6 / 22
6
しおりを挟む
授業後に魔術練習室で自主トレをするのが日課になってきたある日、毎日自主トレに付き合ってくれているシャールが珍しく「悪いが今日は行けない」だそうで、一緒にいない。
ひとりで黙々といつもの練習メニューをこなしてから学生寮へ向かう途中、ふとシャールの気配を感じた気がした。
魔力が上手く循環できるようになってから、人や動物の気配に敏感になった。
最初はあまりにも気配が気になって落ち着かなかったが、魔力の循環を無意識でも行えるようになってからは、あまり気にならなくなった。
シャールの気配だけ引っかかったのは、久しぶりにシャールのいない授業後を過ごしたせいだったのか。
「――分かっている」
「でしたら、すぐに」
「しかし、彼は――」
気配の方へ向かうと、シャールと誰かが話していた。
盗み聞きするつもりはなかったが、結果的にそうなってしまった。
「やはり巻き込むわけには」
「そんなことを仰るのでしたら、こちらから」
「それだけは止めてくれ。もう少し、時間を」
「悠長なことを言っている場合ではございませぬ」
なにやら込み入った話のようだ。
そして気になるのが、相手の男性が、まるでシャールを高位貴族のように扱っていることだ。
男性は声の質からして、大人だ。
そういえば、シャールはラウンジで「侍女にお茶の下準備をさせている」と言っていた。
先日の奴の言を信じるならシャールは子爵令息だ。
学院に使用人を連れて入れるのは、実質伯爵のみ。
何か、隠しているのだろうか。
「よう」
「うわっ!」
考えに耽っていたら、当のシャールに声を掛けられた。相手の男性の気配は既に遠ざかっている。
「ごめん」
「何が?」
「その、ちょっと盗み聞きしちゃった」
「かまわないよ。っつーか、丁度良かった。お前に関係ある話なんだ」
「へっ?」
僕が声を上げると、シャールは僕の両肩にばん、と手を置いて、下を向いた。
「こちらこそ、すまない。巻き込む。というか、巻き込む目的でお前に近づいた。この件を手伝ってくれた後なら、縁を切ってもらって構わない。理不尽なことを言っている自覚はあるが、少しだけ協力して欲しい」
苦しそうな親友の声。
僕はシャールの手を肩から外し、シャールの両脇に下ろさせた。
「ローシェ……」
そして、シャールの頭をぽん、と叩いた。
「!?」
「詳しく聞かせてもらおう。話はそれからだ」
僕がニッと笑うと、シャールは泣きそうな顔になった。
学生寮の、シャールの部屋に案内された。
そういえば、寮内で他の生徒の部屋に入ったことがない。
どうせどの部屋も同じ作りだろう……と考えていた僕が甘かった。
「シャールって、子爵令息じゃないだろ」
寮の最上階、四階の角部屋は、僕の実家の自室よりも広かった。
多分、普通の部屋三つ分はあると思う。
「子爵だよ、俺はね」
「……ん?」
僕は伯爵令息だ。つまり、伯爵位を持っているのは父であり、僕じゃない。
「改めて自己紹介といこうか。俺はシャール・ディスタギール子爵。父はブルム・ガッシャー公爵だ」
シャール本人が子爵位持ちで……父親が、公爵?
