TRPGの世界に召喚されて全滅した仲間を生き返らせて元の世界へ帰るために、チート能力「ダイス目操作」を駆使してこの世界を蹂躙します。

桐山じゃろ

文字の大きさ
上 下
26 / 32

26 成人男性ひとりを片手で軽々と持ち上げる程度の腕力

しおりを挟む
 最後にドルズブラ城から呼び出されてひと月が経った。
 日本に帰る件に関しては、宰相曰く「禁術用の魔力が溜まるまであと半年かかる」ということを承知しているが、僕たちへの補償や、暗殺者を仕向けた件、例の扉の前に放置した兵の話など、詳細が判明していないことは多々ある。
 こちらから冒険者ギルドを介して問い合わせても、梨の礫だ。

「クウちゃんで乗り込みましょうか。わたくし先日――」
「攻撃魔法は駄目だってば」
 ベルは治癒魔法の次に攻撃魔法が得意だ。聖女って、次点は補助魔法や防護魔法とかじゃないの?
「攻撃は最大の防御です」
 僕がジト目で見ていたら、ベルは胸を張ってそんなことを言う。誰だ、ベルをこんな聖女に育てたのは。
「でもさぁ、ここまで放置プレイなのもおかしいでしょ」
 ベルの口に菓子を詰めつつ、ピヨラも同意する。
 今は夕食後のまったりタイムだ。
 皆、リビングで思い思いに寛いでいる。
「だよな。あたしらを召喚した連中に記憶がないってのも不気味だし」
 休日を家で過ごしていたチャバさんが、お茶を啜りながら気怠げに反応する。
「そもそも、城で話するのが宰相だけって変じゃないか? 魔王討伐なんて大事頼むのって、王様の仕事じゃないのか」
「確かに」
 ジョーの発言にカイトが頷く。
「どうなの、ベル?」
 日本のRPGだったら魔王討伐を任命するのは大抵王様の役目だが、この世界の常識はどうなのかとベルに問うてみた。
「王族は忙しいか、怠惰なので、実働は宰相以下が行うことが多いですね。しかし、ジョーさんの仰る通り、事は魔王討伐で、しかもデガさんは命令通り魔王を討伐しました。事ここに至って王が一度も顔を出さないのはおかしな話です」
「だよなぁ」
 ジョーが納得する。他の皆も同様だ。
「そういえば魔王ってどうなったの? もう復活してる?」
「そのあたりも含めて、連絡がないのです」
 ……もしかして、城に乗り込むのがベストだったりする?
「デガさん」
 ベルが僕の名を呼び、正面から見つめてくる。
 この前から、ベルの顔を直視するのが少々辛い。
 嫌悪ではなく、何かこう……羞恥、も違うな。
「何照れてるのよ、デガ」
 茶化してくるチャバさんからあえて目を逸らしたが、そうか、僕は照れてるのか、と気づいた。
「デガさん?」
 ベルがもう一度名を呼んでくれる。
「何でしょう」
「やはり、城へ直接まいりましょう。誓って攻撃魔法は使いませんから」



 城へは僕とベルだけで行った。
 城門前でクウちゃんから降りると、すぐさま門兵たちが寄ってきた。
「何者だ!」
 威圧的な門兵の数人の顔に、見覚えがある。
 毎回横柄な態度で、僕たちの身元確認をしてきて、正式に招かれていることを知っても適当な対応しかしない人たちだ。
 毎回、例の扉の前で放置していく兵士も、しれっと混ざっている。

<先制:大成功>
<命中:大成功 クリティカルヒット>
<当て身:大成功 相手を気絶させる>

 兵士五人に対し、先制、命中、当て身のダイスロールが自動成功する。
 僕は兵士たちの背後へ素早く回り込み、彼らの後頭部を手刀で狙った。
 兵士たちはぱたぱたと呆気なく気絶していった。
 ベルが小さく拍手してくれる。
「お強くなられましたね、デガさん」
「チートのお陰だよ」

 魔王からは経験値を得られなかったが、危険度SSの魔物を何匹も倒したお陰で、またレベルが上がっている。

+++

 名前:デガ
 種族:ヒューマン
 レベル:130
 年齢:18
 筋力:3000
 敏捷力:3000
 耐久力:2856
 知力:1130
 判断力:2500
 魅力:339
 特殊能力:ダイス目操作 レベル4

+++

 ダイス目チートはレベル4に上がり、「どんなダイス目にも干渉できる」という効果へ変化した。
 自分と仲間、他人以外に一体何があるのかわからないが、いつも通り、魔物討伐や敵対者に相対するときのダイス目はクリティカル、僕や仲間たちへの悪意や攻擊に関するダイス目はファンブルに設定してある。
 レベルが上がったのも、たった今兵士たちを無力化できたのも、このダイス目チートのお陰だ。

 ということを、ベルも知っているはずなのに。
 ベルは本当に嬉しそうに笑みを浮かべて、僕を褒めてくれる。

「さあ、まいりましょう」
 閉まっていた城門を力ずくで開けて、僕たちは城の内部へ乗り込んだ。


 ここまで来ておいて、遠慮することなど何もない。
 途中で行く手を阻んできた人たちは全員、当て身で眠ってもらった。
 何度も案内されたので、宰相がいつもいる部屋の前まで、迷いなく来れた。

 部屋の扉も、こちらからノックもせずに開けた。

「ん? 何事だ?」
 宰相が机に向かって書類に何かを書き付けながら、こちらも見ずに声を発した。
 部屋には宰相ひとりだ。
「ギルドの方はどうされたのでしょうか」
 ベルが小声で僕に耳打ちする。
「わからない」
 ギルド長に頼んでおいた見張り役の人からも、連絡や情報が来ていない。
 別のところで無事でいてくれたらいいが……申し訳ないことをしてしまったかもしれない。

「宰相、僕のことを憶えておいでですか?」
 僕がこう尋ねてようやく、宰相はこちらを見た。
「おお、お主らか。今日は呼んでおらぬはずだが」
 ベルがつかつかと宰相に近づき、胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げた。
 ベルもレベルが上がって……筋力70超えたとか言ってたっけな。大人ひとりくらいなら片手で放り投げられるレベルだ。
 いつもなら僕が止めに入るところだが、今日はベルの好きにさせておこうと思う。
「なっ、何をっ」
「いい加減にしてくださいませ。ひと月も何の連絡も寄越さず、デガさん達をどれだけ待たせれば気が済むのですか。調査の進展くらい……」
「ちょ、調査は、慎重に進めておってっ」
「ではこの書類は何ですか? 夜会開催のお知らせですよね? 社交をする暇はあると」
「それとこれとは話が」
「貴方が、いえ、この国が何よりも優先すべきは、魔王討伐者であるデガさんと、デガさん同様異世界から無理やり召喚した方々のことを考えることです!」
 ベルは僕が言いたかったことを全部綺麗に言ってくれた。内心で拍手喝采する。
「う、うぐ、だが、陛下が……」
「陛下が?」
「へ、陛下は、禁術を使ったなど認めぬと……つまり、デガ殿たちのことも……」
「ベル、宰相の顔色だいぶ悪いから、一旦離してあげて」
 僕が横から口を出すと、ベルは宰相をゴミのようにぽいっと捨てた。
 宰相は打ち付けた尻と腰を撫でさすりながら、ゴホゴホと咳き込んだ。
「陛下はどこですか?」
「そ、それは……」

<『説得』の判定をしますか?>
 頭の中で「声」が、いつもなら放棄するかランダムに任せている判定を促してくる。
 僕は穏便に済ませるために、今回ばかりはチートを活用した。

<説得:大成功。宰相は国王の居場所を喋る>

「どこですか?」
 僕が適当に答えても、ダイスロールで未来が決まっているのだ。
 宰相は僕を見て、何かを諦めたように肩を落とした。
「今の時間ならば私室にいる。この城の最上階だ」
 僕とベルは宰相をそのままに、部屋を後にした。


 最上階への階段は、無駄に豪華だったから簡単に見つかった。
 僕たちを見つけて何か言ってくる兵士は当て身で寝かせつつ、階段を駆け上がる。

 宰相の部屋よりも豪華な扉の前に出た。
 近衛兵らしき兵士たちも、ダイスロールするまでもなく無力化できた。


 扉の向こうでは、干からびた老人がベッドの上で上半身を起こしていた。
 室内は質素ながらも高級感のある内装で、老人の着ている服やベッド自体も質が良いのがひと目で分かる。
 痩せこけて顔色は悪いのに、瞳だけがぎらぎらしている。
 シーツを握る手が細かく震えているのは、寒さや突然の闖入者に対する怯えではなく、老いとか病とか、そういうもののせいに見えた。
「貴方がドルズブラ国王ですか?」
 ベルは部屋の中の老人を見て暫し足を止め、それからそっと老人に近づいて問うた。

 老人は何も答えない。

「陛下?」
 ベルが呼び方を変えると、老人の目が何故か僕を見た。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...