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26話:古田信彦
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世話役ということもあって、殆どを転入生と共に過ごした。
校舎案内や、食堂も、学園のルールは一応話したが右から左へ流れていったのが見て取れる。
「なあ、生徒会長ってどんなやつ?かっこいいか?」
なんて浅ましい。
会長の親衛隊に制裁を下されろ、と心の中で毒突くも、いつもの笑顔を貼りつけて答える。
「ええ、かっこいいですよ。生徒会長のことが知りたいなら、このクラスに双子がいるでしょう?彼らも生徒会の役員です。尋ねてみては?」
そろそろ1人ではお荷物すぎる転入生を、双子にも担いでもらうことに決めた。
呼ぶと2人揃ってやってきた咲山兄弟に、転入生を紹介する。よくやる、どっちがどっちでしょうを初対面の相手に繰り広げ、あろうことか転入生は何度やってもぴたりと当てた。
見分けられたことが嬉しいのか、双子はすぐに懐き、僕より率先して世話役を始めた。
昼時、食堂に連れて行くと、初めてで不安だから一緒に食べたいと役員ルームに入ってきた。
虎徹兄さんに会えるかもしれない場所で、転入生のために一般ルームに行くのは耐え難かった。
その日はタイミングよく同じ時間にルームにいて、虎徹兄さんと目を合わせることができた。
嬉しくって舞い上がりそうな気持ちだったが、虎徹兄さんが見ていたのは転入生の方だった。
いや、正確にいうと、馴れ馴れしく話しかけてくる転入生と僕を睨んでいた。
これは、もしかして、やきもちとか言うものではないのか!
虎徹兄さんがやきもちを妬いてくれている!
この転入生がいるというだけで!
歓喜に震えた僕は、それからとことん転入生を利用した。
側に寄るのは、なるべく虎徹兄さんの視界に触れそうな場所でだけ、それ以外では1歩下がる。
転入生に生徒会役員が陥落したと噂を流した。
実際は咲山兄弟だけが本当に懐いているだけで、
西條先輩は珍しいタイプで面白いからという理由で、京本先輩は転入生が問題を起こすことで、仲神先輩が乗り込んでくることを見越してか、静観していた。
そんな噂が流れると、若松は親衛隊に呼び出され、全校生徒から腫れ物のように扱われている。
生徒会としか行動を共にしない、孤立していることに気づかない若松は、情報操作が楽で好都合だった。
「信彦!あの金髪って誰?環の隣にいるやつ!」
転入して数日、生徒会役員を手駒にしたという実績で自信が出来たのか、次のターゲットを目黒に加え、蜂須賀にも決めたようだ。
「蜂須賀流星、風紀委員ですよ。」
SとBの合同授業の体育で、目黒と話している蜂須賀は、どうせ仲神先輩のことでも話しているのだろう。楽しそうに盛り上がっている。
僕から名前を聞いた若松は、そのまま蜂須賀に突撃しに行った。
付いては行かず、その場で見守っていたらめんどくさそうに顔を歪ませる蜂須賀が見えた。
ふん、普段好きな人の側に居られる君なんだから、このくらいの障害、たまにはぶつかってみなさい。
暫く蜂須賀への付き纏いが始まった。
わざわざクラスに赴き、口説き始めた若松は、全く靡かない蜂須賀に禁句を言ってしまった。
「蛍ってさ、顔は綺麗だけど感じ悪いよな!握手無視されたんだぜ!流星って使いっ走りばっかなんだろ?仕事なんかしなくていいよ、俺と一緒に過ごそ。」
まずい!止めようかとも思ったが、間に合わなかった。
「は?」
無視を決め込んでいた蜂須賀が、椅子から立ち上がり若松を見下ろす。
160センチ台と自己申告した若松と30センチも違う蜂須賀だ、見下ろされると威圧感が凄まじい。気圧されている。
「お前何調子乗ってんの?蛍様がなんだって?俺が使われてる?ふざけんなよ、俺は使ってもらってるの。蛍様のお側にいるために、有能な人材になるため努力してんの。こっちが大人しくしてりゃ法螺ばっかよぉ…あぁ?俺の何を知ってんの?何をもって蛍様のこと悪く言ってんの?この口いる?一生残るような傷残してやろうか?理事長の孫だが知らねーけど、今度俺の前で蛍様のこと口にしてみろ、殺すぞ。」
「蜂須賀!やりすぎですよ。頭を冷やしなさい。」
若松を圧倒した蜂須賀は、半分にやけた口元から必死に言葉を紡いだ目黒に止められ、舌打ちをして教室のドアへとやって来る。
「何見てんだよ、あぁ!チッ…」
不完全燃焼なのか、ドア横のゴミ箱を蹴り上げ、そのまま廊下へ出て去って行った。掃除終わりのためか中身が無かった空のゴミ箱は側面が見事に凹んでいた。
「な、何だよ!せっかく俺が話しかけてやったのに……信彦、あいつ超怖えな。」
しなだれかかってくる若松を引き離そうと思ったのだが、向かいの校舎から刺さるような視線を感じた。顔を向けずに目だけを動かして確認すると、虎徹兄さんが居た。
虎徹兄さんが、僕を見てる!