「ガッシャー公爵って、あのガッシャー公爵か!?」
「多分お前の考えてるガッシャー公爵だ」
同じ貴族位の中にも、序列というものがある。
伯爵以下の序列は希薄だが、侯爵と公爵は明確だ。
例の奴の父親、ネビス公爵なんかは、三代前が王族というだけで、その後特にこれといった功績を上げていないため、公爵家の中では下の方だ。
逆にガッシャー公爵は、今代は確か現王の妹君が嫁がれた家だ。何代か前にも王族がいたし、国の中枢を担う政治家や、優秀な騎士団員を何人も排出している。
「今までのご無礼を謝った方がいい?」
「そんなことするなよ。お茶だって俺が好きで淹れてるんだから」
そうだ僕、毎日のようにシャールにお茶淹れてもらってた。それこそ使用人にやらせればいいのに。
「お茶淹れるのが好きな公爵令息って」
「子爵だってば。まあ、公爵令息でも間違ってないんだが、学院にいる間の俺は子爵、それどころか子爵令息と勘違いされてたほうがマシまである」
「なんだそれ」
「諸々説明するから座ってくれ。お前の侍女には連絡入れておくから、夕食も一緒に」
寮の食堂では絶対出て来ない、とんでもなく高価で美味しい夕食とお茶を頂きながら、シャールから話を聞いた。
シャールは「味方」を探すために、聖学院入学を蹴って、貴族学院へ入学した。
「味方?」
「政治的なしがらみが少なくて、できれば文武両道な友人。政治的な云々は伯爵以下に限定されるし、聖学院の奴らは身分だけで生きていけると勘違いしている奴らの集まりだから、文武両道どころかお貴族らしい振る舞い以外、何も脳のないやつばかりだ。優秀なやつは貴族院に入らず優秀な家庭教師をつけて、自宅で勉学と武術に励んでる。外に出てこないから、知り合う切掛すら無い」
「なるほど。で、どうして味方が欲しいんだ?」
シャールは音を立てずにフォークとナイフを置いて、僕を見た。
「次の国王になるやつに、もっと危機感を持たせたいんだ」
ガッシャー公爵夫人が国王陛下の妹ってことは、王宮におられる王子殿下や王女殿下は、シャールの従兄弟だ。
つまり、少なからずシャールにも、王位継承権がある。
「第一王子殿下は俺たちより十歳年上なんだが、こいつがどうにもやる気がなくてな。第一王子っていう身分に胡座をかいて、勉強も武術も適当にやってるんだよ」
第一王子殿下は眉目秀麗かつ聡明な方で外交では評判が良いと聞いているが、それ以外の話は知らない。
「頭は良いんじゃないのか?」
「地頭はいい、何せ王族だからな。だけど、本人にやる気と危機感がない。過去六代に亘って第一王子が王位を継承してきたから、自分もどうせそうなるだろうと踏んでいるのさ」
「ふむ。それで、それとシャールが味方を作ることに、何の関係が?」
ここまでの話だと、僕がシャールの「味方」になる理由が思いつかない。
シャールは僕を利用するつもりだった等と言っているが、利用するつもりのだけの相手の、暴発の危険が伴う魔力制御訓練に、体を張って付き合うだろうか。もっと安全な奴を味方に引き入れればいいだけの話だ。
「言ったろ、政治的なしがらみが少なくて、できれば文武両道がいいって。それ以前に俺は……いや、今はこの話じゃないな。俺は、王位継承戦に名乗りを上げるつもりなんだ」
話しながら食べていた食事はとっくに空になり、今はお茶を飲んでいる。
流石に、シャールではなくシャールの侍女が淹れてくれた。
「何も馬鹿正直に名乗りを上げたりするわけじゃない。ほんの少し仄めかして、貴族学院を優秀な成績で卒業して、その隣に優秀な人物がいるとなれば、周囲は『シャールこそ王に相応しい』ってなるだろ?」
「そうやって、第一王子のケツを蹴ろうってわけか」
「そうだ。……さっきも言ったが、俺は本当に王になろうなんて考えてない。お前は、俺の友達のフリをしてくれていたらいい。もし何か不利益や不都合があったら、全部俺に擦り付けてくれ」
「つまり学院を卒業するまでの、期間限定の友達でいろってことか?」
「ああ」
「お断りだ」
僕は立ち上がって、シャールの隣に立った。
ほんの二時間ほど前にシャールがやったのと同じように、シャールの両肩を両手で掴んだ。
「ずっと友達でいてくれよ」
僕が口元を歪めてみせると、シャールはまた泣きそうな顔になり、下を向いた。
「ありがとう、恩に着る」
下を向いたシャールから聞こえてきた声は、少し掠れていた。
シャールに言わせれば、僕たちの間に「契約」が結ばれた翌日。
僕とシャールはいつもどおり授業を受け、一緒に昼食を取り、魔術の実技は二人で組んで、授業が終わった後は練習室で自主練をした。
契約を結ぶ前と何ら変わらない。
「これ、契約する必要あったか?」
自主練中にシャールに問うと、シャールは頷いた。
「王位継承権に関わることだからな。面倒なことが起きるかもしれない。そのときに、説明してあるのとないのじゃ、取る行動や選択肢が違ってくるだろう?」
「それもそうか……?」
何も知らずに巻き込まれたとしても、僕はシャールの味方をするだろう。
でも、シャールの立場からしたら、何も知らない友人を巻き込むよりは動きやすいかな。
