上 下
31 / 93

27話:古田信彦

しおりを挟む
「信彦、俺のこと好きだよな。」

それが当然だという顔で、急に話しかけてきた若松に驚いて、返事が出来なかった。

「えー俺らの方がめっちゃ好きだし。」
「そうだよ。ひろひろの為なら何でもするよ。」

我が物顔で生徒会室を占領している若松に嫌気がさすが、仲神先輩が言っても聞かなかったのだ。
僕が言ったところで無駄骨に終わるだろう。

「真斗と塁斗も好きだし、辰也も好きだ。それにみんなが俺のこと好きっていうのも嬉しい。だからな俺の頼み聞いてくれないか?」

また無茶振りか、前にした頼み事というのが寮の役員棟に行きたいというもので、咲山兄弟に取り入った。
喜んでと、自室に招き入れた咲山兄弟に、僕の部屋、西條先輩の部屋、京本先輩の部屋を案内させ、侵入を許した。
私室プライベートに踏み込まれるのは我慢ならなくて、後日触られたものは全部処分した。

そうやって、若松の自己中心的な考えを助長させ続け親睦会を迎えた。

この前の『頼み』によって、ドッジボールのチームに加入した若松を応援する。
相手チームが賢い戦い方をするもので内野を倒しては外野が当てて再び戻ってくる。
中々終わらない戦いに、イライラしたのか喚き始めた若松。ルール説明があったのに、外野が戻るのは反則だとか言い始め、審判からの指導が入る。
結局負けてしまったが、イライラしている若松が頼み事を始めたのだ。


「午後のサッカーかバレーで勝ちたいな、誰か交代してくれるやつとかいないかな?な、信彦。」


心当たりといえばある、虎徹兄さんだ。
元々数合わせでサッカーに選ばれている。
風紀は数合わせみたいに言われているが、実際のとこ、風紀は奥の手とも言われている。
その中でも虎徹兄さんはスポーツ万能のため、とても頼りにされている。僕まで誇らしい。

はっきり言って、若松はそこまでスポーツが秀でていない。

虎徹兄さんの代わりだなんて烏滸がましい。

だが、話を聞いていた咲山兄弟が虎徹兄さんの存在を知らせてしまった。
数合わせの風紀なら代わってくれるだろうと、足早にテントに向かい始めたのを慌てて追いかける。

馬鹿みたいな頼み事だが、虎徹兄さんと話す機会だと、僕が交渉すると3人を宥めて、見回り終わりの目黒を見つけテントまでついて行く。

触れれる距離にいる虎徹兄さん。
全てを見透かしていた。
僕が、虎徹兄さんを好きなことも何もかも。

気持ちを伝えた僕は泣いてしまい、その後虎徹兄さんに寮へ連れて来られた。

「虎徹兄さん、やきもち妬いてくれてたよね?転入生と仲良くしてたら見てくれたよね。」

虎徹兄さんの部屋で、冷やされたタオルを目元に当てて問いかける。
視界が奪われているため、どんな顔をしているのかわからないが、多分図星だろう。

「はぁ…信彦。お前さん悪い子だな、わざと嫉妬させてたのか?気持ちに気づいてほしかったが、煽られるとは思わなかったな。」

ギシッとソファを軋ませて、僕のすぐ隣に座り直した虎徹兄さん。互いの足が当たり、肩を抱かれて、耳に息がかかる。

「だ、だって…僕は1年ももやもやしてたんだ。」

タオルを外して、虎徹兄さんと向かい合おうとしたが、上から押さえられ視界は未だ暗闇の中。

「信彦……お前さんは嫉妬に狂う俺を見て興奮してたんだろう?」

耳元で話されて、背中がゾクゾクする。

「愛してる。俺の唯一、俺の光……大事にする。」

「ふっ……虎徹兄さん。擽ったいよ。」

大事にすると宣言した虎徹兄さんは、僕が18になるまで待つと言った。あと1年経ったら…僕の全ては虎徹兄さんのものになる。

清々しい気分だ。
若松とも縁を切り、訂正の噂を流そう。
虎徹兄さんとの関係も。誰にも取られないように。
あんなに憎かった仲神先輩のことが、途端に申し訳なくなってきた。

