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62話

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脱走犬は葉山の犬であることが判明。
世間は狭いな、なんて思いながらその日は引き取ってもらった。

それから数日、今日は蜂須賀が泊まりに来る日だ。
両親は予定を空けていたが、急遽お得意様との会議が入り2人仲良く海外出張。

友達を一目でも見たいと言っていたが飛行機の便に間に合わなくなるため泣く泣く向かっていた。
本音を言うと蜂須賀にあの両親を合わせたくなかったから丁度いい、なんて思ってしまった。

「…何でこいついんの?」
「つれないこと言うなよ、俺と嵐雪の仲だろ?」
「うっざ、部活行けよ。」
「今日はメンテナンス日で休みなんですぅ。見ろよ、ジャージじゃなくてかっこいい私服だろ?」

リビングで蜂須賀を迎えに行こうと準備をしている俺の他に、ソファで寛ぎ口論するのは嵐雪と葉山。

朝からやってきた葉山は嵐雪の宿題を見てやるとの名目で遊びに来た。追い返すのも忍びないと思い招いたのだが、嵐雪に悪いことしたな。

そんな2人を尻目に玄関へと向かう。
すると丁度、玄関のインターホンが鳴る。

「はい、どちら様でしょうか。」

インターホンに応答する松田さんの後ろから、ちらりとカメラの画面を確認すると、見慣れた金髪が映る。

「仲神蛍様のお宅でしょうか、蜂須賀流星です。今日伺うと連絡してました。」

笑顔でカメラに向かっている蜂須賀は、身嗜みをきちんとして背筋を正しているのがよく分かる。

「今お迎えにあがります。」
「お手数おかけします。」

通話を切り、玄関へと鍵を開けに行こうとする松田さんを止めて、俺の客だからと迎えを代わってもらう。

駅前に着いたら連絡するって言ってたのに、まさか家まで来てくれるなんて。驚きを隠せない。

玄関の鍵を開け、ドアをそっと開くと見上げた先に蜂須賀が立っていた。

「いらっしゃい、流星。よく来たな。」

「あは♡蛍様だ。会いたかったっす。」

松田さんとのやりとりがまるで別人のように感じていたが、今は間違いなく俺の知ってる蜂須賀だ。

「荷物はこのボストンバッグだけか?」
「はい、あと細かいのはこっちにあるんで。」

開いたドアを押さえてくれている蜂須賀の荷物を運びこみ、中に入るよう促す。

「本物の蛍様…はぁぁ。蛍様の匂いがする。」

「疲れただろ、少し休むといい。」

蜂須賀の実家からそう遠くはないが、まあ電車の乗り換えとか大変だったろう。
鍵を施錠し直す俺に蜂須賀が抱きつき離れない。

先に荷物を運んで部屋で休ませるか…と考えていたら、リビングから怒鳴りながら嵐雪が飛び出して来た。

「あーもう!葉山うざい!俺はすることあんだから、お前に構ってる暇ないの!」

脇目も振らずに廊下を走って来た嵐雪は、足元のボストンバッグに気づかず、思いっきりつまづいた。

「嵐雪!」

そのまま前のめりに転びそうになった嵐雪を、どうにか支えることができた。
一瞬何が起きたのか理解できていない嵐雪が瞬き、我に返って立ち上がった。

「兄貴ありがと。」

「いや、あの荷物は俺が置いてしまったものだからな。すまなかった。」

玄関先にまで走って来たということは、このまま2階へ行き、部屋に籠るつもりなのだろう。
それにしても、ここまで嫌がるなんて葉山は一体何をした。

玄関でそんな一悶着が起き、静まり返ると口を開いたのは蜂須賀だった。

「蛍様の弟さんっすね。初めまして蜂須賀流星っす。お世話になります。長い付き合いになると思うんで今後ともよろしくお願いします。」

自己紹介を済ませると、深々とお辞儀をする蜂須賀に嵐雪が少し慌てる。

「あ、はい。嵐雪です。」

礼儀正しい嵐雪、少し兄バカなのかもしれないが2人のやりとりを微笑ましく眺めていたらリビングからのそっと現れた葉山が、こちらをみてから蜂須賀に怪訝な目を向けつつ近づいてくる。

「嵐雪くーん、俺はダメなのにそいつはいいんだ。へー…」

蜂須賀を上から下までじろじろと観察をした葉山が、何かに満足したのか嵐雪の肩に腕を置き一応と言いたげな挨拶をする。

「俺は嵐雪の兄ポジだから、あんたの邪魔はしねーよ。」

「そうっすか、それならいいです。」

「おい、肩!重いんだよ!」

「いつまで玄関で話すつもりだ、流星上がってくれ。」

葉山からの逃亡に失敗した嵐雪はそのままリビングに連れて行かれ、俺は蜂須賀を部屋に案内するため2階へ向かう。

……葉山、嵐雪の兄ポジとか言ってたような気がするがそれ以上の感情はないよな?
学園で生活してから、恋愛に結びつけてしまいそうになるが、違うよな?
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