なんて幸せなんだろう。
もっと、もっと見てほしいと欲がでた。
校舎案内や、食堂も、学園のルールは一応話したが右から左へ流れていったのが見て取れる。
「なあ、生徒会長ってどんなやつ?かっこいいか?」
なんて浅ましい。
会長の親衛隊に制裁を下されろ、と心の中で毒突くも、いつもの笑顔を貼りつけて答える。
「ええ、かっこいいですよ。生徒会長のことが知りたいなら、このクラスに双子がいるでしょう?彼らも生徒会の役員です。尋ねてみては?」
そろそろ1人ではお荷物すぎる転入生を、双子にも担いでもらうことに決めた。
呼ぶと2人揃ってやってきた咲山兄弟に、転入生を紹介する。よくやる、どっちがどっちでしょうを初対面の相手に繰り広げ、あろうことか転入生は何度やってもぴたりと当てた。
見分けられたことが嬉しいのか、双子はすぐに懐き、僕より率先して世話役を始めた。
昼時、食堂に連れて行くと、初めてで不安だから一緒に食べたいと役員ルームに入ってきた。
虎徹兄さんに会えるかもしれない場所で、転入生のために一般ルームに行くのは耐え難かった。
その日はタイミングよく同じ時間にルームにいて、虎徹兄さんと目を合わせることができた。
嬉しくって舞い上がりそうな気持ちだったが、虎徹兄さんが見ていたのは転入生の方だった。
いや、正確にいうと、馴れ馴れしく話しかけてくる転入生と僕を睨んでいた。
これは、もしかして、やきもちとか言うものではないのか!
虎徹兄さんがやきもちを妬いてくれている!
この転入生がいるというだけで!
歓喜に震えた僕は、それからとことん転入生を利用した。
側に寄るのは、なるべく虎徹兄さんの視界に触れそうな場所でだけ、それ以外では1歩下がる。
転入生に生徒会役員が陥落したと噂を流した。
実際は咲山兄弟だけが本当に懐いているだけで、
西條先輩は珍しいタイプで面白いからという理由で、京本先輩は転入生が問題を起こすことで、仲神先輩が乗り込んでくることを見越してか、静観していた。
そんな噂が流れると、若松は親衛隊に呼び出され、全校生徒から腫れ物のように扱われている。
生徒会としか行動を共にしない、孤立していることに気づかない若松は、情報操作が楽で好都合だった。
「信彦!あの金髪って誰?環の隣にいるやつ!」
転入して数日、生徒会役員を手駒にしたという実績で自信が出来たのか、次のターゲットを目黒に加え、蜂須賀にも決めたようだ。
「蜂須賀流星、風紀委員ですよ。」
SとBの合同授業の体育で、目黒と話している蜂須賀は、どうせ仲神先輩のことでも話しているのだろう。楽しそうに盛り上がっている。
僕から名前を聞いた若松は、そのまま蜂須賀に突撃しに行った。
付いては行かず、その場で見守っていたらめんどくさそうに顔を歪ませる蜂須賀が見えた。
ふん、普段好きな人の側に居られる君なんだから、このくらいの障害、たまにはぶつかってみなさい。
暫く蜂須賀への付き纏いが始まった。
わざわざクラスに赴き、口説き始めた若松は、全く靡かない蜂須賀に禁句を言ってしまった。
「蛍ってさ、顔は綺麗だけど感じ悪いよな!握手無視されたんだぜ!流星って使いっ走りばっかなんだろ?仕事なんかしなくていいよ、俺と一緒に過ごそ。」
まずい!止めようかとも思ったが、間に合わなかった。
「は?」
無視を決め込んでいた蜂須賀が、椅子から立ち上がり若松を見下ろす。
160センチ台と自己申告した若松と30センチも違う蜂須賀だ、見下ろされると威圧感が凄まじい。気圧されている。
「お前何調子乗ってんの?蛍様がなんだって?俺が使われてる?ふざけんなよ、俺は使ってもらってるの。蛍様のお側にいるために、有能な人材になるため努力してんの。こっちが大人しくしてりゃ法螺ばっかよぉ…あぁ?俺の何を知ってんの?何をもって蛍様のこと悪く言ってんの?この口いる?一生残るような傷残してやろうか?理事長の孫だが知らねーけど、今度俺の前で蛍様のこと口にしてみろ、殺すぞ。」
「蜂須賀!やりすぎですよ。頭を冷やしなさい。」
若松を圧倒した蜂須賀は、半分にやけた口元から必死に言葉を紡いだ目黒に止められ、舌打ちをして教室のドアへとやって来る。
「何見てんだよ、あぁ!チッ…」
不完全燃焼なのか、ドア横のゴミ箱を蹴り上げ、そのまま廊下へ出て去って行った。掃除終わりのためか中身が無かった空のゴミ箱は側面が見事に凹んでいた。
「な、何だよ!せっかく俺が話しかけてやったのに……信彦、あいつ超怖えな。」
しなだれかかってくる若松を引き離そうと思ったのだが、向かいの校舎から刺さるような視線を感じた。顔を向けずに目だけを動かして確認すると、虎徹兄さんが居た。
虎徹兄さんが、僕を見てる!
なんて幸せなんだろう。
もっと、もっと見てほしいと欲がでた。
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