上 下
23 / 93

閑話:青山虎徹

しおりを挟む
古田家の分家、青山家。
その長男として生まれながらに本家に仕えることが決まっていた。


本家の嫡男、信彦と出逢ったのは5歳の時。

顔合わせのとき、お袋が言った。


『あの方が、お前さんが仕える主人。護るべき存在、生涯の光。影となり、時には導く存在になるよう精進なさい。』


視線の先にいるのは七五三の袴を着て、千歳飴を美味しそうな顔で食べている子。

綺麗な顔だな……あの子が俺の、支え導く存在。


『なぁ、俺は虎徹。お前さんの名前は?』


正式な顔合わせの前に話しかけてはいけないと言われていたが、どうしても今声をかけたかった。
俺のことを知ってほしい。影になる俺のことを。


『信彦…』


途端、おどおどした態度になった次期当主は、食べかけの千歳飴を恥ずかしそうに隠しながら答えてくれた。


『綺麗だな…きっと将来美人さんになるぞ。』

『僕、男の子だもん…』


俺の本心がつい口から出てしまったのだが、次期当主は怒らず、顔を真っ赤にして拗ねた。
頬を膨らませてぷいっと顔を背けた姿はいじらしい。


『はは、真っ赤になってる。お前さんの笑顔は太陽みたいだ…これからも最高に幸せな笑顔を、俺が護る。』


本家にではなく、次期当主にこの身を捧げよう。
この子を護るために、生涯を尽くそう。

幼いながらもそう心に決めたのだ。

その後、正式な顔合わせの場で、俺は信彦の影となった。

初めは世話役として勉強を教えるために、自身の知識を増やし、悪漢から護るために、身体を鍛える。

俺の方が1つ年上だから、学校では教室が同じ訳にはいかないが、それ以外はずっと一緒に行動した。

信彦は賢い。手のかからない素直な子だった。
してはいけないことを、何故なのか、と聞いてくるが、納得したら繰り返さない。
俺によく懐いてくれて、何で何でと聞いてくる。
兄さんと呼んでくれて、すぐ後ろをついてくる。
可愛くて仕方がない、俺の光。

勉強ができたり、正しい行いをしたときは、少し大袈裟なくらいに褒めた。
そうするときは決まって頭を撫でていたからか、信彦は褒められるときは頭も撫でてもらえると認識してしまったが、上手く導けていると思う。


中学、来年信彦が通うことになる学園に入学して、危険なところがないか偵察することになった。

たった1年だが、信彦と離れることが不安だった。
俺以外に頼っていると想像してしまえば、腹わたが煮えくり返るような気持ちになる。

調査の結果、学園はとんでもない巣窟だった。
男子校なのに、学園恋愛が繰り広げられ、ある男には親衛隊なるものがあった。

こんな魔の巣窟に信彦を通わせられない。
すぐに入学を辞めるよう進言するが、信彦は嫌だと返事をよこした。

決めたことは滅多に曲げない、信念の持ち主である信彦のためだ。こうなれば学園を改造すれば良い。

学園恋愛はいいとして、統制の取れていない親衛隊や、校舎内で行われる性行為寸前のもの。その他諸々にルールを設けるべきだと中等部生徒会に進言した。

信彦が快適に学園生活を送るため。
その大義にもとって、様々な手を尽くした。

ルールが施行されて、俺の理想的な学園になった頃、信彦が入学してきた。

たった1年、長期休暇の際にも会っていたはずなのに……太陽のように眩しい笑顔で俺の元へ来る信彦は、日増しに綺麗になっていく。

襲われたりしないだろうか、もしものためにと携帯に追跡アプリをインストールして確認できるようにしているが……不安だ。

残りの中等部の生活は順風満帆だった。
卒業式のとき、信彦がまた1年離れちゃうと泣いた顔を見て、俺の中になにかが芽生えた。
その時は気づかず、ただ信彦を慰めていた。


高等部、中等部の繰り返し。風紀委員会に入った。

これで、不埒なやつを片っ端から更生させられる。少しでも快適な学園生活を提供せねばと張り切っていた。

そんな時、同じ風紀の仲神繋がりで、生徒会の京本と関わるようになった。信彦が懐いている相手だが、俺自身とは特に交流がなかったため新鮮だ。

京本が仲神を気に入っているのは見て取れるが、仲神はそれに気づいていない。


この姿を見せれば、信彦は京本を失望して、俺だけを頼ってくれるか?


ふと頭に浮かんだ卑しい考えを、頭を振って消す。主人の邪魔をするなど、あってはならない。
だが、導くという点では……

色々な表情の信彦がフラッシュバックする。
笑顔、寝顔、拗ねた顔、泣いた顔、俺の名前を呼ぶ時の顔……

遅めの思春期。

俺は信彦を護らなくてはいけないのだ。
手の届く範囲に置いて、快適なように籠を広げて、生涯の光を……

気づいていないが、信彦は俺のことが恋愛として好きだ。それは間違いない。
ならば、俺もそれに応えよう。

でも、導かないといけない。
ちゃんと自分で気づけるように……高等部からは少し距離を置いてみようか、そうすれば俺の存在に気づくはず。

信彦は光で、俺は影。
2つで1つだ。どちらかが欠けるなんてあり得ない。

大丈夫、すぐ側にいられることになる。
少しの辛抱だ、信彦ならやれる。

これは愛の試練なのだから。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...