25 / 103
第一章
25 おかえりなさいませ
しおりを挟む
亜院は僕がイデリク村の宿屋で眠りこけている間に、スタグハッシュ城の関係者を名乗る若い男が担いで連れ去ったらしい。
十中八九、土之井だろう。あの時気配があったから。
多分、僕の姿も見られた。
これが不東や椿木だったら、更にややこしい事態になっていただろうけど、土之井なら大丈夫かな。
食っちゃ寝の五日間の後もさらに追加で丸二日、部屋から出してもらえなかった。
ギルドからも「ゆっくり休め」と連絡がきていたので、仕方なくおとなしく過ごした。
三日目、イネアルさんが家にやってきた。
薬屋のイネアルさんは医術にも精通していて、僕を診ると言ってくれたのだ。
診る、といっても要は[鑑定]だ。
僕とイネアルさんの[鑑定]は微妙に違うらしく、イネアルさんのものは他人の状態異常が細かく視えるらしい。
僕にも視えないかなと思ってイネアルさん相手にこっそりやってみたけど、駄目だった。何が違うのだろう。そもそもイネアルさんに異常がないだけかな。
「数かな。僕は何千人と人を視てきたからね。あと私はここ数年、病気一つしていないよ」
鑑定したこととその理由は筒抜けだった。
「私も最初は人の秘密を覗き見るなんて趣味が悪いと思ったよ。だけど、薬学を学んで医術に触れ、私の手の届く範囲だけでも治せるなら、と開き直ったのさ」
数かぁ。僕は医学や薬学を修められるほどの頭はないし、治癒魔法で治せないならお手上げだ。
この前のレイスキングの鎌とか自分のスキルとか、身の回りのことが少し分かれば、それでいいかな。
「うん。ヨイチは健康そのものだね。普段の君からしたら、ちょっと運動不足かな。君たち、過保護はよくないよ」
「はーい」
三人の返事が重なった。
「ありがとうございました」
イネアルさんが帰った後、僕は改めて三人と話をした。
僕がほぼ寝っぱなしだったから、詳細な事情説明ができていないのだ。
僕が亜院を壊したことと、壊し方を包み隠さず話した。
引かれるかと思っていたのに、三人の感想は一致した。
「その程度でよかったの?」
「いやよく考えて? 多分今頃、土之井あたりが魔力分けて日常生活送れる程度にはなってると思うけど、誰かに魔力もらわないと自分の面倒すら見れないし、これまでのレベルアップは全部なかったことになったんだよ?」
「でもヨイチは殺されかけたでしょ? 亜院は魔力がなくても死ぬことはないだろうし」
「ツキコのカタキなら、やっちゃっててもローズは引かない」
「私も同感。しかも亜院君のそれ、ヨイチ君なら治せるのでしょう?」
「!」
ヒスイはこの中で一番魔力量が少ない。この世界に馴染むための努力は人一倍しているけれど、魔法からは一番遠い。
そのヒスイに、真っ先に感づかれるとは。
「そうなの?」
ツキコが僕とヒスイを交互に見る。
「……うん。ツキコがアイツを許せる日が来たら、もとに戻そうかなって。勿論、ツキコの気持ちを最優先するよ。止めが必要なら、すぐ行く」
「止めは、いい。それと、許すかどうかはヨイチに任せるよ。どうもアイツ、ウチに手を出すつもりはなかったみたいで」
「本当に?」
亜院はツキコのストーカーだったらしい。本人も、おそらく周りも気づかないほどひっそりと、ただ見ているだけでいいという稀有なタイプの。
「本当のことを言っていたとしても、ツキコをどこへ運ぼうとしてたの?」
ローズの質問に、ツキコは首をかしげ、僕が答える。
「方向的にスタグハッシュだったんじゃないかな。亜院は別の場所に隠れ家を持つように見えないし」
召喚されたての頃の亜院は、豪快すぎてうるさいけれど、隠し事の出来ない人のいいやつだった。
村で暴れるくらい凶暴な奴に成り下がってはいたが、城外に隠れ家とかを構える程器用じゃない。
「見てるだけで良いと思えるくらいに憧れていた人が、自分の目の前にいて、冷静になれるかな。真っ盛りの男子が」
ローズが淡々と、どこかで聞いたような台詞を付け加える。
