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33話

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放課後___

Aクラスに赴き、帰ろうとしていた西條を呼び止める。

「西條、ちょっといいか…隈酷いな、予想以上だ。」

目の下の濃い隈を隠そうと努力したのか、一見薄く見えるが、不眠を患っているのは一目瞭然だ。

「んー?仲神じゃん、どったの?」

呼び止めると、へらっと笑顔をつくった西條。
だが、いつもの覇気がない。重症だな……

「少し話したいんだが、保健室行くぞ。」

「ここじゃダメなの?帰りたいんだけどー。」

ぶつぶつ文句を言う西條の腕を引っ張り、階下の保健室へ向かう。
辿り着くと先生は会議中らしく、保健委員の子が残っていた。

「すまないが、ベッドを1つ借りれるか?病人だ。」

「あ、はい。空いてるんでどこでもどうぞ。」

「ありがとう、西條横になれ。」

消毒用アルコールの匂いが鼻を刺激する保健室。最近来る機会は減ったが、保健委員の子は顔見知りだったため、快諾してもらった。

「なになに?俺を寝させて何するつもりなの?仲神ってばやらしー。」

軽口を叩く西條を、近くにあったベッドに寝かせ布団を被せる。

「冗談行っている場合か、蒸しタオルもあれば借りたいのだが。」

「ありますよー。あと、体温測って下さいね。決まりなんで。」

体温計を渡され、素直に測り始める西條。
数分経った後、ピピピッと計測完了の音が響く。

「37.1℃…微熱だよこんなの。」

回収に来てくれた保健委員の子に体温計を返し、代わりに蒸しタオルを渡される。

「お前平熱低いだろ。37℃超えているのは危険だ。不眠解消で蒸しタオルを提案したが、冷たい方がいいか?」

目元を温めて血行を良くするつもりだったが、熱があるなら逆効果かもしれないな。

「んーん……こっちでいいよ。で、話って何?」

仰向けで、目元に蒸しタオルを当てている西條が、そのままの姿で話を進めてきた。

「ああ、若松くんのことだ。飽きたって聞いたがその後は?」

「そんなこと聞きたかったの?暇だねー。」

口元から笑みが溢れている。

「そ、飽きたの。あの子もやっぱり、どこにでもいる子猫ちゃんと一緒だったから……」

自暴自棄にも思える声音だが、核心が掴めないな。

「いつから眠れてない。勝手に調べさせてもらったが親睦会のとき保健室に居たんだって?」

「元々チーム参加してなかったからね、生徒会のお仕事だけやってたよ。寝れてないのはそのちょっと前からかな。覚えてないや。」

若松くんとは2週間未満は行動を共にしていたってことだな。親睦会前からの不眠…今日で5日以上は経っていることになる。

「原因は?」

「あーそれはちゃんとわかってるから大丈夫。」

大丈夫と言った口だが、こんな状態で本当に大丈夫なはずがない。一体何を我慢しているんだこの馬鹿は。

はぁ、とため息を吐き、再び西條に問いかける。

「原因が分かっている奴が、そこまで隈を酷くするか。……誰かに脅されているとかか?」

「違うよ、これは俺の問題だから。」

蒸しタオルを少しめくって、俺と目を合わせた西條は、いつもの煩いほど元気な笑顔ではなく、今にも壊れそうな表情で微笑んだ。
まるで別人かと錯覚させられるその行動に、引っ掛かりを覚える。

俺の問題、ということは家がらみか親衛隊くらいしか思い浮かばない。
西條家といえばIT企業で急成長した家だ。西條本人もパソコン関係や機械に強く、たまに助力を求めている。

ネット上で何かあったとかか?

そんな考えを巡らせていたら、タオルを外した西條が半身起こしてこちらを見る。

「首突っ込むなよ仲神、お節介焼きめ。元々の仕事は若松だろ?お前は学園を守る風紀委員長様なんだから、それ以外まで抱え込もうとすんなって。」

「西條は学園の生徒だ、つまり俺の守るべき対象だが?風紀としても体調不良の生徒がいるのは解決すべき事項だ。」

「はっ、ほんとお節介。堅物め。あーもう馬鹿馬鹿しくなってくるよ、お前見てたら。」

ベッドの上で布団を足にかけたまま膝を抱える西條は、そのまま膝に顎を乗せる。

長引くかなと考えて、ベッド横にあった椅子に腰を据える。

しばらくうだうだ、あーとか、でもーとか声を出し考え込んでいた西條が覚悟を決めたのか、チラッとこちらを窺っている。

「話す気になったか?」

「……そうね、じゃないと仲神に付き纏われそうだし。仲神には聞いてほしいかも。」

膝を抱えたまま、目を合わせずに話し始める西條はとんでもない爆弾発言をしてきた。
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