「具体的に何が起きたりするんだ? 推論でいいから教えてくれ」
「そうだな、まず、第二王子がちょっかい掛けてくる」
「第二王子って……」
国王陛下と二人の王子と二人の王女の顔は知っている。
第一王子が細身の理系イケメンだとしたら、第二王子は体育会系ゴリマッチョだ。
「お二人は仲が宜しいと」
「どうだろうな。ただ、第二王子は王位に興味はないらしいが、第一王子に何かあれば、自分が王になってしまうと思いこんでおられる。だから、第一王子の継承権が脅かされることがあれば、出てくるだろう」
「なるほど」
「他には、他の高位貴族の妨害や応援だな。これはまあ、王位継承権につきものの余興だと思ってくれて構わない」
「余興って……」
「俺の地位は、ただの殿下の従兄弟だ。王位継承権も十位以内に入っていない。普通に考えたら、天変地異でも起こらない限り、王になることなどない。それでも、俺を利用しようとしたり、あるいは邪魔しようと考える貴族もいるだろう」
「やっぱり余興と言うには重すぎるよ」
「いいや、余興だ。余興だと考えてくれ。利用でも邪魔でも、ローツェに実害が出たら……いや、出そうになったら、すぐに言ってくれ」
「わかってるよ。僕だって面倒は御免だ」
「頼もしい。本当に助かる」
シャールは僕の肩をぽんぽんと叩いた。
契約してから数日後、異変が起きた。
「おはよう! ガルマータ君。いや、ローツェと呼んでも良いかな?」
教室に入るなり、奴ことフォート・ベン・ネビスから爽やかに挨拶された。
「おはようございます。僕のような伯爵令息如きがネビス公爵令息様と友人づきあいのようなことをするなど、畏れ多くてお断りです」
なるべく丁寧に断ろうとしたけど、最後に本音出ちゃった。
「そんなこと言わずに。今までの俺の態度のことなら謝るよ。仲良くしよう、な?」
「畏れ多いので、これ以上話をしないほうがよろしいかと」
奴は先生が教室へやってくるまでの間、ひたすら僕に話しかけ続けた。
鬱陶しい。
後から教室にやってきたシャールに視線を送ると、シャールから「すまん」のジェスチャーが来た。
よりによって、こいつに嗅ぎつけられたのか。
ひとりで黙々といつもの練習メニューをこなしてから学生寮へ向かう途中、ふとシャールの気配を感じた気がした。
魔力が上手く循環できるようになってから、人や動物の気配に敏感になった。
最初はあまりにも気配が気になって落ち着かなかったが、魔力の循環を無意識でも行えるようになってからは、あまり気にならなくなった。
シャールの気配だけ引っかかったのは、久しぶりにシャールのいない授業後を過ごしたせいだったのか。
「――分かっている」
「でしたら、すぐに」
「しかし、彼は――」
気配の方へ向かうと、シャールと誰かが話していた。
盗み聞きするつもりはなかったが、結果的にそうなってしまった。
「やはり巻き込むわけには」
「そんなことを仰るのでしたら、こちらから」
「それだけは止めてくれ。もう少し、時間を」
「悠長なことを言っている場合ではございませぬ」
なにやら込み入った話のようだ。
そして気になるのが、相手の男性が、まるでシャールを高位貴族のように扱っていることだ。
男性は声の質からして、大人だ。
そういえば、シャールはラウンジで「侍女にお茶の下準備をさせている」と言っていた。
先日の奴の言を信じるならシャールは子爵令息だ。
学院に使用人を連れて入れるのは、実質伯爵のみ。
何か、隠しているのだろうか。
「よう」
「うわっ!」
考えに耽っていたら、当のシャールに声を掛けられた。相手の男性の気配は既に遠ざかっている。
「ごめん」
「何が?」
「その、ちょっと盗み聞きしちゃった」
「かまわないよ。っつーか、丁度良かった。お前に関係ある話なんだ」
「へっ?」
僕が声を上げると、シャールは僕の両肩にばん、と手を置いて、下を向いた。
「こちらこそ、すまない。巻き込む。というか、巻き込む目的でお前に近づいた。この件を手伝ってくれた後なら、縁を切ってもらって構わない。理不尽なことを言っている自覚はあるが、少しだけ協力して欲しい」
苦しそうな親友の声。
僕はシャールの手を肩から外し、シャールの両脇に下ろさせた。
「ローシェ……」
そして、シャールの頭をぽん、と叩いた。
「!?」
「詳しく聞かせてもらおう。話はそれからだ」
僕がニッと笑うと、シャールは泣きそうな顔になった。
学生寮の、シャールの部屋に案内された。
そういえば、寮内で他の生徒の部屋に入ったことがない。
どうせどの部屋も同じ作りだろう……と考えていた僕が甘かった。
「シャールって、子爵令息じゃないだろ」
寮の最上階、四階の角部屋は、僕の実家の自室よりも広かった。
多分、普通の部屋三つ分はあると思う。
「子爵だよ、俺はね」
「……ん?」
僕は伯爵令息だ。つまり、伯爵位を持っているのは父であり、僕じゃない。
「改めて自己紹介といこうか。俺はシャール・ディスタギール子爵。父はブルム・ガッシャー公爵だ」
シャール本人が子爵位持ちで……父親が、公爵?