……犯人は僕か。ローズの口から聞きたくなかったなぁ。
「今更寒気がしてきた。アイツが目の前で何か言ってるときもずっと気持ち悪かったのに、それ以上」
ツキコが本当に寒いかのようにカタカタ震えだした。
「ごめん。ローズの想像力がツキコを怯えさせた」
「ううん。気づかせてくれてありがとう。でもやっぱり、いつ許すかはヨイチが決めて。ウチは未遂で済んだけど、ヨイチは完璧に裏切られてるんだからね。もっと怒ってもいいんだよ」
「目一杯怒ったよ」
怒りの感情が湧かなければ、あんなことはしなかったはずだ。
怒らないと、魔力が視えるようにならないのかな。
不便だ。
「怒ってただけじゃないよね」
「えっ?」
ツキコを見ると、ツキコはニコリと笑みを浮かべた。
「ヨイチ、お礼がしたい。何か欲しい物ない?」
「いや、それより怒ってただけじゃないってどういう……」
「何か欲しい物、ない?」
ツキコの有無を言わせぬ圧に屈した。
「特にないかな。ってかお礼なんていいよ。ツキコは被害者で、僕が助けたのは当然のことだし。それにツキコにはいつもお世話になってる」
「ないならウチが勝手にやるね。家の増築なんてどうかな?」
「増築!?」
ツキコのDIY技術は、大工のお父さん譲りらしい。小さな家ならひとりで建てられると言っていた。
「でも、もう充分広いよ?」
この家は日本で言うところの6LDK。住人は四人だから、単純計算で二部屋余る。今の所、一部屋はローズとツキコの荷物置き場、キッチンの隣の小部屋はヒスイが作った保存食用倉庫だ。
「ウチ、豪邸に住むのが夢だったんだ。だからとりあえず部屋数増やしたい。今ある部屋とキッチンの拡張もしたい。皆の邪魔にならないようにやるからさ、いい? ……って、これじゃお礼にならないか」
豪邸かぁ。想像したこともなかった。
広い家に、皆で賑やかに暮らす。いいかもしれない。
「楽しそうだから、是非やってよ」
「ありがと!」
その日は「おうち豪邸化計画」とやらで遅くまで盛り上がった。
久しぶりにギルドへ行くと、統括に「話がある」と統括室へ案内された。
「サントナの件だが……すまん、奴に逃げられた」
城へ「冒険者に対する詐欺と搾取について」通達すると、サントナは一旦は大人しく尋問を受けた。
その後、目を離した隙に逃亡。サントナの部屋からは、私物の殆どが消えていたそうだ。
金目のものの中でも更に、現金や宝石など、軽くて嵩張らないものほど見つからなかったことから、以前から逃亡を計画していたことが容易に推測された。
「ヨイチの元仲間には別の神官がついたそうだが、彼らへの補填はできなかった。サントナは城からも横領していたようでな。あの国は以前から財政が傾いていた。今更、彼らの報酬の肩代わりなどできぬのだよ」
「そうですか」
気の毒だなぁとは思うけど、それ以上の感情は湧かない。
「ヨイチの分も取れなかった。城が言うには、『死んだ人間に支払う義務はない』と。……本当に腐った連中だ」
統括が憤りつつ、僕に頭を下げてくる。慌てて頭を上げてもらった。
「僕の分ははじめから諦めてましたから。それで、サントナはどうするつもりですか?」
「無論捕らえて、罪を償ってもらう。ギルドの威信にかけて必ず捕まえる。……だが現状、行き先に全く手がかりがなくてな。城の連中も『無関係だ』と口をつぐむし、城の権威を盾にされてはこれ以上何もできん。本当に不甲斐ない」
城って、ろくでもない連中だなぁ。
統括との話を終えて、クエストを請けた。
討伐対象は危険度Dの、ハードトレントという樹木の魔物だ。
その身体は建材として優秀だとツキコがポロっと言っていた。
頼まれたわけじゃないけど、そりゃ狩るよね。
ハードトレントは森の中で、他の樹木に擬態している。
人を襲って養分にしてしまうため、発見されると辺り一帯はクエストを請けた冒険者以外、立入禁止になってしまう。
今日、このクエストを請けたのは僕一人らしい。
