19 / 30
17.
しおりを挟む哉太さんから問いただした辰也さんの居場所。
3番目の兄、左京さんとモールにいると言われた。
詳しい場所を聞き出せとモールに向かう車に哉太さんを乗せて指示する。
文句を言いつつ、言われた通り左京さんと連絡を取り、モールの広場でクレープを食べていると写真付きで返信が来た。
その場を動くなと連絡させて、モールに到着。
後部座席から飛び出すようにして降り、広場へと全力疾走。
夏休みだからか人が多い。
人並みを潜り抜けて、ようやくキッチンカーを見つける。一度立ち止まり周りを見渡すと、写真と同じパラソルを発見。そこに座っている辰也さんも……
考えるよりも先に体が走り出していた。
まるでスポットライトが当たっているみたいに辰也さんしか目に入らない。
「辰也さん!!!」
丁度食べ終わったのか、クレープの包装紙を畳んでいる辰也さんを大声で呼ぶ。
声に気づいてくれたのか、僕と目が合う。
何かを呟いたかと思えば、泣きそうな顔の辰也さんが勢いよく立ち上がり僕の名を呼び両手を広げて走ってきてくれた。
ああ…捕まえた。
慌しすぎて、離れた時間が半日ほどだというのを忘れてしまったのか随分と長く離れていたように感じた。
お互いが力強く抱きしめ合って、ちゃんと腕の中にいることを確かめ合う。
「環ちゃん、環ちゃんだ。連絡できなくてごめんね、携帯取られちゃって……えっと…」
「辰也さん、謝らないでください。」
泣いてしまった辰也さん。顔を埋めている僕の肩が涙に濡れてじんわりと暖かくなる。
あやすように背中を撫でてから、抱きしめていた身体を離して辰也さんの頬を両手で包み顔を見つめる。
潤んだ瞳、下がり切った眉。
官能的な表情はグッとくるが、ここは外だし人目がつきすぎる。
触れ合うだけのキスに留めて、辰也さんの目尻に溜まっている涙を指で拭い笑みを向ける。
「愛してます辰也さん。さ、帰りましょうか。」
頬から手を離してかわりに手を繋ぐ。
言葉が嬉しかったのか、手を繋いだことが嬉しかったのか、辰也さんも笑みを返してくれる。
「やっぱり環ちゃんは俺の…俺だけの騎士様なんだね。迎えにきてくれて、ありがとう。」
「はい、辰也さんだけの僕ですよ。」
これからは僕だけを頼って、僕がいないとダメな身体にして、もっと依存してくださいね。
そのために、トラウマである辰也さんの家族から引き離したんですよ。
冷静になったら周りの様子が見えてきた。
愕然としている左京さん。
何事かと足を止める人や、そのまま歩き去っていく人など様々だ。
さっさと家に帰ろう。
いっそ実家じゃなくて寮に帰れば2人っきりになれるけど、まだ設備点検中で来週からじゃないと帰れない。
左京さんを放置して、待っていてもらった車へと向かう。運転席の南雲さんと無理矢理連れてきた哉太さんと目が合う。
哉太さんに気づき、隠れるように僕の背後にスッと移動する辰也さん。身長的には隠れていないが、気持ちの問題だろう。
「無事辰也さんと会えました。それじゃ哉太さんは降りてもらっていいですか?」
後部座席の窓から顔を出していた哉太さんにそう告げると、舌打ちをされるが素直に降りてくれた。
「俺はお前なんか認めないからな。」
僕にだけ聞こえるように耳元で話し、辰也さんをじっと見つめて車から離れる哉太さん。
先に辰也さんを車に乗せて哉太さんに対して釘を刺しておこうと思い向き合う。
辰也さんには聞こえないように…
「何故貴方たちを殺さなかったか分かりますか?もし、辰也さんが病気になってしまった場合のドナーですよ。だから健康でいてくださいね、義兄さん。」
「クソ野郎…覚えとけよ!」
負け犬の遠吠えが聞こえるけど気にしない。
ちゃんと役に立てるんだってことを教えてあげたのに、何をあんなに逆上するのか分からないな。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる