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8話
しおりを挟む体が温かくて気持ちがいい____
『兄ちゃん!寮生活って本当かよ!』
『ああ、3年間だけな。長期休暇には帰ってくるから。』
まだ小学生の弟が俺の腰にしがみつく。
随分懐かしい記憶だ。
今じゃ反抗期真っ只中で『兄貴』と呼んでくるあの弟が、自ら触れ合ってくれるなんて……
『大学はこっちに戻ってくるんだよな?』
『そのつもりだ。仲神グループの後継として、繋がりを作ってこいとの指示だからな。3年も入れば十分だろう。』
4つ離れた弟はまだまだ甘えた盛りだった。
親が忙しく、世話を焼いていたのは俺だった。とても懐いてくれて、兄ちゃんと後ろをついて来てくれる弟。
そんな中俺さえも遠くに行ってしまうというのが受け入れられなかったんだろう。
『やぁだぁー!!俺も一緒に行くー!』
『中等部に来たとしても、校舎は離れているからそんなに会えないぞ?』
『兄ちゃん行っちゃやだ!うえぇぇーーん!』
大号泣の弟を宥めながらも、俺のお腹辺りは涙で生温かくなっていく。
そういえば……次の日には拗ねてはいたが、ついて行くとは言わなくなったな。
意識が浮上して、ゆっくり目を開けると湯船に浸かった現状が入る。
どのくらい過ぎたのかわからないが、蜂須賀を待たせていることを思い出し、浴室へ出て頭にタオルを被る。
髪を軽く拭いて、上から下へと体を拭いていく。
下着を履き、寝巻きのジャージに着替えて、リビングに居るだろう蜂須賀の元へ向かう。
「すまん、長風呂だったな。」
チラッと見た時計の針は、俺が入ってから30分は経過していた。
「ゆっくりできたようでよかったっす。ってあー!髪濡れたままじゃないっすか、もー。」
首にかけていたタオルを蜂須賀に奪われ、再度頭に被せられた。
されるがままの俺は、蜂須賀が拭きやすいように頭を差し出す。
世話を焼く立場だった俺が、この状況に慣れるまで、少し時間はかかった。
だが、されるのも悪くないなと思ってからは、素直に蜂須賀が満足するまで受け入れている。
「タオルはこんくらいで、あとドライヤーちゃんとするんすよ?お風呂いただきます。」
「ありがとな。」
風呂へ向かう蜂須賀を横目に、テーブルの上に視線を移す。
皿に盛られたサラダ、豚の冷しゃぶなど彩りが考えられて配置されている。
卵焼きが一品追加されているのは蜂須賀が作ったものだろう。出汁が利いていて美味しいやつだ。
ご飯や味噌汁は風呂から出たら用意するのだろう。空の茶碗とお碗がそれぞれの椅子の前に置かれている。
食べるのは揃ってからにして、言われた通り髪を乾かすため移動する。
うん、蜂須賀は本当にできた男だ。
かっこいいし気遣いもできる。
将来は可愛いお嫁さんを連れてくるんだろうな。
お互いの子供を見せ合うなんてことにもなるのだろうか。想像つかないな。
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