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閑話:青山虎徹
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古田家の分家、青山家。
その長男として生まれながらに本家に仕えることが決まっていた。
本家の嫡男、信彦と出逢ったのは5歳の時。
顔合わせのとき、お袋が言った。
『あの方が、お前さんが仕える主人。護るべき存在、生涯の光。影となり、時には導く存在になるよう精進なさい。』
視線の先にいるのは七五三の袴を着て、千歳飴を美味しそうな顔で食べている子。
綺麗な顔だな……あの子が俺の、支え導く存在。
『なぁ、俺は虎徹。お前さんの名前は?』
正式な顔合わせの前に話しかけてはいけないと言われていたが、どうしても今声をかけたかった。
俺のことを知ってほしい。影になる俺のことを。
『信彦…』
途端、おどおどした態度になった次期当主は、食べかけの千歳飴を恥ずかしそうに隠しながら答えてくれた。
『綺麗だな…きっと将来美人さんになるぞ。』
『僕、男の子だもん…』
俺の本心がつい口から出てしまったのだが、次期当主は怒らず、顔を真っ赤にして拗ねた。
頬を膨らませてぷいっと顔を背けた姿はいじらしい。
『はは、真っ赤になってる。お前さんの笑顔は太陽みたいだ…これからも最高に幸せな笑顔を、俺が護る。』
本家にではなく、次期当主にこの身を捧げよう。
この子を護るために、生涯を尽くそう。
幼いながらもそう心に決めたのだ。
その後、正式な顔合わせの場で、俺は信彦の影となった。
初めは世話役として勉強を教えるために、自身の知識を増やし、悪漢から護るために、身体を鍛える。
俺の方が1つ年上だから、学校では教室が同じ訳にはいかないが、それ以外はずっと一緒に行動した。
信彦は賢い。手のかからない素直な子だった。
してはいけないことを、何故なのか、と聞いてくるが、納得したら繰り返さない。
俺によく懐いてくれて、何で何でと聞いてくる。
兄さんと呼んでくれて、すぐ後ろをついてくる。
可愛くて仕方がない、俺の光。
勉強ができたり、正しい行いをしたときは、少し大袈裟なくらいに褒めた。
そうするときは決まって頭を撫でていたからか、信彦は褒められるときは頭も撫でてもらえると認識してしまったが、上手く導けていると思う。
中学、来年信彦が通うことになる学園に入学して、危険なところがないか偵察することになった。
たった1年だが、信彦と離れることが不安だった。
俺以外に頼っていると想像してしまえば、腹わたが煮えくり返るような気持ちになる。
調査の結果、学園はとんでもない巣窟だった。
男子校なのに、学園恋愛が繰り広げられ、ある男には親衛隊なるものがあった。
こんな魔の巣窟に信彦を通わせられない。
すぐに入学を辞めるよう進言するが、信彦は嫌だと返事をよこした。
決めたことは滅多に曲げない、信念の持ち主である信彦のためだ。こうなれば学園を改造すれば良い。
学園恋愛はいいとして、統制の取れていない親衛隊や、校舎内で行われる性行為寸前のもの。その他諸々にルールを設けるべきだと中等部生徒会に進言した。
信彦が快適に学園生活を送るため。
その大義にもとって、様々な手を尽くした。
ルールが施行されて、俺の理想的な学園になった頃、信彦が入学してきた。
たった1年、長期休暇の際にも会っていたはずなのに……太陽のように眩しい笑顔で俺の元へ来る信彦は、日増しに綺麗になっていく。
襲われたりしないだろうか、もしものためにと携帯に追跡アプリをインストールして確認できるようにしているが……不安だ。
残りの中等部の生活は順風満帆だった。
卒業式のとき、信彦がまた1年離れちゃうと泣いた顔を見て、俺の中になにかが芽生えた。
その時は気づかず、ただ信彦を慰めていた。
高等部、中等部の繰り返し。風紀委員会に入った。
これで、不埒なやつを片っ端から更生させられる。少しでも快適な学園生活を提供せねばと張り切っていた。
そんな時、同じ風紀の仲神繋がりで、生徒会の京本と関わるようになった。信彦が懐いている相手だが、俺自身とは特に交流がなかったため新鮮だ。
京本が仲神を気に入っているのは見て取れるが、仲神はそれに気づいていない。
この姿を見せれば、信彦は京本を失望して、俺だけを頼ってくれるか?
ふと頭に浮かんだ卑しい考えを、頭を振って消す。主人の邪魔をするなど、あってはならない。
だが、導くという点では……
色々な表情の信彦がフラッシュバックする。
笑顔、寝顔、拗ねた顔、泣いた顔、俺の名前を呼ぶ時の顔……
遅めの思春期。
俺は信彦を護らなくてはいけないのだ。
手の届く範囲に置いて、快適なように籠を広げて、生涯の光を……
気づいていないが、信彦は俺のことが恋愛として好きだ。それは間違いない。
ならば、俺もそれに応えよう。
でも、導かないといけない。
ちゃんと自分で気づけるように……高等部からは少し距離を置いてみようか、そうすれば俺の存在に気づくはず。
信彦は光で、俺は影。
2つで1つだ。どちらかが欠けるなんてあり得ない。
大丈夫、すぐ側にいられることになる。
少しの辛抱だ、信彦ならやれる。
これは愛の試練なのだから。
その長男として生まれながらに本家に仕えることが決まっていた。
本家の嫡男、信彦と出逢ったのは5歳の時。
顔合わせのとき、お袋が言った。
『あの方が、お前さんが仕える主人。護るべき存在、生涯の光。影となり、時には導く存在になるよう精進なさい。』
視線の先にいるのは七五三の袴を着て、千歳飴を美味しそうな顔で食べている子。
綺麗な顔だな……あの子が俺の、支え導く存在。
『なぁ、俺は虎徹。お前さんの名前は?』
正式な顔合わせの前に話しかけてはいけないと言われていたが、どうしても今声をかけたかった。
俺のことを知ってほしい。影になる俺のことを。
『信彦…』
途端、おどおどした態度になった次期当主は、食べかけの千歳飴を恥ずかしそうに隠しながら答えてくれた。
『綺麗だな…きっと将来美人さんになるぞ。』
『僕、男の子だもん…』
俺の本心がつい口から出てしまったのだが、次期当主は怒らず、顔を真っ赤にして拗ねた。
頬を膨らませてぷいっと顔を背けた姿はいじらしい。
『はは、真っ赤になってる。お前さんの笑顔は太陽みたいだ…これからも最高に幸せな笑顔を、俺が護る。』
本家にではなく、次期当主にこの身を捧げよう。
この子を護るために、生涯を尽くそう。
幼いながらもそう心に決めたのだ。
その後、正式な顔合わせの場で、俺は信彦の影となった。
初めは世話役として勉強を教えるために、自身の知識を増やし、悪漢から護るために、身体を鍛える。
俺の方が1つ年上だから、学校では教室が同じ訳にはいかないが、それ以外はずっと一緒に行動した。
信彦は賢い。手のかからない素直な子だった。
してはいけないことを、何故なのか、と聞いてくるが、納得したら繰り返さない。
俺によく懐いてくれて、何で何でと聞いてくる。
兄さんと呼んでくれて、すぐ後ろをついてくる。
可愛くて仕方がない、俺の光。
勉強ができたり、正しい行いをしたときは、少し大袈裟なくらいに褒めた。
そうするときは決まって頭を撫でていたからか、信彦は褒められるときは頭も撫でてもらえると認識してしまったが、上手く導けていると思う。
中学、来年信彦が通うことになる学園に入学して、危険なところがないか偵察することになった。
たった1年だが、信彦と離れることが不安だった。
俺以外に頼っていると想像してしまえば、腹わたが煮えくり返るような気持ちになる。
調査の結果、学園はとんでもない巣窟だった。
男子校なのに、学園恋愛が繰り広げられ、ある男には親衛隊なるものがあった。
こんな魔の巣窟に信彦を通わせられない。
すぐに入学を辞めるよう進言するが、信彦は嫌だと返事をよこした。
決めたことは滅多に曲げない、信念の持ち主である信彦のためだ。こうなれば学園を改造すれば良い。
学園恋愛はいいとして、統制の取れていない親衛隊や、校舎内で行われる性行為寸前のもの。その他諸々にルールを設けるべきだと中等部生徒会に進言した。
信彦が快適に学園生活を送るため。
その大義にもとって、様々な手を尽くした。
ルールが施行されて、俺の理想的な学園になった頃、信彦が入学してきた。
たった1年、長期休暇の際にも会っていたはずなのに……太陽のように眩しい笑顔で俺の元へ来る信彦は、日増しに綺麗になっていく。
襲われたりしないだろうか、もしものためにと携帯に追跡アプリをインストールして確認できるようにしているが……不安だ。
残りの中等部の生活は順風満帆だった。
卒業式のとき、信彦がまた1年離れちゃうと泣いた顔を見て、俺の中になにかが芽生えた。
その時は気づかず、ただ信彦を慰めていた。
高等部、中等部の繰り返し。風紀委員会に入った。
これで、不埒なやつを片っ端から更生させられる。少しでも快適な学園生活を提供せねばと張り切っていた。
そんな時、同じ風紀の仲神繋がりで、生徒会の京本と関わるようになった。信彦が懐いている相手だが、俺自身とは特に交流がなかったため新鮮だ。
京本が仲神を気に入っているのは見て取れるが、仲神はそれに気づいていない。
この姿を見せれば、信彦は京本を失望して、俺だけを頼ってくれるか?
ふと頭に浮かんだ卑しい考えを、頭を振って消す。主人の邪魔をするなど、あってはならない。
だが、導くという点では……
色々な表情の信彦がフラッシュバックする。
笑顔、寝顔、拗ねた顔、泣いた顔、俺の名前を呼ぶ時の顔……
遅めの思春期。
俺は信彦を護らなくてはいけないのだ。
手の届く範囲に置いて、快適なように籠を広げて、生涯の光を……
気づいていないが、信彦は俺のことが恋愛として好きだ。それは間違いない。
ならば、俺もそれに応えよう。
でも、導かないといけない。
ちゃんと自分で気づけるように……高等部からは少し距離を置いてみようか、そうすれば俺の存在に気づくはず。
信彦は光で、俺は影。
2つで1つだ。どちらかが欠けるなんてあり得ない。
大丈夫、すぐ側にいられることになる。
少しの辛抱だ、信彦ならやれる。
これは愛の試練なのだから。
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