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55話
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松田さんが思い出したように、そうそう、と切り出して話し始める。
「嵐雪様、急にご実家のお仕事に興味持ったみたいで、色々社長や会長にお話聞いているんですよ。」
「松田さん、運転に集中。」
「はいはい、俺だって蛍様に会えて嬉しいんですよ。これで嵐雪様の我儘が減ると思うと心が軽くて。」
軽口を叩く松田さんを睨みつけている嵐雪。
いつものことなのか、松田さんはそれっきり話すことをやめて運転に集中している。
「で?兄貴、告白されたってその後何かあった?」
「え?あ、ああ……ラブレターを貰った。らしいぞ!」
危ない。知り合いの話だって言ってたのに、思わずそのまま話しそうだった。
膝にいる嵐雪の顔を覗き込むが、読めないな。
嵐雪は俺の手首を掴み、そのまま指を弄り遊び始める。
退屈になったのかな。車に付いてるテレビでも見せようかと思ったが、そういうのしたら酔うって言ってたし……
「兄貴、今から聞くこと嘘つかないでよ?告白されたのは兄貴本人で、相手は京本財閥の嫡男。合ってる?」
「何言ってるんだ?電話でも言ったが、知り合いの話だって…」
「嘘。もう1人は蜂須賀の三男。どう?」
「……」
絶句する。相手を特定できないようにぼかして話した筈だ。ここまでバレているなんて、まさかメモしていたり質問してきたのはそのためだったのか?
横向きだった嵐雪は、顔を上に向けて俺と目を合わせる。
「兄貴、知り合いのって話す恋バナなんて騙されるのは馬鹿だけだよ。安心して、再起不能になるまでの振り方、俺が教えてあげる。」
掴んでいた手首を顔に引き寄せ、自分の頬に掌を擦り付ける。
「兄貴にはぴったりのお嫁さんを見つけてあげるから、男となんて…絶対ダメだから。」
お嫁さん。
確かに、前の俺もそう考えていた。
だが…
「俺が結論を出す。嵐雪には悪いが、もし俺が男を選んだとしても軽蔑だけはして欲しくない。お前には味方でいてほしい。」
子を作れと言われるかもしれない、だがその時は親戚の子を養子に迎えれば、血縁はある。
嵐雪が擦り付いてきてた頬を、自発的に撫でて頼む。
暫く無言を貫いていた嵐雪に、目を合わせ続けると口元が緩んでいき、ため息を吐かれた。
「もー…もー!!ずるいんだよ、馬鹿兄貴。」
足をバタつかせてひたすらもー!と言い続ける嵐雪。一頻り駄々を捏ね終わると、諦めたような顔をして、身体を起こした。
「俺が見定めてやる、兄貴は幸せじゃねーとダメなんだからな。」
「ありがとう嵐雪。」
「えーと、口挟ませて頂きますね。同性愛者だろうと、蛍様は蛍様です。良いところなんて沢山知ってるし、悪いところも知ってます。今更軽蔑なんてないですよ。」
ミラー越しに微笑みかけてくれた松田さん。
悩み事があればよく聞いてもらっていたが、解決策は教えてくれず、ヒントだけ示されていた。
そんな松田さんが自分の考えを教えてくれるなんて、俺は人に恵まれているな。
尊敬している人に口に出して認めてもらえたと思うと照れてしまう。
「ありがとう松田さん。父さんたちには決まったら話すから、秘密にしておいてくれ。」
「それはいいけど、蜂須賀って泊りに来るんじゃなかった?なんかその日珍しく家族でもてなすとかってスケジュール組んでたけど……」
仕事に忙しい両親のことだから、どうせ居ないと思って進めていた。
嵐雪が言うには、俺が後輩を実家に呼ぶというのが珍しいため、学園での様子を聞きたいからスケジュールを調節して時間を確保しているらしい。
そろそろ高速ですよ、と松田さんが嵐雪にシートベルトを促し、言われた通り姿勢を正している。
「まあ、下心満載の狼と2人っきりになんて俺がさせねー。寝る時は川の字で寝るからな!」
「流星は嵐雪と似ているから、すぐ仲良くなれると思う。」
川の字で寝ているのを想像するが楽しそうだ。寮より、実家の部屋は広い。男3人でも伸び伸びできると思うが、蜂須賀は190あるからな…なんてだいぶ先のことを考える。