一方的に当たっていたんだ、正式に謝罪をしないと気が済まない。
同じことを考えていたのか、虎徹兄さんも提案してくれた。

「月曜になったら、仲神に謝りに行こう。当て馬にしてしまったからな。」

「若松の方はどうしよう。」

「あいつにはさっき釘を刺しておいた。もう関わらなくていい。」

そういうとぎゅっと抱きしめてくれた。
懐かしい、昔もよく抱きしめてくれてたな。

力一杯抱きしめ返して、このまま融けて1つになって仕舞えばいいのになんて思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずっと夢を

菜坂
BL
母に兄との関係を伝えようとした次の日兄が亡くなってしまった。 そんな失意の中兄の部屋を整理しているとある小説を見つける。 その小説を手に取り、少しだけ読んでみたが最後まで読む気にはならずそのまま本を閉じた。 その次の日、学校へ行く途中事故に遭い意識を失った。 という前世をふと思い出した。 あれ?もしかしてここあの小説の中じゃね? でもそんなことより転校生が気に入らない。俺にだけ当たりが強すぎない?! 確かに俺はヤリ◯ンって言われてるけどそれ、ただの噂だからね⁉︎

王道学園と、平凡と見せかけた非凡

壱稀
BL
定番的なBL王道学園で、日々平凡に過ごしていた哀留(非凡)。 そんなある日、ついにアンチ王道くんが現れて学園が崩壊の危機に。 風紀委員達と一緒に、なんやかんやと奮闘する哀留のドタバタコメディ。 基本総愛され一部嫌われです。王道の斜め上を爆走しながら、どう立ち向かうか?! ◆pixivでも投稿してます。 ◆8月15日完結を載せてますが、その後も少しだけ番外編など掲載します。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

無自覚な優男はとにかくモテる!

もふもふ
BL
この学園の生徒会には、【抱きたいランキング】・【抱かれたいランキング】という物がある。 どちらも連続1位2位を獲得してる生徒会計の藤堂 楓実也は、隠れ腐男子なのだ!! 自分はモブと思っている楓実也だが...周りからはとてもモテモテ♡ イケメン達×無自覚なチャラ男(偽)のお話ですw ※はR18要素入ってます 【注】不定期更新です!

オレが受けなんてありえねえ!

相沢京
BL
母親の再婚で財閥の家族になってしまった勇人。 父親が後継者争いに巻き込まれないようにと全寮制の男子校に転入した。 そこには兄がいると聞かされていたが、すでにオレの偽者がいた。 どうするオレ? 拉致されたり、宇宙人みたいな奴が転校してきたり 兎に角厄介ごとに巻き込まれる主人公の話です。 お願い*********** お気に入り、誤字・脱字や感想などを頂き誠にありがとうございます。 未熟な私ですが、それを励みに更新を続けていきたいと思いますので よろしくお願いいたします。

風音樹の人生ゲーム

BL
(主人公が病気持ちです。地雷の方はバックでお願いします) 誰にも必要とされることの無い人生だった。 唯一俺を必要としてくれた母は、遠く遠くへいってしまった。 悔しくて、辛くて、ーー悔しいから、辛いから、笑って。 さいごのさいごのさいごのさいごまで、わらって。 俺を知った人が俺を忘れないような人生にしよう。 脳死で書いたので多分続かない。 作者に病気の知識はありません。適当です。

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

華燭の城

BL
「私がここでおとなしくしていれば、両国の民と私の父や母、弟は、これからも今まで通り暮らせるのだな?」 拉致されるように異国へと連れて来られた神国の皇子シュリ。 その世話役を任されたラウと名乗る男は、初対面にもかかわらず、 「何があっても私はシュリ様の味方です」と言い切る。 冷たい石牢に呼ばれ、毎晩強要される国王からの性的要求と拷問。 それを見守るラウとの信頼関係と、育まれる愛情――。 ** 時代は近代と近世の狭間。 日本で言うなら、馬と車が行き交う明治期辺りの欧州。 そんなイメージで書きました。 作中、SMや拷問等の描写があります。苦手な方はご遠慮ください。 至らぬ稚拙な文章ですが、喜んでいただければ幸いです。

処理中です...