目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ

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第一章

20 いつもの日々と一抹の不安

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 魔物の死骸大量放置事件の犯人について、統括にだけ話しておいた。
 統括は僕からのタレコミだとは言わずにギルドの人を動かし、スタグハッシュへ調査要請したが、突っぱねられたそうだ。

 我が国が召喚した人間がそんなことするわけないだろ、と。

「要請の書状にはどこにも『召喚した人間』なんて書いていないのだがなぁ」
 統括がちいさく「アホなのかな?」と呟いたことは、聞かなかったことにした。

「だが、これではっきりした。奴らが罪を認めない限りは、これ以上動けん。調査や警備に割く人員は減らすが、止めはしない。元々警備には人を増やすべきであったし……いつか犯人がはっきりした時に、損害賠償を請求するためにな」
 最後の台詞を言う時の統括は、愉快そうにニヤリと笑っていた。



 調査と警備に参加するのは、週に各一日になった。それ以外はクエストを……と思いきや、週の半分くらいは予定を開けておいてほしいとギルドから頼まれてしまった。

 ランクA以上の冒険者は、時折発生する緊急高危険度クエストの請負を、ギルドから指名されることがある。
 待機中の報酬や補償はないけれど、危険度Aのクエストを達成すれば報酬は十二万ゴルにもなる。
 ひと月に一度でも危険度Aを請けられれば十二分に暮らせるのだから、こういう仕事があっても構わない。

 とはいえ、何もしないというのは僕の性分に合わない。
 高校生だった頃も、休日は遠出をしたり家のことを手伝ったりと、何かしらしていた。
 今の僕は、魔物討伐が仕事で武器を扱うことが必須技術だ。
 いくら手に馴染んだ武器でも、一日に一度は触っておかないと、いざという時すぐに動けなくなるかもしれない。

 というわけで弓の練習をしようとしたのだが、一つ問題が発生した。

 僕は普通の弓矢を使っても、木製の的を一撃で割ってしまうのだ。

 魔道具の方の弓矢も触っておきたいし、一日一本しか撃てないのであれば、やらないのと似たようなものだ。
 かといって毎日何十枚もの的を用意するのは現実的じゃない。

 僕が考えたのは、魔力で的を創る方法だ。
 これはかなり上手くいった。好きな場所に的を置けるし、僕の魔力は無尽蔵だからいくらでも創れるし、割れて破片が飛び散ることもない。
 何度かやっているうちに、どうせ魔力や魔法で的を創るなら、動いているものを射ちたいという欲が出てきた。

 しかし僕が自分で動かしている的だから、何処に動くかも解ってしまう。あまり意味がない。

 なんとかならないかなぁ、と家で零したら、ツキコとローズが立ち上がってしまった。


 修道院が十万ゴルで譲ってくれた家には、広い土地もついていた。
 家の周囲には小さめの森があり、ツキコが家具を作るときはそこから木材を調達している。
 その森の一部、家の裏手を切り拓いて、弓矢の練習場にしてある。
 僕が家で「なんとかならないかなぁ」と言った数日後、ツキコの職場である鍛冶屋のおやっさんと、ローズの職場の薬屋のご主人イネアルさんがやってきた。
 おやっさんが練習場に映写機みたいな形の魔道具を運びこみ、イネアルさんがその魔道具をカチカチと弄った。

「よし。後は魔力で動くよ。ヨイチ、試してみて」
 イネアルさんの指示通りに魔道具へ魔力を流すと、謎の仕組みで空間に的が浮いた。
 的はそれぞれ、ランダムに動いている。
「ここを押すと一旦全て消せる。で、もう一度魔力を」
 リセットしてから、魔力を流す。再び的が出現したけど、先程とは位置や動きが違う。
「すごい、こういうのが欲しかったんですよ!」
「的を無作為に表示させるってのはいい考えだと思ってこさえてみたが、かなり魔力が無いと複数出したり複雑な動きにすることは出来ん。もう少し改良が必要だな」
 僕の興奮をよそに、おやっさんが魔道具を睨みつけてうんうん唸っている。
「魔力を効率よく伝える素材に心当たりは?」
 イネアルさんも真剣な表情でおやっさんと相談をはじめた。
 この二人が一緒にいるところ初めて見たけど、随分馬が合っている。
「二人は知り合いなの?」
 ツキコとローズに尋ねてみた。
「この前会ったばかりのはずよ。おやっさんにヨイチが欲しいもののことを相談したら、道具屋の手が欲しいって言うからローズに相談して」
「ローズがイネアルさんをおやっさんに会わせた。それが三日前」
 三日でここまで意気投合したのか。

「これは置いてくから、何か気になるところがあったらすぐ言ってくれ」
「えっ、あの」
 僕がこの世界や魔道具に疎くても、これが高価な品だということはわかる。
 もし万が一壊してしまったらと思うと、怖い。
「試作機だから遠慮なく使い倒していいよ。その代わり時々使用感を聞かせてほしい」
 僕にモニターをやれってことかな。てことは、これ商品にするの? 売れるのかな……。

