世話焼き風紀委員長は自分に無頓着

二藤ぽっきぃ

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29話

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結局京本と蜂須賀に返事を待ってもらうことを伝えそびれたな……

なんて思いながら風紀の執務室へと向かっていたら、その途中の渡り廊下で当人たちが睨み合っていた。

「何してるんだ?」


声をかけると2人とも顔をぱっとこちらに向けて近づいてきたかと思えば、右腕に蜂須賀が抱きつき、左腕に京本が絡みつくという状況になってしまった。


「ちょっとお猿会長、蛍様から離れてくれませんか?迷惑っす。」

「はっ!お前こそ離れろ。蛍が歩きづらいだろうが。」

「はぁ?蛍様のこと馴れ馴れしく呼ばないでもらえますぅ?俺の蛍様なんすから!」

「何がお前のだ!ふざけんな!」


俺を挟んで喧嘩しないでくれ。

ぎゃいぎゃいと言い合いをする2人に一喝。


「耳元で騒ぐな!用があるなら付いていくから、腕も少し緩めてくれ。」


言葉に従い、ピタッと喋ることをやめ、腕ではなく手を握って歩き始めた2人に、そのままどこかへと連れて行かれる。

移動中も黙ったままの2人がようやく立ち止まったかと意識を戻すと、そこは生徒会応接室だった。

京本がドアを開けるが、中には誰もいない。

生徒会の見栄や威厳のためか、応接室は豪華だ。
革張りのソファや椅子、光沢の美しいローテーブルがシリーズで揃えられている。

ようやく静かになった2人は、2人がけのソファの真ん中に俺を座らせ、その両サイドに詰めようとしてきた。

男3人はだいぶ狭いぞ!無理があるだろ!

無言で立ち上がり、2人がけの方に京本と蜂須賀を座らせ、机を挟んでの1人がけに座る。

文句ありげな顔をしていたが、無視だそんなもの。

「で?ここまで連れてきて、一体なんだ?」

なんの説明もなく、ただ連れてこられた俺はさっぱりだ。

目の前に大人しく座っている2人の顔を見つめて問う。
大人しくではなかったな、肘で小突きあっている。それに夢中なのか返事はない。ならばともう一度問う。

「大人しくしろ。急ぎなのか?」

そう言葉に出すと、2人からため息をつかれた。

「蛍様、わざとっすか?分かってるっすよね?俺が生徒会室に入るほどの緊急っすよ。」

「何のためにこいつと蛍を待っていたと思ってんだ。」

確かに、蜂須賀は生徒会長が大っ嫌いだと公言しているし、京本も風紀の中では蜂須賀を特に目をつけている。

蜂須賀と京本は犬猿の仲と言えるだろう。

そんな2人が協力…と言っていいのかはわからないが同じ行動をとるのはそれなりのことだろう。

それにしても、京本まで俺のことを蛍と呼び始めたがどんな心境の変化だ。


「蛍様、早くお猿会長振っちゃって下さい。蛍様の恋人は俺だけっすよ。未練がましく付き纏ってくるこいつをばっさりと切り捨てちゃって下さいっす。」

「蛍の恋人とか嘘つくんじゃねぇ、尻尾振るだけの犬っころが。蛍は俺に嫁ぐんだ、つまり婚約中ってことだな。」

睨み合う2人に待ったをかける。

「ちょっと待て、まだ返事していないだろ。勝手に決め付けるのは嫌いだ。」

2人ともそれぞれの都合を押し付けてきているな。全く、恋愛とは短慮になるな。

「わぁぁ嘘っす!嫌いなんて言わないで蛍様。嘘でもそんなこと二度と言わないで下さいっすね?」

「すまん。だが事実だ、親にも話している。」

親にも話している?
何言ってんだこいつ。

「京本、親に話しているとは……何をだ?」

「何って、俺たちのことだ。婚約者として仲神家の長男を指名するって。俺の親に言った。本当はお前の親にも報告したかったんだがな、止められた。」

止めてくれて助かった、ありがとう京本のご両親。
きっと息子がとち狂ったとパニックだろうな。

足を組んで肘掛けを支えにして手の甲に顎を置く。

考えろ、京本財閥と仲神グループは現状悪くない筈だ。業務提携も始めたと聞く。親戚の誰かを嫁がせるかなんて話があったとしてもおかしくない。

そんな矢先に財閥嫡男の京本が仲神家嫡男を嫁になんて、祖父が知ったら戦争だ。
業界戦争が始まってしまう……

「蛍様、俺となら家のこと気にしなくていいっすよ。うちには後継もスペアももういるんで、俺が仲神家に嫁ぐっす。」

蜂須賀家は出版社を経営している。記者から役員になるという下積み期間がしっかりした嫡男がいた筈だ。それに編集者として働いている次男もいる。

スペアって言い方は悪いが、確かに蜂須賀は俺の秘書になりたいとまで言ってくれてるしな。

「京本財閥と仲神グループの連携は良案だろ?より確固なものにするなら嫡男に白羽の矢が立つ。だが俺は蛍がいい。そういうことだ。」

双方の言い分は分かった。
だが、弟のアドバイス通りにこの場は納めよう。

「2人ともすまないが、俺にとってはここ数日の出来事だ。急に答えをと言われても困る。そこで夏期休暇明けまで待ってくれないか?」

京本を見て、次に蜂須賀に視線を合わせる。

「ずるいっすよその顔……待つっす。でも1つ約束してください。今後、誰かに告白されてもすぐに断ること。あと、待ってる間も俺は蛍様の側にいるっすよ。待たせるってことは、期待していいってことっすよね♡」

「夏か…犬っころと同じなのは癪だが、俺も待とう。いい返事を期待してる。休暇中会えないって訳じゃないからな、外堀埋めてやるよ。」

将来のために、今恋愛のごたごたで繋がりを断つのは勿体ない。

「ふむ…そうだな、簡単な方法があった。俺が惚れるのを待つのじゃなくて、惚れさせてくれないか?家のことや同性なんてもの無しにして、人間性で勝負してくれ。さっきから考えているとどうにも家のことがちらついてしまう。惚れなかったらそこまでだ。」

家は大切だが、目の前の2人に対して真摯であることが今は重要だろう。
元々見定めるつもりだったんだ、アピールしてもらった方が早い。
目黒曰く、俺は鈍感らしいからな。
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