つまり、弓矢を使い放題だ。
[心眼]でハードトレントの気配と弱点を見極め、矢で射抜く。
さくさくと倒し、どんどんマジックボックスに放り込んだ。
時折、ハードトレントが養分にしている動物を横取りしにやってきた他の魔物もついでに倒す。
日が傾く頃には、ハードトレントの気配がなくなっていた。
「いつまで経ってもヨイチに恩を返しきれない……」
マジックボックスからハードトレントを取り出し、家の裏に積み上げると、ツキコが両手で顔を覆った。
ツキコの肩を、ヒスイとローズが訳知り顔にぽん、ぽんと叩く。
「勝手にとってきただけだし。僕だって皆には恩がたくさんある。いや、もう恩返しとかそういうの、いいじゃん」
親しき仲にも礼儀ありと言うし、何かしてもらったらお礼をするのは当然だ。
「僕だって、都合のいいときだけ仲間扱いするような連中にはこんなことしないよ。皆はそうするの?」
「しない」
三人が口をそろえる。本当に息ピッタリになってきたなぁ。
「僕もそう信じてる。さっきも言ったけど、僕はいつも好きなことを勝手にやってるだけだよ」
力強く言い切ると、三人は俯いて、同時に顔を上げた。
「把握」
「そっか、それでいいんだね」
「わかったわ」
「ま、待って?」
どうしてだろう、三人が僕の話を曲解しているような気がしてならない。いや、絶対そうだ。
「ツキコ、ディオンさんて普通の服も仕立ててもらえるの?」
「どうだろう、布はあまり扱わないんじゃないかな。でも伝手があるかも」
「ローズ、デザイン考えてもいい?」
「ねえ、何の話をしているの?」
三人から「豪邸には必要」「おそろい」「挨拶も練習しなくちゃ」等の不穏な会話が漏れ聞こえる。
今の生活に馴染みすぎて忘れかけていたけど、三人が最初にこの家で暮らすと押しかけてきた時、ヒスイが確かに言っていた。
「住み込みのメイドがいたら、便利だと思わない?」
目付きが悪いと森で仲間に見捨てられたせいで、メイドハーレムが出来上がってしまった。
十中八九、土之井だろう。あの時気配があったから。
多分、僕の姿も見られた。
これが不東や椿木だったら、更にややこしい事態になっていただろうけど、土之井なら大丈夫かな。
食っちゃ寝の五日間の後もさらに追加で丸二日、部屋から出してもらえなかった。
ギルドからも「ゆっくり休め」と連絡がきていたので、仕方なくおとなしく過ごした。
三日目、イネアルさんが家にやってきた。
薬屋のイネアルさんは医術にも精通していて、僕を診ると言ってくれたのだ。
診る、といっても要は[鑑定]だ。
僕とイネアルさんの[鑑定]は微妙に違うらしく、イネアルさんのものは他人の状態異常が細かく視えるらしい。
僕にも視えないかなと思ってイネアルさん相手にこっそりやってみたけど、駄目だった。何が違うのだろう。そもそもイネアルさんに異常がないだけかな。
「数かな。僕は何千人と人を視てきたからね。あと私はここ数年、病気一つしていないよ」
鑑定したこととその理由は筒抜けだった。
「私も最初は人の秘密を覗き見るなんて趣味が悪いと思ったよ。だけど、薬学を学んで医術に触れ、私の手の届く範囲だけでも治せるなら、と開き直ったのさ」
数かぁ。僕は医学や薬学を修められるほどの頭はないし、治癒魔法で治せないならお手上げだ。
この前のレイスキングの鎌とか自分のスキルとか、身の回りのことが少し分かれば、それでいいかな。
「うん。ヨイチは健康そのものだね。普段の君からしたら、ちょっと運動不足かな。君たち、過保護はよくないよ」
「はーい」
三人の返事が重なった。
「ありがとうございました」
イネアルさんが帰った後、僕は改めて三人と話をした。
僕がほぼ寝っぱなしだったから、詳細な事情説明ができていないのだ。
僕が亜院を壊したことと、壊し方を包み隠さず話した。
引かれるかと思っていたのに、三人の感想は一致した。
「その程度でよかったの?」
「いやよく考えて? 多分今頃、土之井あたりが魔力分けて日常生活送れる程度にはなってると思うけど、誰かに魔力もらわないと自分の面倒すら見れないし、これまでのレベルアップは全部なかったことになったんだよ?」
「でもヨイチは殺されかけたでしょ? 亜院は魔力がなくても死ぬことはないだろうし」
「ツキコのカタキなら、やっちゃっててもローズは引かない」
「私も同感。しかも亜院君のそれ、ヨイチ君なら治せるのでしょう?」
「!」
ヒスイはこの中で一番魔力量が少ない。この世界に馴染むための努力は人一倍しているけれど、魔法からは一番遠い。
そのヒスイに、真っ先に感づかれるとは。
「そうなの?」
ツキコが僕とヒスイを交互に見る。
「……うん。ツキコがアイツを許せる日が来たら、もとに戻そうかなって。勿論、ツキコの気持ちを最優先するよ。止めが必要なら、すぐ行く」
「止めは、いい。それと、許すかどうかはヨイチに任せるよ。どうもアイツ、ウチに手を出すつもりはなかったみたいで」
「本当に?」
亜院はツキコのストーカーだったらしい。本人も、おそらく周りも気づかないほどひっそりと、ただ見ているだけでいいという稀有なタイプの。
「本当のことを言っていたとしても、ツキコをどこへ運ぼうとしてたの?」
ローズの質問に、ツキコは首をかしげ、僕が答える。
「方向的にスタグハッシュだったんじゃないかな。亜院は別の場所に隠れ家を持つように見えないし」
召喚されたての頃の亜院は、豪快すぎてうるさいけれど、隠し事の出来ない人のいいやつだった。
村で暴れるくらい凶暴な奴に成り下がってはいたが、城外に隠れ家とかを構える程器用じゃない。
「見てるだけで良いと思えるくらいに憧れていた人が、自分の目の前にいて、冷静になれるかな。真っ盛りの男子が」
ローズが淡々と、どこかで聞いたような台詞を付け加える。
……犯人は僕か。ローズの口から聞きたくなかったなぁ。
「今更寒気がしてきた。アイツが目の前で何か言ってるときもずっと気持ち悪かったのに、それ以上」
ツキコが本当に寒いかのようにカタカタ震えだした。
「ごめん。ローズの想像力がツキコを怯えさせた」
「ううん。気づかせてくれてありがとう。でもやっぱり、いつ許すかはヨイチが決めて。ウチは未遂で済んだけど、ヨイチは完璧に裏切られてるんだからね。もっと怒ってもいいんだよ」
「目一杯怒ったよ」
怒りの感情が湧かなければ、あんなことはしなかったはずだ。
怒らないと、魔力が視えるようにならないのかな。
不便だ。
「怒ってただけじゃないよね」
「えっ?」
ツキコを見ると、ツキコはニコリと笑みを浮かべた。
「ヨイチ、お礼がしたい。何か欲しい物ない?」
「いや、それより怒ってただけじゃないってどういう……」
「何か欲しい物、ない?」
ツキコの有無を言わせぬ圧に屈した。
「特にないかな。ってかお礼なんていいよ。ツキコは被害者で、僕が助けたのは当然のことだし。それにツキコにはいつもお世話になってる」
「ないならウチが勝手にやるね。家の増築なんてどうかな?」
「増築!?」
ツキコのDIY技術は、大工のお父さん譲りらしい。小さな家ならひとりで建てられると言っていた。
「でも、もう充分広いよ?」
この家は日本で言うところの6LDK。住人は四人だから、単純計算で二部屋余る。今の所、一部屋はローズとツキコの荷物置き場、キッチンの隣の小部屋はヒスイが作った保存食用倉庫だ。
「ウチ、豪邸に住むのが夢だったんだ。だからとりあえず部屋数増やしたい。今ある部屋とキッチンの拡張もしたい。皆の邪魔にならないようにやるからさ、いい? ……って、これじゃお礼にならないか」
豪邸かぁ。想像したこともなかった。
広い家に、皆で賑やかに暮らす。いいかもしれない。
「楽しそうだから、是非やってよ」
「ありがと!」
その日は「おうち豪邸化計画」とやらで遅くまで盛り上がった。
久しぶりにギルドへ行くと、統括に「話がある」と統括室へ案内された。
「サントナの件だが……すまん、奴に逃げられた」
