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44話:京本誠一郎

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「よう、遅かっ、た…な。」

「邪魔するぞ。」

待ちに待った蛍が来たと、インターホンが鳴ってすぐドアを開けたら、そこに立っていた蛍は部屋着で、髪も濡れている。

いつも見るピシッとした格好じゃなく、緩みきっている。

服は、どこで買ったんだという胸に大きな熊の顔があるTシャツ、ズボンはジャージ。
髪の毛は全体的に濡れているが、邪魔なのか前髪を頭の上で留めている。

シャワー浴びてから来たのか、なんか良い匂いするし肌がほんのり赤い……

「おい、早くドア閉めて案内しろ。リビングでいいのか?」

閉めたドアのノブを握ったままで固まり、蛍をガン見していた俺に不審に思ったのか、怪訝そうな顔で聞いてくる蛍。

お陰で意識が天から戻った。

「ああ、リビングで。ノート持ってきたか?」

ドアに鍵とガードをして、蛍にリビングへと行ってもらう。


やっべぇ蛍が俺の部屋にいる!しかもシャワー浴びてる!最高かよ!!無防備過ぎねぇか?!

落ち着け俺!親衛隊の連中で散々練習したろ!
キスは上手くいったんだ!蛍のハジメテを奪うときは完璧にリードできる!
襲いたい。いいんじゃねぇの?だってシャワー浴びてんだぜ?合意だろ?


1人で悶々としている間に、リビングのソファに背を預け床に座る蛍。
多分ローテーブルだからだろう、本当に勉強のためだけに来たって感じ。
これで手を出したら嫌われるな…頑張れ俺の理性!


「ノート持ってきたが、対策って何すれば良い?」


立っている俺の顔を見て尋ねてくる。つまり上目遣い…

はぁぁ可愛い!あの犬っころ、いつもこんなことされてんのかよ!
もっと身長伸びねぇかな。

そんな心中を隠し、さっき取ってきたタオルを蛍の頭に置いて隣に座る。
ピタッとくっついて、開いているノートを見るが綺麗に板書されているし教師の口で言ったポイントまでメモしてある。
これで何で点数取れないんだ?

「今回の範囲、こっからここまでだろ?物理なんて公式覚えたら解けるだろ。」

そう言うとキッと睨みつけられた。

「それは頭の良い奴のいい草だ。公式覚えたところでどれ使うかなんて分かるか!そうやって考えて試験の時間がなくなるんだ…」

なるほど、時間切れを気にして先々解いていくんだな。その癖はいいと思う、部分点くれるだろうし。だが焦って違う公式を当てはめたら悲惨だな。

いじけはじめた蛍の後ろのソファに座る。脚の間に蛍がいる状況を作り、頭を拭いてやりながら指示をする。

「公式覚えてるなら早い。どの問題でどれを使うかの見分け方教えてやるから、それを覚えろ。」

いつもワックスで整えている髪が洗い落とされているため本当の髪質を知れた。芯のある癖のないサラサラしたタイプかと思ってたが、細くて思ったよりも柔らかい湿気で広がるタイプだな。


暫く物理の対策を教えると、俺の教え方がいいのだろう。蛍はみるみると上達して、参考書の問題も1人で解けるようになった。
問題に集中している蛍を色々堪能させてもらったし、アドバイスしてくれた青山には礼をしねぇとな。古田の仕事減らすとかでいいか?

「本当に助かった、ありがとう京本。お礼がしたいんだが……古典でも教えてやろうか?」

教師プレイか!
自分の得意科目を提示してきたのもいい……

一瞬頭に眼鏡をかけてエロい雰囲気の蛍がよぎるが、すぐ頭を振って理性を取り戻す。
決めてただろ!

「俺は蛍の手料理が食べたい。」

犬っころとは食べさせ合っているのに、思えば俺は1度もない。
だが、俺の部屋にキッチンは付いているが使ったことないし、産まれてから1度も料理をしたことなんてない。申し込みをしていれば寮で飯を用意してくれるからな。

「俺の手料理って、今からか?」

「今でも嬉しいが、用意とかあるだろ。」

俺の部屋には調理器具も何もない。この願望が承諾されたら用意する予定だった。

すると、少し考えたような素振りをして蛍が言った。

「俺の部屋来るか?丁度材料来たところだ。リクエストが突拍子もないものじゃないなら、大抵のものは作れると思う。味は期待するなよ、俺はレシピ通りにしか作れないんだからな。」

まさかの部屋にご招待!!
言ってみるものだな…

「十分だ、弁当見てるけど旨そうだった。すっげぇ楽しみ。」

「じゃあ、移動するか。」

そう一言告げると、蛍は荷物をまとめて玄関へと向かう。

「蛍!俺なんでも食べっから!」

慌ててその後ろを追いかけながら言うと、靴を履いた蛍が振り返りむっとした顔をする。

「何でもいいが1番困る。肉か魚だと?」

「肉かな…」

「よし、和食か洋食だと?」

「えっと、洋食。」

そう答えると満足したような顔をして、廊下へと出て行く。

そうか、何でもいいは困るのか……

いつも決められたものの中から選んでいたから、そういうものだと思っていた。思えば料理なんて腹に入れば同じだと思っていたな。

それに、蛍が作ったものなら何でもいいという意味だったが、そうか困るのか。
だがさっきのやりとりが夫婦みたいで気に入った。次もそうしよう。


蛍といると自分でも知らない自分が出てくるのが楽しい。
だから、側にいて欲しいんだ。これから先も。


蛍の部屋で出されたのは鶏肉の入ったオムライスだった。俺の好み。
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