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第一章
22 気持ちはわかる
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俺がギルドへ連絡して一時間後には足の速い馬に乗った冒険者が到着しだしたが、更に三十分も早く、黒髪の冒険者がやってきた。
怪我人の殆どに、その黒髪の冒険者が治癒魔法をかけてくれた。おかげで村民は全員無事だ。
体力回復に睡眠が必要な人だけ、各自の家や宿屋の空いているベッドへ運ばれた。
家の壁に叩きつけられ、そのまま埋まっていた俺も助け出してもらった。
俺は無事だったが、ツキコは襲撃者に連れ去られてしまった。
これだけ冒険者がいるなら、ツキコの言っていたヨイチという奴も来ているかもしれない。
俺では力不足だ。
ヨイチを頼るべく、探すことにした。
黒髪で長身の冒険者に声をかけること三人目、最初にやってきた冒険者が、ヨイチその人だった。
「あんたもしかして、ヨイチか?」
振り返った人は、驚いた顔で俺を見つめた。
「うん。君は?」
ツキコと同い年なら、十七歳、俺より二つ年上なだけのはずだ。
冒険者をはじめたのも最近だと聞いている。
それなのに、やたら落ち着いていて、歴戦の強者の風格さえある。
強いとは聞いていたけど、これほどとは思わなかった。一体何者なのだろう。
「俺はロガルド。アルマーシュの鍛冶屋で働いてる。今日はここへツキコと来たんだが、ツキコが」
ツキコの名前を出した途端、顔色が変わった。
黒いはずの瞳に、青みがかかったように思える。
「ツキコに何があった?」
俺に問い返す声は、今度は寒気がするほど冷徹だった。
「男に……短い黒髪のやつが、ツキコを気絶させて、肩に担いで森の方へ……!」
ヨイチはそれを聞くや、森へ向かって駆け出した。
後ろ姿はあっという間に見えなくなった。速い。
「森のどこへ向かったかわからないのに……」
俺のつぶやきは届いていないだろうが、心配もいらないだろうと妙な確信があった。
悔しいけれど、ツキコのことはヨイチに任せて大丈夫だろう。
ん? 俺は何を悔しがっているんだ?
自問自答は「まあいいか」で措いといた。
「ロガルド、無事だったか」
この村へ来た目的であるディオンさんの店へ、荷物を運んだ。荷馬車の馬は一旦逃げてから戻ってきていた。賢い。
「ディオンさんも無事でよかった」
ディオンさんは店の奥で作業をしていたとかで、一連の騒ぎを知ったのはつい先程だ。
「ふむ。このくらいの瑕疵なら、俺でも直せる。兄貴には心配するなと伝えてくれ」
村を襲った男は、物取りはしなかった。
ディオンさんに届けるべき品は馬の暴走で若干擦れてしまっていたが、ざっと確認したところ、殆ど無傷で済んだようだ。
「わかりました。じゃあ俺、行きますね」
「行くって、こんな夜中に何処へ……。そういや、ツキコはどうした?」
「そのツキコが拐われて、今ヨイチがひとりで追ってるんです」
「何!?」
ヨイチがものすごい速さで森へ駆けていったのを見たときは「あの人一人で大丈夫そうだな」なんて思い込んでしまったけれど、冷静になって考えたら、村をこんなふうにした奴を相手に一人じゃ危険だ。
ヨイチは灯りすら持っていなかった。
俺が行っても何も出来ないかもしれないけれど、森の地理は殆ど把握している。灯りを持って道案内くらいはできるはずだ。
***
ロガルドにツキコを担いだ男が走り去った方向を聞いて、すぐに駆け出した。
夜中だろうが暗闇だろうが関係ない。
視界はスキル[暗視]の効果で、はっきり見える。
それ以上に、[魔眼]の効果だろうか、辺りの草木がぼんやりと青く光っているのがわかる。
生き物や魔物には全て魔力がある。一部の岩石にも含まれているから、地面も少しだけ光っている。
青い光は、魔力の色だ。
僕は時折、瞳の色が青くなるらしい。
