世話焼き風紀委員長は自分に無頓着

二藤ぽっきぃ

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7話

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_______寮へと戻り、自室のドアを開けると照れながら『おかえりなさい。』と鞄を受け取ろうとしている蜂須賀がいた。

なんだこれは新妻か。


「ただいま。ゆっくりできたか?」

流石にそのまま鞄を渡す訳にいかなかったため、それとなく話題を逸らし、部屋の中へ促す。

蜂須賀は鞄を渡されなかったことに少し残念そうな表情をしていたが、部屋に促されたことで喜びの方が勝ったようだ。ご機嫌な様子で俺の後をついてくる。可愛いやつめ。

「ん?何も飲まなかったのか?」


リビングのテーブルにコップも何も置かれていない。水分補給は大事だ、部屋の物は好きにしていいと約束しているが手をつけなかったのだろうか。


「あ、いや…今日は水筒持ってたんで、それ呑んでたっす。」

「そうか、風呂はどうする?もう入るか?」


いつものお泊りセットらしきバッグを部屋の隅にちょんと置いてあるのを確認して、ブレザーを脱ぎネクタイを外しながら問いかける。


「いつも言ってますけど、今日こそは蛍様が先に入ってくださいよ!」

「客が一番風呂に決まっているだろ。沸かすから、頃合いを見て入れ。いいな流星。」

「いいえ!引き下がらないっすよ!」


すごい気迫で、俺を先に入れようとする蜂須賀。俺より遥かに高い190センチの背で、意思表明のために頬を膨らませ、両手を腰に当て顔を覗き込む。これが俺に対する『譲りません』のポーズらしい。


「ふふ、すまん。ならお言葉に甘えて、先に入らせてもらおうか。」
「はい!夕飯の準備はやるんで、つっても蛍様の作り置き並べるだけっすけど…」


喜んだかと思えば気落ちする。感情表現の忙しいやつだな。

「十分だ、お前は盛り付けるセンスがあるからな。楽しみだ。」


弟もそうだが、年下の奴らの感性は豊かだな。
俺はそういうのに疎くてだめだ。
店などの盛り付けは素晴らしいと思うが、自分で作る分は食べれるならいいというスタンスで皿にそのまま出して終わりだ。


「蛍様って本当褒め上手っすよね!俺俄然やる気出たっす。」

無邪気にガッツポーズをしている蜂須賀を見て微笑ましく思う。以前の反抗していた蜂須賀と今を比べると表情ころころ変わって愛らしい。

付き合いは1年程だが、お互い家のこともある、きっと長い付き合いになるだろう。そんな予感がする。
弟に会えば、いい友達になるのではないか。


そんな未来のことを考えながら、風呂の準備をするため寝室に向かう。既に敷かれている客用布団が俺のベッドのすぐ横に…慣れたものだな。


初めて蜂須賀を泊まらせたのは去年の夏期休暇の始め。
今まで風紀の対象としか見ていなかったが、家に帰りたくないという悲壮めいた表情に、蜂須賀の心を見たと思った。

俺自身はお盆にだけ帰る約束をしていたため、それ以外はほとんど蜂須賀と過ごしていた。
役員棟と一般棟で部屋が離れているため、ご飯を食べた後わざわざ戻るのも面倒だろうと、呼び止めたのが最初だ。


「蛍様!早焚きにしたからもうお風呂入れるっすよ。」


寝室の扉からひょこっと顔を出して告げる蜂須賀に、「ああ」と軽く答えてクローゼットから部屋着と替えの下着、タオル等を手にして浴室へ向かう。


蜂須賀が後で入るなら、ゆっくりは浸かれないな。

手早く髪と体を洗い、視線をバスタブへ。
179センチある俺が肩まで使ったら、足を少し曲げなくてはいけないバスタブ。
そこへゆっくりと浸かって肩まで沈める。


「あー……はぁぁぁ……」


どこぞのサラリーマンか、俺は。


そんなツッコミを自分でするが、実際問題ここのところゆっくり湯船に浸かることができていなかったもので、こうも気持ちいいと眠気が……
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