「ガッシャー公爵って、あのガッシャー公爵か!?」
「多分お前の考えてるガッシャー公爵だ」
同じ貴族位の中にも、序列というものがある。
伯爵以下の序列は希薄だが、侯爵と公爵は明確だ。
例の奴の父親、ネビス公爵なんかは、三代前が王族というだけで、その後特にこれといった功績を上げていないため、公爵家の中では下の方だ。
逆にガッシャー公爵は、今代は確か現王の妹君が嫁がれた家だ。何代か前にも王族がいたし、国の中枢を担う政治家や、優秀な騎士団員を何人も排出している。
「今までのご無礼を謝った方がいい?」
「そんなことするなよ。お茶だって俺が好きで淹れてるんだから」
そうだ僕、毎日のようにシャールにお茶淹れてもらってた。それこそ使用人にやらせればいいのに。
「お茶淹れるのが好きな公爵令息って」
「子爵だってば。まあ、公爵令息でも間違ってないんだが、学院にいる間の俺は子爵、それどころか子爵令息と勘違いされてたほうがマシまである」
「なんだそれ」
「諸々説明するから座ってくれ。お前の侍女には連絡入れておくから、夕食も一緒に」
寮の食堂では絶対出て来ない、とんでもなく高価で美味しい夕食とお茶を頂きながら、シャールから話を聞いた。
シャールは「味方」を探すために、聖学院入学を蹴って、貴族学院へ入学した。
「味方?」
「政治的なしがらみが少なくて、できれば文武両道な友人。政治的な云々は伯爵以下に限定されるし、聖学院の奴らは身分だけで生きていけると勘違いしている奴らの集まりだから、文武両道どころかお貴族らしい振る舞い以外、何も脳のないやつばかりだ。優秀なやつは貴族院に入らず優秀な家庭教師をつけて、自宅で勉学と武術に励んでる。外に出てこないから、知り合う切掛すら無い」
「なるほど。で、どうして味方が欲しいんだ?」
シャールは音を立てずにフォークとナイフを置いて、僕を見た。
「次の国王になるやつに、もっと危機感を持たせたいんだ」
ガッシャー公爵夫人が国王陛下の妹ってことは、王宮におられる王子殿下や王女殿下は、シャールの従兄弟だ。
つまり、少なからずシャールにも、王位継承権がある。
「第一王子殿下は俺たちより十歳年上なんだが、こいつがどうにもやる気がなくてな。第一王子っていう身分に胡座をかいて、勉強も武術も適当にやってるんだよ」
第一王子殿下は眉目秀麗かつ聡明な方で外交では評判が良いと聞いているが、それ以外の話は知らない。
「頭は良いんじゃないのか?」
「地頭はいい、何せ王族だからな。だけど、本人にやる気と危機感がない。過去六代に亘って第一王子が王位を継承してきたから、自分もどうせそうなるだろうと踏んでいるのさ」
「ふむ。それで、それとシャールが味方を作ることに、何の関係が?」
ここまでの話だと、僕がシャールの「味方」になる理由が思いつかない。
シャールは僕を利用するつもりだった等と言っているが、利用するつもりのだけの相手の、暴発の危険が伴う魔力制御訓練に、体を張って付き合うだろうか。もっと安全な奴を味方に引き入れればいいだけの話だ。
「言ったろ、政治的なしがらみが少なくて、できれば文武両道がいいって。それ以前に俺は……いや、今はこの話じゃないな。俺は、王位継承戦に名乗りを上げるつもりなんだ」
話しながら食べていた食事はとっくに空になり、今はお茶を飲んでいる。
流石に、シャールではなくシャールの侍女が淹れてくれた。
「何も馬鹿正直に名乗りを上げたりするわけじゃない。ほんの少し仄めかして、貴族学院を優秀な成績で卒業して、その隣に優秀な人物がいるとなれば、周囲は『シャールこそ王に相応しい』ってなるだろ?」
「そうやって、第一王子のケツを蹴ろうってわけか」
「そうだ。……さっきも言ったが、俺は本当に王になろうなんて考えてない。お前は、俺の友達のフリをしてくれていたらいい。もし何か不利益や不都合があったら、全部俺に擦り付けてくれ」
「つまり学院を卒業するまでの、期間限定の友達でいろってことか?」
「ああ」
「お断りだ」
僕は立ち上がって、シャールの隣に立った。
ほんの二時間ほど前にシャールがやったのと同じように、シャールの両肩を両手で掴んだ。
「ずっと友達でいてくれよ」
僕が口元を歪めてみせると、シャールはまた泣きそうな顔になり、下を向いた。
「ありがとう、恩に着る」
下を向いたシャールから聞こえてきた声は、少し掠れていた。
シャールに言わせれば、僕たちの間に「契約」が結ばれた翌日。
僕とシャールはいつもどおり授業を受け、一緒に昼食を取り、魔術の実技は二人で組んで、授業が終わった後は練習室で自主練をした。
契約を結ぶ前と何ら変わらない。
「これ、契約する必要あったか?」
自主練中にシャールに問うと、シャールは頷いた。
「王位継承権に関わることだからな。面倒なことが起きるかもしれない。そのときに、説明してあるのとないのじゃ、取る行動や選択肢が違ってくるだろう?」
