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19話
しおりを挟む「虎徹兄さんが悪いんだ!!」
いつもの澄まし顔を崩し、今にも泣きそうな顔で青山をきっと見つめる古田に、少し驚いた。
それには他の取り巻きも同じようだったらしく、若松くんとその両サイドから挟んだ咲山兄弟が見張っている。
「こ、虎徹兄さんが、僕のことほっといて風紀ばっかりなのが悪いんだよ?僕だって頑張ってるのに!昔みたいに僕を見てよ!!褒めてよ!!」
滅多に聞かない大声で、言いたいことを言い切ったのか、肩で息をする古田。まるでミュージカルみたいに右手を胸に当て、左腕を広げていた。
ここまで感情的な古田を、俺は初めて見た気がする。
周囲が驚いている中、青山は至って普通に会話を始める。もしかして古田の本性はこっちの方なのか?
「俺としては、そろそろ独り立ちしてほしくて距離を置いたんだが……お前さんにはちと早かったか。」
古田の頭を撫でながらあやす青山の顔は、まるで計画通りと言っているみたいだった……
いや、思い違いだろう。傍目からは仲のいい従兄弟なんだから。
「ははぁ、青山先輩もやるっすね。」
不穏な一言が頭上から聞こえて来る。
頼む、思い違いであってくれ。
「信彦、もう1度聞く。お前さんは本当に若松に惚れてるのか?誰でもよかったんじゃないか?俺に言われた通り距離を置いて、寂しかったんだろう?ほら、こういう時なんて言うんだ?」
優しい声のはずが、俺にとってはもう恐怖しか感じない。
とうとう泣き出した古田は、嗚咽まじりにごめんなさいと言った。
「虎徹兄さんが好き、好きぃ……虎徹兄さんがいい、嫉妬して欲しかったの、僕を見て欲しかった。
離れるなんて、言わないで、僕を置いてかないで……僕の唯一は虎徹兄さんなの、虎徹兄さんの唯一も僕じゃなきゃ嫌だよ……」
ぼろぼろと涙を零す古田は、両手を広げてそのまま青山に抱きついた。
青山はそんな古田を大事そうに包み込んで背中を撫で、落ち着かせている。
何を見せつけられているんだ。
そう思ったのは他にもいた。
「はぁ?信彦!お前俺のこと好きだって言ったじゃねぇか!」
呆気に取られて一言も話していなかった若松くんが我に返り、ずかずかと古田に近寄る。
「いいじゃんひろひろ、ライバル減ったってことだし。」
「そうだよひろひろ、これでもう僕たちだけだね!」
西條はどうした。
まぁ、あいつは飽き性だからな。だから髪色もころころ変わる。つまるところ若松くんに飽きたんだろう。
双子の声を無視して、古田の肩に掴みかかろうとした瞬間、ばちんっ!と音が響いたかと思えば眼鏡が吹っ飛んだ。
青山が若松くんに裏拳をしたのだ。
すなわち、キレた青山の再来。
叩かれたことに困惑しつつ、痛いのか頬に手を当て勢いでしゃがみ込んでしまった若松くんに、追い討ちをかける青山。
「寄り付くな寄生虫、俺の信彦に触るな。サッカーがしたいなら勝手にしろ。今後俺らに関わるな。」
虫けらを見るような目で若松くんを見下ろす青山は、くるっと向きを変え、俺と目を合わす。
「つーわけで委員長、サッカーの出場無くなったんだが、ちょっと寮行ってくるわ。信彦の目が腫れちまう。」
「あ、ああごゆっくり……」
満足気な青山と、肩を引かれて歩く目を真っ赤にさせた古田を見送る。
「ひろひろ大丈夫?!」
「ほっぺ赤いよ、早く保健室行かなきゃ!」
青山が寮に行くと言ったのは、こっちのことを予想しての上なのだろう。計算高い男だ。
「青山先輩と古田、盲点でした。いやぁここ最近一気に進展しますね。私楽しいです委員長。」
冷え切った空気の中、ただ1人楽しそうに語る目黒は、将来大物になるだろう。
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