「いや、蛍様。世間には同族嫌悪ってものがありまして……」
「嵐雪様、急にご実家のお仕事に興味持ったみたいで、色々社長や会長にお話聞いているんですよ。」
「松田さん、運転に集中。」
「はいはい、俺だって蛍様に会えて嬉しいんですよ。これで嵐雪様の我儘が減ると思うと心が軽くて。」
軽口を叩く松田さんを睨みつけている嵐雪。
いつものことなのか、松田さんはそれっきり話すことをやめて運転に集中している。
「で?兄貴、告白されたってその後何かあった?」
「え?あ、ああ……ラブレターを貰った。らしいぞ!」
危ない。知り合いの話だって言ってたのに、思わずそのまま話しそうだった。
膝にいる嵐雪の顔を覗き込むが、読めないな。
嵐雪は俺の手首を掴み、そのまま指を弄り遊び始める。
退屈になったのかな。車に付いてるテレビでも見せようかと思ったが、そういうのしたら酔うって言ってたし……
「兄貴、今から聞くこと嘘つかないでよ?告白されたのは兄貴本人で、相手は京本財閥の嫡男。合ってる?」
「何言ってるんだ?電話でも言ったが、知り合いの話だって…」
「嘘。もう1人は蜂須賀の三男。どう?」
「……」
絶句する。相手を特定できないようにぼかして話した筈だ。ここまでバレているなんて、まさかメモしていたり質問してきたのはそのためだったのか?
横向きだった嵐雪は、顔を上に向けて俺と目を合わせる。
「兄貴、知り合いのって話す恋バナなんて騙されるのは馬鹿だけだよ。安心して、再起不能になるまでの振り方、俺が教えてあげる。」
掴んでいた手首を顔に引き寄せ、自分の頬に掌を擦り付ける。
「兄貴にはぴったりのお嫁さんを見つけてあげるから、男となんて…絶対ダメだから。」
お嫁さん。
確かに、前の俺もそう考えていた。
だが…
「俺が結論を出す。嵐雪には悪いが、もし俺が男を選んだとしても軽蔑だけはして欲しくない。お前には味方でいてほしい。」
子を作れと言われるかもしれない、だがその時は親戚の子を養子に迎えれば、血縁はある。
嵐雪が擦り付いてきてた頬を、自発的に撫でて頼む。
暫く無言を貫いていた嵐雪に、目を合わせ続けると口元が緩んでいき、ため息を吐かれた。
「もー…もー!!ずるいんだよ、馬鹿兄貴。」
足をバタつかせてひたすらもー!と言い続ける嵐雪。一頻り駄々を捏ね終わると、諦めたような顔をして、身体を起こした。
「俺が見定めてやる、兄貴は幸せじゃねーとダメなんだからな。」
「ありがとう嵐雪。」
「えーと、口挟ませて頂きますね。同性愛者だろうと、蛍様は蛍様です。良いところなんて沢山知ってるし、悪いところも知ってます。今更軽蔑なんてないですよ。」
ミラー越しに微笑みかけてくれた松田さん。
悩み事があればよく聞いてもらっていたが、解決策は教えてくれず、ヒントだけ示されていた。
そんな松田さんが自分の考えを教えてくれるなんて、俺は人に恵まれているな。
尊敬している人に口に出して認めてもらえたと思うと照れてしまう。
「ありがとう松田さん。父さんたちには決まったら話すから、秘密にしておいてくれ。」
「それはいいけど、蜂須賀って泊りに来るんじゃなかった?なんかその日珍しく家族でもてなすとかってスケジュール組んでたけど……」
仕事に忙しい両親のことだから、どうせ居ないと思って進めていた。
嵐雪が言うには、俺が後輩を実家に呼ぶというのが珍しいため、学園での様子を聞きたいからスケジュールを調節して時間を確保しているらしい。
そろそろ高速ですよ、と松田さんが嵐雪にシートベルトを促し、言われた通り姿勢を正している。
「まあ、下心満載の狼と2人っきりになんて俺がさせねー。寝る時は川の字で寝るからな!」
「流星は嵐雪と似ているから、すぐ仲良くなれると思う。」
川の字で寝ているのを想像するが楽しそうだ。寮より、実家の部屋は広い。男3人でも伸び伸びできると思うが、蜂須賀は190あるからな…なんてだいぶ先のことを考える。
「いや、蛍様。世間には同族嫌悪ってものがありまして……」
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