、アトワが首を横に振った。
「ヨイチは知らないから側にいられるのか。ソウルリンクとは、神使と繋がるという意味だ。魔力交流が条件なら無差別にリンクすることは無いだろうが……ヨイチも離れたほうがいい」
僕はますます困惑する。
「シンシって何?」
「神の御使い、つまりそのコは聖なる存在よ。魔物と対極の存在でありながら、魔物の群れに稀に生まれるの。ソウルリンクできるなら、相応しい力が手に入る。だけど……」
顔を曇らせるキュアンに不安が生まれなかったわけじゃない。
でも、どうしてか、こいつのことを放っておけない。
魔物でないのなら、助けても問題ないだろう。
「ねえ、ソウルリンクってのをやったら、こいつの怪我治るかな」
「そうかもしれんが、ヨイチが相応しい相手じゃなかった場合、何が起きるかわからんぞ」
「わかった」
治癒魔法をかけるためにかざしていた右手から、白ウルフに僕の魔力を直接流し込んだ。
こいつを治してやりたい。
それしか考えられなかった。
「話聞いてたか!? 何が起きるか知らんぞ!!」
チェスタの声も、キュアンの悲鳴も、アトワが息を呑む音も、全て聞こえてる。
僕の魔力は、そうするつもりはなかったのに青白く輝いて、僕と白ウルフを繋いだ。
眩しさに目を閉じて、次に開けた時、白ウルフの透き通った赤い目が僕の目と合った。
「ヒキュン!」
「元から変な鳴き声なのか、おまえ」
腕から降りたそうにもがくので地面に下ろすと、白ウルフは僕の周りをぐるぐる駆け回った。元気だ。
サイズはトイプードルくらいかな。毛足は長く、耳はピンとしていてしっぽはふさふさと揺れている。
毛の長い柴犬みたいな印象だ。
僕の周りを何周かすると気が済んだのか、足元でピシッとおすわりをした。ただし顔は半開きの口から舌が覗いていて、赤い目をキラキラさせながら僕を見上げている。なんだこいつ、可愛いな。
「ヨイチ、なんともないか!?」
チェスタ達がこちらへ駆け寄ってくる。
「うん」
強いて言うなら、白ウルフが元気になってホッとしたせいか、気分が良い。
「どこか変化はないか? 外見はなさそうだが……自分でステータスを見てみろ」
「あ、そうか」
こっちの世界に来て半年以上経つのに、未だにステータスや鑑定に慣れない。
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属性:聖
ソウルリンク:聖獣マガミ
変化があったのはこの三つだ。
「属性に『聖』が追加されて、ソウルリンクが聖獣マガミってなってる。マガミってのがおまえのことか?」
僕が白ウルフに向けて言うと、白ウルフは「ヒキュン」と応えた。なんとなく、意思疎通できてる気がする。
「ソウルリンクされた聖獣を、この目で拝める日が来るとは……」
アトワが両手で顔を覆って膝をついた。キュアンも白ウルフではなく聖獣マガミをじっと見ている。でもキュアンの方はどちらかというと、モフりたそうだ。
「なんともないなら良いんだが」
チェスタは「仕方ないやつだ」みたいな感じで僕とマガミを交互に見た。
「何かあったら、どうなってたの?」
「今更それを聞くか!? 相応しくなかったら条件に必要なものを根こそぎ奪わる、または聖獣に食われる、なんて聞いたことがある。つまり、碌なことにならないわけだ」
「相応しいかどうかってのは、どう決まるの?」
「そこまでは知らん。聖獣次第とも人間次第とも言われてる」
「へぇ。……ところでさ、こいつこの後どうすればいい?」
聖獣は僕の足元でお腹を見せてごろんごろんしている。我慢できなくなったキュアンが腹をわしゃわしゃすると、大人しく撫でられ、目を細めていた。見てるこっちまでお腹がこそばゆい。
「責任持って飼えばいいんじゃないか?」
チェスタは呆れを通り越して、最早面倒くさそうだった。
***
野営をもう一泊挟んで、モルイへ帰ってきた。
ギルドで諸々の手続きをしている間、聖獣は大人しく僕に抱かれていた。
「可愛いワンちゃんですねー。どうしたのですか?」
受付さんが手を伸ばすと、聖獣はその手をふんふんと興味深げに嗅いだ。
「ブラックウルフの群れに紛れ込んでいたんだ。ヨイチに懐いたからつれてきた」
チェスタ達に「聖獣だとバラすと大変なことになる」といわれたので、ここでは聖獣も犬扱いだ。
幸いまだ仔犬くらいのサイズしかないし、見た目も狼っぽさはあまりない。色も白いから元がブラックウルフだとは思われないだろう。
四人で報酬を分け合い、一旦解散となった。
次のクエストは早ければ三日後。冒険者カードで連絡先を交換し、僕は三日ぶりの我が家へ帰宅した。聖獣と一緒に。
出迎えてくれたのは、例のお仕着せ……つまりはメイド服を着たヒスイだ。
「おかえりなさいませご主人さま!」
まだやるんだ、そのノリ。
「ただいま」
「そのコどうしたの!?」
先程までのノリはどこへやら、僕の腕の中の聖獣を見つけて目を輝かせた。
「拾ったから飼うことにしたんだ。そういえば皆動物アレルギーとか大丈夫だっけ」
