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25話:古田信彦
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高等部に進学して、追いかけていた虎徹兄さんは将来のために周囲ともっと関わりを持て、兄離れをしろと告げた。
風紀の仕事に追われる虎徹兄さんは、宣言通り僕から離れていった。
それでも何とか関わりを持ちたくて、勉強を教わりに行ったりもしたが、終わると無駄話せず去って行く。
京本先輩に誘われていた生徒会に入って、仕事をこなせば褒めてくれるはずと思って頑張った。
それでも、虎徹兄さんは戻ってこなかった。
虎徹兄さんと同じクラス、同じ風紀の仲神先輩に嫉妬した。
僕は努力をして虎徹兄さんの視界に映ろうとしているのに、いとも簡単に映るあの人が憎かった。
仕事ぶりを認めてくれた京本先輩の視線の先にいつもいる、仲神先輩がずるいと思った。
会えば嫌な態度を取る僕に、いい先輩だったのがより癪に触った。
仲神先輩への嫉妬や劣等感を持って1年過ごした。
生徒会副会長の役職を手に入れた。これで少しは近づいたと思ったが、1つ上の先輩方が並ぶことはない。必ず1歩先にいるのだから。
そんなとき、転入生が来ると言われた。
理事長の孫だから、丁重に扱うようにと、世話役を任命された。
転入初日、伝えられていた通りの格好をした生徒を裏門で見つけた。
「大門から降りて下さい。転入生の若松比呂さんですね。私は世話役の古田信彦、生徒会副会長を務めています。都塚学園へようこそ。」
大門からの侵入を試みていた転入生を制し、自己紹介を終える。
任命された仕事だから、きちんと遂行して、今度こそ虎徹兄さんに褒めてもらう。
笑顔を貼りつけて挨拶を済ませると、若松にこう言われた。
「作り笑いってしんどくねーの?せっかく綺麗な顔してんのに……俺、お前の本当の笑顔見たいかも!よろしくな信彦!」
頭を殴られたような衝撃だった。
なんて粗野な言葉遣いと行動。
一体お前に何が分かる!
そう思ったが、先程の発言に既視感を覚える。
そうだ、あれは確か4歳の時…初めて虎徹兄さんと顔合わせをした時だ。
『俺、虎徹。お前さんの名前は?』
『信彦…』
『綺麗だな。きっと将来美人さんになるぞ。』
『僕、男の子だもん…』
『はは、真っ赤になってる。お前さんの笑顔は太陽みたいだ…これからも最高に幸せな笑顔を、俺が護る。』
ああ…虎徹兄さん、貴方はなんて罪作りな人だ。
いたいけな少年の心を鷲掴みにして……兄が取られる嫉妬ではなかったようです。
スポーツ刈りにした茶髪がより一層魅力を引き立てる。優しく僕に微笑む、ありし日の記憶の中の虎徹兄さん。男前の顔を破顔させ『信彦』と呼んでくれて、男らしい筋肉質の身体で抱きしめてくれる、そんな貴方が愛しい。
これが恋、初恋、虎徹兄さんが好き。
自覚すると顔が燃えるように熱く、暫く放心していたみたいだ。
勝手口から仲神先輩が顔を覗かせ、転入生と僕を中へ促す。その際、顔が赤いことを指摘されたが誤魔化した。
今更気持ちに気付いたなんて恥ずかしい。
10年以上、気づかなかった理由はきっと、虎徹兄さんがずっと側にいてくれたから。
だからこの期間をチャンスに変えよう。
きっと虎徹兄さんを振り向かせる。
風紀の仕事に追われる虎徹兄さんは、宣言通り僕から離れていった。
それでも何とか関わりを持ちたくて、勉強を教わりに行ったりもしたが、終わると無駄話せず去って行く。
京本先輩に誘われていた生徒会に入って、仕事をこなせば褒めてくれるはずと思って頑張った。
それでも、虎徹兄さんは戻ってこなかった。
虎徹兄さんと同じクラス、同じ風紀の仲神先輩に嫉妬した。
僕は努力をして虎徹兄さんの視界に映ろうとしているのに、いとも簡単に映るあの人が憎かった。
仕事ぶりを認めてくれた京本先輩の視線の先にいつもいる、仲神先輩がずるいと思った。
会えば嫌な態度を取る僕に、いい先輩だったのがより癪に触った。
仲神先輩への嫉妬や劣等感を持って1年過ごした。
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そんなとき、転入生が来ると言われた。
理事長の孫だから、丁重に扱うようにと、世話役を任命された。
転入初日、伝えられていた通りの格好をした生徒を裏門で見つけた。
「大門から降りて下さい。転入生の若松比呂さんですね。私は世話役の古田信彦、生徒会副会長を務めています。都塚学園へようこそ。」
大門からの侵入を試みていた転入生を制し、自己紹介を終える。
任命された仕事だから、きちんと遂行して、今度こそ虎徹兄さんに褒めてもらう。
笑顔を貼りつけて挨拶を済ませると、若松にこう言われた。
「作り笑いってしんどくねーの?せっかく綺麗な顔してんのに……俺、お前の本当の笑顔見たいかも!よろしくな信彦!」
頭を殴られたような衝撃だった。
なんて粗野な言葉遣いと行動。
一体お前に何が分かる!
そう思ったが、先程の発言に既視感を覚える。
そうだ、あれは確か4歳の時…初めて虎徹兄さんと顔合わせをした時だ。
『俺、虎徹。お前さんの名前は?』
『信彦…』
『綺麗だな。きっと将来美人さんになるぞ。』
『僕、男の子だもん…』
『はは、真っ赤になってる。お前さんの笑顔は太陽みたいだ…これからも最高に幸せな笑顔を、俺が護る。』
ああ…虎徹兄さん、貴方はなんて罪作りな人だ。
いたいけな少年の心を鷲掴みにして……兄が取られる嫉妬ではなかったようです。
スポーツ刈りにした茶髪がより一層魅力を引き立てる。優しく僕に微笑む、ありし日の記憶の中の虎徹兄さん。男前の顔を破顔させ『信彦』と呼んでくれて、男らしい筋肉質の身体で抱きしめてくれる、そんな貴方が愛しい。
これが恋、初恋、虎徹兄さんが好き。
自覚すると顔が燃えるように熱く、暫く放心していたみたいだ。
勝手口から仲神先輩が顔を覗かせ、転入生と僕を中へ促す。その際、顔が赤いことを指摘されたが誤魔化した。
今更気持ちに気付いたなんて恥ずかしい。
10年以上、気づかなかった理由はきっと、虎徹兄さんがずっと側にいてくれたから。
だからこの期間をチャンスに変えよう。
きっと虎徹兄さんを振り向かせる。
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