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53話
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執務室での秘密を抱えて、修業式を迎えた。
明日から夏期休暇だという注意事項などを体育館に集められて説明される。
遠くで見つけたが咲山兄弟は若松くんの近くで参加している。
吹っ切れたのか、髪型が揃いじゃなくなっており、顔も晴れやかだ。
怒涛の1学期だった。
蜂須賀と京本のアプローチという名のセクハラやスキンシップが最近頻繁に行われている。
お泊りと旅行が控えているのに、まずいのではないかと流石に思っている。
悶々と考えている間に終業式は終わり、学年別に教室へと戻っていく。
明日は朝から帰省のために山を降りなくてはいけない。
部屋の掃除は済んでいるし、荷物もまとめてある。
なんて考え事をしてないと、不埒な妄想が頭をよぎってしまう。
「仲神、前見ろ。ぶつかるぞ。」
「え?ったぁ…なんでこっちのドア開いてないんだ…」
帰る途中の渡り廊下、半分しか開いていなかったドアに激突。忠告してくれた青山が笑っている。
「ぼーっとしてるからだ。大方、京本と蜂須賀のことだろ。どうするんだ?」
「どういう意味だ。」
「選ぶか考えてる時点で、2人に好意を持っているってことだろ。お前さんの性格的に、返答が決またらって思ってるかもしれないが、悩むくらいならそのことを直接伝えろ。一言言わせてもらうと、心に正直になれ。」
ぶつけた額を摩る俺に、青山は言いたいことだけ言って先に教室へと戻って行った。
確かに、悩んでいる。
心に正直に…そう言われても見当がつかない。
好意を伝えてくれるというのは存外絆されそうになる。
「はぁ考えても仕方ない。」
好きだって思ったら返事をしよう。
損得じゃなくて、心が教えてくれるだろう。
青山のアドバイス…思っていることを相談するというのは有りかもしれない。だがそれを本人に言ってしまうのは少し抵抗がある。
前みたいに弟に相談するか?
確か前に帰省したら解決するって言ってた筈だ。
持つべきものはモテる弟だな。
そうしみじみ思っていると教室に着いた。
俺の席には何故か京本が座っており、前の席の青山と話している。
「あ、仲神。さっき先生が急な会議入ったからもう帰っていいってよ。」
「そうか、お前たちは帰らないのか?」
そういうことなら、京本から席を奪い返さなくてもいいだろう。今日は風紀の仕事も何もないはずだから青山が残る意味が分からない。
「俺は信彦待ってるんだ。生徒会も仕事ないらしくてな、ホームルームが終わったら迎えに行く。」
教室にまでとは過保護だな。
「俺はそんな青山の話し相手だ。蛍も参加しろ。席はここでいいだろ。」
「おい、俺は帰る。」
手を引かれて座らされたのは京本の脚の間の僅かな空間。椅子から落ちそうだ。なんて考えていたら、京本が腹回りをぎゅっと抱きしめて固定する。
「いいから、今面白い話してたんだって。な青山。」
「面白いって判断したのは京本だ。だが、次は趣向を変えて怖い話でもしようか。」
「やめろ、お前の怪談噺は眠れなくなるって噂だ。」
2年の修学旅行の時に、青山の部屋から悲鳴が聞こえ、消灯時間が過ぎていることを注意しに行ったら助けてくれと抱きつかれたのを覚えている。
今だって、残っていたクラスメイトが、青山が怪談をすると聞こえたのか、顔を青くして我先にと帰り始めた。
「残念、次の機会にさせてもらおうか。」
「ホームルーム終わるまで待たずに、出待ちでもすればいいだろ。」
「そうだな……いい時間だし、そろそろ行く。じゃあないい夏期休暇を。」
「ああ、お前もな。」
「古田によろしく。」
青山も出て行き、残るは俺と京本。
俺も帰りたいんだが、京本の腕が邪魔だ。
まあ、本気で絞めてるわけじゃないから外そうと思えば外せる。
「京本、帰りたいんだが?」
「……旅行の件、ボイコットすんなよ。」
「分かっている。そこまで信用ないのか?」
「それだけだ、夏期休暇楽しめよ。」
言いたいことだけ言うのはこいつの悪い癖なのではないか。腕を離してくれた京本にお前もなと伝え、教室を後にする。
明日から夏期休暇だ。
明日から夏期休暇だという注意事項などを体育館に集められて説明される。
遠くで見つけたが咲山兄弟は若松くんの近くで参加している。
吹っ切れたのか、髪型が揃いじゃなくなっており、顔も晴れやかだ。
怒涛の1学期だった。
蜂須賀と京本のアプローチという名のセクハラやスキンシップが最近頻繁に行われている。
お泊りと旅行が控えているのに、まずいのではないかと流石に思っている。
悶々と考えている間に終業式は終わり、学年別に教室へと戻っていく。
明日は朝から帰省のために山を降りなくてはいけない。
部屋の掃除は済んでいるし、荷物もまとめてある。
なんて考え事をしてないと、不埒な妄想が頭をよぎってしまう。
「仲神、前見ろ。ぶつかるぞ。」
「え?ったぁ…なんでこっちのドア開いてないんだ…」
帰る途中の渡り廊下、半分しか開いていなかったドアに激突。忠告してくれた青山が笑っている。
「ぼーっとしてるからだ。大方、京本と蜂須賀のことだろ。どうするんだ?」
「どういう意味だ。」
「選ぶか考えてる時点で、2人に好意を持っているってことだろ。お前さんの性格的に、返答が決またらって思ってるかもしれないが、悩むくらいならそのことを直接伝えろ。一言言わせてもらうと、心に正直になれ。」
ぶつけた額を摩る俺に、青山は言いたいことだけ言って先に教室へと戻って行った。
確かに、悩んでいる。
心に正直に…そう言われても見当がつかない。
好意を伝えてくれるというのは存外絆されそうになる。
「はぁ考えても仕方ない。」
好きだって思ったら返事をしよう。
損得じゃなくて、心が教えてくれるだろう。
青山のアドバイス…思っていることを相談するというのは有りかもしれない。だがそれを本人に言ってしまうのは少し抵抗がある。
前みたいに弟に相談するか?
確か前に帰省したら解決するって言ってた筈だ。
持つべきものはモテる弟だな。
そうしみじみ思っていると教室に着いた。
俺の席には何故か京本が座っており、前の席の青山と話している。
「あ、仲神。さっき先生が急な会議入ったからもう帰っていいってよ。」
「そうか、お前たちは帰らないのか?」
そういうことなら、京本から席を奪い返さなくてもいいだろう。今日は風紀の仕事も何もないはずだから青山が残る意味が分からない。
「俺は信彦待ってるんだ。生徒会も仕事ないらしくてな、ホームルームが終わったら迎えに行く。」
教室にまでとは過保護だな。
「俺はそんな青山の話し相手だ。蛍も参加しろ。席はここでいいだろ。」
「おい、俺は帰る。」
手を引かれて座らされたのは京本の脚の間の僅かな空間。椅子から落ちそうだ。なんて考えていたら、京本が腹回りをぎゅっと抱きしめて固定する。
「いいから、今面白い話してたんだって。な青山。」
「面白いって判断したのは京本だ。だが、次は趣向を変えて怖い話でもしようか。」
「やめろ、お前の怪談噺は眠れなくなるって噂だ。」
2年の修学旅行の時に、青山の部屋から悲鳴が聞こえ、消灯時間が過ぎていることを注意しに行ったら助けてくれと抱きつかれたのを覚えている。
今だって、残っていたクラスメイトが、青山が怪談をすると聞こえたのか、顔を青くして我先にと帰り始めた。
「残念、次の機会にさせてもらおうか。」
「ホームルーム終わるまで待たずに、出待ちでもすればいいだろ。」
「そうだな……いい時間だし、そろそろ行く。じゃあないい夏期休暇を。」
「ああ、お前もな。」
「古田によろしく。」
青山も出て行き、残るは俺と京本。
俺も帰りたいんだが、京本の腕が邪魔だ。
まあ、本気で絞めてるわけじゃないから外そうと思えば外せる。
「京本、帰りたいんだが?」
「……旅行の件、ボイコットすんなよ。」
「分かっている。そこまで信用ないのか?」
「それだけだ、夏期休暇楽しめよ。」
言いたいことだけ言うのはこいつの悪い癖なのではないか。腕を離してくれた京本にお前もなと伝え、教室を後にする。
明日から夏期休暇だ。
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