どうやら[魔眼]、つまり眼に宿った魔力が高まると、魔力が視えるようになる。その際に瞳の色も魔力色に染まるのだ。
魔力は通常、見ることが出来ない。魔力の存在を察知できる人は少なからずいるのだけど、僕のようにはっきり視える人はいないらしい。
「少なくとも私は知らないだけで、世の中には他にいるかもしれないし、ヨイチのように魔力と知らずに見てる人もいるかもしれない」
とはイネアルさんの言だ。
今、僕の瞳が青くなっている理由は、ツキコに危険が迫っていると知って、怒りがこみ上げているせいだ。
感情が昂ぶると眼の魔力が高まるらしい。
そのうち制御できるようになりたいけれど、今はこれでいい。
目つきが悪いせいで、笑っていても、楽しくても、嬉しくても、怒っているか機嫌が悪いのだと勘違いされて生きてきた。
だから小さい頃から感情を抑えるようにしてきた。それで解決する問題じゃないと悟っても、もう遅かった。
どれだけ愉快でも、どれだけ理不尽な目に遭っても、心を平静に保ち、じっとこらえる癖がついていた。
前髪で目元を隠すようにしてからようやく少しずつ、笑ったり怒ったりができるようになった。
それでも、前髪も完璧じゃないから、控えめに。
ふと、こちらの世界に来てから僕に「目つきが悪い」と言っていたのは、一緒に召喚されたあの連中だけだなと思い当たった。
城の神官は召喚されたての僕を見て「ヒッ」とか言って引いてた気がするけど、面と向かっては何も言わなかった。
城を出て前髪を切った後でも、誰かに目つきを指摘されたことはない。
おやっさんやギルドの統括や担当さん、グリオやベティは僕の目つきのことは一言も言わない。
一緒に暮らす三人もだ。
今更そんなことに気づき、こんな時だというのに口元が自虐の笑みに緩む。
ともあれ、今はツキコだ。
魔力の光で道ははっきりわかるし、レベルのお陰で異様に良くなった聴覚には、先程からツキコの怒鳴り声が聞こえている。
意図的に自分の位置を知らせているのではなく、本気で怒っている。
相手の声は静かだから聞き取りづらいけど、間違いなく亜院だろうな。
ツキコは亜院を知らないと言っていたから、亜院がどうしてツキコを拐ったのかはわからない。
理由はどうでもいい。
僕の家族を拐ったこと自体が、許せない。
「間に合わなかったら死ぬのよ!?」
「あんたが、殺してるのよ!!」
「もうやだ……あんたがウチをどう捉えてるか知らないけど、ウチはあんたを絶対受け入れない。これ以上視界に入れたくない。消えて」
ツキコの声がはっきり聞こえ、聴覚同様異様に良くなった視力が亜院とツキコの姿を捉える。
亜院の拳がツキコに向かおうとしたから、光の矢を射て止めた。
「ぐっ!?」
亜院が射抜かれた手を抑えた隙に、ツキコを抱きかかえて距離を取る。
「……!? ヨ……横伏君!」
どうして名字で? ああ、亜院に僕の偽名を教えないようにしてくれたのか。こんな状況なのに、よく気が回るものだ。助かる。
だけど納得行かないことがある。
ツキコに水筒の水を差し出し、それをゴクゴクと飲み干すのを見届けてから、ツキコの肩を掴んで目線を合わせた。
「バカかっ! 相手を挑発してどうする! 自分の身をもっと大事にしろ!」
ツキコの声しか聞こえていなかった状態での推測になるが、亜院はツキコに片思いというか一方的に慕っていたようだ。
ツキコは僕たちに話したように、亜院のことは知らなかった。
ツキコからしたら、亜院は突然現れて村で大暴れし、ツキコを拐うような大悪党だ。
それに対して色々言いたいのは、よく分かる。
だからって、この状況で相手を挑発するようなことばかり言うのは悪手だ。
亜院がツキコを傷つけたくないという考えだったからよかったものの、誘拐犯相手に「お前が悪い」「人殺し」「絶対許さない」的なことを直接言えば、激昂して何をされるかわかったものではない。
「だ、だって……気持ち悪かったし!」
「それはわかるけども!」
「ヨ、横伏君を見捨てたこと、あいつ全く反省してないのよ!?」