僕としたことが迂闊だった。誰かがアレルギー持ちだったら、家の中で飼えないな。
「私は平気。ツキコとローズには聞いたことないわね。でも二人共、魔物や動物の素材を触る仕事してるでしょう? 大丈夫なんじゃないかしら」
「だといいな。二人はまだ仕事か」
「ええ。帰ってきたら改めて聞いてみましょ」
ヒスイが聖獣を抱っこしたがったので渡してみると、聖獣は大人しくヒスイの腕におさまった。
聖獣はうっとりと腕というかヒスイの胸にもたれかかっている。温かそうだな。
……? 僕の顔のあたりもなんだか温かい。
熱でも出たのかと、自分の額に手の甲を当ててみる。なんともなさそうだ。
「あっ、ごめんねヨイチくん、疲れてるでしょう。ご飯食べる? お茶にする?」
「ご飯は食べてきちゃったから、お茶を頼んでいいかな。着替えてくるよ」
僕が歩きだすと、聖獣がヒスイの腕からひょいと飛び降りてあとをついてきて、そのまま一緒に部屋へ入った。
「あれ? 顔もう温かくないな。何だったんだろ」
「ぼくと感覚が繋がってるからね。あのヒスイって子の胸のぬくもりだよ」
「セクハラ案件じゃん! ……ヒスイに謝ったほうがいいかな、って……えっ!?」
装備を中途半端に解いた状態で振り返る。そこには聖獣がちまりと座っているだけだ。
「今しゃべったの、おまえか?」
「そろそろ名前をくれないかな。聖獣とかおまえって呼ばれ続けるのはちょっと」
小さな男の子みたいな高めの声は、間違いなく聖獣のものらしい。
「マガミって名前じゃないの?」
「それは種族名みたいなものだよ。固有名詞がほしい」
僕は軽くパニックに陥りながらも、そういえば名前をつけてなかったなぁと考える。
ブラックウルフなのに白くて、聖獣で……。
「ヒイロ、ってどうかな」
身体は白いけど目は赤いし。ヒキュン、って鳴くし。
「良いね。じゃあヨイチ、改めてよろしく」
「あ、はい、こちらこそ……じゃなくって!」
やっと頭が情報処理を終えた。
「何? 喋れるの?」
「意思疎通はリンクした者同士だけ。だから今誰かがこの光景をみたら、ヨイチが一人で狼相手に喋ってる」
「なにそれつらい」
「声を出さなくてもぼくには伝わるよ。やってみて」
それって考えたことが全部筒抜けってことにならないかな?
とりあえず、無難に頭の中で「こう話す」って決めた言葉だけヒイロに向けてみる。
「きこえる?」
「きこえるよ。ある程度心は読んじゃうけど、お互い様だからね」
「その割には、ヒイロの声なんてずっと聞こえなかったよ」
「ぼくは単純にできてるから。話す以上の言葉にできる思考は持ってないんだ」
「うーん、純粋ってこと?」
「そう捉えてもらってかまわない」
ヒイロは伏せの体勢になって自分の前足を舐めはじめた。
僕も自分の着替えが途中だったのを思い出す。
「話せるなら便利でいいかな。ヒイロ、食事はどんなのがいい?」
「ヨイチと繋がってるから、ヨイチが食べれば僕も満たされる。普通の食べ物も、食べられなくはないけど」
「じゃあ何か食べたくなったら教えてくれ。他にも必要なことがあれば遠慮しなくていい。僕、生き物を飼ったことないから、ヒイロから言ってくれると助かる」
ようやく着替え終わると、ヒイロは毛づくろいをやめて、僕を見上げていた。
「どうした?」
「ヨイチでよかった」
「え?」
「そのままの意味だよ」
「ふぅん」
意味はわからなかったけれど、不思議と安心感や信頼感が湧いてきた。
「抱き上げられるのと自分で歩くの、どっちが好き?」
「基本は自分で歩くけど、場合による。今は抱っこしてほしい」
ヒイロを片手に抱き上げてリビングへ向かった。
***
夕方になり、ツキコとローズが帰ってきた。
「というわけなんだけど、大丈夫?」
「かわいい!」
「かわいい!」
二人にアレルギーのことを聞いたのに、返事もせずにヒイロをもみくちゃにしている。
うん、大丈夫そうでなによりだ。
ヒイロはというと、ヒスイも加わった三人に順に抱き上げられ、撫でられている。
……そのたびに僕の方も身体がもぞもぞする。気分は悪くないどころか微妙に気持ちいい。謎の罪悪感が凄い。
感覚を少々共有していること、言うべきだろうか。
「言わなくていいんじゃない?」
ヒイロがもふもふもっふもふされながら、僕に伝えてくる。
「そうだな」
無表情は得意だ。顔に出ないように気をつけよう。
それはそれとして、ソウルリンクした聖獣であることを三人にも説明しようとおもったのだけど……。
「犬小屋つくる?」
「僕の部屋で飼うからいいよ」
「ええー。ヒイロと遊びたいときはどうしたらいいの?」
「言ってくれれば……」
「やっぱりヒイロのお部屋も作る。ヒイロが好きなところにいればいいよね?」
「あ、うん、はい」
家は現在進行系でツキコが増築している。
三日ぶりの家は、また部屋が増えていた。
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