「それもそうか……?」
何も知らずに巻き込まれたとしても、僕はシャールの味方をするだろう。
でも、シャールの立場からしたら、何も知らない友人を巻き込むよりは動きやすいかな。
「具体的に何が起きたりするんだ? 推論でいいから教えてくれ」
「そうだな、まず、第二王子がちょっかい掛けてくる」
「第二王子って……」
国王陛下と二人の王子と二人の王女の顔は知っている。
第一王子が細身の理系イケメンだとしたら、第二王子は体育会系ゴリマッチョだ。
「お二人は仲が宜しいと」
「どうだろうな。ただ、第二王子は王位に興味はないらしいが、第一王子に何かあれば、自分が王になってしまうと思いこんでおられる。だから、第一王子の継承権が脅かされることがあれば、出てくるだろう」
「なるほど」
「他には、他の高位貴族の妨害や応援だな。これはまあ、王位継承権につきものの余興だと思ってくれて構わない」
「余興って……」
「俺の地位は、ただの殿下の従兄弟だ。王位継承権も十位以内に入っていない。普通に考えたら、天変地異でも起こらない限り、王になることなどない。それでも、俺を利用しようとしたり、あるいは邪魔しようと考える貴族もいるだろう」
「やっぱり余興と言うには重すぎるよ」
「いいや、余興だ。余興だと考えてくれ。利用でも邪魔でも、ローツェに実害が出たら……いや、出そうになったら、すぐに言ってくれ」
「わかってるよ。僕だって面倒は御免だ」
「頼もしい。本当に助かる」
シャールは僕の肩をぽんぽんと叩いた。
契約してから数日後、異変が起きた。
「おはよう! ガルマータ君。いや、ローツェと呼んでも良いかな?」
教室に入るなり、奴ことフォート・ベン・ネビスから爽やかに挨拶された。
「おはようございます。僕のような伯爵令息如きがネビス公爵令息様と友人づきあいのようなことをするなど、畏れ多くてお断りです」
なるべく丁寧に断ろうとしたけど、最後に本音出ちゃった。
「そんなこと言わずに。今までの俺の態度のことなら謝るよ。仲良くしよう、な?」
「畏れ多いので、これ以上話をしないほうがよろしいかと」
奴は先生が教室へやってくるまでの間、ひたすら僕に話しかけ続けた。
鬱陶しい。
後から教室にやってきたシャールに視線を送ると、シャールから「すまん」のジェスチャーが来た。
よりによって、こいつに嗅ぎつけられたのか。
1
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜
赤井水
ファンタジー
クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。
神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。
洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。
彼は喜んだ。
この世界で魔法を扱える事に。
同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。
理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。
その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。
ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。
ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。
「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」
今日も魔法を使います。
※作者嬉し泣きの情報
3/21 11:00
ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング)
有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。
3/21
HOT男性向けランキングで2位に入れました。
TOP10入り!!
4/7
お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。
応援ありがとうございます。
皆様のおかげです。
これからも上がる様に頑張ります。
※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz
〜第15回ファンタジー大賞〜
67位でした!!
皆様のおかげですこう言った結果になりました。
5万Ptも貰えたことに感謝します!
改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる