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23話
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「ということで、知恵を貸してくれ。」
「何がということか、わかんねーんだけど…ま、兄貴からの連絡なんて珍しいからな。聞いてやってもいいけど?」
次の日、電話で呼び出したのは実家の弟だ。
中学2年生、来年受験生で、どうも行きたい高校があるらしく今から頑張っていると聞いて、なるべく邪魔しないでおこうと思っていた。だがこういうことは頼りになる。背に腹は変えられん。
「知り合いの話なんだがな?」
「へー、そんで?」
ビデオ通話にしたら、こちらの様子までバレると思い、通話のみにしたのだが、弟の様子も分からなくて少し不安を感じる。
「その…同じ日に2人の男から告白されて、返事をどうしようかと思っているそうだ。」
「断れ。絶対だめ。マジでだめ。」
「だがな?その2人は将来についても考えてくれていて……」
「そんなん好きなら当然でしょ。小学生でも結婚とか妄想して、好きな奴の苗字に自分の名前書くんだから。」
通話先から微かに聞こえる鉛筆の音。勉強中なのかもしれない。そうだとしたら、やはり邪魔をしているのか。
「えっと、勉強中か?こんな話ですまない。兄ちゃん邪魔してるな、すぐ切る。」
「あーちょい待ち、大丈夫。勉強じゃなくてメモだから。」
メモか。邪魔してるんじゃなくてよかった。
ほっと胸を撫で下ろしていると、弟が言葉を続ける。
「兄貴、告ってきた男について詳しく教えて。判断材料は多い方がいいだろ?」
なるほど、俺の弟は賢いな。
「わかった、まず……」
告白されたのが俺だとバレないように、所々ぼかして概要を説明する。
弟は相槌を打ちながら、メモを取っているようだ。
全てを話し終わったあと、再びどうすればいいかを尋ねる。
「兄貴、その件夏休み明けまで待ってもらえないか交渉してみるのがいいと思うぜ。学園から離れればゆっくり考えれるだろ?俺の邪魔になるなんて思わなくていいから、夏休みになったらすぐ帰省しろよ。」
夏休みまで待ってもらう……
「だが、今からだとだいぶ待たせてしまうことになる。こういうのは早めに返答するのが誠実というものじゃないか?」
5月末の親睦会も終え、来週からは6月に入る。
夏休みは7月下旬から8月中。普段が寮暮らしのため、学園は補講などせず、気前よく帰省させてくれるのだ。
つまり2ヶ月半は待たせることになる。
「兄貴……その2人が本当に好きだって言ってくれてるならそのくらい待ってくれるさ。寧ろ待てないって言うならそれまでの奴ってこと。」
一理ある…のか?
通算でいけば京本は2年は待っているし、蜂須賀も明確には分からないが、だいぶ前からだろう。
「大丈夫だって、帰省したら俺が解決してやる。兄貴は何も悩まなくていいんだ。でももし、そいつらが実力行使したら連絡しろよ。」
「ああ、休日にすまなかったな。助かった。じゃあ夏期休暇は長めに帰省するから、父さんたちにもまた連絡するよ。うん、元気でな、体調に気をつけなさい。」
ピッと通話を切り、携帯を机の上に置く。
椅子にもたれて、ふぅと呼吸を整える。
相談してみるものだったな。
少し心が軽くなった、そんな気持ちで休日の日課である作り置きの品を調理するため、レシピを用意する。
覚えられたらいいんだが、細かいところがな……
凝ったものは作れないが、作り置きに適したものを数品作り、弟のお礼にパウンドケーキを作る。
ちょうどバナナが手に入ったところだったため、奮発して、チョコバナナのパウンドケーキにしよう。
中学の頃、バレンタインのお返しでカップケーキを作ってから、ハマってしまったスイーツ作り。
日持ちもするようなレシピを見つけてからは、たまに実家の弟宛に送っている。
部屋に広がる甘い匂い、お菓子作りって感じになってくる。
オーブン待ちの時間に宿題と予習を途中まで済ませる。こうすれば、明日は宅急便だけで用事が済むからな。
久しぶりに弟と話したからか、帰省が待ち遠しくなってきた。
風紀委員も9月になれば引退して、後輩たち主流になるからな。大学も第3志望まで決めているし、受験シーズンに入ってしまう。
確かに、夏期休暇で結論を出した方が納得のものが出るはず。
屁理屈かもしれないが、いつまでに返事をくれとは言われてない。それに、うじうじするのは柄じゃない。2人が本気なのか、失礼だが見定めさせてもらおう。
月曜に2人に伝えることにしよう。
夏期休暇明けに返事を決めたいと。
「何がということか、わかんねーんだけど…ま、兄貴からの連絡なんて珍しいからな。聞いてやってもいいけど?」
次の日、電話で呼び出したのは実家の弟だ。
中学2年生、来年受験生で、どうも行きたい高校があるらしく今から頑張っていると聞いて、なるべく邪魔しないでおこうと思っていた。だがこういうことは頼りになる。背に腹は変えられん。
「知り合いの話なんだがな?」
「へー、そんで?」
ビデオ通話にしたら、こちらの様子までバレると思い、通話のみにしたのだが、弟の様子も分からなくて少し不安を感じる。
「その…同じ日に2人の男から告白されて、返事をどうしようかと思っているそうだ。」
「断れ。絶対だめ。マジでだめ。」
「だがな?その2人は将来についても考えてくれていて……」
「そんなん好きなら当然でしょ。小学生でも結婚とか妄想して、好きな奴の苗字に自分の名前書くんだから。」
通話先から微かに聞こえる鉛筆の音。勉強中なのかもしれない。そうだとしたら、やはり邪魔をしているのか。
「えっと、勉強中か?こんな話ですまない。兄ちゃん邪魔してるな、すぐ切る。」
「あーちょい待ち、大丈夫。勉強じゃなくてメモだから。」
メモか。邪魔してるんじゃなくてよかった。
ほっと胸を撫で下ろしていると、弟が言葉を続ける。
「兄貴、告ってきた男について詳しく教えて。判断材料は多い方がいいだろ?」
なるほど、俺の弟は賢いな。
「わかった、まず……」
告白されたのが俺だとバレないように、所々ぼかして概要を説明する。
弟は相槌を打ちながら、メモを取っているようだ。
全てを話し終わったあと、再びどうすればいいかを尋ねる。
「兄貴、その件夏休み明けまで待ってもらえないか交渉してみるのがいいと思うぜ。学園から離れればゆっくり考えれるだろ?俺の邪魔になるなんて思わなくていいから、夏休みになったらすぐ帰省しろよ。」
夏休みまで待ってもらう……
「だが、今からだとだいぶ待たせてしまうことになる。こういうのは早めに返答するのが誠実というものじゃないか?」
5月末の親睦会も終え、来週からは6月に入る。
夏休みは7月下旬から8月中。普段が寮暮らしのため、学園は補講などせず、気前よく帰省させてくれるのだ。
つまり2ヶ月半は待たせることになる。
「兄貴……その2人が本当に好きだって言ってくれてるならそのくらい待ってくれるさ。寧ろ待てないって言うならそれまでの奴ってこと。」
一理ある…のか?
通算でいけば京本は2年は待っているし、蜂須賀も明確には分からないが、だいぶ前からだろう。
「大丈夫だって、帰省したら俺が解決してやる。兄貴は何も悩まなくていいんだ。でももし、そいつらが実力行使したら連絡しろよ。」
「ああ、休日にすまなかったな。助かった。じゃあ夏期休暇は長めに帰省するから、父さんたちにもまた連絡するよ。うん、元気でな、体調に気をつけなさい。」
ピッと通話を切り、携帯を机の上に置く。
椅子にもたれて、ふぅと呼吸を整える。
相談してみるものだったな。
少し心が軽くなった、そんな気持ちで休日の日課である作り置きの品を調理するため、レシピを用意する。
覚えられたらいいんだが、細かいところがな……
凝ったものは作れないが、作り置きに適したものを数品作り、弟のお礼にパウンドケーキを作る。
ちょうどバナナが手に入ったところだったため、奮発して、チョコバナナのパウンドケーキにしよう。
中学の頃、バレンタインのお返しでカップケーキを作ってから、ハマってしまったスイーツ作り。
日持ちもするようなレシピを見つけてからは、たまに実家の弟宛に送っている。
部屋に広がる甘い匂い、お菓子作りって感じになってくる。
オーブン待ちの時間に宿題と予習を途中まで済ませる。こうすれば、明日は宅急便だけで用事が済むからな。
久しぶりに弟と話したからか、帰省が待ち遠しくなってきた。
風紀委員も9月になれば引退して、後輩たち主流になるからな。大学も第3志望まで決めているし、受験シーズンに入ってしまう。
確かに、夏期休暇で結論を出した方が納得のものが出るはず。
屁理屈かもしれないが、いつまでに返事をくれとは言われてない。それに、うじうじするのは柄じゃない。2人が本気なのか、失礼だが見定めさせてもらおう。
月曜に2人に伝えることにしよう。
夏期休暇明けに返事を決めたいと。
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