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第二章
24 新たな芽生え
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実際、冒険者たちに命を救われた村人は多い。
しかし今となっては、被害のほうが深刻で甚大だ。
ラナと呼ばれた女性は前々から冒険者たちに目をつけられていた。
ヤタクさんは家にある何もかもを差し出してラナさんを守っていたが、冒険者たちは結局、先程の凶行に至ったというわけだ。
「こっちの都合を考えない男なんて、虫酸が走るわね」
アイリが何か妙に実感のこもった声色でつぶやいた。
ヤタクさんの話を聞きながら、地面に転がした男たちを道の脇にどけておいた。
騒ぎを聞きつけたり、通りがかった村の人にはラナさんが事情を説明していた。すると村の人達は転がってる男と僕たちを何度も交互に見てから、人を集めたり、男たちを運ぶ荷車の手配を請け負ってくれた。
しかし男たちを置く場所がない。いくら厳重に縛り上げ、武器を取り上げて鍵のかかった部屋へ閉じ込めても、相手は手練の冒険者だ。縄を引きちぎり木製の扉を素手で壊し、警備に当たるのが冒険者でない人なら無力化して逃げてしまえる。僕が隙を与えず倒してしまったからわからないが、もしかしたら魔法のひとつも使えるかもしれない。
「ラウト、嫌だったら嫌って言ってね。転移魔法でお城に運んじゃ駄目かしら」
「その手があったか」
アイリの提案を僕が即時に称賛すると、何故かアイリが戸惑った。
「転移魔法ってもっとなんか……難しい魔法で、神聖で、こんな奴らを運ぶのに使うのは勿体ないのじゃないかしら」
「何言ってるの」
魔法は魔法だ。有効活用してこそだ。
精霊たちも特に何も言ってこないし、止めもしない。
早速ヤタクさんに転移魔法が使える旨を申し伝えると、他の村の人たちが渋った。
曰く、同じ冒険者だから実は仲間で、転移魔法は嘘で逃がすつもりなのではないか、と。
疑われるのは仕方がない。
まずは転移魔法を実演し、次に村の人数名とユジカル国まで往復してみせて、ようやく信じてもらえた。
そしてヤタクさんを伴って、ユジカル国へ不良冒険者たちを連行した。先に他の村の人と行ったときに、諸々の説明は済ませてある。
このタラク村にはユジカル国が代わりの冒険者を探して派遣すると約束してくれた。
募集をかけてもすぐに集まるものではない。めぼしい冒険者が見つかるまでの間、タラク村には一時的にギロが滞在することになった。
ギロから離れたがらなかったサラミヤも一緒だ。
「あの、ラウト様。私まだちゃんとお礼を言っておりませんでした。申し訳ありません。助けていただいて、ありがとうございました」
初めて会った時よりはるかにしっかりとした口調で言い終えるなり、ギロの後ろに隠れてしまったが。
「すみませんラウト様。これは怖がっているのではなく……」
「恥ずかしがってるのよね。それと、ギロのことが大好きなのね」
アイリがサラミヤの傍でささやくと、サラミヤはギロの背中に顔を押し当てた。図星らしい。
「どういたしまして。ギロと仲良くやってるようで安心したよ」
僕は無理やり近づかず、なるべく穏やかに話しかけてみた。
「うっ……はい、ギロ様は頼りになります」
サラミヤは少しだけギロの背中から顔をのぞかせて、真っ赤な顔でこちらを見た。
ギロとサラミヤは、冒険者が使っていた一軒家に入ることになった。
冒険者たちはこんな立派な家を与えられていたのに、村中の宿に部屋を借りて転々としていた。
その理由はすぐに分かった。
「うっわ」
「臭いー」
「これは……流石に手伝うよ」
「……助かります」
家は汚屋敷状態になっていた。冒険者たちは掃除と片づけが苦手だったようだ。
部屋という部屋は生活用品とゴミで埋まり、床が見えている場所は木の板一枚分もない。
「アイリ、宿をとってきて。流石に一晩じゃ片付かない」
「わかったわ。……あの、ラウト」
「ん?」
アイリが扉をあけてすぐ、僕を呼んだ。
行ってみると家の入口前には村の女性たち数名が集まっていた。ラナさんの姿もある。
「お家、大変なことになってるでしょう? 片付けますわ」
先頭に立っていた気の強そうな女性は僕とアイリにそう告げると、他の女性達を促して、家の中に入っていった。
僕とアイリが顔を見合わせていると、ラナさんとギロとサラミヤも出てきた。
「村の広場の西側にある宿に部屋をとってあります。これは村の総意なので、お気になさらず」
「そうやって冒険者に甘くしてはよくないのでは?」
特にラナさんは一番酷い目に遭うところだったのに。
僕の苦言に対し、ラナさんは明るく微笑んだ。
「ええ、反省しました。でもラウトさんは最初から今まで、ひとつも見返りを求めていませんよね。それこそよくないですよ。今のこの村にできることはこの程度ですが、働きに対する対価はちゃんと受け取ってください」
僕の場合は勇者の称号に対して各国から報酬を頂いている……のとは別の話になるのか。
「仰る通りですね。ありがとうございます」
同じ冒険者が狼藉を働いたというのに、この村の人は皆親切だ。ありがたく受け取ることにした。
翌日の昼には一軒家の掃除が完了した、とギロから報告があった。
出てきたゴミは「よくこれだけ入っていたな」と呆れるほどの量だったとか。
僕とアイリは既に村を発っていて、これから山越えに挑む。
ドモヴォーイ、サラマンダ、シルフの力を借りて、二人分の温暖防護飛行結界魔法を作り上げる。
「前から思ってたのだけど、ラウトの魔力量ってどれだけあるの?」
横抱きにしたアイリに問われた。
「一万くらい」
「それは勇者適正試験の時でしょう? もっと多い気がするのよね。高位魔法を三つも重ねがけして平気なんだから」
アイリのレベルはここ最近目覚ましい勢いで上がったが、それは僕も同様、いやそれ以上に上がった。
僕のレベルは現在三百十だ。
過去の勇者の記憶を辿っても、ここまで上がった人は居ない。最高でもレベル九十二だった。
僕が上がりすぎなのか、過去の勇者たちにはレベルを上げる余裕がなかったのか。
「ステータスで見れないか……あれ? 見える」
ステータスの詳細な数字は、『鑑定』という能力を持った人か、『鑑定』の能力を模倣した魔道具でないと知ることが出来なかった。
前回ステータスを見た時はいつだったかな。その時は、こんなにしっかりと詳細に表示されていなかった。
「見えるの!?」
アイリが僕のステータスを覗き込む。
「? 見えないわ」
「え? 僕には力が一万七千五百、とか見えるよ」
「書いてないわ」
「ちょっと、アイリのステータス見せて」
アイリのステータスを見せてもらったら、こちらも詳細なものが見えた。
「力、二百三十もあるんだ」
「やだ、どうして見えてるの?」
「アイリには見えないの?」
僕とアイリは空の上だというのにお互いのステータスを見せあい、ああでもないこうでもないと話し込む。
「魔力いくつ?」
「僕が三十二万八千で、アイリが二千三百」
「私はいいのよ。でも、どうして……ラウト、『鑑定』が使えるんじゃない?」
「あっ」
ステータスの詳細を見る唯一の方法は『鑑定』だ。一部の人の特殊能力だから、自分が使えるかもしれないなんて考えたこともなかった。
「一度帰ってギロの……いや、そんなことしてる場合じゃないか」
あれこれ試したいが、険しい山はとっくに飛び越えていて、足元には巨大な城が見える。
城は枯れた木に囲まれ、全体的に黒い配色でなければ、大国の王城と言っても差し支えない壮麗さがあった。
上空に留まったまま、城の内部の気配を探る。
「うーん……」
僕はアイリを横抱きにしたまま、唸ってしまった。
「どうしたの? 魔王、手強そう?」
「一番濃い気配が魔王なのかなぁ。なんていうか……。逆で」
「逆?」
城の周辺を良く見ると、打ち捨てられて朽ち果てた人の武器や服、体の一部、それに骨らしきものが散らばっている。
ここに人間が来て、城に入ることすらできず散っていった証拠だ。
つまりこの城が魔王城なのは間違いないだろう。
「その……多分、秒で終わるというか……」
人間の仇敵である魔王を圧倒できるなら、それに越したことはない。むしろ喜ぶべきことだ。
だというのに、僕は不安が拭えなかった。
魔王らしい気配を、どうしてあんなにも弱く感じる?
「それは確かに不安ね。他所へ逃げてたら、また追わなくちゃならないし」
アイリは僕の不安を察知してくれた。
とはいえ、ここでぐずぐずしていても埒が明かない。
僕とアイリはゆっくりと、静かに下降した。
しかし今となっては、被害のほうが深刻で甚大だ。
ラナと呼ばれた女性は前々から冒険者たちに目をつけられていた。
ヤタクさんは家にある何もかもを差し出してラナさんを守っていたが、冒険者たちは結局、先程の凶行に至ったというわけだ。
「こっちの都合を考えない男なんて、虫酸が走るわね」
アイリが何か妙に実感のこもった声色でつぶやいた。
ヤタクさんの話を聞きながら、地面に転がした男たちを道の脇にどけておいた。
騒ぎを聞きつけたり、通りがかった村の人にはラナさんが事情を説明していた。すると村の人達は転がってる男と僕たちを何度も交互に見てから、人を集めたり、男たちを運ぶ荷車の手配を請け負ってくれた。
しかし男たちを置く場所がない。いくら厳重に縛り上げ、武器を取り上げて鍵のかかった部屋へ閉じ込めても、相手は手練の冒険者だ。縄を引きちぎり木製の扉を素手で壊し、警備に当たるのが冒険者でない人なら無力化して逃げてしまえる。僕が隙を与えず倒してしまったからわからないが、もしかしたら魔法のひとつも使えるかもしれない。
「ラウト、嫌だったら嫌って言ってね。転移魔法でお城に運んじゃ駄目かしら」
「その手があったか」
アイリの提案を僕が即時に称賛すると、何故かアイリが戸惑った。
「転移魔法ってもっとなんか……難しい魔法で、神聖で、こんな奴らを運ぶのに使うのは勿体ないのじゃないかしら」
「何言ってるの」
魔法は魔法だ。有効活用してこそだ。
精霊たちも特に何も言ってこないし、止めもしない。
早速ヤタクさんに転移魔法が使える旨を申し伝えると、他の村の人たちが渋った。
曰く、同じ冒険者だから実は仲間で、転移魔法は嘘で逃がすつもりなのではないか、と。
疑われるのは仕方がない。
まずは転移魔法を実演し、次に村の人数名とユジカル国まで往復してみせて、ようやく信じてもらえた。
そしてヤタクさんを伴って、ユジカル国へ不良冒険者たちを連行した。先に他の村の人と行ったときに、諸々の説明は済ませてある。
このタラク村にはユジカル国が代わりの冒険者を探して派遣すると約束してくれた。
募集をかけてもすぐに集まるものではない。めぼしい冒険者が見つかるまでの間、タラク村には一時的にギロが滞在することになった。
ギロから離れたがらなかったサラミヤも一緒だ。
「あの、ラウト様。私まだちゃんとお礼を言っておりませんでした。申し訳ありません。助けていただいて、ありがとうございました」
初めて会った時よりはるかにしっかりとした口調で言い終えるなり、ギロの後ろに隠れてしまったが。
「すみませんラウト様。これは怖がっているのではなく……」
「恥ずかしがってるのよね。それと、ギロのことが大好きなのね」
アイリがサラミヤの傍でささやくと、サラミヤはギロの背中に顔を押し当てた。図星らしい。
「どういたしまして。ギロと仲良くやってるようで安心したよ」
僕は無理やり近づかず、なるべく穏やかに話しかけてみた。
「うっ……はい、ギロ様は頼りになります」
サラミヤは少しだけギロの背中から顔をのぞかせて、真っ赤な顔でこちらを見た。
ギロとサラミヤは、冒険者が使っていた一軒家に入ることになった。
冒険者たちはこんな立派な家を与えられていたのに、村中の宿に部屋を借りて転々としていた。
その理由はすぐに分かった。
「うっわ」
「臭いー」
「これは……流石に手伝うよ」
「……助かります」
家は汚屋敷状態になっていた。冒険者たちは掃除と片づけが苦手だったようだ。
部屋という部屋は生活用品とゴミで埋まり、床が見えている場所は木の板一枚分もない。
「アイリ、宿をとってきて。流石に一晩じゃ片付かない」
「わかったわ。……あの、ラウト」
「ん?」
アイリが扉をあけてすぐ、僕を呼んだ。
行ってみると家の入口前には村の女性たち数名が集まっていた。ラナさんの姿もある。
「お家、大変なことになってるでしょう? 片付けますわ」
先頭に立っていた気の強そうな女性は僕とアイリにそう告げると、他の女性達を促して、家の中に入っていった。
僕とアイリが顔を見合わせていると、ラナさんとギロとサラミヤも出てきた。
「村の広場の西側にある宿に部屋をとってあります。これは村の総意なので、お気になさらず」
「そうやって冒険者に甘くしてはよくないのでは?」
特にラナさんは一番酷い目に遭うところだったのに。
僕の苦言に対し、ラナさんは明るく微笑んだ。
「ええ、反省しました。でもラウトさんは最初から今まで、ひとつも見返りを求めていませんよね。それこそよくないですよ。今のこの村にできることはこの程度ですが、働きに対する対価はちゃんと受け取ってください」
僕の場合は勇者の称号に対して各国から報酬を頂いている……のとは別の話になるのか。
「仰る通りですね。ありがとうございます」
同じ冒険者が狼藉を働いたというのに、この村の人は皆親切だ。ありがたく受け取ることにした。
翌日の昼には一軒家の掃除が完了した、とギロから報告があった。
出てきたゴミは「よくこれだけ入っていたな」と呆れるほどの量だったとか。
僕とアイリは既に村を発っていて、これから山越えに挑む。
ドモヴォーイ、サラマンダ、シルフの力を借りて、二人分の温暖防護飛行結界魔法を作り上げる。
「前から思ってたのだけど、ラウトの魔力量ってどれだけあるの?」
横抱きにしたアイリに問われた。
「一万くらい」
「それは勇者適正試験の時でしょう? もっと多い気がするのよね。高位魔法を三つも重ねがけして平気なんだから」
アイリのレベルはここ最近目覚ましい勢いで上がったが、それは僕も同様、いやそれ以上に上がった。
僕のレベルは現在三百十だ。
過去の勇者の記憶を辿っても、ここまで上がった人は居ない。最高でもレベル九十二だった。
僕が上がりすぎなのか、過去の勇者たちにはレベルを上げる余裕がなかったのか。
「ステータスで見れないか……あれ? 見える」
ステータスの詳細な数字は、『鑑定』という能力を持った人か、『鑑定』の能力を模倣した魔道具でないと知ることが出来なかった。
前回ステータスを見た時はいつだったかな。その時は、こんなにしっかりと詳細に表示されていなかった。
「見えるの!?」
アイリが僕のステータスを覗き込む。
「? 見えないわ」
「え? 僕には力が一万七千五百、とか見えるよ」
「書いてないわ」
「ちょっと、アイリのステータス見せて」
アイリのステータスを見せてもらったら、こちらも詳細なものが見えた。
「力、二百三十もあるんだ」
「やだ、どうして見えてるの?」
「アイリには見えないの?」
僕とアイリは空の上だというのにお互いのステータスを見せあい、ああでもないこうでもないと話し込む。
「魔力いくつ?」
「僕が三十二万八千で、アイリが二千三百」
「私はいいのよ。でも、どうして……ラウト、『鑑定』が使えるんじゃない?」
「あっ」
ステータスの詳細を見る唯一の方法は『鑑定』だ。一部の人の特殊能力だから、自分が使えるかもしれないなんて考えたこともなかった。
「一度帰ってギロの……いや、そんなことしてる場合じゃないか」
あれこれ試したいが、険しい山はとっくに飛び越えていて、足元には巨大な城が見える。
城は枯れた木に囲まれ、全体的に黒い配色でなければ、大国の王城と言っても差し支えない壮麗さがあった。
上空に留まったまま、城の内部の気配を探る。
「うーん……」
僕はアイリを横抱きにしたまま、唸ってしまった。
「どうしたの? 魔王、手強そう?」
「一番濃い気配が魔王なのかなぁ。なんていうか……。逆で」
「逆?」
城の周辺を良く見ると、打ち捨てられて朽ち果てた人の武器や服、体の一部、それに骨らしきものが散らばっている。
ここに人間が来て、城に入ることすらできず散っていった証拠だ。
つまりこの城が魔王城なのは間違いないだろう。
「その……多分、秒で終わるというか……」
人間の仇敵である魔王を圧倒できるなら、それに越したことはない。むしろ喜ぶべきことだ。
だというのに、僕は不安が拭えなかった。
魔王らしい気配を、どうしてあんなにも弱く感じる?
「それは確かに不安ね。他所へ逃げてたら、また追わなくちゃならないし」
アイリは僕の不安を察知してくれた。
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