上 下
54 / 127
第二章

24 新たな芽生え

しおりを挟む
 実際、冒険者たちに命を救われた村人は多い。
 しかし今となっては、被害のほうが深刻で甚大だ。
 ラナと呼ばれた女性は前々から冒険者たちに目をつけられていた。
 ヤタクさんは家にある何もかもを差し出してラナさんを守っていたが、冒険者たちは結局、先程の凶行に至ったというわけだ。
「こっちの都合を考えない男なんて、虫酸が走るわね」
 アイリが何か妙に実感のこもった声色でつぶやいた。

 ヤタクさんの話を聞きながら、地面に転がした男たちを道の脇にどけておいた。
 騒ぎを聞きつけたり、通りがかった村の人にはラナさんが事情を説明していた。すると村の人達は転がってる男と僕たちを何度も交互に見てから、人を集めたり、男たちを運ぶ荷車の手配を請け負ってくれた。
 しかし男たちを置く場所がない。いくら厳重に縛り上げ、武器を取り上げて鍵のかかった部屋へ閉じ込めても、相手は手練の冒険者だ。縄を引きちぎり木製の扉を素手で壊し、警備に当たるのが冒険者でない人なら無力化して逃げてしまえる。僕が隙を与えず倒してしまったからわからないが、もしかしたら魔法のひとつも使えるかもしれない。
「ラウト、嫌だったら嫌って言ってね。転移魔法でお城に運んじゃ駄目かしら」
「その手があったか」
 アイリの提案を僕が即時に称賛すると、何故かアイリが戸惑った。
「転移魔法ってもっとなんか……難しい魔法で、神聖で、こんな奴らを運ぶのに使うのは勿体ないのじゃないかしら」
「何言ってるの」
 魔法は魔法だ。有効活用してこそだ。
 精霊たちも特に何も言ってこないし、止めもしない。

 早速ヤタクさんに転移魔法が使える旨を申し伝えると、他の村の人たちが渋った。
 曰く、同じ冒険者だから実は仲間で、転移魔法は嘘で逃がすつもりなのではないか、と。
 疑われるのは仕方がない。
 まずは転移魔法を実演し、次に村の人数名とユジカル国まで往復してみせて、ようやく信じてもらえた。
 そしてヤタクさんを伴って、ユジカル国へ不良冒険者たちを連行した。先に他の村の人と行ったときに、諸々の説明は済ませてある。

 このタラク村にはユジカル国が代わりの冒険者を探して派遣すると約束してくれた。
 募集をかけてもすぐに集まるものではない。めぼしい冒険者が見つかるまでの間、タラク村には一時的にギロが滞在することになった。
 ギロから離れたがらなかったサラミヤも一緒だ。
「あの、ラウト様。私まだちゃんとお礼を言っておりませんでした。申し訳ありません。助けていただいて、ありがとうございました」
 初めて会った時よりはるかにしっかりとした口調で言い終えるなり、ギロの後ろに隠れてしまったが。
「すみませんラウト様。これは怖がっているのではなく……」
「恥ずかしがってるのよね。それと、ギロのことが大好きなのね」
 アイリがサラミヤの傍でささやくと、サラミヤはギロの背中に顔を押し当てた。図星らしい。
「どういたしまして。ギロと仲良くやってるようで安心したよ」
 僕は無理やり近づかず、なるべく穏やかに話しかけてみた。
「うっ……はい、ギロ様は頼りになります」
 サラミヤは少しだけギロの背中から顔をのぞかせて、真っ赤な顔でこちらを見た。

 ギロとサラミヤは、冒険者が使っていた一軒家に入ることになった。
 冒険者たちはこんな立派な家を与えられていたのに、村中の宿に部屋を借りて転々としていた。
 その理由はすぐに分かった。
「うっわ」
「臭いー」
「これは……流石に手伝うよ」
「……助かります」
 家は汚屋敷状態になっていた。冒険者たちは掃除と片づけが苦手だったようだ。
 部屋という部屋は生活用品とゴミで埋まり、床が見えている場所は木の板一枚分もない。
「アイリ、宿をとってきて。流石に一晩じゃ片付かない」
「わかったわ。……あの、ラウト」
「ん?」
 アイリが扉をあけてすぐ、僕を呼んだ。
 行ってみると家の入口前には村の女性たち数名が集まっていた。ラナさんの姿もある。
「お家、大変なことになってるでしょう? 片付けますわ」
 先頭に立っていた気の強そうな女性は僕とアイリにそう告げると、他の女性達を促して、家の中に入っていった。
 僕とアイリが顔を見合わせていると、ラナさんとギロとサラミヤも出てきた。
「村の広場の西側にある宿に部屋をとってあります。これは村の総意なので、お気になさらず」
「そうやって冒険者に甘くしてはよくないのでは?」
 特にラナさんは一番酷い目に遭うところだったのに。
 僕の苦言に対し、ラナさんは明るく微笑んだ。
「ええ、反省しました。でもラウトさんは最初から今まで、ひとつも見返りを求めていませんよね。それこそよくないですよ。今のこの村にできることはこの程度ですが、働きに対する対価はちゃんと受け取ってください」
 僕の場合は勇者の称号に対して各国から報酬を頂いている……のとは別の話になるのか。
「仰る通りですね。ありがとうございます」
 同じ冒険者が狼藉を働いたというのに、この村の人は皆親切だ。ありがたく受け取ることにした。

 翌日の昼には一軒家の掃除が完了した、とギロから報告があった。
 出てきたゴミは「よくこれだけ入っていたな」と呆れるほどの量だったとか。
 僕とアイリは既に村を発っていて、これから山越えに挑む。
 ドモヴォーイ、サラマンダ、シルフの力を借りて、二人分の温暖防護飛行結界魔法を作り上げる。
「前から思ってたのだけど、ラウトの魔力量ってどれだけあるの?」
 横抱きにしたアイリに問われた。
「一万くらい」
「それは勇者適正試験の時でしょう? もっと多い気がするのよね。高位魔法を三つも重ねがけして平気なんだから」
 アイリのレベルはここ最近目覚ましい勢いで上がったが、それは僕も同様、いやそれ以上に上がった。
 僕のレベルは現在三百十だ。
 過去の勇者の記憶を辿っても、ここまで上がった人は居ない。最高でもレベル九十二だった。
 僕が上がりすぎなのか、過去の勇者たちにはレベルを上げる余裕がなかったのか。
「ステータスで見れないか……あれ? 見える」
 ステータスの詳細な数字は、『鑑定』という能力を持った人か、『鑑定』の能力を模倣した魔道具でないと知ることが出来なかった。
 前回ステータスを見た時はいつだったかな。その時は、こんなにしっかりと詳細に表示されていなかった。
「見えるの!?」
 アイリが僕のステータスを覗き込む。
「? 見えないわ」
「え? 僕には力が一万七千五百、とか見えるよ」
「書いてないわ」
「ちょっと、アイリのステータス見せて」
 アイリのステータスを見せてもらったら、こちらも詳細なものが見えた。
「力、二百三十もあるんだ」
「やだ、どうして見えてるの?」
「アイリには見えないの?」
 僕とアイリは空の上だというのにお互いのステータスを見せあい、ああでもないこうでもないと話し込む。
「魔力いくつ?」
「僕が三十二万八千で、アイリが二千三百」
「私はいいのよ。でも、どうして……ラウト、『鑑定』が使えるんじゃない?」
「あっ」
 ステータスの詳細を見る唯一の方法は『鑑定』だ。一部の人の特殊能力だから、自分が使えるかもしれないなんて考えたこともなかった。
「一度帰ってギロの……いや、そんなことしてる場合じゃないか」
 あれこれ試したいが、険しい山はとっくに飛び越えていて、足元には巨大な城が見える。

 城は枯れた木に囲まれ、全体的に黒い配色でなければ、大国の王城と言っても差し支えない壮麗さがあった。
 上空に留まったまま、城の内部の気配を探る。
「うーん……」
 僕はアイリを横抱きにしたまま、唸ってしまった。
「どうしたの? 魔王、手強そう?」
「一番濃い気配が魔王なのかなぁ。なんていうか……。逆で」
「逆?」
 城の周辺を良く見ると、打ち捨てられて朽ち果てた人の武器や服、体の一部、それに骨らしきものが散らばっている。
 ここに人間が来て、城に入ることすらできず散っていった証拠だ。
 つまりこの城が魔王城なのは間違いないだろう。
「その……多分、秒で終わるというか……」
 人間の仇敵である魔王を圧倒できるなら、それに越したことはない。むしろ喜ぶべきことだ。
 だというのに、僕は不安が拭えなかった。

 魔王らしい気配を、どうしてあんなにも弱く感じる?

「それは確かに不安ね。他所へ逃げてたら、また追わなくちゃならないし」
 アイリは僕の不安を察知してくれた。
 とはいえ、ここでぐずぐずしていても埒が明かない。
 僕とアイリはゆっくりと、静かに下降した。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう
ファンタジー
大陸最大の王国である『ファーレン王国』 そこに住む少年ライトは、幼馴染のリリカとセエレと共に、元騎士であるライトの父に剣の稽古を付けてもらっていた。 ライトとリリカはお互いを意識し婚約の約束をする。セエレはライトの愛妾になると宣言。 愛妾を持つには騎士にならなくてはいけないため、ライトは死に物狂いで騎士に生るべく奮闘する。 そして16歳になり、誰もが持つ《ギフト》と呼ばれる特殊能力を授かるため、3人は王国の大聖堂へ向かい、リリカは《鬼太刀》、セエレは《雷切》という『五大祝福剣』の1つを授かる。 一方、ライトが授かったのは『???』という意味不明な力。 首を捻るライトをよそに、1人の男と2人の少女が現れる。 「君たちが、オレの運命の女の子たちか」 現れたのは異世界より来た『勇者レイジ』と『勇者リン』 彼らは魔王を倒すために『五大祝福剣』のギフトを持つ少女たちを集めていた。    全てはこの世界に復活した『魔刃王』を倒すため。 5つの刃と勇者の力で『魔刃王』を倒すために、リリカたちは勇者と共に旅のに出る。 それから1年後。リリカたちは帰って来た、勇者レイジの妻として。 2人のために騎士になったライトはあっさり捨てられる。 それどころか、勇者レイジの力と権力によって身も心もボロボロにされて追放される。 ライトはあてもなく彷徨い、涙を流し、決意する。 悲しみを越えた先にあったモノは、怒りだった。 「あいつら全員……ぶっ潰す!!」

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...