「それはツキコに関係ないだろ」
「あるよ! 横伏君を……大事な人を酷い目に遭わせた奴なんて、あれっぽっちの文句じゃ言い足りないんだから!」
「っ! 気持ちはありがたいけど、この状況でっ」
「横伏ぇええ!」
亜院が地を轟かすような声をあげる。
手には矢が刺さったままだ。抜こうとしても、外せないはずだからな。
「生きていたのか……。だが、城には不東が『横伏は死んだ』と報告してある。今更戻れると思うなよ」
「思わないよ」
ツキコを背中に庇いながら、即答する。
「……何か勘違いしているな。お前は今ここで本当に死ぬんだよっ!」
亜院がなにかしようとして、ようやくそれに気づいた。
「!? お前、何をしたっ!?」
「え、何なに? 横伏君、何したの?」
亜院がいくらもがいても、動けるはずがない。
僕は魔力が視える状態になると、魔力そのものを操ることもできる。
亜院に直接当てた矢は一本だけだが、周囲には数百本の不可視の矢を展開してある。
その全てが、魔力でつながっている。
亜院は矢同士をつなぐ魔力の糸で、雁字搦めになっているのだ。
魔法を使えない亜院は、魔力について全く学ぼうとしなかった。
矢でできた魔力の檻は意外と脆い。少し魔力を放出すればどこかにほころびができて、すぐに脱出できてしまう。
亜院には種明かしなんてしないし、たとえすべて説明してやったとしても、亜院は魔力の扱い方を知らない。
「ツキコ、今のうちに村まで……ああ、迎えが来てくれたね」
村まで送ろうとしたら、向こうに灯りが見えた。
「ロガルドが、ツキコが拐われたって教えてくれたんだよ」
「ロガルド、無事なのね!?」
「うん。村の人も皆無事」
ツキコがここではじめて安堵の笑みを浮かべ、その場に崩れ落ちた。
「ちょ、怪我してた!?」
「違う、安心したら……」
「なるほど。ロガルド、こっちだ」
ロガルドを呼び寄せて、ツキコを任せた。
夜の森だけれど、魔物は僕が周囲に放ちまくった牽制の矢で周囲にはいない。
「ヨイチはどうするんだ?」
「アレの始末つけるよ」
動けずもがき続ける亜院を、前髪フィルターのなくなった目で睨みつけた。
怪我人の殆どに、その黒髪の冒険者が治癒魔法をかけてくれた。おかげで村民は全員無事だ。
体力回復に睡眠が必要な人だけ、各自の家や宿屋の空いているベッドへ運ばれた。
家の壁に叩きつけられ、そのまま埋まっていた俺も助け出してもらった。
俺は無事だったが、ツキコは襲撃者に連れ去られてしまった。
これだけ冒険者がいるなら、ツキコの言っていたヨイチという奴も来ているかもしれない。
俺では力不足だ。
ヨイチを頼るべく、探すことにした。
黒髪で長身の冒険者に声をかけること三人目、最初にやってきた冒険者が、ヨイチその人だった。
「あんたもしかして、ヨイチか?」
振り返った人は、驚いた顔で俺を見つめた。
「うん。君は?」
ツキコと同い年なら、十七歳、俺より二つ年上なだけのはずだ。
冒険者をはじめたのも最近だと聞いている。
それなのに、やたら落ち着いていて、歴戦の強者の風格さえある。
強いとは聞いていたけど、これほどとは思わなかった。一体何者なのだろう。
「俺はロガルド。アルマーシュの鍛冶屋で働いてる。今日はここへツキコと来たんだが、ツキコが」
ツキコの名前を出した途端、顔色が変わった。
黒いはずの瞳に、青みがかかったように思える。
「ツキコに何があった?」
俺に問い返す声は、今度は寒気がするほど冷徹だった。
「男に……短い黒髪のやつが、ツキコを気絶させて、肩に担いで森の方へ……!」
ヨイチはそれを聞くや、森へ向かって駆け出した。
後ろ姿はあっという間に見えなくなった。速い。
「森のどこへ向かったかわからないのに……」
俺のつぶやきは届いていないだろうが、心配もいらないだろうと妙な確信があった。
悔しいけれど、ツキコのことはヨイチに任せて大丈夫だろう。
ん? 俺は何を悔しがっているんだ?
自問自答は「まあいいか」で措いといた。
「ロガルド、無事だったか」
この村へ来た目的であるディオンさんの店へ、荷物を運んだ。荷馬車の馬は一旦逃げてから戻ってきていた。賢い。
「ディオンさんも無事でよかった」
ディオンさんは店の奥で作業をしていたとかで、一連の騒ぎを知ったのはつい先程だ。
「ふむ。このくらいの瑕疵なら、俺でも直せる。兄貴には心配するなと伝えてくれ」
村を襲った男は、物取りはしなかった。
ディオンさんに届けるべき品は馬の暴走で若干擦れてしまっていたが、ざっと確認したところ、殆ど無傷で済んだようだ。
「わかりました。じゃあ俺、行きますね」
「行くって、こんな夜中に何処へ……。そういや、ツキコはどうした?」
「そのツキコが拐われて、今ヨイチがひとりで追ってるんです」
「何!?」
ヨイチがものすごい速さで森へ駆けていったのを見たときは「あの人一人で大丈夫そうだな」なんて思い込んでしまったけれど、冷静になって考えたら、村をこんなふうにした奴を相手に一人じゃ危険だ。
ヨイチは灯りすら持っていなかった。
俺が行っても何も出来ないかもしれないけれど、森の地理は殆ど把握している。灯りを持って道案内くらいはできるはずだ。
***
ロガルドにツキコを担いだ男が走り去った方向を聞いて、すぐに駆け出した。
夜中だろうが暗闇だろうが関係ない。
視界はスキル[暗視]の効果で、はっきり見える。
それ以上に、[魔眼]の効果だろうか、辺りの草木がぼんやりと青く光っているのがわかる。
生き物や魔物には全て魔力がある。一部の岩石にも含まれているから、地面も少しだけ光っている。
青い光は、魔力の色だ。
僕は時折、瞳の色が青くなるらしい。
どうやら[魔眼]、つまり眼に宿った魔力が高まると、魔力が視えるようになる。その際に瞳の色も魔力色に染まるのだ。
魔力は通常、見ることが出来ない。魔力の存在を察知できる人は少なからずいるのだけど、僕のようにはっきり視える人はいないらしい。
「少なくとも私は知らないだけで、世の中には他にいるかもしれないし、ヨイチのように魔力と知らずに見てる人もいるかもしれない」
とはイネアルさんの言だ。
今、僕の瞳が青くなっている理由は、ツキコに危険が迫っていると知って、怒りがこみ上げているせいだ。
感情が昂ぶると眼の魔力が高まるらしい。
そのうち制御できるようになりたいけれど、今はこれでいい。
目つきが悪いせいで、笑っていても、楽しくても、嬉しくても、怒っているか機嫌が悪いのだと勘違いされて生きてきた。
だから小さい頃から感情を抑えるようにしてきた。それで解決する問題じゃないと悟っても、もう遅かった。
どれだけ愉快でも、どれだけ理不尽な目に遭っても、心を平静に保ち、じっとこらえる癖がついていた。
前髪で目元を隠すようにしてからようやく少しずつ、笑ったり怒ったりができるようになった。
それでも、前髪も完璧じゃないから、控えめに。
ふと、こちらの世界に来てから僕に「目つきが悪い」と言っていたのは、一緒に召喚されたあの連中だけだなと思い当たった。
城の神官は召喚されたての僕を見て「ヒッ」とか言って引いてた気がするけど、面と向かっては何も言わなかった。
城を出て前髪を切った後でも、誰かに目つきを指摘されたことはない。
おやっさんやギルドの統括や担当さん、グリオやベティは僕の目つきのことは一言も言わない。
一緒に暮らす三人もだ。
今更そんなことに気づき、こんな時だというのに口元が自虐の笑みに緩む。
ともあれ、今はツキコだ。
魔力の光で道ははっきりわかるし、レベルのお陰で異様に良くなった聴覚には、先程からツキコの怒鳴り声が聞こえている。
意図的に自分の位置を知らせているのではなく、本気で怒っている。
相手の声は静かだから聞き取りづらいけど、間違いなく亜院だろうな。
ツキコは亜院を知らないと言っていたから、亜院がどうしてツキコを拐ったのかはわからない。
理由はどうでもいい。
僕の家族を拐ったこと自体が、許せない。
「間に合わなかったら死ぬのよ!?」
「あんたが、殺してるのよ!!」
「もうやだ……あんたがウチをどう捉えてるか知らないけど、ウチはあんたを絶対受け入れない。これ以上視界に入れたくない。消えて」
ツキコの声がはっきり聞こえ、聴覚同様異様に良くなった視力が亜院とツキコの姿を捉える。
亜院の拳がツキコに向かおうとしたから、光の矢を射て止めた。
「ぐっ!?」
亜院が射抜かれた手を抑えた隙に、ツキコを抱きかかえて距離を取る。
「……!? ヨ……横伏君!」
どうして名字で? ああ、亜院に僕の偽名を教えないようにしてくれたのか。こんな状況なのに、よく気が回るものだ。助かる。
だけど納得行かないことがある。
ツキコに水筒の水を差し出し、それをゴクゴクと飲み干すのを見届けてから、ツキコの肩を掴んで目線を合わせた。
「バカかっ! 相手を挑発してどうする! 自分の身をもっと大事にしろ!」
ツキコの声しか聞こえていなかった状態での推測になるが、亜院はツキコに片思いというか一方的に慕っていたようだ。
ツキコは僕たちに話したように、亜院のことは知らなかった。
ツキコからしたら、亜院は突然現れて村で大暴れし、ツキコを拐うような大悪党だ。
それに対して色々言いたいのは、よく分かる。
だからって、この状況で相手を挑発するようなことばかり言うのは悪手だ。
亜院がツキコを傷つけたくないという考えだったからよかったものの、誘拐犯相手に「お前が悪い」「人殺し」「絶対許さない」的なことを直接言えば、激昂して何をされるかわかったものではない。
「だ、だって……気持ち悪かったし!」
「それはわかるけども!」
「ヨ、横伏君を見捨てたこと、あいつ全く反省してないのよ!?」
「それはツキコに関係ないだろ」
「あるよ! 横伏君を……大事な人を酷い目に遭わせた奴なんて、あれっぽっちの文句じゃ言い足りないんだから!」
「っ! 気持ちはありがたいけど、この状況でっ」
「横伏ぇええ!」
亜院が地を轟かすような声をあげる。
手には矢が刺さったままだ。抜こうとしても、外せないはずだからな。
「生きていたのか……。だが、城には不東が『横伏は死んだ』と報告してある。今更戻れると思うなよ」
「思わないよ」
ツキコを背中に庇いながら、即答する。
「……何か勘違いしているな。お前は今ここで本当に死ぬんだよっ!」
亜院がなにかしようとして、ようやくそれに気づいた。
「!? お前、何をしたっ!?」
「え、何なに? 横伏君、何したの?」
亜院がいくらもがいても、動けるはずがない。
僕は魔力が視える状態になると、魔力そのものを操ることもできる。
亜院に直接当てた矢は一本だけだが、周囲には数百本の不可視の矢を展開してある。
その全てが、魔力でつながっている。
亜院は矢同士をつなぐ魔力の糸で、雁字搦めになっているのだ。
魔法を使えない亜院は、魔力について全く学ぼうとしなかった。
矢でできた魔力の檻は意外と脆い。少し魔力を放出すればどこかにほころびができて、すぐに脱出できてしまう。
亜院には種明かしなんてしないし、たとえすべて説明してやったとしても、亜院は魔力の扱い方を知らない。
「ツキコ、今のうちに村まで……ああ、迎えが来てくれたね」
村まで送ろうとしたら、向こうに灯りが見えた。
「ロガルドが、ツキコが拐われたって教えてくれたんだよ」
「ロガルド、無事なのね!?」
「うん。村の人も皆無事」
ツキコがここではじめて安堵の笑みを浮かべ、その場に崩れ落ちた。
「ちょ、怪我してた!?」
「違う、安心したら……」
「なるほど。ロガルド、こっちだ」
ロガルドを呼び寄せて、ツキコを任せた。
夜の森だけれど、魔物は僕が周囲に放ちまくった牽制の矢で周囲にはいない。
「ヨイチはどうするんだ?」
「アレの始末つけるよ」
動けずもがき続ける亜院を、前髪フィルターのなくなった目で睨みつけた。
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