城へ「冒険者に対する詐欺と搾取について」通達すると、サントナは一旦は大人しく尋問を受けた。
その後、目を離した隙に逃亡。サントナの部屋からは、私物の殆どが消えていたそうだ。
金目のものの中でも更に、現金や宝石など、軽くて嵩張らないものほど見つからなかったことから、以前から逃亡を計画していたことが容易に推測された。
「ヨイチの元仲間には別の神官がついたそうだが、彼らへの補填はできなかった。サントナは城からも横領していたようでな。あの国は以前から財政が傾いていた。今更、彼らの報酬の肩代わりなどできぬのだよ」
「そうですか」
気の毒だなぁとは思うけど、それ以上の感情は湧かない。
「ヨイチの分も取れなかった。城が言うには、『死んだ人間に支払う義務はない』と。……本当に腐った連中だ」
統括が憤りつつ、僕に頭を下げてくる。慌てて頭を上げてもらった。
「僕の分ははじめから諦めてましたから。それで、サントナはどうするつもりですか?」
「無論捕らえて、罪を償ってもらう。ギルドの威信にかけて必ず捕まえる。……だが現状、行き先に全く手がかりがなくてな。城の連中も『無関係だ』と口をつぐむし、城の権威を盾にされてはこれ以上何もできん。本当に不甲斐ない」
城って、ろくでもない連中だなぁ。
統括との話を終えて、クエストを請けた。
討伐対象は危険度Dの、ハードトレントという樹木の魔物だ。
その身体は建材として優秀だとツキコがポロっと言っていた。
頼まれたわけじゃないけど、そりゃ狩るよね。
ハードトレントは森の中で、他の樹木に擬態している。
人を襲って養分にしてしまうため、発見されると辺り一帯はクエストを請けた冒険者以外、立入禁止になってしまう。
今日、このクエストを請けたのは僕一人らしい。
つまり、弓矢を使い放題だ。
[心眼]でハードトレントの気配と弱点を見極め、矢で射抜く。
さくさくと倒し、どんどんマジックボックスに放り込んだ。
時折、ハードトレントが養分にしている動物を横取りしにやってきた他の魔物もついでに倒す。
日が傾く頃には、ハードトレントの気配がなくなっていた。
「いつまで経ってもヨイチに恩を返しきれない……」
マジックボックスからハードトレントを取り出し、家の裏に積み上げると、ツキコが両手で顔を覆った。
ツキコの肩を、ヒスイとローズが訳知り顔にぽん、ぽんと叩く。
「勝手にとってきただけだし。僕だって皆には恩がたくさんある。いや、もう恩返しとかそういうの、いいじゃん」
親しき仲にも礼儀ありと言うし、何かしてもらったらお礼をするのは当然だ。
「僕だって、都合のいいときだけ仲間扱いするような連中にはこんなことしないよ。皆はそうするの?」
「しない」
三人が口をそろえる。本当に息ピッタリになってきたなぁ。
「僕もそう信じてる。さっきも言ったけど、僕はいつも好きなことを勝手にやってるだけだよ」
力強く言い切ると、三人は俯いて、同時に顔を上げた。
「把握」
「そっか、それでいいんだね」
「わかったわ」
「ま、待って?」
どうしてだろう、三人が僕の話を曲解しているような気がしてならない。いや、絶対そうだ。
「ツキコ、ディオンさんて普通の服も仕立ててもらえるの?」
「どうだろう、布はあまり扱わないんじゃないかな。でも伝手があるかも」
「ローズ、デザイン考えてもいい?」
「ねえ、何の話をしているの?」
三人から「豪邸には必要」「おそろい」「挨拶も練習しなくちゃ」等の不穏な会話が漏れ聞こえる。
今の生活に馴染みすぎて忘れかけていたけど、三人が最初にこの家で暮らすと押しかけてきた時、ヒスイが確かに言っていた。
「住み込みのメイドがいたら、便利だと思わない?」
目付きが悪いと森で仲間に見捨てられたせいで、メイドハーレムが出来上がってしまった。
16
お気に入りに追加
1,605
あなたにおすすめの小説
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる