目黒くんの夏休み

二藤ぽっきぃ

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15.

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「いつまで渋るつもりですか?ささっと署名と捺印してくださいよ。」

「環さま、そのやり方はヤクザのそれですよ。」

早く辰也さんに会いたいって気持ちを抑えきれなくなっただけですけど?
小言言われてもこれだけは譲れない。

さっさと辰也さんの心の憂いをなくしてあげなきゃ、早く抱きしめて、キスして、沢山名前を呼んで…


「西條社長…お宅の借金を全て完済してあげましょう。その代わり今後一切西條家の人間が辰也さんに近づくことを禁じます。署名する気になりましたか?」

渋っていた西條社長の眉がぴくりと動いたのを見逃さない。
既に会話から離脱して、ことの行く末を口を噛みしめ僕を睨みつけてくる篤志さんと哉太さん。

才能だけじゃない、あの兄弟…特に哉太さんは辰也さんに執着している。
まあ、あの守ってあげたくなるオーラ振りまいてる辰也さんだから仕方ないとは思うが、愛情の表現方法間違えてるんだよな。

兄弟全員、路頭に迷ってモブレされてしまえ。
元金持ちが庶民さまに恥ずかし攻めされてしまえ。
お、シチュとしては最高じゃん。って妄想してる場合じゃない。おふざけはこの辺にしておいて…恐る恐るペンを掴み、ちらりと伺ってくる西條社長に微笑みかける。

観念したのか、金に目が眩んだのか、さらさらとペンを滑らせ再び僕の顔色を伺ってくる。

「判子の前に…借金を完済してくれるって証明を出してほしい。」

結局金か……

「小切手です。ちょうどのはずですので、手続きはご自身で…そちらでよろしいですか?」

事前に記入しておいた小切手を南雲さんから受け取り、西條社長に渡す。それを確認した後、西條社長から篤志さんへと手渡される。

納得してくれたのか、机から判子を取りに行くため立ち上がる西條社長。遮る人間がいなくなったことで視線を上にずらすと、哉太さんとばっちり目があってしまう。

「何か?」

目を逸らすのは負けた気がするから声をかけてみると、鼻で笑われた。えー年下相手にここまで露骨な態度とる?いくつ離れてるかあえて言わないけど社会人ですよね?

「辰也のやつ、こんな男のどこがよかったんだろ…女顔で陰湿なやり方。趣味悪っ…」

ほっほーう。言ってくれるじゃないかこいつ。
しかも哉太さんの言葉に同意なのか隠しもせず篤志さんが笑っている。

「ご安心ください。僕と辰也さんはとても良い関係を築けています。貴方方と違ってね。」

そう言って煽るために余裕の笑みを見せつけてやる。
顔を歪め、鬼の形相みたいな哉太さんが、今にも飛びかかってきそうだ。いっそそうしてくれた方が正当防衛で一発噛ませるんだけどな。

判子を持ってきた西條社長が深呼吸で息を整えた後、署名の横に捺印を押した。

これでひとまず立ち退きは決定。辰也さんとの関係を断つことも一歩前進。
次は弁護士を通して、社員の訴えで会社自体を無かったことにする。

1番大事な書類を南雲さんに回収させて、立ち上がる。
社長にもう用はない。辰也さんの居場所を吐いてもらわないと…

「哉太さんにお聞きします。辰也さんはどこですか?初めにお聞きしたとき僅かに反応していましたよね。さっさと言ってくれませんか?」

これはお願いじゃない。
だが、頑として哉太さんは言おうとはしなかった。まるでおもちゃを取り上げられることを恐れている子供のよう。
辰也さんがおもちゃ扱いなのはむかつくが、こうもあからさまなのは…父親が辰也さんに関わらないと誓っても、この人はどこまでも追ってきそう。

あー兄弟間の愛とか、2次元なら最高なんですけど、当事者側に回るとイラッとする。この程度で済んでるのは兄弟の顔がいいからだろう。まあ性格の悪さが顔に出ているからマイナスだけど。


「辰也さんのことに関して、気は短い方なので手荒くさせていただきますね。どこですか?」

「あがッ…ウゥ……」

スタスタと哉太さん目の前に立ち、首の頸動脈を片手で絞める。
兄弟仲がいいか知らないが、篤志さんの目の前でこの行為を見せつければ脅しにはなるだろう。
止めるでもなく、目を見張り驚いているだけの篤志さん。殺す気はないってバレてるのかな。

首を締められて死ぬと思ったのか、必死に抵抗する哉太さん。少しだけ力を緩めて教えてくれますかと訊ねれば、力を振り絞って頷いてくれた。


誠意を見せるって大事だなぁ。
これでやっと迎えに行ける。
待っててね辰也さん。

帰ったら、まずは防犯ブザーでも持たせた方がいいかな?
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