 僕が疑問や質問を挟む間もなく、おやっさんとイネアルさんは何か話し合いながら町の方へ戻ってしまった。

「ヨイチ、色んな魔物を討伐してきておいて。多分これから、イネアルさんの妥協のない素材探しが始まる」
「討伐はいいけど、妥協のない素材探しって不穏なワードは何?」
「うちも似たようなものね。ヨイチは『弓矢練習くん』をガンガン使ってくれると助かるよ」
「これ、そういう名前なのか」
「いまウチが勝手に付けた」
「いいのかそれで……」

 僕の望みがこの上なくいい形で叶ったというのに、何だろうこの、置いていかれた感。



 冒険者ギルドからのはじめての指名クエストは、推定危険度Aの討伐だった。
 例の泉の周辺はだいぶきれいに片付けたのだけど、結局濃いめの瘴気が発生し、手強い魔物が出現してしまった。
 危険度が推定の場合、ひとつ上の危険度、つまりSが討伐できる冒険者が向かうことになっている。
 モルイ町の冒険者ギルドで現在危険度Sを討伐できる冒険者は、僕以外に二人。
 ランクA+とSの二人は別のクエストを請けていたため、新参者の僕に回ってきたのだ。


 泉までは徒歩で行った。徒歩というか、走った。今の僕が全力で走ると、馬より速い。
 三十分ほどで目的地へたどり着くと、魔物はすぐに見つかった。
 周辺に他の魔物の気配はないので、こいつで間違いないだろう。
 見た目は、浮いてて身体が薄く透けていて、大きな鎌を持ち頭に冠を載せている。

 ギルドの情報では「レイス」という名前の魔物と聞いていた。幽霊系の魔物だそうだ。
 人が死んで幽霊になるというのは無いらしいけれど、実体のない魔物として幽霊というものが存在するのだ。何でも有りだなぁ。
 しかし推定危険度Aにしては手強そうな雰囲気だ。

 今まで[鑑定]を使うことに抵抗があったのだけど、最近は魔物や道具に対しては積極的に使うことにしている。


 レイスキング
 レベル70
 種族:悪霊
 スキル[吸魂]
 属性:闇、死


 レベル70って。絶対Aじゃないでしょこいつ。
 あと気配が薄い。察知できなくはないけれど、やりづらい。
 視界に入っているうちにやっつけてしまおう。

 光の矢を急所の冠めがけて射る。
 透けてるということは実体がない、矢が効かないかもしれない。そうしたら浄化魔法を試そうかな、なんて考えてたのに、必要なかった。

 レイスキングは光の矢で貫かれると、悍ましい叫び声をあげながら掻き消えた。


<取得経験値4000×100×10>
<5レベルアップしました!>


 全身は空気に溶けるように掻き消えてしまったから、死骸が残らなかったが、鎌と冠はそのままぽとりと地に落ちた。

 触っても大丈夫かな? 呪われてたりしないかな。

 あ、そうか。こういうときにも[鑑定]だ。
 ……一応、呪いとか身体に害があるようなことは書いていない。
 念の為、光の矢を両手に一本ずつ持ち、それを箸のように使ってマジックボックスに放り込んだ。



 冒険者ギルドでの報告しようとしたら、最初から別室へ通された。
 担当さんに理由を尋ねると「ヨイチさんですから」と言われた。理由になっていない気がする。

 でも、別室は正解だったらしい。

 僕の冒険者カードをいつもの魔道具に通して確認した統括が、大きな声をあげた。

「レイスキング!? 以前出現したときは光魔法の使い手五人でようやく討伐出来た相手だぞ!?」
「やっぱり強かったんですね」
「……ヨイチが無事で何よりだ」
 統括は疲れているように見える。大丈夫だろうか。
「僕は無傷です。統括こそ、お疲れに見えるのですが」
「別に疲れてなどいない……はぁ」
 ため息をつきながら、報告や報酬の手続きを行ってくれた。無理をしていないだろうか。心配だ。


 諸々の手続きが終わり、部屋から出ようとすると扉が勢いよく開いて受付さんのひとりが入ってきてぶつかりそうになった。
「っとと。大丈夫?」
「わっわっ、す、すいません! 大丈夫ですっ!」
「気をつけろ。何があった?」
 統括は受付さんを注意するも、受付さんの慌てぶりに何かあったと察したようだ。

「イデリク村より冒険者ロガルドから緊急連絡が。村が何かに襲われ、村民の殆どが負傷しているようです!」
「……! ホールにいる冒険者に応援要請を。馬か馬車を手配して、すぐにイデリク村へ送りこめ」
「はいっ」
「ヨイチ、まだ動けるか?」
「いけます」
「ならば、頼む」
「はい」

 イデリク村では随分お世話になったし、ツキコの職場のおやっさんの弟さんがいる。そこが襲われたと聞いて、僕が行かない理由はない。

 一旦家に戻り、これからイデリク村へ向かうと手短に伝えた。
 そこにツキコが見当たらない。
「ツキコは?」
「今日はまだ帰ってきてない」
 鍛冶屋さんは夜六時に閉店する。その後、鍛冶の修行だと言って居残る日もあるけれど、今日がそうだとは聞いていない。

 ツキコは時折イデリク村へ、おやっさんの弟さんのところへ武器を卸しに行く。

「まさか、そんなことないよね?」
「うん」
 ヒスイとローズの声を背に、僕はイデリク村の方へ向かって全力疾走をはじめた。
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